バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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10 夢と現

『皆さん、お待たせしました!

 只今より、如月ハイランドウェディング体験を始めます!』

 

 服装等の細々とした準備を終えて、ウェディング体験が始まった。

 なお、司会はさっきのクイズの時と同じように工藤がやっている。

 

『それでは、新郎の入場です! 皆さん、拍手でお迎え下さい!』

 

 呼ばれたのでステージの上へ進む。

 改めて眺めてみると随分と豪華なステージだな。

 この施設が『結婚式ができる遊園地』なのか『遊べる結婚式場』なのか。少し判断に悩む。

 

『ではまず、新郎のプロフィールを……』

 

 そんな事までやるのか。意外と本格的だな。

 

『……省略します』

 

 意外と手抜きだった。その気になればプロフィールくらい作れたはずだが……単純な手抜きか、それとも時間の都合か。

 この調子で定番である『誓いのキス』とかもスキップしてもらえると非常に助かる。

 

『まぁ、紹介なんざイラネーな!』

『そうそう、キョーミナシ!』

 

 ん? 何だあのチンピラ……ああ、さっきの第1問目でドイツとか答えたカップルか。

 明久でも間違えないだろう問題を間違え、こんな場で大声で騒ぐ。見た目に違わないバカなチンピラらしい。

 

『……それでは、新婦の入場です』

 

 工藤は一瞬だけチンピラに何か言いたそうにしていたが、黙って飲み込んで粛々と進行を続けた。

 軽く注意した程度で落ち着くような奴じゃ無さそうだし、模範的な対応だろう。

 

 さて、翔子の入場だ。

 俺がタキシードに着替えさせられている間に向こうもウェディングドレスに着替えさせられているんだろう。

 結構本格的なんで化粧くらいはしてるかもな。

 

 電気が落とされ、薄暗い室内にスモークが焚かれる。

 暗闇に目が慣れるよりも前にスポットライトが出入り口を照らした。

 その照らす先でそっと佇むのは……

 

「しょ、翔子……だよな?」

「…………」コクリ

 

 新婦が呼び出された時に入ってきたのだから翔子のはずだ。

 だが、ドレスを纏ったその姿は、とても美しくて、とても輝いていて、まるで別人のようだった。

 人は服を着替えただけでこれほどまでに変わるのだろうか?

 

「……雄二、私、お嫁さんに、見えるかな?」

「あ、ああ。そうだな。安心しろ。少なくとも婿には見えない」

 

 ……何をつまらんボケをかましてるんだ俺は。

 いかんいかん。平常心平常心……

 

「……夢だった」

「ん?」

「……ずっと夢だった。雄二のお嫁さんになる事が」

「翔子……」

「……私の想いは、全部そこに繋がってる。

 雄二に追いつく為に必死に勉強もしたし、美味しいものを食べてもらいたくてお料理も頑張った。

 ただそれだけの為に、ずっと頑張ってきた」

 

 俺の方が勉強ができた時代は確かにあったが、そんなものはとうの昔に過ぎ去った。

 そんな時からずっと頑張ってきたんだろうな。そういった努力に関しては、素直に凄いと思うよ。

 

「……でも、一番大事な事を忘れてた。それは雄二を知る事、そして雄二を信じる事。

 雄二は私の理想の王子様じゃない。きっと嫌な部分もあると思う。それでも私は信じてる。私の大好きな雄二だって事を。

 ……だから、私、頑張る。いつか本物の結婚式を挙げる為に」

 

 これは……どう反応すれば良いんだろうか?

 翔子の言葉は自分自身の中で完結している。俺が口出しした所で揺らぐ事は無さそうだ。

 しかしそれでいてその目は真っ直ぐに俺の方を見ていた。

 ……ふと、記憶を辿る。最後にこうやって見つめられたのはいつ頃の話だっただろうか?

 いや、もちろん見られていた事は当然あった。しかし、それは俺と良く似た別人を見ているかのようだった。

 翔子の言葉を借りるなら、『理想の俺』を見ていたって所か。

 それを止めて『現実の俺』を見てくれると言うなら……そうだな……

 

「……翔子、俺は……」

 

『あーあ、つまんない!』

 

 突然そんな声が響いた。

 声がした方を見るとさっきのチンピラカップルが騒いでいた。

 

『マジつまんないこのイベントぉ~。人ののろけなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?』

『だよなぁ~。お前らの事なんてどうでもいいっての』

 

 冷静に考えると一理ある台詞だ。赤の他人である俺たちの事なんてどうでもいいというのは理解できる。

 しかしこんな場所で、こんな場面で騒ぎ立てるというのは明らかに非常識だし、それに……

 

『ちょ、ちょっとお客様お静かに……』

『アァ? 俺らに言ってんのか?

 って言うか、オヨメさんが夢だとか、そんなアホな奴居るわけがねーだろ!』

『そうそう! 何のコントってカンジ~』

『ああ、コントだったのか。なるほどな! ハハハハハッ!』

 

 人の……翔子の夢を嘲笑うような事は、とてもじゃないが容認できそうになかった。

 ああ、そうか。どうやら俺は怒っているらしい。今すぐにでもあいつらをぶん殴ってやりたい気分だ。

 

『何だとテメェら! もういっぺん言ってみやがれ!!

 霧島さんの夢を貶せるほどテメェらは立派な人間だっていうのか!?』

『ちょっ、吉井くん落ち着いて! 気持ちは分かるけど!!』

 

 観客席の方から聞き覚えのあるバカの声が聞こえてきた。

 おいおい騒ぐなよ。ステージが台無しになるだろ。

 ……いや、もう十分台無しになってるか。じゃあ俺もステージを降りてぶん殴りに行くか。

 

「雄二っ!」

「っ」

「私は、大丈夫だから。だから行かないで」

 

 ……そんな泣きそうな顔で大丈夫だなんて言われてもな。

 だが、翔子がそう言うなら仕方ないか。今回は我慢するとしよう。

 

 そんな考えに至った時、ふと、会場の隅っこが視界に入った。

 さっきまで通話していたらしい携帯をパチンと閉じて獰猛な笑みを浮かべている中二病の男の姿が。

 俺に読唇術の心得は無いが……その時だけはその台詞がハッキリと感じ取れた。

 

『許可は降りた。執行開始だ』






「中二病の男か~。僕には心当たりが無いな~。新キャラかな?」

「わ~、一体どんな人なんだろ~」

「……ツッコミ待ちだったんだがな。まあいい。茶番はこんなもんにしておこう。
 今回は霧島翔子が抱えていた問題に関する話だったな。
 人に暴力行為を加えるのは論外として……それを取っ払った上で、こんな問題を抱えていたと筆者なりに推測しながら書き進めたようだ」

「現実ではなく理想を見ていた、かぁ。
 それだったら、思い通りにいかなくてバットを振り回すのも当然の行為ね。限度ってもんがあるけど」

「あくまで解釈の一例だ。これ以外の解釈は無数にあるだろう」

「霧島さんが最初から坂本くんをちゃんと見ていたらここまでこじれはしなかったんでしょうね」

「当時小学生だった霧島にそこまで要求するのは無茶だがな。
 雄二の方も霧島の感情を『恋愛』ではなく『義務感』だと決め付け……いや、最初はそうだった可能性は十分あるが」

「恋を抱くのに感情の種類はさして重要じゃない。全ての印象はフラグ1つで恋愛になる。そんな感じの事をどっかの恋愛の神様が言ってたわね。
 ……とは言っても、きっかけが義務感だったってなると坂本くんは負い目を感じるでしょうねぇ……」

「……2人とも、『どうしたいか』ではなく『どうあるべきか』を見ていた。そういうコトかもな」

「あら? 意外と綺麗にまとまった。


 それでは、次回もお楽しみに!」
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