パンガールの山吹さん(仮)   作:RyuRyu(元sonicover)

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授業中は眠くても気合いで起きといた方がいい。

 ──眠い。

 

 昼食後の午後の授業は育ち盛りの高校生を微睡みに誘うには絶好の環境である。机に突っ伏して目を閉じれば数秒で夢の世界へ旅立てる。

 それに今は現国。担当教諭がつらつらと文字列を読み上げるだけの授業で寝るなというほうが難しい。ここで寝たら怒られるけれどそんな事どうでもいいくらいに眠い。

 暫くは我慢していた僕も遂に限界を迎えて、こくりこくりと船を漕ぎ、ノートの字は判別不可能になりながらも辛うじて意識を保っていた。多分あと数分もすれば机に突っ伏してしまう。

 

「……君、東雲君?」

「ッッ!?」

 

 唐突に横から名前を呼ばれてビクッと体を震わせる。僕の驚きっぷりに声をかけた本人もびっくりしたっぽい。イスがガタッってなっていたから。

 

「……んあ、ああ山吹さん。どうしたの」

 

 寝ぼけ眼で山吹さんに尋ねると、彼女は現国の教科書を立てて見せて、並んだ文字列をシャープペンシルで何回かなぞった。ああ、なるほど。そこから読めと。

 僕は立ち上がって教科書に書かれた文章を読み始めた。

 

「……女性は第二次性徴期になると初潮を迎え……あれ、これ保健の教科書じゃん」

「……東雲。放課後職員室に来い。わかったな」

「あ、はい」

 

 なんで保健の教科書が机の上に……誰だよこんな事したの僕でしたねそうでした。

 

 

 ▪ ▪ ▪

 

 

 放課後。こっぴどく叱られた職員室から荷物を取りに教室へ。両腕にどっさり積まれた現国の罰課題を見ながらぶつくさと現国担当の教諭に呪詛を唱えながら教室のドアを開けると誰もいないと思っていた西日が射す部屋に女子生徒が一人、夕陽に黄昏ていた。半開きの窓から流れ込む梅雨前の少し湿った風にひとつに纏められたオレンジともピンクともつかない髪が靡く。

 

「あ、東雲君」

「や、やあ」

 

 僕に気が付いた山吹さんは窓の外から視線を僕に向けると、薄く微笑みかけてくる。それに一瞬だけ、ホントに一瞬だけだけどドキッとした。山吹さんとは隣の席のクラスメイト。これといって会話を交わす仲でもないし、何より風の噂では山吹さんは同じクラスの牛込さんやA組の戸山さんとかとバンド活動をしているらしい。そんな彼女と路傍の石たる僕とはどう考えても生きる世界が違う人間なのである。

 だから、山吹さんの方から話しかけられたとしても僕は石ころらしく大人しく退散するべきなのだ。何しろ明日までにネトゲのイベントを完走しなければならないのだから。

 

 ……そうなのだけれど。

 

「今日は災難だったね」

 

 なんでか山吹さんの方から話しかけてきた。最初は僕じゃない誰かに話しかけたのかと思ったけれど、よくよく考えなくてもこの教室内には僕と山吹さんの二人しかいない。これすなわち山吹さんは僕に話題を振っているという事になる。

 

「そ、そうだね」

 

 殴りたい。数秒前まで路傍の石だとか会話なんかするべきじゃないとかなんとか言っていたのに自分の意思の弱さに殴りたい。

 

「……」

「……」

 

 殴りたい。自分の意思の弱さの結果招いたよくわからないこの時間を作り出した自分を殴りたい。

 何か会話をした方がいいのか?それともこのまま鞄を持って帰ればいいのか?……わからない。教えてぐーぐる先生。

 

「それじゃ、また」

「あ、うん。また明日」

 

 結局僕は帰る選択肢を取った。鞄を肩にかけてすごすごと扉の方へ。やる事無いなら帰った方がいいもんね。未知のダンジョンが俺を待っているんだから。

 扉に手をかけると同時に、反対側の扉が勢いよく開いて二人の女子生徒が僕と入れ違いになるように入ってきた。

 

「お待たせさーや!」

「ちょ、お前……廊下は走るなって……」

「二人とも日直お疲れ様」

「うん。それじゃ早速有咲ん家にレッツゴー!」

 

 やって来た二人のうち猫耳みたいな特徴的な髪型をした女子、確か……戸山さんがギターケースを背負っているのを横目で見て、本当に山吹さんはバンドに入っているのかと一人納得した。うん。なんだか気分もいいし帰ろう。家でポテチとコーラとイベントが待っているのだから。

 ⋯⋯やって来たもう一人の方から視線を感じるけどきっと気のせいだ。

 

 

 

 ▪▪▪

 

 

『なあ』

 

 唐突にそんなメッセージが飛んできたのは時計があと半周もすれば今日が終わるといった時だった。僕はここ3時間座りっぱなしで疲れた体を解しがてらこれからのオールに備えてエナジードリンクを買い込みに近くのスーパーへ向かっている時だった。明日も学校?そんなもの僕知らない。

 

『なに?僕眠いんだけど』

 

 もちろん嘘である。

 

『今日沙綾と何話してたんだよ』

『え、山吹さんと?何も話してないよ』

『嘘つけ。だってお前と沙綾の話し声聞こえてたんだぞ』

『ただ挨拶しただけだよ。それより何の用?まさかそんな事だけじゃないよね』

『そんな事って何だよ……それだけ……悪いか』

『いや別に悪くはないけど、え、もしかして市ヶ谷さんって山吹さんの事好きなの?』

『何バカなこといつまてんのる』

『動揺が隠しきれてませんよ市ヶ谷さん』

 

 多分『何バカな事言ってんの?』って打ちたかったんだろうなぁ。

 

『何バカな事言ってんの?』

 

 今頃は画面の向こうで勝手に赤くなってんだろうな。

 それにしても……百合かぁ。うん、悪くない。

 

『言っとくけど百合なんかじゃねーからな』

『え、僕百合とかじゃなくて友達として好きなのかって聞いたんだけど』

 

 なんだか思考を読まれたようで癪に障ったので少し意地悪してみた。

 数秒後、市ヶ谷さんから電話が来た。

 

「もしも……」

『別に私は沙綾の事す、好きじゃないんだからな!バーカ!』

「あ、切れた」

 

 それだけの為に電話してくるなんて、相変わらず何考えているのかわからない。まあ、それもそうか。たかが去年同じクラスってだけだったし、何なら今年は違うクラスだし。なんで僕が市ヶ谷さんと連絡先を交換しているのかもわからない。

 スーパーに寄って追加の飲み物とスナックとエナジードリンクを買って、帰宅。足音を忍ばせて自室に戻ってスリープ状態のPCを立ち上げる。

 さあ、翼も授かったことだし、んじゃまあ。やりますか。今が12時だから⋯⋯5,6時間イベント周回してりゃ今のジョブのスキルもカンストするだろ。

 よし、と気合を入れて僕はPCに向き合った。

 

 

 

 ▪▪▪

 

 

 

 

 

 徹夜(オール)した。

 楽しい事は時間が経つのが早く感じるもので、体感時間3時間で空が白けていた。今なら相対性理論も証明できるかもしれない。まあ無理だけど。

 目の下に若干のクマを付けて学校へ向かう。昨日あんな事をした手前、ものすごく学校に行きたくない。ただでさえクラス内にまともな友達もいなく若干浮いている僕の事だ。トップカーストのリア充共は僕を格好のイジりの対象として後ろ指を指して嘲り笑い、あることないこと吹聴して回っては僕の事を変態だとかムッツリーニだとか言って罵るに決まっている。ああ、嗚呼、憂鬱だ。

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