バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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第3章 少女たちと結婚の価値観
如月ハイランド編 プロローグ


 清涼祭が終わって数日後、僕は学園長室に呼び出されていた。

 

「失礼します。盗聴器は無いでしょうね」

「第一声がそれかい? 安心しな。ここの電波は全部ジャミングされてある。

 少なくともリアルタイムで盗聴されてる事は無いよ」

「録音機能を持つ盗聴器を予め仕込んでおいて後で回収する事は不可能ではない……と」

「この部屋のセキリュティもバッチリ強化してある。絶対大丈夫とは言い切れないが、そんな事する奴はまず居ないさね。

 教頭も警察に突き出したしねぇ」

「ああ、結局捕まったんですね。それなら安心だ」

 

 チンピラを利用した生徒たちの誘拐未遂か。どの程度の罰則になるんだろうな。

 あれ? 未遂? いや、一応1回キッチリ誘拐されたから未遂は付かないのか?

 ……まぁいいか。裁判官が判断する事だ。

 

「で、今日はどうしたんですか? もしかして例の件ですか?」

「ああ、その通りさ。如月ハイランドの責任者、霜月(しもつき)に今から電話する所さ。

 何を言うつもりかしらないけど、失礼のないように!」

「可能な限り前向きに善処します」

「……今からでも断っていいかい?」

「いいですよ。腹いせにある事ない事適当にぶちまけるだけなんで」

「……本当に頼むよ? うちの筆頭スポンサーなんだから」

「……ごめんなさい。努力しますとしか言えません」

「…………」

 

 学園長は凄く嫌そうな顔をしながらも電話(有線式)のボタンを押して受話器を上げた。

 

「もしもし? アタシだ。文月学園の藤堂だ。今大丈夫かい?

 ……うん、そうかい。実はちょっとアンタと話したいっていう生徒が居てね。

 ……分かった。今代わるよ」

 

 学園長から受話器を手渡されたので受け取る。

 さて……やるか。

 

 

 

 

 

 

 Fクラスの副代表に頼まれて如月ハイランドの責任者と連絡を付けてやる事になった。

 例のプレミアムペアチケットの件で話をしたいらしいが……一体何を言う気かねぇ?

 正面から文句を言うだけのバカみたいな行動を取るとは思えないが……一応、会話の流れがアタシにも分かるように電話はスピーカーモードにしてある。

 

「お時間を割いて頂いた事に感謝します。

 私は文月学園2年Fクラスに所属する空凪剣と申します。

 先日行われた清涼祭における召喚大会の優勝者の一人、と言った方が分かりやすいでしょうか?」

『ああ、どこかで聞いた名前だと思ったらそいういう事ですか。

 それで、ただの学生が遊園地の責任者に何の用ですか?』

「…………………………

 単刀直入に申し上げましょう。あなたはバカだ」

 

 ……おかしいねぇ。アタシは事前にあれだけ念押ししたはずなんだけどねぇ。

 

『ほぅ? 私がバカだと。何を根拠に?』

「簡単な事です。

 如月ハイランドはあるジンクスを作ろうとしている。

 『ここにカップルで訪れた者は幸せになれる』と。

 平たく言うと、結婚できる、と」

『それが何か? 良くあるイメージ戦略の一環ですが?』

「確かにそうだ。しかしやり方が宜しくない。

 うちの大会で優勝した奴にマーキング付きのペアチケットを送り付けるとか、どうかしているとしか思えないです」

『何を言い出すかと思えば、そんな事ですか。

 まさかとは思いますが、そんな事は許せないだとか詰まらない事を言うつもりですか?

 たとえ演出された結婚だったとしても、何も知らなければただの美談です。

 我々経営者が考えるのはいかに稼げるかという点だけ。法に触れない範囲で手段を選ぶつもりはありません』

「……だから貴様はバカだと言ったんだ」

 

 空凪、アンタ敬語すら剥がれてるよ。

 しかし、その表情は怒っている様子ではない。むしろ焦っているという表現の方が正しそうだ。

 ……もう少し、もう少しだけ様子を見てやるとするかねぇ。

 

『……何を仰りたいのでしょう?』

「実に簡単な事だ。貴様の方法ではコストがかかりすぎると言っているんだ」

『ほぅ? どういう事でしょう』

「知名度の高い文月学園の生徒のカップルを成立させる。

 なるほど確かに高い宣伝効果が見込めるだろう。黒字にする事は十分可能だ。

 だがな……文月の生徒をくっつけたいならば、まずは文月の生徒を頼るのが一番の近道だろうが」

『………………』

「続けるぞ。召喚大会で参加した奴に渡すなんていう方法で運任せに対象を決めるより、特定のカップルに当たりを付けてセッティングした方が効率が良いに決まってる。

 それにそもそもペアチケットを持った連中がカップルで来るとは限らない。同姓の友人と来るかもしれないし、兄弟姉妹と来るかもしれない。

 セッティングの準備はとっくに進めているんだろう? 無駄骨になったら丸損だぞ。

 後は最悪の場合だが……相性の悪いカップルを強引に結婚させて、万が一どちらかが自殺でもしたらどうする気だ。事件の隠蔽にいったいいくらかかるんだ? 一度ネットに拡散されたら相当な手間になるぞ」

『………………』

「結論を言おう。1組……いや、2組ほど推薦したいカップルが居る。

 そいつのプロデュースを僕にやらせろ。以上だ」

 

 これが要求かい。

 しっかし、そんな言葉遣いで要求を呑んでくれるような器の大きいのはそうそう居ないと思うけどねぇ。

 

『……なるほど。一つお尋ねしましょう。

 そんな自分勝手な要求が、たかが学生の我儘が本気で通ると思ったのですか?』

「ああ。通るさ。だって、経営者はいかに稼げるかを考えるんだろう? だったら勝手にコストを下げてくれる提案を飲まないはずが無い。

 居たとしたら……そいつは正真正銘の愚か者だけだ」

『……フ、フハハハハハ!!』

「……どうかしましたか?」

『いや失礼。君、確か今2年生だったね。

 卒業したらボクの下で働かないかい?』

「……他に面白そうな進路が無ければ、考えておきましょう」

『それもそうか。まだ進路を決めるには早い。

 君の要求を飲もう』

「賢明なご判断に感謝します。

 ところで、プレミアムなペアチケットの件ですが、普通のペアチケットにしてくれませんか? 無駄なので」

『構わないよ。普通のペアチケットとして使ってくれれば普通の対応をする』

「ありがとうございます。それでは詳しい話はまた後日にしましょう。都合の良い日にご招待頂ければと思います」

『ああ、分かった。君に会える日を楽しみにしている』

 

 こうして、電話は切れた。

 さて……まずは、文句を言わせてもらおうかねぇ。

 

「……空凪、散々念押ししたとアタシは記憶してるんだけどねぇ?」

「すんません学園長。最初は本当に下手に出てやんわりと指摘してねじ込む予定だったんです。

 ですが、何か妙な悪寒を感じたので今の路線に切り替えました」

「……まぁ、スカウトを受けるほど気に入られたみたいだから構わないけどね。

 心臓に悪かったよ、全く」

「ホントすいません。今回の件は借りって事にしておくので何か手が必要なら呼んで下さい」

「分かった。それじゃあ後で遠慮なくこき使わせてもらうよ。

 向こうから連絡が来たら教えてやる。今日は帰んな」

「はい、ありがとうございました。失礼します」






「というわけで如月ハイランド編プロローグ終了だ」

「如月ハイランドの責任者さんの霜月さんはオリキャラね。
 似たような人も原作には居なかったはず」

「ちなみにだが名前は旧暦から適当に取った。
 原作では如月グループ、文月学園、葉月ちゃん、神無月中学が出てきてたっけか。
 他にもあったかもしれんが、霜月は使われてないと信じて採用した」

「学園とかの名前だけじゃなくて葉月ちゃんにも一応人名として使われてるのか。
 しっかしまぁ、あんな交渉で良く要求が通ったわね」

「学園長にも説明した通り、危機感知の直感を使っている。
 何か、台詞を吐こうとする度に不利益を被りそうな予感がしたんだよ」

「万能過ぎない? その特殊能力」

「かもな。
 さて、これで問題のペアチケットは無害化され、僕とクラスメイトが如月ハイランドに入る準備は整った。
 下準備は完了といった所だな」

「次回からは如月ハイランドの場面になるのかしら?」

「いや、チケットを渡す回になりそうだ。実際に行くのはその次からだろう」


「では、次回もお楽しみに!」

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