召喚大会と、腕輪のデモンストレーションを無事に終えた僕は康太と一緒に学園長室まで来ていた。
ドアを3回ほどノックすると中から入室を促す声が聞こえたのでそれに従う。
「何だアンタかい。何の用だい?」
「いや~、実は腕輪についてちょっとお訊ねした事がありまして……」
と、適当な台詞をつぶやきながらおもむろに紙を取り出し、ペンを走らせる。
『盗聴器に警戒しろ』と。
「……ほぅ? なるほど」
「…………」
それを見た康太が部屋の隅へと一直線に向かい、植木鉢の辺りから何かを拾い上げた。
盗聴器、だな。
それを確認してから更に筆を走らせる。
『油断するな。僕なら3つ以上仕掛ける』
それを確認した康太はまた部屋の隅へと向かい。また拾い上げてきた。
それを何回か繰り返し、机の上には5個の盗聴器が並んだ。
「…………探知機で確認した。これで全部だ」
「学園長、ちょっと多すぎないですかね……」
「アタシも教頭がここまでやるとは思ってなかったさね……」
「……学園長、今後はもうちょい防犯に意識を割いてください」
「分かってるよ。それで、一体何の用だい?」
「いくつかありますが……まずはコレを」
学園長の机の上にそっとボイスレコーダーを置く。
決勝戦での常夏との会話の一部始終が記録されたものだ。常夏の口から『教頭の仕業だ』という証言を引き出す事に成功している。
実況の音声や観客の騒音も入っており、録音日時等は明白だ。法廷に出しても全く問題ない代物だ。
問題は。常夏ごときの証言で教頭を有罪まで持って行けるかという事だが……それは僕が考える事ではないな。僕の手の届く範囲で最高クラスの証拠を手に入れた。これだけで十分だ。
「……なるほど、よく分かったよ。
ここまでの物を用意してくれたならタダで返すわけにはいかないね。
こいつを持って行きな。コレも含めて、今回の件の礼さ」
「お礼なら改修で……いや、アレはそもそも学園の義務か。
ありがたく貰っておきましょう」
学園長から渡されたのは……白金の腕輪に似ている腕輪だ。
ただ、あっちが重量感のある金属質な腕輪だったのに対してこっちは安っぽい白いプラスチックでできている。
「こいつはアタシがヒマつぶしに作った『白の腕輪』さ。
こいつを装着して『セット』と唱えると10点を消費する事で召喚獣は点数に関わらず腕輪を使えるようになる。
召喚獣の腕輪のコスト自体は据え置きだから結局は点数が必要だがね」
「……まさかとは思いますが……高得点者が使うと凄すぎてうっかり暴走するとか無いですよね」
今回の腕輪みたいに……という台詞は飲み込んでおく。康太が確認したとはいえ万が一盗聴器の取りこぼしがあったら困るので。
「ハッハッハッ。そんな不具合があるわけないだろう?
安心しな。それは召喚獣に付けられた後付けのリミッターを外してるだけさ。
仕組みが簡単だからそんな心配は万に一つも無いよ」
「それだったらこれを景品に……いや、ダメか」
新技術公開の為の腕輪なのに、簡単なものを出しても意味が無い。下手すると逆効果だ。
そもそも、召喚獣の腕輪というものは全召喚獣に付いているものらしい。ゲームバランスとかの為に400点以上という制限を後付けしただけで。
そのリミッターを解除するだけだから……技術的な意味は全く無いな。
「そういう事なら遠慮なく使わせて頂きます。
では、次の話を。白金の腕輪は雄二に渡しておこうと思います。ほら、代表がフィールド展開しておけば戦闘できない状態になるんでいざという時にしばらく安全ですし」
「そんな裏技みたいな方法で交戦を避けようとするんじゃないよ。
あのクラス代表であれば真っ当に使う分には構わないよ」
雄二の振り分け試験の点数は僕のものよりも少々高い。
しかし、総合科目の点数は僕ほどではないので大丈夫のようだ。
まぁ、十中八九大丈夫だとは思ったが、一応報告を。
「最後に、もう一つの賞品の件なんですが……あの噂については本当に本当なんですよね?」
「ああ。そうさ。そのチケットの使い方は任せるよ」
「……分かりました。ところで、如月ハイランドの責任者とコンタクト取れます?」
「……一体何をするつもりだい?」
「少々交渉を。ああ、今日じゃなくて良いです今日はちょっと疲れたので」
「ふむ……まあいいだろう。後でまた来な」
「ありがとうございました。失礼します」
これで、姫路の転校に絡む一連の騒動は終了だ。これ以上僕が介入する必要は無い。
あとはなるようになるだろう。
「あ、そうそう。助かったぞ康太。ありがとう」
「…………礼は要らない。それより頼みがある」
「僕にできる事なら、何なりと」
「…………妹の写真を撮らせてほしい。店の他の女子は全員撮影できたが、アレだけは隙が無い」
「……まぁ、努力はするよ」
今は忙しいだろうから後で頼んでおくとしよう。
教室に戻ると通常通りの営業が続いていた。
「遅い兄さん! 大会は終わったんだからサッサと仕事に入って!」
「人使いが荒いな。ところで明久はもう帰ってきてるか?」
「ええ。こき使ってるわ」
「なるほど、少々借りていくぞ」
「そう? じゃあちょっと早いけど休憩って伝えといて」
「……その補填は僕がするんだろうな……まあいいだろう」
明久は厨房班とホール班を兼務しているとかいう良く分からないシフトを組んでいる。
今は……どうやら厨房に居るようだな。
「お~い明久、今抜けられるか?」
「ちょっと待って!
……よし。おっけー。
お帰り剣、どうしたの?」
「良い話Aと良い話B、どっちから先に聞きたい?」
「どっちでもいいよ!? 何その2択!?」
「では、あえてBから行こう。
こいつはお前のものだ」
僕が渡したのは例のペアチケットのうちの1枚。
優勝者1ペア2名に対して2枚用意されているので片方を受け取るのは当然の権利だな。
「え? でもこれって企業の息がかかってるチケットなんだよね……?」
「……確約はできんが、ちょっと企業の連中と交渉する予定だ。上手くいけばただのチケットに変わる。
連絡を入れるまでは安易に人に譲ったりしないで欲しいが、その後は自由に使ってくれ」
「う~ん……分かった。
あ、そう言えば剣の方はどうするの? 使う予定はあるの?
「使い道はいくつか考えてはいるが……第一候補は霧島だ」
「えええええっ!? 霧島さんを誘うの!?」
「いやいや、そうじゃない。好きに使えと言って渡すだけだ」
「好きにって言うか……霧島さんだったら実質雄二一択だよね」
「そうなるな」
他の案としては姫路や島田に渡すというものがあったんだが……何か、あいつらの言動を見てたらその気が失せた。
霧島だったら大丈夫なのかという疑問も一応あるんだが……大丈夫じゃないならそれはそれで徹底的な手を打つだけだ。
「それで、良い話Aっていうのは?」
「丁度いいから休憩に入れと光が言っていた」
「そ、そう。分かった。それじゃあ休憩に入らせてもらうよ。後は頼んだよ!」
さて、後は店を頑張れば仕事終了だな。
今回の最大の目的である姫路の転校阻止は……最善を尽くしたと言えるだろう。後は本人達の問題だ。これでダメならしょうがない。
今後の計画を立てるとしよう。
このペアチケットの使い方を。
「わー、嫌な予感しかしない」
「ハハッ、そう誉めるな」
「誉めてないから! 断じて!!」
「リメイク前を知っている人からすればそれはもう嫌な予感を感じただろうな。
さて、解説に移ろうか」
「学園長室の盗聴器はこのタイミングで回収するのね。
やろうと思えばもっと早く回収できたと思うけど」
「単純に回収の必要なかったからな。
あと、盗聴器の存在を確信していたわけでもないし、急いで回収してたら警戒されてたかもしれないし」
「それもそうね。
じゃあ次、ペアチケットについて」
「リメイク前は学園長が既に手を回していて全く問題ないまっさらなチケットとすり替えてあったという筋書きにしていたな。
今回もそうしようかと思ったようだが……企業の思惑を回避するのにそれだけだと確実ではないし、今後の事も考えてあんな流れにした」
「責任者と交渉するってやつね。何を言う気なのやら」
「本章が終わったら次は如月ハイランド編に移行する予定だ。
具体的な内容はそっちで知る事になるだろう」
「最後に……ペアチケットを渡す先についてね」
「ここで姫路か島田に対する僕の好感度が低くないとどちらかに渡すという展開になる。
島田は……まぁ、若干微妙だが、姫路に至っては明らかに相思相愛だから、サッサとくっつけと言わんばかりに渡す事になるだろう」
「うわぁ……」
「リメイク前では優子の明久に対する好感度が非常に高い状態だったからそのペアに直接渡していたな。
今回の場合は、そこそこの好感度だし、そもそも僕視点だと一切知らないので明久にお任せの放置って感じになっている」
「なるほど、霧島さんについては?」
「……ちょっと確認しておきたい事があってな」
「うわぁ……」
「こんな所か。一応今回が本章の最終回みたいな扱いなんだが……もうちょっとだけ続く。
如月ハイランド編0.5話とでも言うべきものだな」
「時系列としてはこの直後みたいね。
それでは次回もお楽しみに! ちょっと短いけどね」