バカ達と双子と学園生活 Take2   作:天星

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とあるバイトの視点 前編

 時は少々遡る。

 そうだな……腕を折った直後くらいから始めようか。それ以前の話となると地味な下準備くらいしか語る事が無いからな。

 

 

 

 

 折れた腕を抱えて人気の無い道を進む。

 お化け屋敷に改装された廃病院の薄暗い廊下を2~3分ほど歩き、辿り着いたある部屋へと入る。

 

「……ふぅ、ここまで来れば大丈夫か。イテテテ……思ってたよりキッツいなぁ……」

 

 まずは用意しておいた折りたたまれた厚手の布を口に咥える。

 そして折れた腕を、元に戻す。

 

「ッッ~~~~!!!」

 

 激痛が走るが、曲がったまま骨がくっついてしまったらそれはそれで大変なので我慢する。

 続いてこれまた用意しておいた消毒液を傷口にダバダバと振り掛ける。

 傷口に染みるが、さっきの痛みに比べたら全く問題ない。

 あとはテーピングをしっかりと巻き、その上から真っ赤な包帯を隙間無く巻きつける。

 これで手当ては完了だ。しばらくは左腕は安静にしておく必要はあるが、それ以外は問題ないだろう。

 

 と、手当てが終わったタイミングで携帯が鳴り響いた。

 ディスプレイには『霜月』と表示されている。

 

「……もしもし」

『もしもし。何というべきか……君も大概だね』

「見ていたんですか?」

『ボクはここの最高責任者だよ? カメラを通して君の行動は全部筒抜けさ』

 

 天下の如月グループが手がけているだけあってここのセキリュティはしっかりしている。

 その一環で、園内には至る所に防犯カメラが仕掛けられている。

 確かに責任者であればその映像を見る事くらい余裕だろう。

 

「で、何の用ですか?」

『部下の安否確認と、計画の確認といった所かな。

 それだけ喋れるなら安否については大丈夫そうだ』

「……計画と言うと?」

『勿論、文月学園の生徒をここで結婚させる計画の事さ。

 彼ら……大丈夫なのかい? 下手すると一生のトラウマになるよ?』

「……あいつらならきっと大丈夫でしょう。

 こう見えても僕はあいつらを信じているんですよ」

『もし失敗したら、どうするんだい?』

「どうするも何も……霜月さんの見る目が無かったって事でしょう」

 

 この件に首を突っ込んだのは紛れもなく僕自身だが、それを許可したのは責任者である霜月さんだ。

 よって、責任を追求する相手は霜月さんとなるな。

 

『……そうかい。なら、もう少し様子を見させてもらおう』

「それが良いでしょう。では、僕はバイトに戻ります」

『その怪我で働けるのかい?』

「愚問ですね」

 

 こうして僕は客案内の仕事へと戻った。

 台本自体はもう全部作って工藤に渡してあるから後は僕が手を下す必要も無いんだが……仕掛ける時にはできるだけ現場に居た方が良いか。

 次に仕掛けるのは昼食後だ。それまでのんびりまったりと仕事をしていよう。

 

 

 

 

 

 お化け屋敷を出て、入り口付近で待機する。

 例の結婚計画の事を除けば僕の業務はお客様の案内だ。やってきた客を適当に案内する。

 とは言っても、特にノルマが決まっているわけでもない。マイペースに仕事させてもらおう。

 

 ……と、思っていたのだが……

 

 

 

「空凪くん、こんな所で何してんの?」

「バイトだ。と言うか貴様こそ何でここに?」

「いや、チケットが手に入ったから来てみただけだけど」

「……相方はどこに居るんだ?」

「相方? いや、シングルチケットだったから私だけ」

「……そう言えばそんなチケットもあったか。極少数だが」

 

 ここがカップル向けの施設である以上、シングルチケットはペアチケットよりもレアだ。相当運が良かったらしいな。

 まあいい。目の前の少女……御空が計画の邪魔になる事もそうそう無いだろう。放っておくとしよう。

 

「バイトって何してるの?」

「主にお客様の案内だな」

「そうなの? だったら私を案内してよ」

「あの世にか?」

「何で遊園地で死ななきゃならないのよ!?」

「ハハッ、冗談だ。う~む……分かった。

 どうせヒマだし、つきっきりで案内してやるとしよう」

「暇って……そうなのそれ?」

「それに、ここはカップル向けの……2人で利用する施設が多い。

 1人で乗る事もできるが……特別待遇を通すにも従業員である僕が説明した方が都合が良いだろう」

「……なるほど。そういう名目で仕事する事で空凪くんは暇つぶしができる、私はVIP待遇が受けられる。

 正にWin-Winってわけね」

「ナンノコトカナー」

 

 それじゃ、暇つぶし……もとい、仕事を始めよう。

 

 

 

 

 御空を適当なアトラクションに押し込んで回って数十分が経過した。

 そこらのラブコメだったら僕が一緒に乗り込むんだろうが……今は腕がなぁ……

 観覧車とかならまだしもジェットコースターとかは流石に避けたい。

 

 そんな感じで園内を回っていたらまた見知った顔が……しかし予想外の顔が現れた。

 

「あ、お~い!」

 

 真っ先に気付いた御空が声を掛ける。

 それに反応した2人がこちらを向き、驚愕の表情を浮かべた。

 

「御空さんと……剣!? どうしてここに!?」

「……それはこっちの台詞だ。貴様ら、どうしてここに居るんだ?」

 

 学年を代表するバカこと吉井明久と、学年を代表できる優等生の木下優子が。

 

 

 話を聞いてみるがイマイチ要領を得ない。

 分かったのは、何か良く分からないうちに一緒に来る事になったという事だけだ。

 何があったんだろうな……

 ……まぁ、いいか。しかしこの2人、お互い恋愛しているような雰囲気は感じられないが……この2人の組み合わせは面白そうだ。

 機会があれば応援してやるとしよう。

 

「……そ、それより、バイトって言ってたよね!

 ここのガイドみたいな事もやってる?」

「むしろそれがメインの業務だな。何だ、お勧めでも知りたいのか?」

 

 その機会が早速来たらしい。見せてやろうじゃないか。如月ハイランドの本気という物を……!

 

 

 

 

 

 

「お客様、ご満足頂けましたでしょうか?」

「ふざけんじゃないわよ!! これ作った奴は頭のネジが2~3本ぶっ飛んでるんじゃないの!?」

 

 2人1組で密着してガックガック揺さぶられるというアトラクションを体験したお客様からのクレームである。

 いや~、見てて実に面白い。

 2人組で恐怖体験をさせるというのは恐怖を恋のドキドキと錯覚させる吊り橋効果が期待できる物だが……これはどの程度の効果が見込めるんだろうな。






「という訳で僕視点その1が終了だ」

「読者の皆様へ。
 空凪くんは特別な訓練を受けています。もし読者の皆様に血が出る程の骨折をした方がいらっしゃったらまずは最寄りの病院にご相談下さい。
 決して彼のように自力で治そう……いや、直そう? としないで下さい!」

「僕の真似をしようとしても筆者は一切の責任は取らないとの事だ」

「……さてと、こっちでは1話目から私が登場してるわね」

「第6話の後だから実質7話目だがな」

「細かい事は気にしない!」

「……そう言えば気になったんだが、貴様はどうやってチケットを手に入れたんだ?」

「あ、うん。えっと……こんな事があったんだよ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「やった、福引のチケットだ。よーし、引きに行くぞ~」

・特賞 鉄パイプ50万円分
・一等 鉄パイプ10万円分
・二等 鉄パイプ1万円分
・三等 鉄パイプ3000円分
・四等 如月ハイランドプレオープンチケット(シングル)
・五等 卯月温泉ペア宿泊券
・六等 海の幸詰め合わせセット
・七等 お買い物券1万円分
・残念賞 ポケットティッシュ1枚

「…………いや、おかしいでしょ!?」
『どうされましたか? お客様』
「…………福引、引かせてください」
『はい、1枚ですね? それでは1回どうぞ』
「………………」

 カラッ、コトン

『はい、残念賞のポケットティッシュです』
「…………」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「あれ? ここで一発ツモするんじゃないのか?」

「ええ。肝心なのはここから。
 私のすぐ後に引いた2人組の話よ」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「よし……今日こそ……今日こそ引いてやる!!」
「福引券100枚……私のコネもフル活用して何とか集めました! どうぞ!!」
「ありがとう……それじゃあ行くよ! うぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!」

 ガララララララララララッッッッッ

『え、えっと……特賞、一等、四等、五等、六等が1個ずつ、二等が5個、七等が10個、残り80個が三等です』
「……あの、残念賞のポケットティッシュは……?」
『無いみたいですね。おめでとうございます』
「うぉぉぉおおお!! どうして、どうして僕はポケットティッシュが引けないんだ!!!」
「き、きっと今日は運が悪かっただけですよ! 気を落とさないで下さい!!」

 どうやらこの人達はポケットティッシュが欲しいみたいだ。
 どうせ要らないし、あげちゃおう。

「あの……良かったらコレ、要ります?」
「えっ、ティッシュ……? ああいや、心遣いは嬉しいけど、僕はそれが欲しかったわけじゃないんです。
 自力でポケットティッシュを引きたかっただけなんです」
「そ、そうなんですか」

 何を言ってるんだろう、このヒトは。

「ああ、そうだ。良かったら何かお好きな物を1つ持って行ってください。僕が独占しちゃうのも後味悪いんで」
「え? いや、そういう訳にも……」
「それじゃあ、そのティッシュと交換で。
 間接的にポケットティッシュを引き当てたという事にしておけば少しは憂さが晴れるから」
「そういう事なら……う~ん……」

 そう言われて賞品一覧を見る。
 鉄パイプは論外として、それ以外で欲しいものとなると……

「……コレかな。シングルのチケット。これ下さい」
「はい、どうぞ」

 シングルチケットが1枚だけあっても隣の彼女らしき人と一緒に行けないもんね。
 私が有効活用させてもらおう。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……って感じの事があったのよ」

「……おかしいな。ポケットティッシュを切望する凶悪な幸運の持ち主って聞き覚えがあるぞ」

「何かアンテナみたいな髪型の男子と清楚なアイドルっぽい女子だったわ」

「…………そうか」


「では次回もお楽しみに!」
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