全身無職に改造されたが、今は何とか時計屋やってる   作:ひょっとこハム太郎

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少し前
「一夏の思い出・肆」


 

 

 

 

「あ、侮っていた! お野菜なんて単なる箸休めだと! 胡椒がアクセントになって、お野菜の甘みが引き立てられている……! んまぁ~~~~~~~~い!!」

「お、美味い。やるなぁ、アイツ。美味いけど塩気が、塩気が足りねぇ。ビールにはもうちっと塩気が……」

「文句言わないの。夜に付き合ってあげるから、昼間くらいは皆に合わせて我慢なさい。はむ…………あら美味しい。今ならガングニールでもLinker無しで行ける……!」

「ボクの切ったお野菜は如何でしょう……?」

「「「美味しい美味しい、最高!」」」

「よかったぁ~~~。ではボクも、もぐもぐ……んぐっ、甘くて美味しいです。お野菜のハーモニーですねぇ」

「「「可愛いかよ」」」

 

 

 蒸し上がった夏野菜のホイル焼きに舌鼓を打っていたのは、撃槍三人娘。

 ナス、ズッキーニ、マッシュルーム、オクラ、パプリカ、ピーマン、プチトマト。色鮮やかな野菜達が蒸されることで本来の甘みを引き立たせ、ピリリと辛い粗挽きの黒胡椒が更に甘みを引き立たせている。

 元ガングニールの融合症例、現ガングニール正規装者二号の響は『BBQは肉&肉、野菜など箸休めよぉ!』と甘く見ていた自らの認識を改める。野菜であっても旨味において肉に劣るものではないのだと。それはそれとしてお肉も食べたかった。

 今も昔もガングニール正規装者一号の奏は感心した様子で素直な感想とを口にする。しゃきしゃきとした食感が残りながらも甘みが存分に引き出された蒸し加減に、優斗の料理の腕前を認めていた。それはともかくビールを飲みたくて仕方ないらしい。

 元ガングニールの非正規装者にして、現アガートラームの正規装者のマリアは、奏にアルコールは夜のお楽しみに取っておけと諌めながらつつ、苦手なトマトを避けてパクリと一口。瞬間、口の中に広がる旨味にキラキラと目を輝かせる。流石はランチを奮発すると適合係数が上がる女。性悪自動人形(オートスコアラー)が蘇ってきても一方的にボコボコにしてしまいそうである。

 

 不安げに見つめていたエルフナインは、三人の言葉にほっと息をつく。

 そして彼女が生活しているS.O.N.G本部の料理とはまた違った美味さとBBQならではの醍醐味に、両手で頬を包みながらほにゃりと顔を緩ませる。目撃した撃槍三人娘は揃って真顔で呟くのであった。

 

 

「はぐっ、あぐっ、んぐぐっ!?」 

「もー、クリスったら、そんなに慌てて食べなくても誰も取らないよぉ」

「ふふ。はい、飲み物」

「んぐっ、んぐっ、ぷはぁ……! し、死ぬかと思ったぁ~~!」

 

 

 プラスチックの取り皿に小分けされたイサキのアクアパッツァを口にしながら、ビーチパラソルの下で仲良く並んでいたのはクリス、未来、セレナ。

 イサキを中心に、アサリ、プチトマトと種抜きオリーブ、ニンニクとオリーブオイルで味付けされたアクアパッツァは匂いだけでも食欲を誘う。女性としてあるまじきがっつき方になってしまっても仕方がない。尤も、クリスの場合はこれがデフォルトであるが。

 未来は喉を詰まらせてしまった背中を擦り、セレナは置いてあったお茶を差し出した。クリスは半ば引ったくるような形で手にするや、喉の途中で止まったものを流し込むべく、一気に煽る。やらかした本人が恥ずかしげに頬を染めるだけで大事に至らなかったのは幸いだ。

 

 同じ学校に通うクリスと未来は兎も角、セレナは接点が薄そうに見える。が、人の世話を焼くのが得意な人間と世話を焼かれるのが得意な人間としてみれば、仲の良さも頷けよう。

 

 

「そう言えば雪音、箸の使い方が上達したのではないか?」

「あら、本当。私はまだフォークとスプーンなのに、凄いわ」

「クリス、どうしたの? アレだけ言っても治そうともしなかったのに」

「いや、どっかの悪ノリ大好きな馬鹿に矯正されちまってさぁ……」

「矯正とはまた強引な。何をされたんだ……?」

「やる気が全てだ、っつわれて、あたしがメシ食ってるところに鏡を持ってこられたんだよ。そんで、メシ食ってる自分の姿に自分で引いた」

(((…………よ、容赦ないなぁ)))

 

 

 三人の向かい側には熱々砂浜正座の刑から開放され、無事帰還した翼は目聡くクリスの変化に気付いた。その指摘に、セレナと未来も続く。

 まるで子供のような握り箸をしていたのに、今はまだまだ正しい持ち方には程遠いもの、近づいてはいる。

 とある日、たまさかクリスと食事を共にする機会の訪れた優斗であったが、よく言えば子供じみた、悪く言えば汚い食事風景にドン引きし、これを矯正すべく立ち上がった。

 しかし、クリスはうるさい、人の喰い方に文句を付けるなと突っぱねるばかりであった故に、最終手段として鏡を用意され、自分の姿を見せたのである。

 

 

『これがお前の姿だ』

『…………えぇ…………うわぁ…………あたし、やべぇな…………』

『自分で自分に引いちゃったよ! ほらな、治そ???』

 

 

 彼女の目に映ったのは口の周りをべちゃべちゃに汚して、赤ん坊の如き己の姿。ドン引きする他なかった。

 

 実際、こうしたやり方はやや強引であるが有効な手段だ。食事のマナーの悪い人間は自分の何処が悪いのかを気付いていない、分からない場合が大半。何よりもまずは自覚させる必要がある。

 クリスにもこれが当てはまり、別にどんな食べ方をしようが腹に貯ればそれでいい、という過去の過酷な経験が下敷きになった考えがあり、見た目になど構う必要を感じてはいなかった。その瞬間までは。

 口は悪かろうが常識に疎かろうが珍言録の宝庫であろうが乙女は乙女。食欲の一切が消え失せ、正しい箸の持ち方、スプーンやフォークの使い方を覚えなければ、とてもではないが恥ずかしくて食事が出来ないと癖の矯正に勤しんだのであった。

 

 

「成程、そのような経緯が……私はアレも雪音の愛嬌だと考えていのだがな」

「確かに、可愛くはあったかなぁ」

「せからしいんだよッ! こちとら恥ずかしくて死にそうになったんだってぇの!」

「ふふ。なら、道具の使い方だけでじゃなくて、食べ方にも気をつけないとね」

「んぶぐぐ…………クッソ…………あ、あんがと」

「はい、どういたしまして。クリスちゃんはお箸を口に持っていくんじゃなくて、口でお箸の迎えに行っているから、その辺りも直したらどうかしら?」

 

 

 

 これまで食事を共にした際に見た彼女の姿を思い出したのか、翼と未来は微笑を浮かべていたが、そんなものでは何の慰めにもならない。

 何処から上からの物言いはクリスの癪に障ったようだが、汚れていた口元をセレナに優しく拭われて萎縮した。それでもキチンと礼を言える辺り、口は悪くとも意地を張っているが根は素直であると伺える。

 

 妹キャラのセレナであるが、年下の前ではきっちりとお姉さんしているらしく、様子を見て察した問題点を的確な助言に変えて伝えていた。

 ほー、などと呟きながら、クリスは箸を持った手を動かして口元に運んだり、逆に手を固定して口を近づけたりを繰り返し、最後にはな、成程と目から鱗を落とした。これでまた一歩、目標へと近づくのであった。

 

 

「しかし、月読と暁は遅いな。何をやって――……」

「コォォォォォォォォォォォ」

「………………誰?」

 

 

 三人が再びアクアパッツァを食し始めたのを目にし、自分の空きっ腹を自覚した翼は私達が貰ってきますと行ったきり戻ってこない調と切歌にやや不機嫌な表情を作る。如何に防人と言えど、空腹には勝てないのだ。

 後輩が向かった優斗が食材を焼いているグリルへと視線を向ける。其処で目にしたものに、目が点になった。

 

 翼が見たものとは――――何故か、劇画調になって空手の息吹のような呼吸法をしている優斗であった。

 

 普段のにこにことした爽やかな笑みは何処へ行ったのか。男臭さの頂点といった顔立ちになっており、濃い、兎に角濃い。彼のシルエットを描く線も濃ければ、陰影も濃い。おかげで普段の三割増しで彫りも深く見えれば、筋肉も増えている気がする。

 最早、別の世界観から抜け出してきたような有り様。これに並べて立てるのは、明らかに別の世界からやってきた超生命体にして、『飯食って映画見て寝るッ! 男の鍛錬は、そいつで十分よッ!』とトンチキな事を言って最強の生物になった挙げ句、映画の内容を落とし込んだ突拍子もない作戦を大抵成功させる弦十郎くらいのものである。神は何を思って彼のような存在を生み出したのだろう。いや、神に聞いても困惑するか。どう考えても神の台帳や絵図面に乗っていない、人と呼んでいいのか分からない生命体なのだから。

 

 

「優斗さぁ~ん、これとかいい焼き加減かなぁ~、って」

「アカン」

「じゃあじゃあ、これとかはどうデスか?」

「あきまへん」

「……!? ……ッ、………ッ!?!」

 

 

 そろそろ野菜だけでは物足りなくなってきた響、すっかりお腹がぐーぐーへりんこファイヤー状態の切歌は、グリルの上で焼かれる様々な魚介類の香ばしい薫りに待ちきれないと涎を流している。あれやこれやを指差して手伝うような言動を見せているが、暗にこれが食べたいあれが食べたいと言っているだけである。

 その全てをにべもなく一蹴する優斗。彼にしてみれば珍しい、冗談を交えない本気の表情であった。

 困惑しているのは調ただ一人。何故か劇画調になった優斗を何度も目を擦って確認し、瞼を閉じて首を振って更に確認し、何の変化もツッコみも見せない先輩と家族の姿を見てからもう一度確認し、理解することを諦めた。ただ、目の前の現実を受け入れればいいんだ、と。こうして少女はまた一歩大人になった、強制的に。

 

 そんな大人の階段を強制的に登らされる可哀想な娘に視線すら向けないBBQ将軍。これではどちらかといえばBBQ奉行だが。

 頭に白いタオルを巻き、見た目すら劇画調と化しているにも拘わらず、頑として譲らぬ不動の姿勢。姿などどう変わろうと問題なし! BBQは焼き加減に有り! と言わんばかり。流石はBBQ将軍(バカ)である。

 

 

「いいか? BBQは火加減だ。短くては腹を壊す、長すぎては固くなる。どちらでもない最高の状態で、お前達の口に運ばせてやるのがBBQ将軍たるオレの役目だ」

「……やだ、優斗さん格好いい」

「素敵過ぎてキュンキュンするデスよ……」

「これが? この濃い感じの優斗さんが? 二人とも頭大丈夫? いえ、確かに美味しく食べられるのは有り難いですけど」

 

 

 手にしたトングをカチンと鳴らし、濃いながらも優しげな表情で語る姿に、トゥンクと頬を染めて瞳を濡らした乙女の表情で見やる響と切歌。

 そんな二人に信じられないといった表情でツッコむ調。冗談にせよ、正気を疑う発言であることには間違いない。

 

 

「立花、暁、今はそういうのいいから」

「優斗さんが乗ってこない――!?」

「其処まで本気、デスとぉ――!?」

「切ちゃん、風鳴司令の真似をしなくてもいいから……」

 

 

 何時もは何やかんや乗ってくるボケを軽くスルーされて驚き、思わず持ち出される弦十郎の持ちネタ。

 響はボケ、切歌もボケ、優斗はスルーしてるがもう顔立ちや存在そのものがボケ、ボケ&ボケ&ボケというボケの暴力に、唯一のツッコミである調は辟易としていた。

 装者達はどちらかと言えば皆ボケ寄り。辛うじてクリスはツッコみ役に回るが毎回毎回疲れ果てているし、当人もボケに回るシーンもある。ツッコんでもツッコんでも襲いかかってくるボケの恐怖というものを調は初めて体験し、クリスに優しくしようと誓うのだった。

 

 

「…………――――ッ!!」

「しょ、将軍様が動いたぁ!」

「これが最高の焼き加減なのデスかッ!」

「た、確かに、これは美味しそう。輝いて見える」

 

 

 時は来た、と目を見開き、握ったトングが銀光を煌めかせる。

 腕が何本にも見えるような速度で至高の領域へと至ったエビを、イカを、サザエを三人の持った皿の上へと盛り付けていく。その速度たるや、現代忍法を駆使する忍者兼マネージャーである緒川の如し。恐るべしBBQ将軍、コイツも人間じゃない。弦十郎といい、緒川といい、BBQ将軍といい、装者の周りには人間を辞めた連中が多すぎる。そのような因果でもあるのだろうか。なお、BBQ将軍はBBQ以外でこの能力を発揮できない模様。

 

 

「行け! 行くんだ、お前達! 火から離すと味は刻一刻と落ちていくッ! 此処はオレに任せて先に行けッ! 走れぇぇぇぇぇっっ!!!」

「「「は、はい!」」」

 

 

 人生で一度は言ってみたい言葉ランキング上位に喰い込む死亡フラグを口にしたBBQ将軍の気迫に押され、三人は一斉に走り出す。

 その目尻には涙が浮かんでいた。ただ灼熱の炎の前に優斗を置き去りにするしかない自分達の不甲斐なさに。それでもなお使命は忘れていない。将軍の焼いた美味しいご飯&ご飯を皆に届けるんだ、と。何のかんの調もボケ側の住人である。

 

 

「何だ、あの茶番は」

「先輩、あたし学んだ。アレ、ツッコんだら負けだわ」

 

 

 一連の無駄にドラマチックなやり取りを黙って見守っていた翼は呆然と呟き、クリスはこれまでの経験で学んだ真理が虚しく風に流れていく。

 ボケの飽和、ツッコミの役割放棄。これもまた暑さで脳みそが茹だる夏の醍醐味であった。醍醐味だろう。醍醐味だと思われる、多分。

 

 天然な上に真面目過ぎてバカになってしまう防人とツッコミ疲れが板についてしまったトリガーハッピー娘の呟きを他所に、彼女達は――――この後も滅茶苦茶茶番した。

 

 

 

 

 




繰り返される茶番&茶番――――!
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