パンガールの山吹さん(仮) 作:RyuRyu(元sonicover)
いろいろと自己満小説第2話です。
夕方になった。
イジメの的になる事を恐れた僕は朝のHRを終えると真っ先に保健室へ向かって、ベッドに潜り込んだ。何も言わずにベッドを貸し与えてくれた養護の先生に感謝しつつぬくぬくとしていたらいつの間にか学校が終わっていた。何を言っているのかと思うけれど、僕にもわからない。時かけとか時そばとかじゃなくてもっと恐ろしいものの片鱗を味わった。中途半端にポルナレフる辺り、本当に脳内が混乱しているのを察して欲しい。ていうか時そば関係無いじゃん。
「あぁあああ──ー…………」
なんだろう。この虚無感。ずっとベッドの上で過ごしてしまった休日の夕方に似ている。
頭を抱えて悶えていると、ドアがガラガラと開かれる音がして、「失礼しまーす」と控えめな声が聞こえてきた。誰かが怪我でもしたんだろう。僕には関係ない。でも、参ったなあ。これじゃ僕が保健室から出られないじゃないか。頼むからとっとと手当して出ていってくれないかなあ。
そんな事を思いながらベッドで横になってスマホをいじっていると、仕切りのカーテンが躊躇いがちに開かれた。
「あ、起きてた」
「え、や、山吹さん?」
予想外の来訪者に目を丸くする僕を他所にベッドの横の椅子に座った山吹さんは、バッグの中から徐にクリアファイルを取り出した。
「はい、これ」
「……何これ」
「今日の授業のノート。ルーズリーフだけど勘弁してね」
クリアファイルの中には数枚のルーズリーフが。見ると、丁寧な字でやった事の無い範囲の内容が書かれてある。
「ありがとう……なんかごめん、僕の隣の席だからって」
「ううん、気にしないでいいよ。私がしたくてやったから。それより……」
「えっ、な、何……?」
覗き込むように見てくる山吹さんに対女性免疫能力ゼロの僕はしどろもどろに顔を背けてしまう。それに、何より近い。なんかすごいいい匂いがして頭がクラクラしそうになる。
「……うん。顔色も良くなってる。大丈夫そうだね」
「そ、そう……」
「心配したんだよー。朝君が来たと思ったら酷い顔してたんだもん。髪の毛もボサボサでクマは凄いし……目も死んでたよ」
「そうだったんだね……」
だから養護の先生も何も言わずにベッドを貸してくれたのか。納得納得。
「お昼の時も来てみたんだけど、君まだ寝てたからねー。いつ起きたの?」
「えっと、つい数分前だけど」
「……本当?」
「え、うん。そうだけど」
「……寝すぎじゃない?」
「うん。僕もそう思ってる」
さっきまで自己嫌悪に陥ってたくらいだし。
「何をやっていたのかはわからないけど、ダメだよ? ちゃんと寝なきゃ」
「は、はあ……」
「しっかり寝ないと生活リズムが狂うし、健康にも悪いよ」
「……」
「ちょっと、聞いてる?」
「へっ? あぁ、うん。聞いてる聞いてる」
まさか山吹さんに説教されるなんて……「ゲームでオールしたから」とか言ったら絶対怒られそう。
「本当にー?」
「本当だよ。まさか山吹さんに心配して貰えるとは思っていなかったからさ」
「……それってイヤミ?」
「違うよ。こう言ったらなんだけど、ほら、僕と山吹さんってあまり関わり無かったからさ。ただ席が隣なだけで」
「確かに、去年は違うクラスだったしね」
「だからさ、少し気になって。ああ、気を害すようだったら謝るよ。この通り」
謝る仕草を見せると、山吹さんは吹き出すように小さく笑った。
「さっきも言ったけど、私がしたくてやった事だから。東雲君は気にしないでいいよ。でも……強いて言うなら、君が弟みたいだったから、かな」
「僕が……弟?」
「うん。なんでかはわからないけど、なんだか甘やかしたくなっちゃうんだよね」
「……ぷっ。何それ」
その時、僕のお腹がぐぅと鳴った。
「あ……」
「……ぷっ」
今度は僕が山吹さんに笑われた。は、恥ずかしい。
「そういえば朝から何も食べてないや」
意識したら凄いお腹が空いてきた。
「ふふ、そうだろうと思って……はい、これ」
「何これ……パン?」
「うん。私の家、パン屋なんだ」
「何それ初耳」
「そうかなあ、去年の文化祭にも家のパン出したけど」
「……そうだったんだ」
「そうだったんだって……もしかして東雲君、去年文化祭来てない?」
「うん。風邪引いちゃってね」
「そうなんだ……なんかごめんね」
「ああ、いや、僕の体調管理ができてなかったせいだから」
言えない。その日は見てたアニメのイベントに幕張まで行ってたなんて言えない。
なんだか変な空気になってきたので、僕は山吹さんから貰ったパンを食べることで誤魔化した。
「あ……美味い」
「そう? なら良かった」
「うん……本当に美味しい」
「それ、私が考えたパンなんだよね」
「そうなんだ……うん。このガーリックが効いてていいね」
「本当!?」
ずい、と身を乗り出す山吹さん。さっきは気が付かなかったけれど、彼女からもほんのりとパンの香りがする。
「う、うん。生地の固さからフランスパンっぽいけれど、味はどっちかと言うと和風みたいな感じで、かと言って生地自体もそこまで固くないから食べやすいし、何よりガーリックがアクセントになってて凄く美味しい……」
ち、近い。山吹さんが近い。さっきより心做しか近い……!
「や、山吹さん……その、近い……です」
「え?……あ、ご、ごめん……」
僕との距離を見た山吹さんは顔を赤くして椅子の座り直す。
「……」
「……」
気まずい沈黙。山吹さんはずっと自分の膝に作った拳を見ている。顔もまだ赤いし、怒らせたの……かな?なら、謝らないと。
「あ、あの……なんかごめん。僕なんかが本職の人にこうやって講釈垂れて……迷惑、だった……よね。ごめん」
「い、いや、全然迷惑だなんて!違うの、その……」
山吹さんは言いにくそうに指先をもじもじしながら言った。
「わ、私が作ったパンをここまで具体的に褒めてくれるのは、東雲君が初めてだったから……」
「そ、そう……なんだ」
……なんだか僕まで恥ずかしくなってきちゃったぞ。どうしてくれんだい、この空気!
どちらも次の句を告げれずにいると、唐突にチャイムが鳴り響いた。
「……っ!」
「……っ!」
僕だけじゃなくて山吹さんもびっくりしたようで互いに目を見合した。
「……ふっ、くくくっ……」
「……ぷっ、あはは……」
どちらからともなく笑い合った後。
「……帰ろうか」
「うん、そうだね」
どうせ出る所は同じだからと僕と山吹さんは校門まで一緒に行く事になった。ちなみに、僕のバッグは山吹さんがHRが終わった時に保健室まで持ってきてくれていたみたいで、本当に僕みたいな人にも優しいなぁと思った。
別れ際、校門の前で山吹さんはこんな事を言ってきた。
「東雲君。今日はちゃんと寝ること」
「……え、なんで?」
「なんでって……そりゃあ……」
「そりゃあ……?」
「──っ!と、とにかく!明日は遅刻しないように学校に来る事!わかった?」
「う、うん。わかったよ」
「それじゃ、また明日!」
言うと、山吹さんはスタスタと去っていった。
「……僕、別に遅刻とかしていないんだけれど」
▪▪▪
その日の夜。ネトゲのデイリーを終わらせ、次に来るイベントだったり、近日発売のゲームのチェックの為に幾つものサイトを漁っていた。そろそろ新しいソフトが欲しいと思っているから、見るもの全部が欲しくなってくる。
次は何がいいかな。FPSかMMORPGか音ゲー系か、それとも変わり種のB級モノか。
何にしようかなと考えながらお金欲しいなとか思っていると、ピロンとスマホが震えた。誰かと思ったら母親からで、明日からまた家を空けるとの事。いやさ、同じ家にいるんだから直接言いに来いよ。アンタリビングでお笑い見てゲラゲラ笑ってるの知ってるんだからさ。
『了解』と返信してスマホの電源を落とす。なんだかんだ言ってもこの家に住まわせてくれるのも両親のお陰だし、今は外国にいる父親にしても感謝してもしきれない所もある。
「⋯⋯」
だからこれはほんの俺の気まぐれにしか過ぎないのである。再度スマホの電源を入れた。
『仕事頑張って』
「⋯⋯」
送信して、なんだかよくわからない自己満足に酔っていたら、今度はPCの方からメッセージを受信した。
『sinorinさん。今日どうですか?(((o(*゚▽゚*)o)))』
『こんばんわ、RinRinさん。(^-^)この後ですか?』
『こんばんわ。はい。今日がイベント最終日だって事をすっかり忘れてまして⋯(´・ω・`)』
『お、珍しいですね。RinRinさんともあろうものがイベントの日程を忘れるなんて』
『すみません。個人的に入り用があったもので⋯⋯』
『ああいや、別にそういうつもりで言った訳じゃないんですよ。わかりました、付き合いますよ』
『ありがとうございます!!o(*^▽^*)o』
ディスプレイの端の時計に目をやると、昨日市ヶ谷さんからメッセージをもらった辺りの時間になっていた。
⋯⋯うーん、どうしようか。明日も平日だし、RinRinさんももし学生とか社会人とかだったら⋯⋯。それに、僕も山吹さんに注意された手前、明日くらいはちゃんと学校に行っておくいた方がいいと思うし⋯⋯聞いてみるか。
『あの⋯⋯RinRinさん? 時間は大丈夫ですか(´・ω・`)?』
『えーと、わたしは問題は無いです。⋯⋯もしかしてsinorinさん、明日が早かったり⋯⋯』
『そうですね⋯⋯二時間くらいなら大丈夫ですよ』
『そうですか! 良かったです。では、お願いします!』
まあ、朝ご飯抜けば、大丈夫だよね。