島田の心理テストに飽きてきた頃、不意に肩を叩かれた。
「ぐわっ! くっ、骨が完全にイカれてやがる! 慰謝料を要求……って何だ康太か」
「相手が康太でなくともそんなチンピラ染みた事をするでない」
何を言ってるんだ秀吉。むしろ康太だからこそ冗談を言ったんじゃないか。
「起きたんだねムッツリーニ」
「…………空腹で目覚めた」
「お、もうそんな時間か」
言われてみれば確かに腹が減ってきたな。
現在時刻は……1時15分。心理テストに夢中になっていたらしい。
「んじゃ、キリも良い所だし昼食にするか」
皆がそれぞれ弁当や惣菜パン等を取り出す。どうやら忘れてきた愚か者は居ないようだな。
と、そんな時、ある人物が遠慮がちに声を上げた。
「あ、あの……お弁当、作ってみたんですけど……大目に作ってきたので良かったら皆さんも……」
「気遣いはありがたいが俺は腹一杯になれるだけの昼飯は用意してある。明久にでも譲ってやれ」
「…………食料の調達は抜かりない。いつも空腹の明久に譲ってやるといい」
「そうじゃな。ワシもしっかり準備しておる。明久ならきっと喜んで食べてくれるじゃろう」
「ごめん姫路さん。僕は死んだ爺ちゃんの遺言で小麦粉以外は食べられないんだ!」
「皆さんそこまで嫌なんですか!?
前回はちょっと気合が入りすぎちゃってあんな事になっちゃいましたけど……今回はきっと大丈夫ですから!!」
ホントかなぁ……まぁ、少しフォローしといてやるか。
「ちょっと、瑞希のお弁当が前回は……まぁ、ちょっとアレだったのは事実だけど、その反応は酷くない?」
「その通りだ。流石に前回の反省を踏まえて味見くらいはしているはずだ。
少なくとも気絶するような代物は……」
「え? あの……味見はしてないんですけど……」
「「しろよ!/しなさいよ!」」
「ひぅっ! ご、ごめんなさい!」
前言撤回だ。一体全体何を考えてるんだコイツは。
「……はぁ、とりあえずその弁当とやらを見せてくれ。毒味くらいならしてやる」
「そんな、毒って……」
「何か文句でも?」
「……無いです……どうぞ」
「箸もあるか?」
「はい。どうぞ」
手渡された割り箸を割って弁当に見えるナニカに向ける。
ん~……一応頑張ってはいるみたいだな。前回の弁当の時よりもイヤな感じが減っている。
……それでもヤバいものはとことんヤバいみたいだ。食ったら死ぬ気がするものが2~3個ほど存在している。
とりあえず、マシなものを1つ食ってみるとしよう。
「…………」
「ど、どうですか?」
「…………姫路。この外見でどうやったらこんなに不味く作れるんだ?」
「お、美味しくなかったですか……」
「ああ。人に出すどころか食料として論外というレベルだ。ほれ、食ってみろ」
「…………」
箸の反対側でマシな具材を摘んで姫路に差し出す。
それを噛み締めた姫路は死んだ魚のような目でこうコメントした。
「…………おいしくないです」
「貴様の味覚は正常なようだな。まだ希望はあるようだ」
これで嬉々として『美味しい!』とかホザいていたら病院を強く勧めていただろう。脳の障害が、それに準ずる何かが間違いなくあるから。
しかし、不味い事をしっかりと把握する事はできているようだ。味覚の異常でないなら訓練次第でどうとでもなる……はずだ。
……そう信じたい。
「とりあえず、コレは後でゴミ箱にダンクだな。
ところで姫路、これ以外の昼食は持ってきているのか?」
「……みかん、1個だけ……」
「それは一切の手を加えていないただのみかんだな?」
「はい。健康に良い感じの特別なみかんを作ろうかとも思いましたけど、お弁当を作るのに忙しかったので普通のみかんです」
「……一応訊くが、それだけで足りるか?」
「…………」
僕の問いに対して姫路は力なく首を横に振った。
まぁ、だろうな。僕だって昼食がみかん1個だけとか言われたら原因を作った奴を殴り倒すだろう。
「しゃーない。皆、ちょっとカンパしてくれ。僕からはコレを」
「えっ、あの……」
僕の昼食用に用意しておいたおにぎりのうち1個を姫路に手渡す。
「そう言うと思ったよ。俺からはこれだ」
「…………」スッ
「う~む……バランス的にこれじゃな」
「貴重なカロリーが……仕方ないか。はい、どうぞ」
僕の後に続いて次々とカンパが集まっていく。
明久の昼食よりも豪華になってるな。これで十分だな。
「そ、そんな、受け取れないですよ! 皆さんの昼食ですよねこれ?」
「気にするな。僕達が勝手に善意を押しつけただけだ」
「いやいや、気にしますよ!」
「そう思うんなら後でちゃんとした料理でもお返ししてあげれば?
あ、ウチからはコレね」
「美波ちゃん……分かりました! 皆さんにお返しができるように、美味しい料理が作れるように頑張ります!」
「そーそー。その意気だ」
このやる気が空回りして更なる殺人料理になる……なんて事は無いと信じておこう。
昼食を終えた所で暇つぶしを再開する。
とは言っても、心理テストはちょっと飽きたんだよな……
「雄二、何か暇つぶしになるもの無いか?」
「俺も大したものは持ってきてないんでな。電車の中で楽しめるようなものは無い」
「ちなみに、何ならあるんだ?」
「お前がトランプ持ってくるって言うから俺はUNOを持ってきた。使うか分からんけどな」
「なるほど。確かに今は無理だ」
UNOができるならとっくにトランプをやっている。
と言うかUNOは1デッキの厚みが2倍くらいある。こんな所でやるにはトランプよりも向いてない。
「くっ、仕方ない。じゃあ皆で人狼ゲームでも……」
「こんな狭い所でできるかっ! 人の動きだけで役職がバレるだろうが!!」
「だな、言ってみただけだ」
さてどうしようかな~と考えていたら意外な所から声が上がった。
「代表たちヒマなのか?」
「ん? ああ」
声をかけてきたのは……えっと……今朝も駅で会った彼である。
行き先は一緒なので僕達の会話が聞こえるくらい近くにずーーーーーーーっと居たのだ。
「ヒマなら、『ウミガメ』をやってみないか?」
「なるほど……確かに全員で参加できる良い暇つぶしになるな」
「『ウミガメ』? 何よそれ」
聞きなれない単語に真っ先に反応したのは島田だった。
他の連中は『海亀』という単語を思い浮かべて首を捻っているようだ。
「あ~っと……副代表。説明パス」
「良かろう。では、水平思考ゲーム、通称『ウミガメのスープ』の流れを説明しよう。
まず、出題者は物語を語る。そうだな……じゃあ、通称の元になった話を語るとしようか。
『ある男が、レストランでウミガメのスープを注文した。
男はそれを一口食べると、レストランを飛び出して身投げしてしまった。
一体何故だろう?』
……こんな感じだな」
「……瑞希、何か訳が分からなかったんだけど……ウチの日本語のリスニングが上手くできなかったから……ってわけじゃないわよね?」
「はい。私も全く分からなかったです……」
そうかそうか。全く分からなかったか。
これで分かったとか言われたら逆にビックリだったんで良かったよ。
「その通り。この話を聞いただけでは訳が分からない。
だから回答者達は出題者に質問をする事が可能だ」
「じゃあ答え教えてくれ」
「……という身も蓋もない質問が来ないように、質問には制限が設けられている。
それはYESかNO、『はい』か『いいえ』で答えられる質問であるという事だ」
「って事は例えば……質問! そのスープには毒でも入ってたの?」
「そうそう、そんな感じ。
ちなみにその質問の答えは『いいえ』だ」
「え~……」
「こうやって質問を繰り返し、様々な観点から問題を掘り下げ、奇妙な物語の真相を探る。
それが水平思考ゲームだ」
これの良い所は人数制限が基本的には無い事だ。いやまぁ、100人とか来られて一斉に質問されたらそれはそれで困るんだが……今ここに居る全員が参加しても全く問題無い。
そしてアッサリ行く時はアッサリ終わるが、時間がかかる時は本当に時間がかかる。良い暇つぶしになるだろう。
「どうする? やってみるか?」
「勿論! 必ず解いてやるわ!」
「わ、私も頑張ります!」
「難しそうだけど……面白そうだね。僕もやってみるよ!」
「ワシも参加させてもらおうかのぅ」
女子2名と明久と秀吉は参戦。残りは……
「その話の真相は知ってるから俺はパスだ」
「…………また少し眠くなってきた。しばらく寝かせてもらう」
こんな感じの理由でパスのようだ。
と言うか雄二、知ってるクセに『答えを教えろ』とか質問したのか。アレは説明の為だったのか。なかなかやるな。
よし。それでは、始めようか。
「お題はどうするんだ? コレで行くのか、もうちょい簡単なのにするか……」
「面倒だからコレでいいでしょ。皆も真相気になってるみたいだし」
「そうだな。じゃあ僕はのんびり見守らせてもらおう」
「じゃ、ゲームスタートだ。じゃんじゃん質問してくれ」
「はい! それじゃあそのスープは……」
そんな感じで、真相が分かる頃には目的地に到着した。
直接的な参加はできなかったが、迷走する回答者達を神視点で眺めるのは良い暇つぶしになったな。
「という訳で道中のお弁当パート+αの終了だ。
本当はお弁当だけだったんだが……文字数が微妙に少なかったんで午後の暇つぶしも入れてみたらしい」
「完全に筆者の自己満足の布教活動ね……」
「『ウミガメのスープ』の真相は語らないでおこう。是非とも自力で解き明かしてほしい」
「アレって水平思考ゲームの中では結構難問だから初心者には厳しいと思うんだけど……」
「まぁなぁ……本当に問題の外側を掘り下げて進めないと真相に辿り着けないからな。
誰が想像するんだよこんな話っていう」
「では、次回もお楽しみに!」