「お疲れさま。はぁ……」
「クックックッ、良い試合だった。お疲れ」
準決勝で戦ったペアと一緒に教室へと戻る。
霧島は意気消沈、木下姉は悔しがっているようだ。
「いや~、最初はどうなるかと思ったけどどうにかなったね!
剣、ケーキ奢る約束を忘れてないよね!」
「愚問だ。好きなだけ頼むと良い」
「……剣」
「どうした?」
「……あなたの腕輪の能力は、『複製』なの?」
「…………そこまで突き止めたか。ならまぁ良いだろう。
試験召喚システムからは『複写』と名付けられている。
お察しの通り、腕輪の能力をコピーする能力だ」
「複写……そんな能力だったのね」
そう、僕の能力は『複写』。
同一フィールドに居る腕輪持ちの召喚獣に対して発動可能。但し10点消費する。
基本的にはそのフィールドが消えるまでの間しか能力を使う事はできないが……
ちょっと前の試召戦争では工藤の能力をさり気なく複写しておき、今日の姫路との戦いではリリースして使わせてもらった。解放だけで100点も消費したけどな。
さっきの戦いでは反射能力を複写し、真っ正面から殴りかかったというわけだ。
「あれ? でも確かぶつかった時にはお互いに吹っ飛んでたよね? それに、その時の点数消費は剣の方が少なかった。どうなってるの?」
「お前、意外と見てたんだな。
まずお互いに吹っ飛んだのは簡単な事だ。能力は『反射』と銘打っているが、霧島によれば実際にやっているのは『速度の書き換え』だ。
僕の方の能力で霧島の速度が書き換えられ、霧島の能力で僕の速度が書き換えられた。だからお互いに同じ速度で吹っ飛んだというわけだな」
「う、う~ん……? まあいいや。ダメージについては?」
「明久、顔を殴られた事はあるか?」
「うん、あるよ」
「じゃあ、顔を殴った事は?」
「勿論あるよ!」
「どっちが痛い?」
「勿論、顔を殴られた時だよ。殴ったときも痛くないわけじゃないけど」
「そういう事だ。同じ衝撃を受けるなら拳で受けるより顔で受けた時の方が遥かにダメージが大きい」
「あ~、なるほど」
お互いに同じ能力を得た事で結局は能力無しの殴り合いとほぼ同じようなダメージが入ったわけだな。
「さて、ネタばらしはこんなもんにしておくか。教室に戻るとしよう」
教室に戻ると慌てた様子の雄二と光が出迎えた。
「ようやく戻ってきたか。お前たち、無事だったか!」
「無事? 何事だ?」
「うちのメイドが何人か拐われたわ。手を貸しなさい!」
「えっ、さ、拐われた!? どういう事!?」
「私と坂本くんがちょっと呼び出しを受けてる間に10人くらいのチンピラが来て拐って行ったらしいわ。
その……ごめんなさい」
「……姉さんが謝る事じゃないだろう。康太は?」
「こっちだ」
雄二が手に持っていたのは携帯電話。
スピーカーモードになっていたのか、音声が聞こえてきた。
『…………今、追跡中だ』
「康太はどうやら居合わせていたらしい。2~3人だったらまだしも10人も居たから下手に手出しはせずにこうやって追跡に回ってくれた」
「まぁ仕方ないか。妥当な判断だな」
『…………位置は追って伝える。救出の準備を進めてくれ』
「との事だが……雄二、光、準備は?」
「当然できてる」
「勿論よ。代表、優子、店の方は任せたわよ」
「えっ、あの……警察とかに連絡しなくていいの?」
「騒ぎになると人質に危害が加えられる恐れがあるから。
それに……私たちだけで行った方が早いし確実」
「……分かった。こっちは任せて。行ってきて!」
という訳で、拐われたメイド達救出の為、僕と雄二と明久、そして姉さんが出撃する事になった。
「……ちなみにだが、拐われたのって誰だ?」
「姫路さんと島田さん、あと一緒に居た小さい子と、秀吉くん」
「……何故秀吉が?」
「何か女装してたんで『そんなに女装したいなら働け』って言ってメイド服姿で働かせてたら巻き込まれたらしいわ」
「……そうか、召喚大会で秀吉が来なかったのは貴様のせいだったか」
「え?」
「いや、いい。行くぞ」
しかし……他にもAクラスのメイドは居たはずだが……見事にFクラスに偏ってるな。小さい子……多分葉月ちゃんも明久が目的だったみたいだし。
ここまでとは聞いてないんだがな……帰ったら問い詰める必要がありそうだ。
康太からの指示を受けてチンピラ達がたむろしているカラオケボックスの前までやってきた。
「…………来たか」
「スマン、遅くなったな」
「…………大丈夫だ」
「よし、それじゃあ早速乗り込んで……」
「落ち着け明久。正面から殴り込んでも人質を盾にされるだけだ。
ちゃんと助けたいなら、まずは落ち着け」
「くっ……分かったよ」
「土屋くん……だったわね。見取り図ってある? あと連中が何号室に居るかも」
「…………これだ。12番の部屋に居る」
「ここか……ありがと」
「敵の数は10人ピッタリで良いのか?」
「…………ああ」
正面から殴り込んだ場合、皆で1人ずつブチのめせば5人削れる。と言うか5人しか削れない。
力技では厳しそうだ。あと5人をどう処理するか……
「……剣、私はちょっと別行動させてもらうわ。この意味、分かるわね?」
「……おーけー。うっかり人質まで傷つけるなよ?」
「それは兄さん次第ね。頑張りなさい」
「へいへい」
そう言って光は駆け出して行った。
「えっと……どういう事?」
「気にするな。それより康太、店員の服とか入手できるか?」
「…………とっくに手に入れている」
「いやいや、どっから盗ってきたの!?」
「…………受付もグルだった。気絶させて奪い取った。
…………引っぺがすなら女子相手が良かった」
「いや、貴様の場合は服に手をかけた瞬間に鼻血による出血多量で気絶すると思うが」
「…………そんな事実は無い」
「雑談は止めろ。店員のフリしての潜入、行けるな?」
「…………ああ。人質に危害は加えさせない」
「康太が突入してしばらくしてから僕達が突撃する。
作戦はこんなもんでいいな?」
「終わり? それじゃあ急ごう!」
例の12号室の前に到着した。
中から声が漏れ聞こえる。
『コイツらを使って空凪と吉井とかいう奴を呼び出せば良いんだったな』
『ヘヘッ、これだけで金が貰えるってんだから簡単な仕事だぜぇ』
こんなテンプレなチンピラが現存しているんだな。ある意味貴重かもしれない。
『…………失礼します。灰皿を取り替えに来ました』
『おぅ。
そんで、コイツらはどうすんだ? ヤッちまって良いのか?』
『ああ。呼び出せりゃ十分だからな。好きにしていいぜ』
真性のクズだな。ブチのめすのに罪悪感を一切感じなくて済むから助かる。
康太の位置取りもそろそろ大丈夫だろう。行くか。
「よし、明久行け!」
「やっと? それじゃあ行かせてもらうよ!
おじゃましま~す!」
明久が殊更明るい口調で部屋に入っていく。
『あん? 何だテメェ』
「え、よ、吉井くん!?」
「あ、アキ!? どうして……」
『吉井? アキ? って事はこいつが吉井明久か?
こっちから呼ぶ手間が省けたぜ。お前ら、コイツを……』
「死に晒せやぁぁぁあああ!!!」
『ふげぁっ!!!』
一番近くに居たチンピラの股間を思いっきり蹴り上げたようだ。やるな明久。完全に無力化したぞ。
よし、僕達も続くとしよう。
「セイッ!」
「オラァっ!」
僕は近くに居た男の顎を揺らして脳震盪を起こして気絶させる。
雄二は力技でぶん殴って気絶させた。
あと7人。
『な、何だコイツら! とりあえず叩き出せ!!』
「次はお前かぁっ!!」
『ぐぎぇっ! ま、まだまだ……』
「うるさい黙れ」
『みぎゃぁっ!!』
「オラオラオラ!!」
『フムギュッ!!』
僕は明久が倒したチンピラを追撃して無力化。雄二は自力で撃破。あと5人。
『へっ、テメェら動くんじゃねぇ! 少しでも動いたらこのオンナノコの顔をズタズタに……』
「うるせぇよ」
『カハッ!』
『な、何だと!? 正気か!?』
葉月ちゃんが人質に取られたようだが構わず手近なチンピラを殴り倒す。
人質に取られた直後くらいで、なおかつ僕達3人の中の1人くらいであればそのくらいは可能だ。これであと4人。
『くそっ、なら本当にズタズタにして……』
「…………傷を負うのはお前の方だ」
『ぐわぁっ!!』
店員のフリをしていた康太によって人質を取っていた不届き物を撃破。あと3人。
「は、離してください!」
『動くんじゃねぇ!! 脅しじゃねぇぞ!! 一歩でも動いたらコイツの命はねぇぞ!!』
僕達からも、康太からも離れた壁際で姫路が捕まっていた。
命が無い……は流石に言いすぎだろうが、怪我させられるのは間違い無いだろう。
この距離では一瞬で距離を詰めて……というのも厳しそうだな。完全に手詰まりだ。僕達では。
「クックックッ、ハッハッハッハッ!!!!」
『な、何だ!? イカれたか!?』
「クククッ、貴様らのような存在自体が負である真性のクズどもには分かるまい、理解できないだろうが……1つだけ教えておいてやろう!」
『な、何だと? よく分からんが黙れ! 本当にコイツをズタズタに……』
「簡単な事だ。道というものは、己の力で切り開くものだという事だ!!」
そう告げやったその時……ガラガラという何かが崩れるような音がした。
『……は?』
崩れたものとは、チンピラのすぐ側の壁。
そしてそこから現れたのは、刀を持ったうちの姉。
「……おーけー。状況は分かったわ。
いっぺん死んでおきなさい!!」
『ちょ、なっ!? ぐぁっっ!!!』
「安心しなさい。峰打ちだから」
これで姫路も救出完了。あと2人。
「隙だらけだ」
『ま、待って!? 何が起こって……あぎゃぁっ!』
「これで、最後!」
『ぐはっ!!』
僕と光で1人ずつ撃破。これで全滅だ。
「よし、完了。こいつらを縛り上げるとするか」
「いやいやいやいや、光さん一体どこから入ってきたの!?」
「え? 壁からだけど」
「建物が経年劣化していたんだろうな!」
「そういうレベルじゃなかったような……」
「……剣とその妹が何か企んでるなとは思っていたが……まさか壁を文字通り切り開いて入ってくるとはな。
事前に教えてくれても良かったんじゃないか?」
「敵を騙すにはなんとやらだ。アレはインパクトがデカいだけで用途としてはかなり限定されるしな。
相手を驚かす事ができなければ全く無意味な仕込みだ」
一応壁際に誘導……と言うより壁から遠い奴からブチのめしていたが、正直ここまでハマるとは思ってなかった。
「…………拘束が完了した」
「サンキュ。貴様ら、無事か?」
「う、うむ。無事じゃ。連れて行かれる時に腕を強く引っ張られた程度じゃよ」
「そうか。なら良かった……いや、良くはないんだが」
「姫路さん、島田さん! 葉月ちゃんも、無事?」
「は、はい、大丈夫です。あの……ありがとうございました」
「怖かったです……ありがとうです、明久お兄ちゃん!」
「う、ウチは……その……あ、ありがと」
「えっ、島田さんが素直にお礼を言った……まさかニセモノ!?」
「何でそうなるのよ!! ウチだってお礼くらい言えるわよ!!」
「そうです! お姉ちゃんはいつも褒めて……」
「わぁああああ!! 葉月黙ってて!!」
「え? どうしてです? お姉ちゃんがいつもアキって呼んでたのはお兄ちゃんの事……」
「お願いだから! お願いだから黙ってて!!!」
「……そう言えば確かにさっきも僕の事をアキって呼んでた気がするけど……」
「うぐぐぐぐ……そ、そうよ! 悪い!?」
「いや、悪くはないけど……」
「そう! だったらウチの事を『美波』って下の名前で呼ばせてあげるわ! 感謝しなさい!!」
「いや、だから……」
「文句ある!?」
「……無いです」
「あっ、美波ちゃんズルいです……私も下の名前で……」
「皆! もうしばらくしたら警察が来るからサッサと撤収するわよ!!」
「え、光さんちょっと待って……」
「そうだぞ! 監視カメラのデータは破壊したのか?」
「土屋くんが1分でやってくれたわ」
「そうか。なら撤収!」
「ま、待って! 吉井くん! また学校で話を……」
そんな感じで、誘拐騒動は片付いた。
学校に帰ったら、学園長を呼び出すとするか。たっぷり話を聞かせてもらおう。
「……今回は結構詰め込んだなぁ……」
「上から
『空凪くんの能力説明』
『ウェイトレス誘拐騒動』
『島田さんの呼称変更』
こんな感じね」
「僕の能力はリメイク前と全く変わらない『複写』だ。
なお、本文中では説明を入れなかったが、リリースコマンドの連続使用は不可能だ。
1度リリースするとメモリが空になる」
「つまり今は工藤さんの能力はリリースしても使えない、霧島さんの能力は使える……と」
「そういう事だな」
「続いてはリメイク前では面倒だったからカットしていた誘拐騒動だ。
誘拐された面子は原作通りだったな。
ここでAクラスの連中も誘拐される案もあったんだが……タイミング的に優子と霧島が不可能だったんで、工藤だけ拐ってもなんだかなぁ……という事で没になった。
他のAクラスモブが拐われない理由を考えるのも大変だったし」
「……それは置いておいて……光さん、何で刀持ってるの?」
「光だからだ」
「…………」
「姉さんによる壁の切り開きは誘拐騒動の流れを組み立ててる時に真っ先に思いついたそうだ。
リメイク前での光はイマイチ活躍が少なかったんでとりあえず物理チートという特性が付与されている。
一応前からチンピラを蹴散らせる程度には強かったが……更に強化されている。ぶっちゃけ雄二より強い」
「そんなに!?」
「ああ。問題は……その個性は試験にはほぼ役に立たないので使いどころは限られている事だな」
「……そ、そう」
「あと、今回光が使った刀は『露断・陽光』という名前が与えられている。
『露断』シリーズの刀は鉄筋コンクリートすらバターのように切り裂く鋭さが特徴だ。
とは言っても、扱う人間の技量は必要だがな」
「……その設定、今後生かされるの?」
「さぁ?」
「最後に、島田の呼称変更だな。
原作ではBクラス戦の撤退戦の最中に島田が策謀を巡らせていたな。
本作ではカットされており、呼称もそのままだった。
このままだと筆者が書くときに違和感が凄いのでなるべく早く変えたかったらしい」
「変えたい理由ってそこなのね……」
「島田の性格を考えたら内心ではアキと呼んでいても全く問題ないし、今回のような誘拐騒動ならうっかり口にしてしまう事は十分考えられる。
ついでに、家では気を抜いてアキと呼んでいてもおかしくない。そして葉月ちゃんであれば空気を読まずに暴露してくれるだろう……と」
「葉月ちゃん……」
「そして明久からの呼称を変える方法はちょっと迷ったんだが……島田さんならこれくらいはやってくれると信じてああなったようだ。
なお、『美波様』と一旦呼ばせる案もあったらしい。そこまでの余裕は無いだろうと判断して没になったが」
「では、次回もお楽しみに!」