「明久、そろそろ次の試合だ」
「えっ、早くない!?」
「トーナメントだから後半になればなるほど試合の間隔は狭まってくる。
気張っていけよ。次の戦いは学年首席が相手だ」
「き、霧島さんか……頑張るよ」
というわけでサクッと試合会場へと向かう。
『これより、準決勝第1試合を始めます! 選手の方はステージに上がってください!』
教師に促されてステージの上へと上がる。
反対側からは予想通りの顔が……あれ?
……おかしいな。片方は間違いなく合ってるんだが、もう片方は何かちょっと違うぞ。
「どうしたのかしら剣くん。アタシがここに居るのが不満かしら?」
「いやまさか。予想通りのペアが勝ち上がってきたなと思ってただけだ」
「ホントかしら? まあいいけど」
霧島と木下のペアが勝ち上がってくるのは予定通り。
問題は……木下姉を秀吉とこっそり入れ替えて始まったら3対1にするというグレーに近いアウト……もとい、アウトに近いグレーな作戦が破綻していた事だ。
雄二と秀吉め、しくじったか?
「剣、予想通りって事は当然作戦があるんだよね!」
「……ああ。当然だ」
まず、第一の作戦……と言うか仕込みとして、今回の科目が挙げられる。
今回の科目はズバリ『保健体育』。
以前も述べた通り、実技科目はクラス分けには反映されない。よって、この2人が苦手としている……可能性がある。
『それでは承認します。試合開始!』
「「「「
[フィールド:保健体育]
Fクラス 吉井明久 68点
Fクラス 空凪剣 400点
Aクラス 木下優子 342点
Aクラス 霧島翔子 451点
「…………おい」
「何かしら?」
「ふざけるなよ!? 何だよその点数!!」
「前回の戦争では実技科目を甘く見たせいで痛い目を見たから。一通り勉強しなおしたわ」
そんな事をサラッと言ってのけるあたり流石はAクラスの優等生と言うべきか。
明久に負けたのが木下姉でなければこうはならなかっただろうに。おのれ明久め。
「……まぁ、木下姉は納得だ。
で、霧島、貴様のその点数は何だ!?」
「……将来の為に、一杯勉強した」
「…………」
どうやら将来の事を考えると保体の成績が良くなるらしい。
深くは突っ込まないでおこう。うん。
「それじゃあ剣、例の作戦を頼むよ!」
「………………
(僕が、霧島を、殺るから、貴様は、木下姉を、殺れ!)」
「いや、無茶言わないでよ!?」
「…………
(できたら、ケーキを、好きなだけ、奢ってやる)」
「オーケィ!!! 全力で仕留めるっ!!!」
これでやる気は出してくれたか。
しかし、いくら明久でもこの点差で逆転するのは厳しいか。明久が木下姉を引きつけてくれている間に何とか霧島を処理して、2人で撃破って感じか。
くそっ、せめて家庭科だったらな……と言うか本来は家庭科にしたかったんだが、この日に先生の都合が付かなかったからそもそも候補に上がってなかったらしい。
……まぁ、愚痴言ってもしょうがない。やるべき事をやるだけだ。
差し当たっては……
「さぁ木下さん! 僕が相手だ!!」
「その点数で随分とやる気ね……手は抜かないからね」
まずは明久に集中してる木下姉の召喚獣に適当にナイフをぶつけよう。
ヒュッ ザクザクザクッ!
Aクラス 木下優子 342点 → 221点
「さぁ霧島! 1対1で勝負だ!」
「ちょっと待ちなさい。何でそんな関係ない感を出してるのよ!」
「うるさい。貴様に構っている暇など無い。
あの学年首席を相手にそんな余裕など無い!!」
「いや、あったわよね!? ついさっきあったわよね!?」
「隙アリっ!!」
「な、吉井くん!? しまった!」
僕の武器なら離れていても手を出す事は可能だ。
明久に集中などさせない。せいぜい撹乱されていろ。
「さて、こっちも始めるとしようか」
「…………」
霧島は無言だったが、その瞳からは確かな闘志が感じられた。
何としても優勝するという覚悟、それに加えて非常に高い点数。
一筋縄ではいかないだろうが、それでもやるしかない。
「……来ないか。ならばこちらから行くぞ!!」
厄介な事になった。
代表から頼まれてこの召喚大会にペアとして参加して、無事に準決勝まで勝ち上がる事ができた。
Aクラスのペアっていうのはアタシ達を除いてほぼ居ないし、アタシのパートナーが学年首席なんだからこのくらいは当然の事ね。
今の状況は、1対1の戦いが2箇所で起こっているような状態。
だからアタシは目の前の吉井くんを倒せば良いんだけど……
Aクラス 木下優子 221点 → 218点
Fクラス 吉井明久 68点 → 66点
吉井くんがしぶといっ!
しかも時々剣くんの方からナイフが飛んできて……って危なっ!
……ふぅ、何とか避けた。
ナイフ単体は致命傷にはならないけど、かと言って無視していたらあっという間に点数を持っていかれる。
結果、両方の戦闘に注意しなければならなくなり、吉井くん相手に攻めあぐねている。
「ほらほらどうした木下! よそ見をするな!!」
「っ! ……って、何もしないの!?
「ハッ、わざわざそっちにナイフを投げる余裕など無い!」
ツッコミたいけどそんな事をしても無駄なのは明らかなので黙っておく。
こういう台詞だけのブラフを放ってくることもあればしっかりと攻撃を加えてくる事もあり、当然ながら無言で投げてくる事もあるのでやっぱり油断はできない。
代表が剣くんを倒してくれれば楽だけど……流石の代表でも剣くん相手に短期決戦は厳しいか。アタシが何とかしないと。
「……これ以上は、好きにはさせない」
「クックックッ、ならどうする気だ?」
「……あなたを、倒す!」
向こうの方でも本格的にぶつかり始めたみたいだ。
点数は代表の方が高いけど、簡単にひっくり返る程度の差でしか無い。
剣くんも吉井くんほどではないけど結構な操作技術があると聞いている。勝てるだろうか?
「ガードが甘いぞ霧島! 貰った!!」
「…………」
剣くんの召喚獣が代表の防御を掻い潜り、その拳が顔面に届き……
その直後、剣くんの召喚獣が吹っ飛んだ。
そうか、そうだった。代表には腕輪の力があった。
「くっ、今のは……?」
「だ、大丈夫、剣!?」
「問題ない。が……」
Aクラス 霧島翔子 451点 → 426点
Fクラス 空凪剣 400点 → 225点
「……大分削られたようだ」
「一体何が起こったの?」
「…………
攻撃が当たる瞬間、攻撃が跳ね返されたような感覚があった。
霧島の点数が減っている所を見る限り、さっきのは腕輪によるものだ。
言うなれば『反射』の能力だな」
そう、代表の腕輪の能力は『反射』だ。
反射した攻撃のエネルギーに比例して点数を消費するけど、消費量は概算で本来受けるダメージの1/10程度らしい。
あと、反射のバリアを展開しているだけで時間に応じて点数が減っていくとか。オンオフは自由なので攻撃される瞬間を狙ってオンにするらしい。
にしても1回見ただけで看破するって……観察処分者だからという事を差し引いても相変わらずの人外ね。
「は、反射って……そんなの勝てるの!?」
「愚問だな。タネさえ分かれば対処法などいくらでもあるというものだ」
そんな台詞を吐きながら剣くんが眼帯を取った。
光によればアレは本気を出す時の自己暗示のようなものらしい。
……って言うか、今まで本気じゃなかったって事?
「さぁ霧島、覚悟はできたか?」
「…………」
「……そうか。なら行くぞ!」
そして再び2人の召喚獣が衝突する。
さっきまで見たようなやりとりが続き、さっきまでと同じように剣くんの召喚獣が代表の召喚獣の顔面を捕え……
その直後、
Aクラス 霧島翔子 426点 → 132点
Fクラス 空凪剣 225点 → 199点
「っ!?」
「ふぅ……ぶっつけ本番で成功するとはな。僕もビックリだ」
「え、一体何をしたの!?」
「いいか明久。攻撃の反射ってのは速度の反転と同義だ。
霧島の召喚獣に触れるか触れないかといった辺りで拳の持つ速度が反転し、僕がダメージを受ける。本来ならな」
「……そ、それで?」
「だったら話は簡単で、当たる直前に思いっきり拳を引けば、反転される事により逆に相手に当たるというわけだ」
「……そ、そんな事が可能なの?」
「ああ。実際に今やったろ?
ククク、そうだな……この技法を『空凪神拳』と名付けよう」
まさかそんなアナログな方法で突破したの!?
いやでも、理屈は分からないでもないけどそんな事が本当に人間に可能なの!?
そんな思考を遮ったのは代表の一言だった。
「……それは嘘」
「何だと?」
「……自分の腕輪の能力くらい把握してる。
……私の腕輪の能力は単純な負の乗算じゃなくて上書き。
……私の能力の射程圏に入った対象の速度を『負の向きの速度』で上書きしているだけ。
……だからその方法での突破は不可能」
「…………なるほど。確かに無理だな」
と言うことは……ただの剣くんのハッタリ? 完全に騙されたわよ。
いやでも実際にダメージは受けてるわけで……
「じゃあ逆に質問だ。僕は一体全体どうやって貴様の守りを突破したんだ?」
「……そこまでは分からない。でも、見当は付いている」
「そうか……まぁいいさ。サッサと終わらせるぞ!」
その後、結局代表は負けた。
剣くんも2桁程度まで消耗してたけど……吉井くんとの連携の前にアタシも敗れた。
……一応、全力は出せたかな。試召戦争の時はちょっと油断してたけど、2人掛かりでようやく負けたアタシはあの時よりは成長している。
そう思っておきましょう。
「というわけで、対霧島戦だな」
「一応突っ込ませて。歩いてきた姿を見ただけで木下姉弟を判別できたのね」
「ん? ああ。だって、視点移動の癖とかが明らかに違ったからな」
「……もう突っ込まないわ」
「一応コレも『危機感知の直感』の一種だな。
自身の危機だけでなく相手の危機、相手の死角もぼんやりとだが分かる。
死角の作り方の癖なんてずっと見てれば何となく覚えられる」
「物は言い様ね……」
「さて、話を戻そう。
後半の視点を誰のものにするかはかなり迷ったようだが……優子が上手く嵌ってくれた」
「霧島さんの能力は某第一位さんが元ネタだったわね。
本家の『ベクトル操作』よりも狭い『反射』だけど」
「筆者による安直な発想だな。
なお、反射の原理がそもそも異なるので木原神拳は使えない」
「じゃあどうやって突破したかって言うと……空凪くんの腕輪の力ね」
「正体はまだ黙っておくとするか。まだ想像してみてくれ」
「……ところで、筆者さんがツイッターの方で『霧島さんの能力を考察してたら禁書の二次を書いていた』とか言ってたけど……アレってどうなったの?」
「ああ。没になった」
「ちょっと!?」
「色々と考察してたら色々と問題点が浮き彫りになってきてな。
本物の第一位が相手でも木原神拳は不可能という結論に達したりとかな」
「うわぁ……」
「あくまでも筆者のできた解釈ではという話だがな。
完全に没にするのもちょっとアレなんで考察した事とその結論を活動報告の方にあげておく。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=230682&uid=39849
本作には全く関係無い上に無駄に長いが……興味がある人は読んでくれ。興味が無かったら読み飛ばしてくれ」
「では、次回もお楽しみに!」