……合宿3日目……
本当に今更な説明になるが、この合宿の主旨は『モチベーションの向上』だ。
そもそもの文月学園のクラス分けシステムの意義は、底辺の存在には上位クラスの設備を見せびらかして『あそこへ行きたい』と思わせ、逆に上位のクラスは下位を見て『あそこへは落ちたくない』と思わせて勉強への意欲を上げようというものだ。
その目論見が成功しているかどうかは置いておくとして……この合宿の目的もそれに沿ったものになっている。
昨日は最上位クラスと最下位クラスの合同自習。普段関わらない2つのクラスを一緒にさせてその差を実感させた。
そして今日の予定は僕達Fクラスは最上位一歩手前のクラス、すなわちBクラスとの合同自習だった。
「おひさ~。如月ハイランド以来ね」
「元気そうだな。御空零」
「ええ。そっちは……眠そうにしてるわね」
「だって自習なんて時間の無駄だろ。特に僕みたいな人種には」
「あ~……なるほど。勝利が目的であって待遇が二の次なら羨ましがる必要も無いか」
「他の連中が頑張ってくれる分には大歓迎なんだけどな。
あ、そうだ。明久と康太と秀吉の勉強を見てやってくれないか?」
「いや、何で私が勉強見てあげないといけないの。しかも3人分も」
「言ってみただけだ。と言う訳で僕は寝る! お休みなさい」
「ちょっと待ちなさい。そっちに用は無くても私の方にはあるのよ」
何かBクラス副代表が面倒な事を言い出した件について。
まあいい。聞くだけ聞いてやろうじゃないか。
「まず確認しておきたいんだけど、例の盗撮騒ぎはあなたたちは犯人じゃないわよね?」
「その質問意味あるのか? 少なくとも僕はやっていないし、他の連中もほぼ間違いなくやってない」
「一応公式発表があったとはいえ、本人の口から聞いておきたかったのよ」
「……気持ちは分からんでもないな。そう言えば、Bクラスは冤罪騒ぎには参加していなかったのか?
貴様が居なかった事だけは把握してるんだが」
「それも訊きたかったのよ。私がちゃんと止めた……はずだけど、漏れがあったらごめんなさいって。
でも被害者であるキミ自身も把握してなかったかぁ……」
「安心しろ。把握している奴を知っている。康太!」
僕が指パッチンしながら名前を呼ぶとどこからともなく康太が現れる。
おい、お前ちゃんと勉強してたのか?
「土屋康太くんね。話すのは代表の女装の時以来かしら」
「…………そうなる。用件は何だ?」
「合宿初日の冤罪騒ぎの時、Bクラスの女子がキミ達の所に来てたかどうか確認したいんだけど……分かるの?」
「…………同じ学年の女子の顔と名前は全て頭の中に入っている。
…………一昨日来た中にBクラスの生徒は居なかった」
「そ、そう……何はともあれ良かったわ」
御空が若干引き攣った顔をしている気がするのはきっと気のせいだろう。良かった良かった。
「そう言えば、他のクラスの連中はどれくらい来てたんだ?」
「…………A・Bクラスはゼロ。それ以外のクラスはほぼ来ていたようだ」
「そうか? Dクラス副代表の姿が見えなかった気がするんだが」
「…………小野寺優子は数少ない例外だ」
「そうだったのか」
1人も来なかったAクラスとBクラスが異常なだけでそれ以外は普通に来ていた、と。
明日は完全に自由な自習になる。その際に小野寺と話をしてみるとするか。
「分かった。もう行って良いぞ。助かった」
「…………」コクリ
そうして康太は来たときと同じように音もなく姿を消した。
ちゃんと勉強している事を祈る。
「……土屋くんは一体何者なの?」
「盗撮と盗聴を生業にしている忍者だ」
「あの、本気で言ってる? それとも冗談?」
「割と本気なんだがな……まあいい。
そんな事より、貴様は最初の時点から冤罪だと見抜いていたようだな」
「まあね」
「何故だ? 合宿所に早く着いていたり、盗撮のスキルがあったりとかなり怪しいと思うんだが」
「それ自分で言う? 判断した理由はいくつかあるけど……
一番の理由はキミが犯人だったらこんなにアッサリと見つかってないって事ね。
意表を突いて逆に……って考え方もアリだけど、真っ先に疑われてる時点で意味ないわ。
そして、キミが犯人ではないなら、ガチの犯罪行為を何の理由もなく見逃すとは到底思えない」
「なるほど。納得の理由だ」
人物像ではなく能力を見て結果を予測したか。
実に合理的な考え方だ。暴走している愚か者供には是非とも見習ってほしい。
「ああ、そうだ。もう一つだけ訊きたい事があったのよ」
「内容によるな」
「キミだったら、今も誤解して暴走してる人達を説得できるんじゃないの?」
「かもな」
「それなのに試しもせずにあえて放置している理由は何?」
「いくつか理由はあるが……止めてやる義理も必要性も無いからだ」
「義理はまだしも……必要性はあるんじゃないの? 昨日も騒動が起こったって聞いたけど」
「良い暇つぶしになった。退屈してたから丁度いいくらいだ」
「痩せ我慢……ではなさそうね。
単刀直入に訊くけど、あなたの目的は一体何?」
「目的ねぇ……一言で言うと、やはり観劇と表すのが妥当か」
「観劇?」
「そう、観劇。僕はこの物語の結末が知りたいんだ。介入して終わらせるのではなく、最後まで見守った上での結末をね」
「……なるほど、確かに観劇ね。一応納得できる理由だけど……その結末、キミなら予測できるんじゃないの?」
「ああ。予測は可能だ。だが所詮は予測だ」
「そりゃそうだけど……破滅に一直線に向かってる子たちが不憫ね。
キミ、性格悪いってよく言われない?」
「ハッ、何を今更」
「……ホント今更だったわ。ごめんなさい」
予測なら容易だ。
最後の最後まで冤罪を信じて、真相が分かった後、自分たちの行いに絶望する。
あるいは、真相なんて明かされずずっと冤罪を信じ続けるかもしれない。
この予測、是非とも覆してほしいものだ。
「キミの意見も目的も分かった。一応理解はした。
けどね……あんまり舐めた事してると、怒るよ?」
「おー怖い怖い。と言うかそこまで言うなら自分で収拾付けようとは思わないのか?」
「当然思ったわよ。思ったけど……流石に他のクラスの皆を納得させられる程の材料が無かったわ。
真相がハッキリとはしてないのに謝らせても溝が深まるだけでしょ?」
「もっともだな」
「それに、もし真相が分かっても、今度は真犯人が吊し上げに遭う。自業自得ではあるけども……一応未遂だったわけだし、キミ達が疑わしいっていう現状の方がまだマシね。
諦めて私も観劇者になるしか無さそうね」
「不満そうだな」
「まあねぇ」
何かと気が合うと思っていたが、こういう点では相容れないようだ。
どちらが正しい、間違っているという話でもない。この価値観の相違は一生埋まる事は無いだろう。
「と言う訳で僕と御空の語らいだったな」
「後書きのはずなのに本編の続きに見えるという不具合が……」
「問題なんて起こってほしく無いというのが一般的な考え方である事は認めよう。
しかし、問題を起こした上でどうなるのかを見物する方が個人的には好きだ」
「身も蓋もない言い方をするわね……文句を言いたい所だけど、それはそれでメリットもあるから反論しにくいのよねぇ……」
「お互いの価値観が違う事を合意する。それで十分だな。反論など必要ない」
「そういうコトね。価値観なんて人それぞれなのは当たり前。わざわざ捻じ曲げて合わせてもらう必要なんて皆無」
「……さて、破滅へと一直線に向かってる連中は果たして自力で気付けるんだろうか?
いや~、楽しみだな!」
「そういう価値観だから性格悪いとか狂人とかって言われるんだよ……
え~、では、次回もお楽しみに!」