「どうしたの吉井くん」
僕と葉月ちゃんが一緒に居る時に声をかけてきたのはメイド服姿の秀吉……じゃないか。
秀吉なら僕の事を明久って下の名前で呼ぶからね。
って事は双子の姉の優子さんだ。ホントにそっくりだ。
性別が違うから二卵性双生児のはずで、そうなると普通の姉弟と同じくらいにしか似ないはず……いや、実は秀吉は女子の可能性も……
「……あんまりジロジロ見ないで欲しいんだけど」
「あっ、ごめん、木下さん」
「それで、その子一体どうしたの? まさかどこかから誘拐してきたんじゃないでしょうね」
「いやいやいやいや、そんな事しないって!」
あれ? でも本来保護者になるべき島田さんを気絶させて葉月ちゃんを手元に置いているというのはある意味誘拐なのでは……?
いやいや、面倒を見てるだけだ。誘拐じゃない。
「フフッ、冗談よ。誘拐してきたならそんなに堂々としてないでしょうから。
それに、その子も君に懐いてるみたいだし」
「そ、そうだね! 葉月ちゃん自分の意志でここに居るんだから大丈夫」
「はいです! 明久お兄ちゃんは葉月のお婿さんなのです!」
「……吉井くん、この子が実の妹なのか赤の他人なのかは分からないけど……どっちにしろ犯罪だと思うわ」
「いやいや! 葉月ちゃんが勝手に言ってるだけだって!!」
「えっ、お兄ちゃんはお婿さんになってくれないのですか!?
そ、そんな! どうしてっ!!」
しまった、葉月ちゃんが今にも泣き出しそうだ。
剣とかだったら相手が子供だとか気にせずその名の如くバッサリと否定するんだろうけど、僕はそこまでの鬼にはなれない。
ただ、ここで『お婿さんになってあげる』とか言っちゃうのも問題だ。優子さんの反応が怖い。
どうしようかと考えていたら優子さんが口を開いた。
「葉月ちゃん……だったわね? ちょっと落ち着いて話を聞いてくれる?
お嫁さんになるとか、お婿さんになるとか、そういう事はとっても大事な事なの。
だから、ちょっとした思いつきでお婿さんにするとか、そういう事は言っちゃいけないわ」
「思いつきじゃないです! 葉月は明久お兄ちゃんが好きだからケッコンするです!」
「……そう、分かった。そこまで言うなら止めはしないわ」
えっ、止めないの優子さん!?
困るんですけど!?
「……でも、結婚したいならもうちょっと待って」
「待つ……ですか?」
「ええ。この国の法律だと16歳までは結婚できないのよ。
だから、葉月ちゃんが大きくなって、結婚できるようになって、その時もまだ吉井くんの事が好きだったら……
……その時、しっかりと頼みなさい。結婚して欲しいって」
「うぅぅ……でも……」
「それとも、たかが数年が待てない? あなたの好きっていう思いはその程度のものなの?」
「そんな事は無いのです!
……分かりました。ちゃんと待ちます。
楽しみにしててくださいね、明久お兄ちゃん!」
「う、うん……そうだね」
問題を先延ばしにしただけのような……いや、数年も経てば葉月ちゃんにも同年代のボーイフレンドができるはずだ。
流石は優子さんだ。Aクラスの優等生は伊達じゃない。
「さてと、この子も落ち着いたことだし……ちょっと来て頂戴」
「え? 僕に用があったの? もしかして店の事とか? それだったら早く言ってくれれば良かったのに」
「店の事じゃなくて……ちょっと個人的に」
「個人的に? まあいいけど……」
何だろう、まさか愛の告白じゃあるまいし。
優子さんと僕に接点なんてせいぜい試召戦争の時と、あとは……
「……あっ」
「? どうしたの吉井くん。顔色が変わったけど」
「い、いいや、なな何でも無いよ!」
そう言えば一週間くらい前、優子さんと顔を合わせた。
……女子更衣室で……
「まずはその……一週間くらい前の事なんだけど……」
「ひぅっ!!」
「ちょ、ちょっと! 何逃げようとしてるのよ!!
怒るわけじゃないからちゃんと話を聞きなさい!!」
「えっ、お、怒らないの?」
「……場合によっては怒るかもしれない……って、逃げないで! 怒らないから!!」
「……ホントに?」
「…………ええ。勿論よ」
微妙に気になる間があった気がするけど気付かなかった事にしておこう。
優子さんみたいな優等生が軽々と嘘を吐いたりなんてしないだろうからね!
「話を戻すわよ。一週間前、何であそこに居たの?」
「え、え~っとその……信じてもらえるかは分からないけど……」
「信じるか信じないかは聞いてから判断するわ」
「それじゃあ、話すよ」
ちょっと事情があって雄二を探していた事、
霧島さんから逃げている雄二だったら女子禁制の場所に逃げ込む……と見せかけてあえて男子禁制の場所に逃げ込むと当たりを付けた事、
流石に女子トイレには居ないはずと踏んで更衣室を調べたら一発で見つけた事。
そんな感じの事をかいつまんで話した。
「……なるほど。そういう事情があったのね」
「し、信じてくれるの?」
「何? 今更作り話だったとか言うつもり?」
「いや、違うけど……」
「正直に言うと、元々吉井くんが覗きなんてするとは思ってなかったわ」
「えっ、そうだったの? だったら何であの時先生を呼んだの?」
「しないだろうとは思ったけど、どんな事情があっても女子更衣室に入ってた時点でアウトよ。
それに、誤解だったら説明してもらえば良いだけの話だし」
「そ、そっか……」
と言うことは逃げずに捕まるのが正解だった?
いやでも鉄人が相手だからなぁ……
「それと、もう一つ訊きたい事があるの。
あなた達、召喚大会に出てるのよね?」
「うん。そうだよ」
「目的は腕輪って話だけど……それはあくまでもクラスとしての話よね?
吉井くんの目的はペアチケットなの?」
「え? えっと……うん」
ちょっと前に姫路さんにも似たような事を訊かれた。
学園長との取引には触れないようにしないといけない。けど、あんまり誤魔化しすぎると疑われる。
だったらどうすれば良いかと言うと……剣が事前に教えてくれた。
『貴様は年中金欠なんだから売り払う予定だって体にしちまえばいい。
何か想定外の質問が来ても『何としてもチケットを売りさばいてやる!』って気持ちで応じれば良い』
というわけで、僕の目的はペアチケットを売りさばく事だ!
……実際に売ろうとしたらいくらになるんだろう。いや、売らないけどさ。
「木下さんも確か参加してるんだよね。霧島さんと一緒に」
「ええ。代表にどうしてもって頼まれてね」
「霧島さんの目的は……考えるまでもなくペアチケットか。
木下さんもペアチケットが欲しいの?」
「……まぁ、そうなるわね。代表ほど切望してるわけじゃないけど」
「そっかぁ……」
如月ハイランドはカップル向けの設備が充実してるらしい。
オープンしたら木刀を片手にリア充を撲滅して回りたいけど……警備とかもきっと凄いんだろうな。
……って違う! そうじゃない!
優子さんがチケットを欲しがってるって事は誰か付き合ってる人とか気になる人が居るんだろうか?
どうせ売れないから譲ってあげたいけど……流石に企業の思惑で強引に結婚させられるのは嫌だろうな。霧島さんならまだしも。
「……どうしたの?」
「ああ、ごめん、何でもない。ちょっと考え事してただけ」
「……そう、分かった。
訊きたかった事は以上よ。ありがとう」
「ううん、どういたしまして」
……確か、順当に進めば次の次で優子さんと当たるはずだ。
少し気が引けるけど……全力で倒そう。何も知らずに巻き込んでしまう前に。
「というわけで明久と優子のイベントだ」
「プラス葉月ちゃんね。優子さんに諭されてたけど」
「頭も良く猫かぶりの上手い木下姉であればあのくらいは余裕だろうと判断したようだ。
日常生活で演じる技能があるという事はコミュニケーション能力の高さの証左でもある。
……お前もある意味似たようなものか」
「言いたいことは分からなくもないけど……別にキャラを演じてるわけじゃないからねぇ……」
「まぁ、そうか」
「吉井くんの評価って意外と高いのね。信用されてたみたいだし」
「そりゃぁな。『あの代表よりは人間できている』っていうのが木下姉からの評価だ」
「……紛れもない事実だから何とも言えないわね……」
「明久が覗きをするような人間であれば命令権はもっと別の事に使われていただろうからな。
ちなみに、本章序盤で木下姉を出したのはこの会話の為だったりする」
「……結構行き当たりばったりだったはずなのに、意外とちゃんと考えて書いてるのね」
「伏線をテキトーにバラ撒いておけば気付いたら布石になってるからな」
「……前言撤回しておくわ。
では、次回もお楽しみに!」