僕が教室に帰ってきたら何か騒ぎになっていたんでとりあえず蹴散らして止めたが……
「……一体何があったんだ、明久」
「ぼ、僕にも何がなんだか……っていうか脇腹が凄く痛いんだけど? 蹴る必要ってあった……?」
「いや、とりあえず吹っ飛ばした方が安全だったかなと」
「うぐぐぐぐ……判断に迷うよ」
まぁ、無事だったなら良かった。
「色々と訊きたい事はあるが……とりあえず場所を変えるとするか。
工藤と……お前は一緒に……いや、工藤はそこで泣いてる子に何か用意してやってくれ。僕の奢りだ」
「うん、分かった。葉月ちゃん、お姉ちゃんと一緒にこっちに行こうネ」
「ぐすっ、はいです……」
子供の世話を工藤に任せ、暴走していたバカ供を片付けてから事情聴取を行う。
「で、一体何があったんだ。
明久は微妙に頼りにならんからお前が頼りだ」
「オレも完全に把握できてるわけじゃないけど……事実を話すくらいは何とかなるか」
えっと……この……当事者Aから聞いた話を要約すると『明久が小学生に手を出したと勘違いした2人が暴走して殺しかけていた』という事だな。
明久がロリコンだという事が仮に事実であったとしてもやりすぎだし、事実であると2人の中で確定するのも早すぎだ。
……姫路は本当に転校させてやった方が本人の為なんじゃないだろうか?
……まぁいい。今は事実確認が先だ。
「明久、あの女の子って本当に見覚えが無いのか?」
「う~~~~~~ん………………そう言われるとどこかで見たような気が……無いような、無いような……」
「どう転んでも無いじゃないか。
……あの子供は『ファーストキスまであげた』とかホザいていたが、それについては?」
「とんでもないよ! 僕はあんな子供とキスなんてしたことないよ!!」
「って事は吉井からキスしたんじゃなくてあの子が勝手にやったって事なんじゃね?」
「なるほど、一理ある。流石の明久でも唇を奪われて忘れ去るなんて事も無いだろうから……ほっぺに軽くキスされたとか」
「え、ほっぺにキス……? あああああああっっ!!!!」
どうやら何事かを思い出したようだ。
あの子の勘違いというわけではなかったようだな。
「お、思い出した。完全に思い出したよ!
あの時のぬいぐるみの子だ!!」
「そうかそうか。何か思い出せたようで何よりだ。
ところで、奴は『結婚の約束をした』とか言っていたらしいが……そっちについては?」
「うん……あの子のちょっとした手助けをしてあげた後に『お婿さんにしてあげる!』って言って走って行っちゃったんだよ。
その時の事なんじゃないかな」
「……なるほど、精神年齢が低いから小学生と波長が合ったんだな」
「ちょっと!? どいういう意味!?」
「まぁそういう事ならサッサと現実を突きつけてやるといい。
貴様があの子と結婚したいなら話は別だが」
「いやいやいやいや、僕はロリコンじゃないよ!?」
「それは分かっているが……貴様は今16歳くらい、あの子が……8歳くらいだとするなら15年も経てば31歳と23歳だ。
それくらいの年の差夫婦ならザラに居るだろ」
「そう言われると……確かにいけなくも無いような……?」
「何はともあれ、一度キッチリと話しておく必要があるのは確かだろう。
考えがまとまったらあの子の所に行ってやれ」
「……分かった。ありがとう」
「気にするな。貴様が死んだら困るだけだ」
「そんな大げさだな~」
大げさ、だろうか? こっちの当事者Aの話では冗談抜きで殺されそうだったようなんだが。
「……まあいいか。仕事に戻るとしよう」
「副代表、あの2人は放置か?」
「ああ。どうせしばらく気絶してるハズだし、僕が説教しても逆効果だろう。少し距離を置いておくくらいで丁度いい」
「そんな悠長な事で大丈夫かねぇ。オレには関係ない話なんでちょっと差し出がましいかもしれんが、少し不安だぞ」
「気になるなら貴様で何とかしろ。あの時みたいにな」
「……へいへい。
……って言うかオレって休憩時間だった。ちょっと遊んでくるわ」
「交代の時間に遅れるなよ~」
何はともあれ、まずは葉月ちゃんと話そう。
そう思った僕は教室の隅っこの方でケーキを食べていた葉月ちゃんと、その面倒を見てくれている工藤さんの所へ向かった。
「あ、吉井くんお帰り~」
「バカなお兄ちゃん! お帰りなさいです!」
機嫌は大分直っているみたいだ。ケーキのおかげだね。
奢ってくれた剣には後でお礼を言っておこう。
それじゃあ……何から話そうか。
「え~っと、葉月ちゃんだったね。
ごめんね、君の事をすっかり忘れてたよ。
でもちゃんと思い出したから大丈夫だよ!」
「ほ、ホントなのですか!? 嬉しいです!!」
「吉井くんったら、こんなカワイイ子の事を忘れちゃダメだよ?」
「あははは……ゴメン」
あの時は色々あったからすっかり忘れちゃってた。
でも本人にとってはそんな事は言い訳にはならないだろう。粛々と受け入れよう。
「ところで気になったんだけどサ、2人ともお互いの名前すら知らないんじゃないの?
吉井くんだっていつまでも『バカなお兄ちゃん』とは呼ばれたくないだろうし」
「そ、そうだね! 僕の名前は吉井明久だよ。宜しくね、葉月ちゃん」
「明久お兄ちゃんなのですね! 葉月は島田葉月って言います! 宜しくお願いします!」
「「……えっ?」」
僕の驚いた声と工藤さんの声とがハモった。
あれ? 聞き間違いかな?
「……ごめん葉月ちゃん。名字、もう一回言ってくれる?」
「? はいです。島田です! 島田葉月です!」
「……って事は、島田さ……美波さんの妹……?」
「え? お姉ちゃんともお知り合いなのですか?」
「…………」
ま、まさか島田さんの妹だったなんて。凄くビックリした。
そう言えば確かに似てなくもない気がする。髪色とか雰囲気とか勝気な目とか。
「……意外な展開だネ」
「そ、そうだね……」
「そう言えばお姉ちゃんはどこに居るのですか? この学校に通ってるはずなのですけど……」
さっき怖い副代表にぶっ飛ばされてました……とは言えない。
と言うか、さっき僕が島田さんと姫路さんに襲われたのは気付いてなかったみたいだ。泣いていて気付かなかったのだろうか?
「えっと……美波ちゃんは休憩時間に入ってて今は居ないからここでしばらく待ってれば会えるはずだヨ!」
「そうなのですか? ありがとうございます!!」
工藤さんが気を利かせて誤魔化してくれたみたいだ。助かった。
「(吉井くん、ちょっといい?)」
「(何?)」
「(ボクはそろそろ接客に戻ろうと思うからこの子の面倒見ておいてくれないかな。
ほら、本来の保護者の美波ちゃんは今保健室で寝てるし……)」
「(……そうだね。召喚大会も控えてるからずっとは居られないけど、それまでなら)」
「(オッケー)
それじゃあ葉月ちゃん。お姉ちゃんはもう行くから吉井くんと仲良くね」
「はいです! ありがとうございましたです!」
「こんな感じで騒動はとりあえず終息した。
工藤がスゲー良い働きしてくれてるな。流石は希少な常識人だ」
「吉井くんが観察処分を受けた経緯は原作と変わらない感じなのね」
「ああ。強いて言うならそれを決める会議に僕が乱入してまとめて観察処分を受けた事くらいだ」
「何やってんの!?」
「観察処分者の利点を考えたら積極的に受けたいのはむしろ当然の事だ。
会議室を盗聴して明久の処分が決まった瞬間に乱入。実は黒幕は僕だと適当に挑発したらアッサリと成功した」
「アッサリ過ぎない!?
……どうしてそこを小説化しようとしなかったの」
「過去編なンて書くのは面倒くせェ! 辻褄合わせが大変なンだよ!!
というのが筆者からのメッセージだ」
「雑っ!!」
「……実際問題としてどの程度やらかせば観察処分を受けられるのかがイマイチ分からなくてな。
明久がやらかした事なんて普通に窃盗で訴えられる案件だし、僕がその為だけに犯罪行為に手を染めるってのはリスクとリターンが釣り合わない。
だから雑にやってボカすくらいしかなかったようだ」
「だからってねぇ……まあいいか。終わった事だし。
それでは、次回もお楽しみに!」