剣くんのお見舞いに行く事になった。
と言ってもスタッフではないアタシたちには場所は分からないので、知っていそうな人に訊く事にする。
「もしもし愛子。今時間ある?」
『え? う~ん……今ちょっとバイト中だから……』
「大丈夫よ。見てたから」
『へっ? も、もしかしてここに居るの!?』
「ええ。立派な司会だったわ。
医務室に運ばれて行った剣くんのお見舞いがしたいんだけど、場所分かる?」
『そこも見てたんだネ。
とりあえずそっちに向かうよ。今どこに居るの?』
「式場の前よ」
『オッケー。今行く』
そして、数分も経たないうちに愛子がやってきた。
「お待たせ~。まさか優子がこんな所に来てるなんてネ~。
しかも吉井くんと一緒に」
「まぁ、色々あってね。それより、医務室は?」
「その『色々』を根掘り葉掘り聞きたいけど、今はバイト中だから後にしとくヨ。
こっちだよ。付いてきて!」
一応お客さんの案内も仕事の内に入るのだろうか? そして仕事だからバイト中でも大丈夫と。
妙な所で真面目なのは愛子らしいのかな。
私たちが医務室に辿り着くのとほぼ同時に剣くんが出てきた。
「ん? どうしたお前らそんなにぞろぞろと」
「いやいや、キミのお見舞いだヨ。
怪我してたみたいだけど……」
「ハッ、あの程度ツバ付けてテーピングしときゃ十分だ」
「え? 意外と軽い怪我だったの?」
「ああ。医者のヤローはギプスしろとかうるさかったけどな」
「それ絶対軽くないヤツだよね!?」
詳しくは知らないけど……ギプスが必要になるのは骨折レベルの怪我なんじゃないだろうか?
そしてそれは断じてテーピングだけで済ませて良いものではない。
「ああ安心しろ。テーピングと言ってもソフトではなくハードだ」
「そういう問題じゃないからネ!? テーピングな事に変わりは無いよ!!」
「うるさい奴だな……そんな事より結婚式は無事に終わったのか?」
どうやら剣くんの中では『自分の腕<<<結婚式』らしい。相変わらずイカれてる。
「結婚式なら無事に終わったわよ」
「うんうん。雄二も霧島さんも幸せそうだったよ」
「そうか。そいつは何よりだ。工藤、お前の意見は?」
「イベント自体は無事に完了したよ。後は本人たち次第カナ」
「ふむ……まぁ、焦る事は無いか。のんびりと見守る事にしよう」
良く分からないけど、とりあえずお見舞いの必要が無いくらい元気なのは確かみたいね。
なら、ここに留まってる必要も無いか。
「それじゃあ剣くん、お大事に。愛子もありがとね。
吉井くん。どこか行きましょ」
「どこかって、どこに?」
「さぁ? とりあえずまたうろついてみましょうか」
そしてまた時間は過ぎて、とうとう帰る時間になった。
如月ハイランドはバスや電車を乗り継いで2時間以上かかる場所にある。同じくらいの時間をかけて、のんびりと帰りましょう。
「ふぅ~……今日は楽しかった。吉井くんは楽しめた?」
「うん。凄く楽しかったよ。ありがとう。
木下さんが誘ってくれて良かったよ」
誘った……と言うより巻き込んだだけなんだけどね。吉井くんも楽しめたなら良かった。
「……ところで吉井くん。あの結婚式の最後の愛子の読み上げた台詞、どう思った?」
「……ごめん、どんな台詞だっけ?」
「人生を共に歩むのに相応しいとか何とか、そんな感じのやつ」
「えっと……ああ、アレね! 勿論覚えてるよ! 何かこう……何というか……凄かったよね!!」
「吉井くん、忘れちゃってるなら素直に白状しなさい」
「……ご、ごめんなさい。完璧に忘れてます……」
「忘れちゃってるなら説明し直すだけだから構わないわ。
今日のクイズ大会も、そしてさっき言ったアレも、恐らくは剣くんからのメッセージ。
信頼できる相手と付き合う。結婚していい確信が持てたら結婚する。
男女が付き合うっていうややこしい問題をすっごく単純な問題に置き換えてる」
「そ、そうなのかな……?」
「多分、ね。
そこで、アタシからちょっとした提案があります」
「提案?」
「うん。提案。
アタシたち、ちょっと付き合ってみない?」
そう。問題をシンプルにして考えたらこうすべきなんじゃないかって、そう思ったんだ。
アタシの一世一代の告白……だなんて大げさに考える必要は無い。
ただ……吉井くんは信頼できる相手。それだけだ。
「…………? 買い物にでも付き合えば良いの?」
「違うわよ!! 何というか、その……男女の付き合い? そんな感じの付き合いの事よ!!
あそこまで前フリしたんだから一発で察しなさいよ!!」
「……えっ? あれ? ええっ!?
ま、まさか、好きな人同士が付き合う、彼氏彼女とかそういうアレ!?」
「そうよ!! 恥ずかしいんだからあんまり詳しく説明させないでよ!!」
「って事は……き、木下さん、僕の事がす、好きなの?」
「好き……とはまた微妙に違うんだけど……吉井くんとだったら一緒に居てもいいかなって。それだけ」
「……それ、好きとどう違うの?」
「ああもう! グダグダとうるさいわね! 付き合うの付き合わないの? どっちなの!!」
「わ、分かった! 分かりました! 付き合わせていただきます!!」
……いけないいけない。売り言葉に買い言葉でちょっと熱くなってしまった。
アタシが求める言葉は脅迫された後に引き出したようなこんな言葉では断じてない。
「……ごめんなさい吉井くん。ちょっと取り乱してたわ」
「え? うん……」
「アタシがしたかったのはあくまでも提案。
吉井くんはそれに対してどう思った? 率直な感想を聞かせて」
「感想? うーん……木下さんと付き合えるんだから、嬉しい……かな。
……うん。木下さんに告白……みたいな事をされたんだから嬉しいよ」
「それじゃあ、アタシからの提案は……」
「勿論受けるよ。難しい事はよく分からないけど、木下さんが納得するまで精一杯付き合わせてもらうよ」
「……そうね。難しい事を考える必要は無い。
ありがとう。これから宜しくね。吉井くん」
一般的な『男女の付き合い』とはまた違うのかもしれない。
けど、確かにこの時からアタシたちは付き合い始めた。
この時の決断が良かったのか、悪かったのか……
それを決められるのは、きっと未来のアタシだけだろう。
「以上、如月ハイランド……優子、編……終了……なんだけどさ……」
「…………おかしいな。明久と優子が付き合い始めたように見えるぞ?」
「奇遇ね。私も」
「……いや、おかしいだろ!? のんびり行くとか言ってなかったか!?」
「まだ正式に付き合い始めたわけじゃないけどね……」
「……えっと……筆者曰く『何か気付いたらこうなってた。だいたい剣くんのせい』だそうだ。
……これは果たして僕のせいなのか?」
「クイズ大会と結婚式使ってカップルに注意喚起したのは紛れもなくキミだよね。
あの2人はキミの知らないうちに如月ハイランドに来てたわけだから完全に流れ弾だけど」
「……まぁ、僕のせいか。
ハハハハハ……まさか明久に出し抜かれる日が来るとは思ってなかった」
「どちらかとキミを出し抜いたのは優子さんな気がするけど」
「結果的にはどっちでも変わらん。
はぁ……大丈夫なのかこれ? 今後の計画が狂わないか?
っていうかこれは本当にリメイクなのか?」
「……一応、再メイクではあるんじゃないの? 一応」
「何だろうな、ループ物の主人公がカオスの矯正やら世界線の収束やらで何度繰り返しても結果が変わらない絶望。
そんな感じのものの片鱗を感じた気がした」
「いや、そんな大げさなものでもないでしょうに」
※リメイク前ではこの2人じゃなくて秀吉と光が付き合い始めてました。
誰かが付き合い始める結果はどう足掻いても代えられないのだろうか……?
いやまぁ、筆者の胸先三寸なわけですけども。
「……今後の流れがどうなるか全く読めないが……今後とも宜しく頼む」
「次は空凪くん編ね」
「甘酸っぱさの欠片もない僕の裏での暗躍だな。
被ってる所を削った結果たった2話になったけどな!」
「それでは、次回もお楽しみに!」
※ タグに「明久×優子」を追加しておきます。