ウェディング体験争奪クイズ大会は代表と坂本くんのペアの優勝に終わった。
ドレスやメイクの準備があるからしばらくはまた自由時間だ。
「さてと、どうしましょうか。どこか行きたい所ある?」
「そう言われても……僕もここに詳しい訳でもないから」
「じゃ、詳しい奴に尋ねるとしましょうか」
その相手とは勿論、つい先ほど壇上から降りてきた剣くん(+御空さん)だ。
ここのバイトとしてせいぜいこき使ってやるとしましょう。
「剣くん、お勧めの場所とかある?」
「おいおい、もうちょっとこう健闘を讃えてくれてもいいじゃないか」
「いや、アンタ何もしてないでしょ」
「ごもっとも」
御空さんの数合わせで参加していただけであり、剣くんは全く何の役にも立っていなかった……はずだ。
と言うか、立っていたら八百長もいいところだ。
「お勧めねぇ……それじゃあカップル用……」
「それは止めなさい」
「……カップル用施設を縛られると選択肢が8割ほど消し飛ぶんだがな」
「どんだけ偏った設計思想をしてるのよ!?」
「いや、僕に文句言われても」
悔しいけど正論だ。ただのバイト(自称)である剣くんに文句を言っても仕方ない。
「……あ、そうだ。今しか案内できない良い場所があった」
「…………どんな場所?」
「そんな嫌そうな顔をするな。一応カップル向けの施設ではあるが、貴様らが使うわけじゃない」
「どういう意味?」
「雄二たちのウェディング体験よりも前に1組だけウェディング体験をする。
まぁ、体験と言っても豪華版じゃなくて簡略版の体験だが」
「一体誰が……って言うか何でそんな事を?」
「本番前のリハーサルみたいなもん。
……という名目で僕がねじ込んだ」
「……何やってるの」
「そして、体験をするのはうちの姉と貴様の弟だ」
「……はい?」
「更にぶっちゃけた話をするなら光にはサッサと秀吉とくっついてほしい」
「え、ちょっ、ええっ!?」
「うちの姉は完璧に秀吉に惚れ込んでいるんだが……本人のプライドが邪魔しているのか素直にならなくてな。
秀吉が告白でもしてくれれば万事解決しそうだが……まぁ、そこまでは望まん。この機会に秀吉が光を意識してくれれば十分だ」
そんな話をさも当然のような顔でぶっちゃけられてもねぇ……
「そ、そんな! 秀吉と光さんが結婚!? 同性婚はできないはずなのに!!」
「いや、吉井くん。秀吉くんは女子じゃないからね?」
「ははっ、御空さんでも冗談を言うんだね」
「冗談を言ったつもりは全く無いんだけど……」
吉井くんの中では相変わらず秀吉は女子扱いのようだ。
そんなどうでもいい事は置いておいて……とりあえず、1つ言いたい事がある。
「アンタ、バイト先で一体全体何してるの?」
「…………バイトだ」
「バイトの範疇を明らかに越えてる気がするんだけど?」
「気のせいだ」
これ以上突っ込んでも意味は無さそうなのでそういう事にしておきましょう。
「とにかく……アタシはどうすれば良いの? 秀吉と光をくっつける手伝いでもすれば良いの?」
「手伝ってくれるなら有難いが、無理に協力する必要は無い。
今だって単に見物できるって提案しただけだし」
そう言えばそうだった。今日アタシたちが来たのだって剣くんの想定外なわけだし、アタシたちの協力を前提とした計画を練っているわけが無い。
本当に単純に見物の提案をしただけみたいだ。
……ついでのように爆弾情報を投下していったけど。
「……そう言えば、姉と秀吉が結婚までしたら貴様は義理の姉になるな。よろしくな義姉さん」
「勘弁してちょうだい!」
この狂人が義理の弟だか兄だかになるのは勘弁してほしい。
そういう意味では光には破局してもらった方が……いや、光はそこそこまともだから流石に不幸を願うのは忍びない。
……気にしない事にしましょう!
「で、どうする?」
「そうねぇ……行くだけ行ってみましょうか」
と言う訳で、4人で式場へと向かう。
「しっかし、結婚ねぇ……私にはまだまだ早い話ね」
「貴様は16歳以上だろう? 結婚は可能なはずだが」
「そういう意味じゃないから!!」
剣くんと御空さんのコントを聞き流しながら歩みを進める。
結婚が可能か不可能かで言えばアタシも一応可能ではあるのよね。と言うか、アタシの同級生は全員16歳か17歳だから女子は結婚可能で男子は不可能だ。
勿論、結婚する気なんて皆無だから意味の無い話だけど。
「ところで剣くん」
「ん?」
「念のため訊いておくけど、あのクイズは剣くんが考えたのよね?」
「フッ、当然だ」
「そのドヤ顔止めなさい。褒めてないから」
「フッ、まぁいいだろう。
……あ、そうだ。せっかくだから感想を聞かせてくれ。今後の似たようなイベントの参考になるから」
「あんなのと似たイベントをまたやる気なの?」
「さぁ? 反響次第だな」
この狂人を放っておいたら如月ハイランドが疑心暗鬼を呼ぶ破局スポットになってしまうんじゃないだろうか?
いや、流石に無いか。無い……と信じたい。
「と言うか、感想なんて1つしか無いでしょうが。
性格悪すぎでしょう!? 何なのあの悪意にまみれた問題群は!!」
「ハハッ、褒めるな」
「褒めてないから!」
やっぱりこの狂人の相手は疲れる。
御空さんだけじゃなくてコイツにとっても結婚はまだまだ早そうね。
「ん? ああ、ここだ。ここが式場だ」
剣くんの案内に従って数分、教会のような建物に着いた。
遊園地の中に教会が設置してあるって……どんだけ本格的なのよ。
「……ちょっと気になったんだけど、他の宗教の信者はどうするの?」
「安心しろ。本格的な教会っぽく見えるが実はハリボテだけのパチモンだ。
そもそも、結婚式にこだわる敬虔な信者はこんなイロモノ染みた施設で式など挙げん」
「確かにそうかもしれないけど! もうちょっとまともな言い方はできないの!?」
「ちなみに、小規模なものだが本物の教会も一応併設されている。
結婚式の際にそれっぽく神父をやるらしい。
特に信仰など無いが雰囲気だけを楽しみたい人向けだな」
また無駄に凝った設備を……ここの設備を企画した人は一体何を考えていたのかしら。
「それじゃ、入るとしよう。
チィーッス、順調に進んでおわっ!?」
扉を開けた瞬間、剣くんの顔面目がけて何かが中から飛んできた。
間一髪で躱したそれは私たちの数メートル後ろの地面にぶつかりガシャンと音を立てて割れた。
……花瓶か何かだったらしい。当たったらただじゃ済まなかっただろう。こんな事をしたのは……と言うか、こんな事が可能なのはアタシの知る範囲ではそう居ない。
「チィッ、外したか。どうして避けるの兄さん!! 大人しく喰らいなさい!!」
「嫌だよ! 痛いだろうが!!」
「そう。そういう事なら痛みを感じる前に昇天させてあげるわ」
「余計過ぎるお世話だ!!」
そう。今日ここに居る人の中では光くらいしか知らない。
半ば強引に秀吉と結婚体験させられてるって話だからこの反応も無理は無いか。
そんな兄姉喧嘩は放っておいて中に入る。
広い会場に居るのは数人のスタッフと新郎新婦役だけ。少し寂しい気もするけど、客を閉め出したリハーサルだから妥当な人数ね。
「秀吉、来てあげたわよ。どう? 新郎になった気分は」
「おお姉上。来たのじゃな。
気分と言ってものぅ……あっ、男役でなおかつ主役というのは嬉しいのぅ。演劇部では何故かなかなか回ってこないのじゃ」
うちの愚弟はどうやら完全に劇の延長の気分みたいね。剣くんは光とくっつけようと画策してるみたいだけど……果たして上手く行くのだろうか。
「ほら、光、どうどう。時間も押してるんだからリハ始めるぞ」
「……まぁいいでしょう。但し、後で覚悟しておくことね」
「……ひゅ~、ふひゅ~」
「口笛、吹けてないわよ?」
「♪~、♪~」
「いや、ちゃんと吹けって意味じゃないから!!」
そんなこんなでリハーサルが始まった。
始まる前は不安だったけど、あれだけ不満を漏らしていた光も始まったらちゃんと役に徹しているようだ。
『汝、木下秀吉は空凪光を愛し、健やかなる時も病める時も共に支えあう事を誓いますか?』
「はい、誓います」
『それでは、汝、空凪光は木下秀吉を愛し、健やかなる時も病める時も共に支えあう事を誓いますか?』
「はい、誓います」
秀吉は新郎を、光は新婦を演じている。
2人をくっつける為に擬似的な結婚をさせるというのはどの程度の効果があるものなんだろうか?
『それでは、誓いのキスを!』
……ああ、そこまでやるのね。ただのリハーサルなんだからやったという体で省略しても良さそうな気がするけど……
剣くんが企画したこのリハーサルでそんな事が有り得るだろうか? いや、無いだろう。
「ひ、秀吉が女子とキスなんて……
……ハッ! そうか、アレは役に徹しているだけであって本心からじゃないね!!」
「激しくツッコミたいけど、言ってる事自体は合ってるから突っ込めないという」
「……さて、姉さんはどう動くか。まぁ、黙って受け入れるだろうな。合法的にキスできるチャンスを逃すはずもない」
このまま順調に進む。それが剣くんの予想だったようだ。
しかし、そんな予想を覆すように、こんな声が響いた。
「ちょっと待った!!」
「と言う訳で実はやっていた秀吉と光の擬似結婚式だ」
「……一応確認しておくけど、この時点で光さんは秀吉くんにベタ惚れなのよね?」
「ああ。そういう設定だな」
「じゃあ何でキミが襲われてるの」
「光はツンデレだからな」
「ツンデレっていうレベルなのかしらこれ……」
「前世と微妙に性格が変わってるとかいう説がある。
あと、光に限った話ではないが、リメイク版ではカップル成立のハードルが上がっているな。
まぁ、リメイク前がむしろ簡単過ぎたと言うべきか。関係性を固めてから進める方が執筆はずっと楽だからな」
「分からない話でもないか。一言で言うと筆者さんの能力不足ね」
「今回は未来をある程度知っている状態で書いてるからな。中途半端な状態を維持する事も不可能ではないという訳だな」
「では、次回もお楽しみに!」