しばらくして、代表たちの結婚式体験が始まるアナウンスが園内に流れた。
その後、アタシたちが居る会場に続々とお客さん達が集まってきた。
「一番乗りだから自由な席に座れるわね。どうする? どの辺に座る?」
「う~ん……正直どこでもいいかな……木下さんに任せるよ」
「そう。じゃあ、真ん中から少し横に逸れた辺りにしましょうか。
流石に最前列やド真ん中に居座る気は無いし、隅っこ過ぎてもよく見えないだろうから」
「そうだね。そうしよう」
『皆さん、お待たせしました!
只今より、如月ハイランドウェディング体験を始めます!』
ようやく始まった。
クイズの時と同様に愛子が司会をやるらしい。
『それでは、新郎の入場です! 皆さん、拍手でお迎え下さい!』
呼ばれてステージに現れたのはキッチリとタキシードを着込んだ坂本くん。
衣装まで用意するなんて、結構本格的なのね。実際にオープンした際には衣装のレンタルとかもやるのかしら?
……あるいはその場でオーダーメイドで作ったりして……? 如月グループなら不可能じゃなさそうなのが少し怖い。
『ではまず、新郎のプロフィールを……
……省略します』
省略するのねそこ。赤の他人であるお客さん達は興味ないだろうから妥当と言えば妥当だけど……
『まぁ、紹介なんざイラネーな!』
『そうそう、キョーミナシ!』
……こんな風に耳障りな声で騒ぐのはどうかと思う。
意見には同意するけど仮とはいえ今は結婚式の最中だ。粛々と見守るべきでしょう。
『……それでは、新婦の入場です』
いよいよ代表……霧島さんの入場だ。
照明が落とされ、薄暗くなった部屋にスモークが焚かれた。
そしてスポットライトが入場口を照らし出す。
そこには……純白のウェディングドレスを纏った代表が佇んでいた。
「……凄い。綺麗」
「そうだね。雄二には勿体ないくらいだよ」
私の小声での呟きに吉井くんが反応する。
確かに坂本くんには勿体な……いや、そもそもそこまで坂本くんの事知らないや。
中学の頃には何か凄い不良で、今はFクラスの代表って事くらいしか知らない。
バカの代名詞とまで謳われた吉井くんだって話せば良い人なんだから坂本くんに関する悪評が単なる噂話である可能性も否定できないか。
……坂本くんの評判については今は置いておきましょうか。代表が今すぐ結婚するわけでもないし。
そんな風に考え事をしている間も壇上では式が進行していく。
『……雄二、私、お嫁さんに、見えるかな?』
『あ、ああ。そうだな。安心しろ。少なくとも婿には見えない』
『……夢だった』
『ん?』
『……ずっと夢だった。雄二のお嫁さんになる事が』
『翔子……』
『……私の想いは、全部そこに繋がってる。
雄二に追いつく為に必死に勉強もしたし、美味しいものを食べてもらいたくてお料理も頑張った。
ただそれだけの為に、ずっと頑張ってきた』
うちの代表は冷徹な人形みたいに見られる事もある。と言うかアタシも実際に話すまでは似たような印象を抱いていた。
でも、違う。単に脇目も振らない性格なだけだ。本当に真っ直ぐで、目標以外のものが殆ど見えていない。それだけだ。
きっと学年の首席の地位も、霧島さんにとってはおまけに過ぎないのだろう。
『……でも、一番大事な事を忘れてた。それは雄二を知る事、そして雄二を信じる事。
雄二は私の理想の王子様じゃない。きっと嫌な部分もあると思う。それでも私は信じてる。私の大好きな雄二だって事を。
……だから、私、頑張る。いつか本物の結婚式を挙げる為に』
この2人の間に、かつて何があったのか。アタシは何も知らない。
分かるのは、代表は坂本くんの事が好きだという事だけだ。
だからと言って何かできるわけでもない。せいぜい応援する事くらいね。
『……翔子、俺は……』
坂本くんが何か言いかけた。しかしその続きが放たれる事は無かった。
『あーあ、つまんない!』
さっき騒いでいたチンピラカップルが騒ぎ出したからだ。
『マジつまんないこのイベントぉ~。人ののろけなんてどうでもいいからぁ、早く演出とか見せてくれな~い?』
『だよなぁ~。お前らの事なんてどうでもいいっての』
「くっ、あいつらっ!!」
「落ち着いて吉井くん。気持ちは分かるけど、今騒いだらアタシたちが式の邪魔になるわ」
「そうかもしれないけど……うぅぅ……」
『ちょ、ちょっとお客様お静かに……』
『アァ? 俺らに言ってんのか?
って言うか、オヨメさんが夢だとか、そんなアホな奴居るわけがねーだろ!』
『そうそう! 何のコントってカンジ~』
『ああ、コントだったのか。なるほどな! ハハハハハッ!』
「何だとテメェら! もういっぺん言ってみやがれ!!
霧島さんの夢を貶せるほどテメェらは立派な人間だっていうのか!?」
「ちょっ、吉井くん落ち着いて! 気持ちは分かるけど!!」
友達の為にここまで激昂する事ができるのは美点だとは思う。
けどお願いだから耐えて! 頚動脈を掻っ切ってやりたいような気持ちは凄く良く分かるけど耐えて!!
どうしよう。どうすれば良いのよこんな状況。誰か何とかして欲しい。
……そんな願いが通じたのだろうか?
獰猛な笑みを顔に浮かべた『彼』がやってきた。
「イッタイダレナンダー」
「先に坂本くん視点でやってるからモロ分かりね」
「いや~、こんなイケメンのカッコいい男子、僕は知らないな~」
「鏡を見てきなさい。そこに居るから」
「……鏡の中の世界なんてあるわけないじゃないか。ファンタジーやメルヘンじゃあるまいし」
「どちらかというと物理学ね。ただの光の反射だから」
「……さて、内容としては雄二編でもやった結婚式の視点変更バージョンだな。
正直書く必要があるのか微妙に謎だが……まぁ、気にしないでおこう」
「そうしときなさい。カットになったらそれはそれで面倒くさそうだから。
それでは、次回もお楽しみに!」