お色気の術を極めたら都市伝説扱いされるって誰が予想出来る? 作:榊 樹
『うずまきナルト』
木の葉の里に於いて、この名を知らぬ者は殆ど居ない。いや、正確には九尾の人柱力として知られており、覚えられているのは容姿だけで名前は覚えられていないのだがそれはそれ。
そんな彼は物心着く前から両親を亡くし、幼くして天涯孤独の身となり、人柱力故に酷い迫害を受けて来た。外に出れば罵声罵倒は当たり前。何かを投げ付けられるし、酷い時には暴力だって振るわれる。家に居ても石を投げられて窓を叩き割って来るし、部屋中を荒らされる。しかも、その仕立て人の殆どが大の大人達だ。
いつも一人だった。皆が敵で味方なんて、中立の者すら誰一人として居ない。
そんな陰鬱な日々を過ごしていた彼はある日、夢の中で檻に住まう巨大な紅い狐と出会う。しかし、出会い頭に少年には重過ぎる程の殺意を受けたし、あと一歩で殺されかけた。
その狐の瞳に身が竦みそうになるがめげずに話し掛けてみた。だけど、まともに取り合ってくれないし、根気強く話し掛けたら空気が震える程に怒鳴られて目が覚めた。
その日から毎日のように同じ夢?を見るようになった。しかし、いつも話し掛けては怒鳴られたので流石に話し掛けるなんて事はせずに、ただ檻の前でジッと座ってるだけ。そうして居れば怒鳴られる事は無く、いつの間にか目が覚める。
目が覚めれば、また陰鬱な日々の始まりだ。友達が欲しくて無駄だと分かっていても公園に行ってみたり、その辺をフラフラしてみたり。
そして、突き刺さる悪意や恐怖の籠った視線の数々。あぁ、また今日も酷い目に遭わされるんだろうなぁ、とそう思っていたが、気付けば特に何かをされるでもなく、家に帰っていた。
「・・・?」
部屋を荒らされているようには見えない。寧ろ、かなり乱雑になっていた部屋が何故か綺麗にされていた。それから次の日もまた次の日も外に出てみたが、特に何かをされるでもなく、ただ視線を向けられるだけ。
普段なら聞こえて来るのは嫌なものばかりだから敢えて無視していたが、訝しんだナルトは周囲の人間が何かをコソコソと話していたので耳を済ませてみた。
すると所々から聞こえて来るのは『女狐』という単語。『狐』という所からあの夢の中の大きな狐を連想させるが、何か違うような気がした。一応、夢の中で大きな狐に女狐と何か関係があるのか、と聞いてみると今までに無い程に激怒されたので違う事は確定だろう。
公園に行って子供達に聞いてみたが、あまり要領の得ない事ばかり。どうしても気になったナルトはとうとう初めて火影邸へと赴いた。
がしかし、途中で片目を隠した白髪の忍びに止められた。訳を聞かれたナルトは何がどうなっているのか気になった、と正直に話すとその忍びは暫し考えた後に場所を移すように促して来た。
言われた通りに着いて行くとそこは路地裏だった。騙されて今から酷い事をされる、と反射的に思ってしまうナルトだがそんな事は無く、普通に何があったのかを懇切丁寧に教えてくれた。
簡単に纏めるとこうだ。
都市伝説とやらの『女狐』が突然、その猛威を奮いだし、里中は今恐怖に包まれている。『狐』という部分からナルトの中に居る『九尾』を連想させ、何か関係があるのでは無いか、という噂が新たに流れ始めた。ナルトに対して何かをして来なくなったのは何らかの報復を恐れての事ではないか。
まさか、と言いたくなる程に都合が良過ぎる内容だった。しかし、現実はその『女狐』のお陰でいつもよりは平穏な日々を過ごせている。
一言でいいからお礼が言いたい。気付けばナルトはその忍びにこう言っていた。だが、その忍びは困り顔になり、事情を話してくれた。
と言うのも、自分達もその正体を探っているが、未だに何の手掛かりも無い事や機密であり不確かな情報ではあるが、万人が見惚れる程の美しさを持つ美女である事ぐらいしか分からない等のあまり良いモノでは無かった。
だが唯一、里の周辺に時々現れる、と教えてもらい、ナルトは早速その日に里の周辺を散策しだした。しかし、外に居た忍びの者に里の外へは出るなと忠告され、外へは行けなくなってしまった。
それでも諦められなかったナルトは足掻くように里の中を毎日根気強く探し続けた。
そうやって何の成果も上がらない無意味な日々を過ごしたが、無意味なのは今更だ。かなりの月日が経ちそれでも諦めず、されど心が折れかけていたある日の事だ。
◇
「やっぱり・・・何処にも・・・」
それは今まで虐げていた者達が心配になる程にフラフラとする幽鬼のようだった。
ナルトが既に女狐を探し始めて一月が経とうとしており、それでも当たり前と言えば当たり前だが成果は無し。今では家に居る時間よりも長く探索を続けているがだからこそ、限界が近かった。
(今日はもう・・・帰ろうかな・・・)
目尻に涙を溜め、夕焼けの里を歩く。その姿は人柱力として周囲から虐げられていた時よりも痛々しかった。
お礼が言いたいのは本当だ。だが、ナルトだって子供。生まれてこの方、味方が居た事が無い彼にとって間接的にとは言え、庇ってくれた女狐の存在は気付かぬ内に日に日に大きくなっていった。
だからこそ、会えないこの状況がナルトを苦しめる。里の者達が迫害するよりも酷く辛く。
「・・・ぐす・・・・・・ん?」
それは偶然だった。殆ど諦めていたのに然れど残っていたほんの一欠片の希望に縋って、見える範囲で探そうとした。
そして見付けた。
一戸建ての民家の一階の窓から見える綺麗な人。夕陽に照らされ、黄金に輝く黄金色の長髪に人の物では無い獣の耳と尻尾。
「綺麗・・・だってばよ・・・」
それは人が息をするように自然と無意識に出た言葉。呆然とした。あれだけ望んでいた存在に出会えたというのに、身体が動かない。
本能的にあの人が女狐だと分かったが、身体が脳がその存在に見惚れている。
「・・・・・・?」
どれ程の時間が経ったのか。ナルト自身、もうずっとここに居た気がするが、まだ夕陽が沈んでいない所を見るにそこまで経過していないのかもしれない。
そんな時、女狐が今気付いたとばかりに呆けた顔をこちらに向けた。目が合う。眠った時に見る九尾の瞳と同じ、猫のような瞳。
だが九尾とは違って恐怖は感じられず、不思議と引き寄せられた。女狐も眼を逸らさず凝視している。互いに幻術に掛かったように静止し、暫くして先に動いたのは女狐だった。
シャッとカーテンを閉め、それと同時にナルトは駆け出す。その家の玄関へと。
「ねーちゃん!ねーちゃん!女狐のねーちゃん!」
はっきり言って近所迷惑と言いたくなるくらいに歓喜の余り、連続でノックして大声を張り上げる。そんなナルトに慌てたように家主は扉を開くが、そこに絶世の美女が居る事は無く、出て来たのはまだ成人したてくらいの青年だった。
「・・・・・・?」
「しょ、少年、どうかしたのかな?」
思った現実と違った事にポカーンとするナルトとバレないか冷や汗を流す女狐(ver.男)。しかし、ある事に気が付いたナルトは再び顔を喜色に染め出した。
「あ、あの!」
「な、何んだい?」
「女狐・・・だよな!?」
「んん゛ッ」
一気に核心を突いて来たナルトに変な声が出る。頬を引き攣らせ、なんとか誤魔化そうと言葉を重ねるが最早手遅れな事に彼は気付いていない。
「お、落ち着こうか少年。君は何か勘違いをしているよ」
「え・・・あ、なんだってばよ?」
「女狐って、あれだよね?噂になってる、あの」
「そう、それってばよ!」
独特の語尾だな、なんて現実逃避をしつつも何故ここまで確信を持っているのか分からない女狐はしゃがんで目線を合わせる。
恐らく、色々と錯乱しているのだろう、と希望を抱きながら。
「あのね、兄ちゃんの何処をどう見たら女狐に見えるのかな?そもそも性別も違うし・・・」
「耳と尻尾」
「・・・・・・」
するとその問い掛けにナルトはスッと頭に指を差し、そう答えた。表情の抜け落ちた女狐は頭と腰辺りをペタペタと触り、確かにその存在を確認すると瞬身の術もかくやと言わんばかりの速度でバタンッと扉を閉めて中に閉じ篭った。
「うぇ!?ちょ、ちょっと!ねーちゃん!女狐のねーちゃんってば!!どうしたんだってばよ!!」
再び喧しくなるナルト。そうなるとご近所に要らぬ噂を立てられる訳で。結局、観念した女狐が耳と尻尾を消し、扉を少し開いて顔をひょっこり出した。
そして、相変わらず満面の笑みを浮かべているナルトに遠い目をしながらも中に入るよう促した。
◇
「・・・・・・」
「すぅ・・・すぅ・・・」
どうしてこうなってしまったのか、先程から女狐はそればかり考えている。招いたはいいものの、さてどうしようかと悩んでいるとナルトからもう一度あの姿を見せてくれとせがまれた。
正確には変化し続けるのは大変ではないか?という内容だったがここで女狐はある事に気が付いた。
(・・・もしかして、
遠回しに尋ねてみるとやはりそうだった。
ナルトがこの
まず男から女狐に変化する所を見ておらず、女の方が本当の姿なのでは?という考えが浮かぶ。次に玄関で姿を見た時は耳と尻尾が残った男の状態という歪な変化。
ここでナルト視点だと『男が変化した狐っ娘が再び男になった』では無く『狐っ娘が男になった』と言う事になる。そして最後に耳と尻尾を指摘すると慌てて隠れてその二つを消して再び取り繕うかのように出て来た。
ここまで怪しい行動をされて『自身が人間では無い事を隠したい狐っ娘』と思わない訳が無いし、妙な秘密主義を発揮して名前を教えなかったのがそれを助長させた。
『大の大人の男が部屋で自身をモデルにして作った美女を鏡の前で堪能している』なんてまず子供には無理な発想だ。エロの最先端を行く自来也だって思い付かなかったのだ。性に目覚めていない子どもに考えつく筈もなく、言われた所で『何でそんな事をするの?』と更に疑問を抱くだけだろう。
そんな訳で女狐は一旦退出して、狐っ娘になって入室した。するとその美しさに純粋に目をキラッキラさせてナルトが褒めまくる。
女狐自身、美女への
なんせ、今まで誰にも明かさずに隠し通して来たから褒められたどころか、なんらかの評価を得た試しが無い。強いて言えば、都市伝説なんて言う不名誉極まりない物があるがあれはカウントしない。
別に見せびらかしたい訳では無いがそれでも誰かと共有したいという想いはある。で、その結果が爆睡したナルトを膝枕している今の現状である。勿論、狐っ娘で。
(どうしてこうなった・・・)
やはり何度思い返してもここまでの経緯が思い出せない。何かエキサイトしていた記憶はあるがその間の記憶が曖昧で気付いた時にはこの状態。
抜け出そうにもナルトの目元に凄い隈が出来ていたので、起こすのも可哀想だと思い、結局朝までこの状態だった。
故に色々と疲労困憊状態だった女狐は━━━━
「あ!忘れる所だったってばよ!」
「どうかした?」
「ねーちゃん!ありがとうな!ねーちゃんの噂のお陰でもう大丈夫だってばよ!」
「?・・・そうか?それは良かった」
━━━━━朝起きて帰ろうとしたナルトに全く心当たりの無いお礼を言われて、特に考える事も無く肯定してしまった。
基本的に下手に聞くと聞かなければ良かったという内容が殆どだと学んでいたというのもあるが━━━もう『噂のお陰』って部分から嫌な予感しかしない━━━疲労で思考する能力が低下していたのもある。
しかし、未だ幼子であり、人付き合いをまともに行えなかったナルトにその辺の感情の機微を気付ける筈も無く、言葉通りに受け取ってしまい『やっぱり、ねーちゃんが助けてくれた』という勘違いが起こってしまった。
勿論、女狐にはマジで全然心当たりが無いし、そもそもナルトが人柱力である事にすら気付いていない。幼少期から女体に盲信していた彼は他の事に殆ど興味が無い。
無関心という訳では無いが趣味という名の修行の方が他よりも優先順位が高過ぎるのだ。故に例え里内の事であっても基本的に疎い事が多い。
(ふぁ〜・・・眠い・・・)
そんな女狐が自分の周囲が色々と大惨事になっていると気付くのはまだ後のお話。
◇
ナルトの中に封印された九尾こと『九喇嘛』は困惑していた。その原因は目の前で楽しそうに『女狐』なる存在を語る忌々しい小僧だ。
以前、九喇嘛はこの小僧に「お前は女狐か?」という旨の質問をされた事がある。
その時はいつものように無視しようとしたが、こればっかりはハッキリと言わなければならないと感じた九喇嘛は━━━━
「誰が『女』だ!ワシは『男』だ!!」
こんな風に怒鳴った。
それ以来、話し掛けて来る事はせずにいつものようにただ目の前でジッとするようになった。そもそも九喇嘛は会おうとしていないのに何故、ここにナルトがやって来るのかが不思議で仕方無かったが、精々したので鬱陶しくはあるものの干渉して来ないからと放置していた。
「それでな!そのねーちゃんは━━━━━」
その結果がこれだ。
幾ら怒鳴っても次の日には同じようにその『女狐』とやらの話をして来る。無意味だと諦めた九喇嘛はそんな喧しい小僧の話をBGMに眠る事にしたがどうしても頭の中に『女狐』が残ってしまう。
そこで九喇嘛は誰がこの忌々しい小僧をこんなクソ面倒臭くしてくれたのか、と一目でも見てみようと久しぶりにナルト越しに外を覗いて見た。
するとまず飛び込んで来たのは里の者に冷えた視線を向けられるナルト。しかし、特に害される事は無くただ見られてるだけ。
ちょっと物足りない気がしたが、それでもこの小僧が酷い扱いを受けている事に変わりはなく、ザマァ見ろという気分だった。
しかし、当のナルトはそんな事は知らぬとばかりに上機嫌で里の中を移動している。本人が意に介していなければ何の意味も無いので面白く無さそうに唸る九喇嘛。
恐らく、ナルトが今向かっているのがこんなつまらない事態にしてくれた張本人の所だろうとチャクラが外に溢れ出そうになる程に怒りが湧いて来る。
そうして今か今かと待っていると目的地に到着したらしく、その家のインターホンをナルトが押し、中から女の返事が聞こえて来た。するとナルトは開いていた扉を開き、中に入って行く。
この小僧から出られたら真っ先に殺すのはお前にしてやる、とその姿を脳に刻み込もうと眼球に血管が浮き出る程に睨み付けているとリビングに繋がる扉をナルトがゆっくりと開いた。
そして、文字通り血眼になった九喇嘛の目に飛び込んで来たのは、尾獣の中でも人間に対して最も怒りを抱いているであろう九喇嘛ですら我を忘れてしまう程に美しい、自身と同じ耳と一本の尻尾を持った美女だった。
「それでそれで!今日はな━━━━━━」
次に九喇嘛が我に返った時には目の前でいつものように忌々しい小僧が女狐談義をしていた。下手に脳裏に焼き付けようとしただけに、あの時の光景が頭から離れない。
不思議といつものような負の感情は湧かないし、俄然ナルトの話に興味が湧いて来た。九喇嘛自身が言った通り、尾獣であろうとカレも男だったと言う訳だ。
「しかもな!」
「おい、小僧」
「ッ!?な、なんだってばよ・・・?」
初めて真面な反応を返して来た九喇嘛に警戒するナルト。しかし、次の九喇嘛の言葉に彼は途端に嬉しそうにし出した。
「その話、もっと聞かせろ」
「ッ〜〜!勿論だってばよ!!」
楽しそうにあれやこれやと話し始めるナルトに今までの態度は何だったのかと言いたくなる程に真剣にその話を聞く九喇嘛。
それが嬉しくてナルトは更にヒートアップし、九喇嘛も女狐の事がよく知れて上機嫌。正に負の連鎖ならぬ正の連鎖だった。性の連鎖
時々、九喇嘛も質問したり自分の見解を述べたりとこの日以来、二人(一人と一体)の仲はそれなりに近くなっていく事になる。
「ねーちゃん、本当に凄くてな!」
「それはよく知っておる。なんせ、九尾のワシが十尾になっちまったくらいだからな」
「・・・?どう言う事だってばよ?」
「ふっ、お前にはまだ早い」
しかし、九喇嘛の話をナルトが理解出来るかは別の話である。
◇
「━━━━━━で━━━━━となり」
ナルトと出会い、彼を度々家に招き、何処からか獣のような視線を向けられているような気がしつつ、それなりの月日が経ったある日の事。
女狐は任務完了の知らせを火影様に報告している訳だが彼にはどうしても気になった事がある。
(なんか、毛量増えてるような・・・)
そう、室内な為に火影の嵩を脱いでいるヒルゼンだが、どうにもその生え際が壁に掘られている顔岩と同じくらい迄に復活しているように見えるのだ。
女狐自身、最初は見間違いかと思ったが何度思い返して本人にバレないように見ても毛量が増えている。
気付いたのがそこだけなら良かったのだが、人間の細部に至る迄に研究し尽くした女狐はアッサリとそれを見抜いてしまった。
増えた部分が
「以上が今回の任務の報告です」
「うむ、ご苦労じゃった」
(ツッコムべき・・・では無いのだろうなぁ)
そのカツラは女狐がそういった部分に詳しくなければ見抜けなかった程に精巧に出来ている。火影様であろうとも、そういった事は気にしているのだろう。火影もまた、同じ人間という訳だ。
まぁ、それはそれとして。気付いてしまったが故に物凄く気まずい女狐はサッサとここから離れる為に少し報告を短縮して火影様に退出の許可を貰おうとした。
「それでは自分はこれで」
「あぁ、ちょっと待て」
「はい?」
そしたらまさかの火影本人から呼び止められ、どうしたのだろうか、と思っていると不意に火影室のドアがノックされた。
ヒルゼンが入室を促すと入って来たのは白髪で左目を額当てで隠した女狐の直接では無いにしろ、階級的に上司に当たる上忍の『はたけカカシ』だった。
突如として登場とした、いつの日かの秘密の集会のトラウマの中心に居た二人に挟まれて冷や汗が止まらない女狐。そんな彼の心情を知ってか知らずか、カカシはヒルゼンの前に立ち、ヒルゼンに背を向けるようにして女狐の方を向いた。
「さて、お主を呼び止めたのは他でも無い。そこのはたけカカシから少し興味深い事を聞いての」
何やらいつもの里に慕われる優しそうな三代目とは違った威圧を放つヒルゼンにカツラの件は頭から吹っ飛び、尋問を掛けられているような気分に陥る女狐。正直な所、心当たりが多過ぎて検討が付かなかった。
「実は最近、お主の所に出入りしている少年についてカカシから報告があった」
少年とは十中八九、ナルトの事だろう。それを見ていたと言う事は中は見られないように心掛けていたが、狐っ娘モードを見られていても可笑しくはない。
下手に嘘を言うのは度胸的な意味で無理だし、何かを言えば墓穴を掘り兼ねない。ここは黙って死刑宣告を受ける罪人のように諦めの境地へと至り、事の成り行きを見守った。
「ナルトにお主が害を成そうという気持ちが無いのはここ最近のあの子を見ていれば分かる。出来る事ならこれからもあの子をよろしく頼む」
「・・・はい・・・・・・はい?」
「そうか、それはよかった。本当にありがとう」
「え、ちょ・・・え?」
思った内容と違って勢いで返事をしてしまった女狐。訂正しようと声を掛ける前にパサり、と執務机に落ちる謎の毛の束。何処からどう見てもヒルゼンが先程までに付けていたカツラだった。
「俺からも礼を言おう。ありがとう」
「あ、いえ・・・」(・・・駄目だ・・・今笑ったら殺されるッ)
恐らくこちらを向いているので気付いていないであろうカカシが感謝の籠った真剣なお礼を言ってくる。しかし、だからこそ事態が悪化した。
唯でさえ勢いで返事をしてしまい、まさかの火影様がこんな忍びの下っ端に頭を下げるという事態に陥っているというのにその上、上司からも茶化す隙が無いくらいに真面目なお礼を言われている。
笑ったら、まず間違いなく身体的だろうと精神的だろうと多大なるダメージを受ける事になる。
故に電球の灯りをテカテカと照らすヒルゼンの広い額をマジマジと見詰めては、流石は忍の闇の代名詞を持つダンゾウと相反する存在。その闇が支える光は並のモノでは無いらしい、などと現実逃避を始めた。
「何かあれば何でも言ってくれ。出来る限り、力になろう」
「はぁ・・・ありがとうございます」
寧ろ、頭の事で相談に乗りますよ、という失礼極まりない言葉を飲み込んで何とか生返事を返す。ここで話は終わり、漸く女狐は退出する事が出来た。
疲れ切った頭が何故、ナルトと遊んだだけで火影様が礼を言うのだろうか?という疑問を抱いたが、バレていないという安心感と虚脱感、序にカツラの件でそれどころでは無くなり、その疑問は彼方へと飛ばされてしまった。
◇
女狐が出て行った扉から目を離し、執務机の上に落ちたカツラをマジマジと見詰めるヒルゼン。そんな彼をカカシは冷え切った眼差しで見ている。
「・・・ふむ、まさかのスルーか」
「当然でしょ。貴方、自分の立場分かってます?しかも滅茶苦茶大事な話をしてたんですよ?」
「いや、場を和ませようと・・・」
「凍り付きましたけど?」
「おかしいのぉ。滑った時の為に『ズラが滑り落ちるギャグが滑った』という二段構えじゃったんだが、失敗か」
「分かるか、そんなもん」
笑顔ではあるがカカシがガチでキレていると察したヒルゼンは平静を保ちつつカツラを仕舞い、真面目な雰囲気を醸し出して先の話を持ち掛ける。
「・・・にしても本当に良かった。ナルトへの被害が少しでも抑えられて」
「まさか体裁の為にバラ撒いた噂話がこんな事になるなんて思いもしませんでしたよ。何はどうあれ、これでナルトも良い方向に向かってくればいいんですけどね・・・」
傍迷惑な火影とカカシによる手を出せない者同士によるこんな会話がされたが、女狐に届く事は無かった。
ナルトは自分のお色気の術に対する男性陣の反応の意味にすら気付かないので問題無いという設定に。大人になった時に初見であれば、無条件で身体が反応した。
今作の九喇嘛について
・女狐を見て、鼻血を大量に出しながら目を見開いたまま気絶(尾獣の空間の床の水が真っ赤になってたり)
・女狐関連に限り、ナルトとフレンドリー
・仮に封印が解かれてもあんまり暴れる気は無く、先に女狐を攫う(振られたら大暴れ)
・肌蹴てなければ、女狐を見ても鼻血は出さなくなった(肌蹴るとアウト)
・九喇嘛にアレが着いているどうこうに関しては完全に捏造(多分、原作は着いてない)
最後の三代目の話は女狐(ver.女)が全く関わってないので取って付けたような感じが凄くなってしまった気がする。なんか、すみませんでした。
予定では次回はイタチさん辺りをしようかな、と。