無事に合宿所まで到着した。
ここの管理人によれば僕達が一番乗りらしい。電車のダイヤの関係で集合時刻よりもかなり早く着いたからなぁ……
まだ教師陣すら着いていないという有様だが、部屋には入れるようだ。Fクラスの待遇を考えると『集合時刻まで門の前で待て!』とか言われても決しておかしくは無いので助かった。
「それじゃ、ウチらの部屋はあっちだから」
「次に会うのは……明日の勉強会ですかね。では、また」
女子2名は当然別室だ。いくらFクラスの待遇が異常であってもこういう所は真っ当だな。
さて、こちらのグループの部屋割りについてだが……
「秀吉、どうしたの? 姫路さん達行っちゃうよ?」
「明久よ、ワシは男じゃからな?
ついでに言うなら明久もワシと同じ部屋じゃからな?」
「ええっ!? そ、そんな!! 秀吉と僕が2人っきりの部屋に……!?
この学校は一体全体何を考えてるんだ!!!!」
「いや、誰も2人っきりとは言っておらぬが……」
うん、良く知ってる。
何故なら、僕も同じ部屋だからだ。
ついでに言うなら康太と雄二も同じ部屋だ。
そしてあと1人、『宮霧伊織』とかいうのが同じ部屋らしい。
うーむ……聞き覚えが無いな。どんな奴なんだろう。代表の雄二なら知ってるだろうか?
「なぁ雄二、この『宮霧』って誰だ?」
「……? そこに居るだろ?」
「…………お前だったのかよ!?」
「副代表、オレの名前知らなかったんだな……いや、確かに名乗った記憶は最初の自己紹介の時以外は無いんだけどさ」
驚いた事に時に伝令、時にシェフ、時に雑用係として地味に活躍していた彼こそが最後のメンバーだったらしい。
まさかこいつだったとはな……完全に意表を突かれた。
……何? 知ってただと? ハッ、バカな事を言うな。この僕ですら予想外だったんだから。
「と言うことは早く来た全員が同じ部屋か。勿論女子は除くが」
「そうらしい。それじゃ、俺たちも部屋に行くとしよう」
割り当てられた部屋に辿り着き、荷物を降ろして布団を敷いた所で一息吐く。
しばらくは、自由時間が続くな。
「よし、トランプでもやるか! 大富豪とインディアンポーカーと完全神経衰弱、どれがいい?」
「何でその3択!? いや、大富豪は分かるけど残り2つは何で!?」
「何だ不満か? ブラックジャックとかちんちろりんでもいいぞ?」
「ブラックジャックもチップが無いとつまらないような……って、ちんちろりんはトランプじゃない!!」
「……よし、とりあえずトランプタワーでも組むか」
「確かにトランプだけど!! トランプだけどさぁ!!!」
まぁ、こんな所まで来てトランプタワー組むほど僕も暇人ではない。
さて、どうするかな~。
「…………」チョンチョン
「ん? ムッツリーニ? どうしたの?」
「…………昨日の件で報告がある。今話しておきたい」
昨日の件と言うと……例の脅迫犯の件か。
何か進展があったなら聞いておきたいのはやまやまなんだが……
「康太、無関係な奴が居る中であえて話す理由があるのか?」
僕のそんな質問に対して康太は無言で頷いてから言葉を続けた。
「…………この部屋の面子に犯人は居ない。
…………そして、対処するならこの合宿中に行うべきだと判断した。
…………事情は予め伝えておいた方が良い。その方が動きやすい」
「なるほどな。じゃあ専門家の意見に従うとしようか。
明久もそれで良いか?」
「えっと……事情を教えるって事は……ここに居る皆にアレがバレるって事だよね……」
「もう過半数に割れてるから別に良いじゃないか」
「う~ん……まぁ、そうだね。分かった。頼むよ」
「…………」コクリ
そんな会話をしていたら事情を知らない組の雄二と……えっと……み……宮霧、あいつがやってきた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
「ああ。簡潔に言うと明久が脅迫された。その脅迫犯をとっちめる」
「エラい簡潔だな……変な事には巻き込まないで欲しいんだけど?」
「安心しろ。Fクラスとかいう掃き溜めに居る時点で十分変な事に巻き込まれてる」
「…………オレ、次の振り分け試験では絶対良い点取るんだ……」
宮霧が何か悟りきった表情をしているが、気にせず話を進める事にする。
「それじゃあムッツリーニ、お願い」
「ワシも気になっておったのじゃ。何か進展はあったのかのぅ?」
「…………昨日は学内に仕掛けた盗聴器から情報を探った。そこで有益な情報がいくつか得られた」
「あのさ……それって犯ざ……いや、今更か。オレは何も聞かなかった。うん」
「有益な情報とは?」
「…………犯人は、2年生の女子。そして尻に火傷の跡がある」
「ムッツリーニ、君は一体何を調べたんだ」
……おっと、明久に先に突っ込まれた。
突然『尻の火傷』とか言われたからビックリしたぞ。
「…………犯人と客とのやりとりと思しき音声を拾う事に成功した。
…………その際に、犯人が『尻にお灸を据えられて火傷し、今も跡が残っている』と言っていた」
「なるほどな。尻に火傷する奴なんてそうそう居ないからほぼ犯人だけの特徴になるな。
……しかし、役に立つかは微妙だな」
その火傷を確認しようと服を引っぺがしたりしたら警察のお世話になる事は間違い無いだろう。脅迫されて暴露される事なんかよりもよっぽどヤバい案件だ。
一応、女子に協力を頼めばそんな事は回避できるが……片っ端から女子を脱がすわけにもいかない以上はある程度当たりを付ける必要があるわけで、当たりが付けば別の方法はいくらでもある。
「……康太、『女子である』って事と『2年生である』って事の根拠は何だ?」
「…………本人は自分の事を『乙女』と言っていた。他の言動からも女子である事が伺える。
…………2年生である事は簡単かつ明確だ。この合宿に参加するという旨の発言を拾えた」
「合宿に参加する教師である可能性は?」
「…………他の会話から生徒である事はほぼ間違い無い」
「なるほど。なら間違い無いな」
こちらはかなり重要な情報だろう。
今までの容疑者は学園全体に居たのに対して今は2年の女子という所まで絞られたわけだ。
学年で1/3、性別で1/2。単純計算で1/6まで候補を絞れた事になる。
『教師でない』という情報も含まれるから更に絞れたな。
「ところで明久」
「何? 雄二」
「お前は一体全体何をネタに脅迫されたんだ? そしてどういう指示……と言うか脅迫を受けてるんだ?」
「……まぁ、ちょっとした写真がね……
指示は確か……『僕の身近な女子に近づかない事』だったかな?」
「…………より正確には『あなたの傍に居る異性にこれ以上近づかない事』と書かれていたようだ」
「異性って言うと……島田や姫路、あと秀吉も一応含まれんのか?」
「雄二よ、お主までワシを女子扱いするでない!!」
「いや、俺が女子扱いしてるわけじゃない。脅迫犯が女子扱いしてるかどうかって話だ」
「むぅ……確かにそうじゃな。
いや、それはそれで問題なのじゃが……」
その辺もハッキリして欲しいんだよな。指示が明確なら目的が透ける。
目的が透けるならそれは犯人の手がかりになる。
……尤も、本当にヤバい奴ならそれすらもミスリードに使うから盲信はできないけどな。
「……なぁ、ちょっと気になったんだけど……」
「どうした宮霧。巻き込まれる気になったか?」
「いや、同室になった時点でもうガッツリ巻き込まれてるよ。
ちょっと疑問に思ったんだけど、犯人は女子なんだよな?」
「……康太によればな。盗聴すら見越して女子の演技をしていた可能性はゼロではないが」
「じゃあとりあえず女子と仮定する。
で、犯人の要求は『吉井の身近な女子に近づかない事』だよな?」
「男子にとっての異性が女子だけならそうなる。そして男子でも女子でもない突然変異みたいな奴はうちの学校には多分居ない」
「そんな奇跡みたいな確率の事まで言わんでも……まあいいや。
この文面を一番素直に解釈するのなら、犯人の目的は『吉井の身近な女子のうち誰かに恋してる。そして吉井に嫉妬してる』って感じだと思うんだけど、どう思う?」
「……なるほど。何を言いたいのかは分かった。確かにおかしいな」
「だろ?」
宮霧が推理した『犯人の目的』と、康太が突き止めた『犯人の情報』。
この2つを照らし合わせると奇妙な矛盾が浮かび上がってくる。
「えっ、なになに? どういう事?」
「いいか吉井、『犯人は女子』なのに、『女子に恋してる』んだ。おかしいだろ?」
「あっ、ホントだ!! 確かにおかしい」
そう。明らかに矛盾している。
この矛盾を解消する方法は3つ。
まず、康太の情報が誤りだった場合。
次に、宮霧の推理が誤りだった場合。
どちらかが異なるなら矛盾でも何でもない。特に推理の方は憶測も混ざってるから間違っていても何ら不思議ではない。
明久が秀吉を女子扱いしてる事は簡単に分かるので、秀吉目当てで指示を出している可能性もある。
しかし、第3の解消方法として……
「言い出したオレが言うのもちょっとアレだけど、実はおかしくない」
「えっ? 何言ってるの……?」
「推理はおかしくない。おかしいのは犯人。
真相は凄く単純で、今回の犯人は『女子でありながら女子に恋してる』って事なんじゃないかと思う。
もしそうなら……オレ、多分犯人が分かったよ」
「ついに宮霧くんの名前がキミに認知されたわね」
「筆者としてはもっと引っ張りたかったらしいが、部屋割りを同じにしようとするとどうしても名前を確認する必要があるんで断念したようだ。くそっ」
「そんな悪態つかなくても……」
「部屋割りを別にすれば解決だったんだが……如月ハイランド編では全く出番が無かったんで程々に出しておきたいようだ。
空気に成り下がったら宮霧を出した意味が無くなるからな!」
「筆者さん……考えなしなのか考えてるのか分からない人ね……」
「起こしたいイベントの方向性だけ決めて適当に放り投げる。後は流れに身を任せる。
うちの駄作者は執筆の事を度々『目隠しのビリヤード』とか言ってるな」
「自球を適当に打った後は流れを見守るだけ……と」
「そんな感じだ。部屋割りさえ同じにしておけば適当に巻き込まれてくれるはずだという目論見だな。
あと、部屋割りを同じにしつつ名前を把握しない案として『何故かピンポイントで文字化けしてる』という案を考えたようだが……流石に強引過ぎるんで没にしたようだ」
「……何か聞いたことある話ね」
「……さて、解説に戻ろう。
どうやら早速活躍しているようだ」
「……ちょっと気になったんだけど……これってキミか坂本くんでも同じ答えに至れたんじゃない?
無理矢理見せ場を作っただけじゃ……?」
「いや、不可能とまでは言わないがかなり厳しい。
何故なら……僕も雄二も犯人であるアイツの名前すら知らないからな」
「あ、そっか。少なくとも作中では会ってないのか。
あの人に会ってる人でこの場に居て、なおかつここまで推理できるのって宮霧くんだけなのね」
「そういう事だな。まぁ『具体的に誰か』というのは無理でもその一歩手前くらいは僕でも行けたと思うが。
……原作でもこれくらいの推理はできたハズなんだよなぁ……何で平行世界の雄二達は覗きとかいう犯罪行為に走ったのか」
「う~ん……原作を読み返してみたけど、濡れ衣着せてきた女子達に対する腹いせ……かな?」
「愚かとしか言い様が無いな。いや、元からバカの集団だから当たり前か」
「最後に連絡事項です! 明日は2話投稿します! いつもの時間とその5分後です!」
「理由は……まぁ、後で話す」
「では、次回もお楽しみに!」