園内を歩いているとどこかで見たことあるような2人組が居た。
「あら? こんにちは代表」
「雄二よ、こんな所で奇遇じゃな」
まぁ、秀吉が居る事は予想できた。剣が康太にだけ声をかけるとは思ってない。
間違いなく明久にも声をかけているだろうし、秀吉だけをのけ者にするわけがない。
しかし剣の妹の方まで絡んでいるというのは意外だったな。
「奇遇だなお前たち。デートでもしてるのか?」
「ええ、そうよ。そういう名目で代表たちを誘導するように頼まれてるわ」
「ちょ、何を言っておるのじゃ光よ! ち、違うのじゃ雄二。ワシらは偶々散歩をしていたらここに居るだけで……」
「散歩でどうやって遊園地に入れるんだ?」
空凪妹の方はごまかしても無駄だと認識しているようだが、秀吉はあくまでもごまかそうとしているな。
比較的まともに見えてもやっぱりFクラス生だな。
「100歩譲ってお前たちがやってるのが普通のデートだったとして……そんなに仲が良かったのか?」
「う、うむ! たまに演劇部で手伝いをしてくれるからのぅ!」
「そんな繋がりが……ん? 手伝い? お前自身は演劇部じゃないのか?」
「ええ、まぁ。由緒正しき帰宅部よ」
由緒正しいと聞いて首を捻ったがある意味最古の部活だから間違ってはいないか。合っているとも言い難いが。
しかし何故帰宅部が演劇部の手伝いを?
「まぁいいか。で、どこに連れて行こうってんだ?」
「う、うむ! ワシらのお勧めはお化け屋敷じゃ! 廃病院をそのまま改造したとかでスリル満点じゃぞ!」
「と言っても、私たちは入った事無いんだけどね」
「無いのかよ! せめて確認しろよ!!」
「私は一応そうしようと思ったんだけど……剣が何故か入れてくれなかったのよね」
つまり奴の手で何か仕掛けてある……と。なるほど。凄く怪しい。
「よし、翔子」
「……うん」
「お化け屋敷以外の場所に行くぞ!」
「……え? うん」
「ま、待つのじゃ! どうして行かぬのじゃ!? お勧めじゃぞ!」
「さっきまでの会話の流れで何故行くと思ったんだ?」
「むぅ……やはりダメじゃったか」
「でしょうねぇ……仕方ない。
え~っと……これを、送信っと」
空凪妹が携帯でメールか何かを送信したようだ。
そしてその数秒後に俺の携帯が鳴った。
[ From 空凪 剣 ]
俺は、無言で電話を切った。
そしてその数秒後、俺の携帯が再び鳴った。
[ From 空凪 剣 ]
俺は、無言で電話を切った。
すると今度は別の携帯電話……翔子の電話が鳴ったようだ。
「……もしもし?
……うん。今代わる。雄二、電話」
「お掛けになった番号は現在使われておりませんと返しておいてくれ」
「……分かった。お掛けになった……え? 聞いてた? 分かった。
……うん。そうなの? ……うん」
すぐに通話が切れるかと思ったが何か話し込んでいるようだ。何か良からぬ事を吹き込まれる前に翔子から携帯を取り上げた方が良いだろうか?
そんな事を考えていたら、俺の携帯が再び鳴った。
[ From 空凪 剣 ]
「おいふざけるなよ!? テメェ何で電話ができる!?
この為だけにわざわざ2台用意してやがんのか!?」
思わず通話ボタンを押して怒鳴りつけてしまった俺に返ってきたのはこんな言葉だった。
『安心しろ。霧島には通話してるフリをしてもらっただけだ。僕の携帯は1台だけだ。今のところは』
「翔子ぉぉぉ!!!」
『さて、ようやく繋がった所で頼みがある。お化け屋敷に来てくれ』
「断る! 何でわざわざ目に見える地雷源に突っ込んでいかなきゃならん!」
『……まぁ、それが普通の反応だろうな。
だが、無理を承知で頼む。お化け屋敷に来てくれ』
「……なんだと?」
『……頼む』
そう一方的に告げて、通話は切れた。
あいつ……一体何を考えてるんだ? お化け屋敷に俺を呼びたいだけであればいくらでも強引な手を取れるはずだ。
文字通りに腕ずくで引っ張ってきても良いし、翔子を唆しても良い。真っ正面からバカ正直に頼み込むなんて頼りない方法よりもマシな方法はいくらでもある。
「………………いいだろう。そこまで言うなら行ってやる。
お前ら、場所はどっちだ?」
「うむ? 良く分からぬが……行ってくれるなら有難いのじゃ。
場所は向こうじゃよ。もう見えておるあの白い建物じゃ」
「アレか。随分とデカい……って、廃病院を使ってるなら当たり前か。
あと、お前たちの知ってる情報を全て教えてくれ。あのお化け屋敷について」
「教えてあげたいのはやまやまだけど……さっきも言ったように私も入ったこと無いのよ。
最初から協力してた愛子も知らないみたいだったから剣本人しか中身は知らないでしょうね」
「……ホント何やってるんだあいつは」
分からないという事が分かっただけだな。
「それじゃ、行ってくる」
「ええ。気をつけて」
廃病院をベースに作られたこのお化け屋敷はここの目玉の1つだったはずだ。
流石に除菌や掃除は徹底して行っているはずだが、壁や床のくたびれ具合は何とも不気味な雰囲気を醸し出している。
リノリウムの床は足音がよく響き、薄暗い静かな空間で反響する。
元病院である以上、死人が出なかったはずがない。幽霊が本当に存在するなら、地縛霊の1人や2人は確実に居るだろう。
勿論幽霊なんて信じちゃいないが……その可能性が頭をよぎる時点でホラーの演出としては上々だろう。
「……ちょっと、怖いかも」
「珍しいな。こういうのに普段はあんまりビビらないのにな」
「……そうかも」
しかし不気味だ。この雰囲気は不気味だが、それ以上に不気味なのは特に何も出てこない事だ。
こうやって歩かせる事で吊り橋効果でも狙っているのかもしれないが……あのバカがそんな消極的な手を打つだろうか?
ここまでやっておいて実はコケおどしだったという事もあいつなら普通に有り得るのが怖い所だが……
結局、順路に従って1階を見て回ったが何も起こらなかった。歩いているだけでもそこそこの恐怖を感じるのでこれはこれでアリなのかもしれないが……いや、やっぱりナシだろう。
まさかとは思うが残りに2階と3階も同様なのだろうか?
……なんていう心配は全くの杞憂だった。
「……何か聞こえる」
「ん?」
耳を澄ませると確かに聞こえてくる。ノイズ混じりの人の声らしきものが。
『……じの方が……よりも……』
ようやく何かの演出がやってきたようだ。
これまで散々待たされたせいで恐怖を感じるよりもちょっとワクワクしている自分が居る。
「……この声、雄二の声?」
「そうなのか?」
翔子が言うならそうなんだろう。
歩いていたら自分の声が聞こえてくる、か。俺以外の相手にはどうするんだと問いたいが、これだけノイズ混じりなら合成音声とかでもそれっぽくはなるのかもしれない。
斬新な試みだとは思うし恐怖体験と言えなくも無いが、少々地味過ぎる気が……
『姫路の方が翔子よりも好みだな。胸も大きいし』
「……雄二。言い遺す事、ある……?」
「ちょ、ふざけんなよ!? リアルな恐怖を味わうなんて聞いてねぇぞ!?」
幽霊なんか怖くない。怖いのは人間だ。
いやいや、そんな悟りを開いてる場合じゃない! 何とか翔子を宥めて……
ガタン!
「ほ、ほら翔子! 何かの演出みたいだぞ!」
とりあえずようやく出てきた演出に注意を逸らす。その隙に……
「……なるほど。気が利いてる」
「……は?」
翔子のすぐ側から転がってきたのは、一本の金属バットだった。
おいどういう事だよ。この施設、殺意が高すぎないか?
翔子が凶器まで手にしていたら宥める前に三途の川を渡る事になる。今はまず逃げて、逃げながら対処を……
ガッ
「んなっ!?」
走り出して数メートルの所で何かに足を取られた。
その正体は、何て事の無いただの障害物。但し、表面はトリックアートのようになっており、この薄暗い空間で認識するのは極めて困難な障害物だ。
製作者の底知れない性格の悪さを感じる。ほぼ間違いなく、剣が用意したものだろう。
そしてそんな些細な足止めは、翔子が追いついてくるには十分だった。
「……雄二、覚悟」
「くっ、うぉぉぉぉぉおおお!!」
俺にできた精一杯の抵抗は、身体を守るように腕を上げ、そして目を瞑る事だけだった。
バットの風切り音が聞こえた。
そして…………
「いやー、この先どうなるんだー」
「次回、坂本死す!
「サラッとネタバレを……いや、これって生存フラグだっけ? 死亡フラグだっけ?」
「ネタとして使うなら生存フラグだし、正直な次回予告なら死亡フラグね。どっちにも使える便利なネタよ」
「……そうだっけか? まぁそういう事にしておくか」
「しかしまぁ……うん、最早何も言うこと無いわ」
「ハハッ、そう褒めるな」
「褒めてないから。
では、次回もお楽しみに!」