渡り廊下を通ってDクラスのある新校舎へと向かう。
扉を蹴破って挑戦状を叩きつけようかとも思ったが、教室内に代表が居なかったら虚しい事になるので普通に宣戦布告するとしよう。
「失礼します。Fクラス副代表の空凪剣です。
Dクラスの代表はいらっしゃいますか?」
そうやって呼びかけると教室の中からパッとしない男子が現れた。
所詮はDクラスの代表、300人中151位のちょうどド真ん中の奴だからな。そう尖った奴は現れないか。
「俺が代表だが、何の用だ?」
「単刀直入に申し上げます。我々FクラスはDクラスに対して試験召喚戦争を挑みます」
「なっ、初日からだと!? 正気か!?」
「ええ。開戦は今日の午後イチ。昼休み終了時刻としたいのですが、宜しいでしょうか?」
「……分かった。受けて立とう」
「それは良かった。では、失礼します」
宣戦布告を蹴る事はルール上不可能だが、開戦時刻をゴネる事は不可能ではない。
まぁ、よっぽど無茶な時間を提示したとかならまだしも、今回は真っ当な時刻を提示したので蹴られる事はまず無いがな。
用事も済んだし、帰ると……
『ちょっと待てや!』
「……何か?」
『ただで返すと思ったか! 覚悟はできてるんだろうな!!』
予想通り、だな。問題ない。
『誰か! 釘バットを4ダース持って来い!!』
『ヒャッハー! 殺っちまうぜぇ!!』
……しょ、少々予想外だが、も、問題無いな。
「君には悪いが、ウチの連中を止めるつもりは無いよ」
「はっはっはっ……一応覚悟はしてたんで構いませんよ」
代表に関してだけ言えば、激昂するでもなく取り乱すわけでもなく、かなり良い態度だと言えよう。
正真正銘の善人なら連中を止めてくれるんだろうが……流石にそこまで求めるつもりは無い。
「それじゃあ……まとめて掛かってこい!!」
「って感じで宣戦布告してきたぞ~」
「ご苦労」
正当防衛の名目で数名ほど病院送りにしてやっても良かったが、代表の態度も良かったのでその辺は自重しておいた。
ただ、攻撃を全回避してきたのでストレスは相当溜まってるだろうな。
午後からの戦争で有効に働いてくれれば良いが……まぁ、気休め程度だな。
「それじゃ、今からミーティングを行う。屋上に行くぞ」
「りょーかい」
というわけで屋上に移動する。
着いてきてるメンバーは僕と雄二に加えて、先ほど名前が上がっていた連中だ。
具体的には、明久、康太、秀吉、島田、姫路。5+2で計7名だな。
「んじゃ、始めるぞ」
「でも雄二、ミーティングって何するの? まさかとは思うけど、今から作戦を考えるとか言わないよね?」
「そんなわけ無いだろ。お前じゃないんだから」
考え無しに宣戦布告して今更慌てるとか、そんなアホな事は流石に無いわな。
仮にも相手は上位のクラスだ。気合と根性だけで勝てるほど甘くは無い。
「ところで雄二よ、一つ気になったのじゃが……」
「どうした秀吉」
「何故Dクラスなのじゃ?
勝負を仕掛けるならAクラスに直接行くべきじゃし、段階を踏むならEクラスじゃろう?
なんだか凄く中途半端な気がするのじゃが……」
「なぁんだ。そんな事も分からないのかい?」
「何だと明久、貴様は分かるというのか!?」
僕自身は雄二の意図をほぼ正確に把握している自信があるが……明久が勘付いているというのは予想外過ぎる。
……いや、明久の事だからどうせ……
「そんなの決まってるじゃないか! 雄二がアルファベットのEを飛ばして覚えていたに決まって……」
「くたばれ」
「くぴゃっ、ちょっと!? 何するの雄二!!」
案の定アホな勘違いをしていたようだ。少し安心した。
「このバカは放っておいて秀吉の質問に答えるとしよう。
まず、直接Aクラスに殴り込みに行かない理由は至極単純。正攻法で勝つのはまず不可能だからだ。
現状の戦力で真っ当な戦争で勝とうとするならAクラス全員が体調不良で実力を発揮できなくなるみたいな奇跡でもない限り勝ち目は無い」
「えっ、それじゃあどうするの!? Aクラスは諦めるの!?」
「落ち着け明久。雄二は『正攻法なら』不可能と言ったんだ。
逆に言えばやり方次第では勝てる。そういう事だろ?」
「まあそういう事だ。
で、Eクラスでもない理由だな。こっちは単純に弱すぎる。
なんたってこっちには姫路が居るからな」
「わ、私ですか?」
「ああ。姫路単騎であっても壊滅状態に……持ち込むのは流石に不可能かもしれんが、半壊くらいにはできる。
敵に囲まれないようにちょっとサポートしてやれば本当に全壊させる事も不可能じゃないだろう」
ちょっと運が良ければ本当に単騎で壊滅させてもおかしくは無いな。それほどまでに姫路は優秀だ。
しかし、少々気になる事がある。
「雄二、それはあくまでも万全の状態での話であって、振り分け試験で0点だった姫路にはキツいんじゃないか?」
「ん? ああ、そう言えばお前居なかったな。
安心しろ。姫路も、ついでに明久もしっかり再試験を受けているらしい」
「何だと?」
「そうだよな、姫路?」
「はい。なんでも、0点のままだと召喚獣の武装の決定でバグが発生してしまうとか何とかで、その為に再試験を受けました。
『振り分け試験』ではないのでクラスはFクラスのままでしたけどね」
「……そんなのがあったのか」
振り分け試験のテストの点数というのはクラス分けの為だけのものじゃない。
召喚獣が装備している武器や防具といった個別の武装も点数によって決定される。
同じ点数だからといって同じ武装というわけではないが……基本的には高い点数ほど豪華な装備になるようだ。
なお、この装備は学年が変わるまでずっと固定だ。いくら途中のテストで良い点を取ろうとも変わる事は無い。
「……姫路はまぁ真面目に受けたとして、明久もそれを受けたのか?」
「まぁ、一応。後ろで鉄人が見張ってなかったらテキトーにやってたんだろうけどね」
「なるほど」
そんなのがあるなら僕も途中退席してりゃ良かったな。まぁ、今更言っても遅いか。
って言うか、そんなのやるくらいなら普通に振り分け試験の再試させてやれよ。
「そういうわけで、姫路は開幕から動ける。
実際にいきなり出す事は無いと思うが……嬉しい誤算だった」
「なるほどな。
ちなみにだが……その再試験の日程ってどうなってたんだ? 通常通り、2日間に分かれてたのか」
「え? はい。そうですよ」
「……なるほど。分かった」
開戦と同時に3人でテスト受けるハメになると踏んでいたが、僕1人だけか。
まぁ、いいさ。
「ところでさ、開戦は午後からなんだよね」
「ああ。良く覚えていたな。明久にしてはやるじゃないか」
「いや、流石にそれくらいは覚えてるよ!?
って、そうじゃなくて、戦争の前にお昼ご飯って事だよね」
「そうなるな。
明久、今日くらいはまともな物を食えよ?」
「そう思ってくれるならパンの一つや二つ奢っ「却下だ」って、早いよ!!」
「生活費をゲームや漫画に使い込む貴様の自業自得だ」
「うぐっ!」
日々の食事を塩水や砂糖水だけで凌いで生きていけるその生命力には驚嘆するが、それとこれとは話が別だ。
食生活をまともなものに改善するだけでFクラスから脱却できるくらいには成績上がるんじゃないだろうか? いやまぁ、今回は途中退席してたんで素の成績は全く関係ないが。
と、そんなやりとりをしていたら姫路がこんな提案をしてきた。
「あの……もし宜しければ作ってきましょうか? お弁当」
それを聞いた普段の僕なら『明久をあんまり甘やかすな』と言っている所だが、その台詞を発する前にゾクリと強烈な悪寒を感じた。
何だろう? 地震や津波の前触れのような、そんな悪寒を。
「えっ、いいの!? 本当に!?
僕、塩水と砂糖以外のものを食べるのは久しぶりだよ!!」
「そ、それじゃあ……明日から持ってきますね」
凄く嫌な予感がするが……今更止めるのも野暮か。
「……姫路、差し出がましいようだが……味見はしっかりしてくれよ?」
「え? えっと……」
「何言ってるの剣。料理を作ったら味見をするのは当然じゃないか」
……姫路からの返事を聞いてないんだが……まぁいいか。明久だし。
良薬口に苦しって言うし、健康重視で多少マズいものが出てきても問題あるまい。
「へ~、瑞希ってば優しいのね。吉井
おい島田、その言い方はまずいぞ。
諦めるなら別に構わんが、この会話の流れだと……
「あ、えっと……それじゃあ、宜しければ皆さんにも……」
「姫路の料理か。確かにちょっと興味があるな」
「そういう事であればご相伴に預からせてもらおうかのぅ」
「…………(コクコク)」
……まぁ、そうなるな。
この悪寒の中心に友人達だけを放り込むわけにもいかんか。
「姫路、無理しなくていいからな」
「大丈夫です! 同じ物をちょっと作るのも沢山作るのも大して変わらないので。
それじゃ、頑張りますね!」
……まぁ、せいぜいクソマズい程度だろう。死にはしないさ。
そう、僕は確信した。
「今回はアニメ版との明らかな相違点が出たわね。
振り分け試験で途中退席した人は『再試験』が実施されているわ」
「尤も、点数や武装の再試験であってクラス振り分けの再試験ではないようだがな」
「でも、何でそんなの追加したの?」
「……だってさ、姫っちの召喚獣の装備ってすっげー豪華じゃん。
決して0点の人の装備じゃないじゃん。
0点でアレなら明久と雄二は一体何なのっていう」
「……あ~、確かに」
「そういうわけで追加してみた。
学園側、と言うか学園長としては『システムに思わぬバグが出たんで今年だけはしょうがないから受けてもらった』って感じらしい。
来年以降は何らかの対策がされているだろうな」
「それでは、次回もお楽しみに!」