パンガールの山吹さん(仮)   作:RyuRyu(元sonicover)

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最初のジョブは機能性重視かビジュアル重視か 四話

『おはよう!朝だよ起きてー(´∇`)』

 

朝5時半。そんなメッセージと数件の着信で僕は画面越しの人に無理矢理起こされた。

 

『おはよう』

 

とりあえずそんなメッセージを送ると、数秒して返信が来た。

 

『うん、おはよう。よく起きれたね』

 

はやい、はやいよ山吹さん。朝も早いし返信も速いよ。

 

『どうしたのこんな朝早くから。電話までかけて、何か用?』

『モーニングコールだよ』

『僕そんなもの頼んだ記憶が無いんだけれど』

『私がやりたいからやってるんだよ。君、弟みたいだし』

『そういえば一昨日も同じような事言われたけれど、弟みたいって山吹さんには姉弟でもいるの?』

『うん。弟と妹がね。それより、目、覚めた?』

『おかげさまで。こんなに朝早く起きるのも久しぶりだよ』

『それはよかった。それじゃ、また学校でね』

 

皮肉を軽く流して山吹さんは会話を締めた。

さてと、山吹さんには皮肉っぽく言ったけれどこの時間は起きている事はあってもこの時間に起きた事は久しぶりどころか初めてと言ってもいいのかもしれない。何が言いたいのかといえば、やる事が無い。

学校には八時に出ても充分間に合う。弁当も作らないし、朝の準備といっても朝ごはん食べて歯磨いて寝癖直して制服着ておしまい。10分あってくるレベル。という事でこれから二時間以上の空き時間をどう過ごしましょうか。山吹さんのありがた迷惑なモーニングコールのお陰で二度寝は見込めない。オール組のネトゲユーザーもそろそろ落ちる時間で、今からインしても侘しくソロプレイの未来しか待っていない……あれ、そういえば僕って基本ソロプレイだった。なら今からやっても問題無いね。よし、PCの電源を──。

 

『あ、時間があるからってゲームやっちゃダメだからね(`・д・)σ メッ』

 

……エスパーですかあなたは。そしてどこまで僕に気を使う。

やっぱり山吹さんが(ry。

 

「……シャワー浴びてくるか」

 

▪▪▪

 

「しーあわせはあーるいってこないだーからあーるいていっくんだね」

 

シャワーを浴びてから10分で出かける準備を済ませても、まだ1時間半も時間があった。ラノベを読んで30分は潰れたものの、本格的にやる事が無くなった為、1時間早いけれど仕方なく学校に向かう事にした。

まだ通学時間には早いのか、通学路には人の姿が見当たらない。

 

「いーちにーちいっぽーみーっかでさんぽー」

 

誰にも聞かれる事は無いだろうと僕は鼻歌を歌いながら歩いていた。

 

「いーっぽすすんでにほさーがるー」

 

あれ、戻ってんじゃん。マジかー、一日マイナス1歩だったのか文字通り後ろ向きだな。

あ、違う?知ってた。

くだらない脳内会話をしながら、改装中のコンビニを通り過ぎ、昨日山吹さんと別れた商店街へ。

それにしても早くコンビニ改装工事終わらないかな。じゃないと昼ごはんはあの購買へ行かなくちゃならないからなぁ。一昨日だってエナドリ買うのにわざわざスーパーまで行くハメになったし。ていうか改装するならそうと言ってくれれば良かったのに。とかそんな事を考えていたらこの前顔馴染みの店員さんに「近頃うち改装工事入るんですよ〜」と間延びした声で教えられたのを思い出した。なんで今思い出すんだよ馬鹿じゃないのか僕は。

自分で自分を殴りたい衝動に駆られながら歩いていると焼きたてパンとコーヒーと揚げたてコロッケの香りが同時に押し寄せるなんとも属性過多な交差点にさしかかった。

その中でも一際強い香りを放つのがパンの香り。なんだかどうしようもなくお腹が空くような香りをしている。

今日の昼ごはんはここで買っていこうかとパン屋のドアを開けた。

 

「いらっしゃいませ……あれ、東雲君?」

「……え、山吹さん?」

 

知り合いが店番をしていました。

 

 

 

▪▪▪

 

 

午前中の授業が終了するチャイムが鳴り響き、僕は屋上へ。昨日の曇天と打って変わって晴天の今日は吹き抜ける風が心地よい。

いつもの様にフェンスを背に座り込み、行きがけに買ったマッ缶と共に昼食を取り出す。

カシュッ、と子気味いい音を立てて喉に流し込む。

 

「あぁ〜」

 

五臓六腑に染み渡る甘さに思わず声が漏れる。やっぱり学校終わりのマッ缶は最高だね。まだ午前中だけれど。

そして取り出しましたるは山吹さんの家のパン。

紙袋に封印されていた芳醇なパンの香りが解放されて辺りに漂う。摂食中枢が刺激されてお腹が鳴る。

今朝、ふらっと立ち寄ったパン屋が山吹さんの家だとは思わなんだ。僕も驚いたし、山吹さんも驚いていた。その時は他にもお客がいて会話らしい会話はしなかったけれど、会計中にこっそり「おはよう」と微笑みかけられた時に「お、おひゃよぅ」とどもって噛んでしまった事は女性免疫ゼロの僕だから仕方の無い事だと理解して欲しい。

学校に着いてからは特に会話もせず、山吹さんは授業に集中し、僕は殆ど寝ていた。

 

「……いただきます」

 

取り出したチョココロネを一口齧る。うん、美味しい。チョコチップの食感がいいアクセントになっている。

あっという間にペロリと平らげ、マッ缶を呷る。これはこれで合う。口に残った甘いチョコを甘ったるいMAXコーヒーが洗い流していく。

 

「ああ、いたいた」

 

袋の中からもう一つチョココロネを出した時にふと、そんな声が聞こえ、パンともマッ缶とも違う香りが風に乗ってやって来た。

その方を向くと、噂をすれば何とやら、パン屋の娘の山吹さんがお弁当箱を携えて立っていた。

…………え、なんで?

 

「…………え、なんで?」

 

思った事がそのまま口に出てしまった。屋上の事は僕しか知らないし、山吹さんは授業が終わったと同時に戸山さんに呼ばれていったはず。

訳が分からずに脳内で“?”が横行していると、隣に座った山吹さんが訳を話してくれた。

 

「英語の先生にお使い頼まれてね。君に渡そうと思ったら屋上に行くのが見えたから、ついてきちゃった」

 

言って、山吹さんは僕に英語の課題を手渡した。昨日授業をサボった罰だそう。国語の先生といい、僕は教師陣に目でも付けられているのではないかと思う今日この頃。

 

「ついてきちゃったって……」

「うーん、風が気持ちいい〜。いい所だね、ここ」

 

伸びをする山吹さん。そうする事で図らずも強調される。どこがとは言わないけれど。僕だって男子高校生。否が応でも目がその方に向いてしまうのは避けられない事なのである。

でもまあ、ここがいい所だというのは全面的に同意できる。何せ、この学校で僕しか知らなかった場所なんだから。それも今日で僕だけじゃ無くなったけれど。

 

「そうだね」

 

そう言って、僕は昼食もそこそこで立ち上がる。はぁ、また新しい所探さなくちゃな。

 

「え、ちょっ、ちょっと待って」

「ん、何。どうしたの」

 

なんだか慌てた様子で山吹さんが僕のブレザーの裾を掴んできたんだけれど、一体どういう事だろうか。

 

「どうしたのって……東雲君、どこか行くの?」

「ここが山吹さんに見つかってしまったからね。僕は別の場所でお昼を食べるよ」

「そ、そう……」

 

思った事を正直に言ったら山吹さんが目に見えて落ち込んでしまった。僕何かマズい事言ったかなぁ?

 

「ね、ねえ東雲君!」

「何?」

「そ、そう!そのパンの感想を聞かせて欲しいなぁ、って……」

「このパンの事?」

「う、うん。今朝私が作ってみたやつなんだ。ほ、ほら、一昨日みたいにさ。ね?」

 

どこか必死さを漂わせて山吹さんが食べかけのチョココロネの感想をせがんでくる。

仕方なく、僕はその場でチョココロネを一口齧る。

 

「……うん。とても美味しいよ」

「そう。良かったぁ。あ、立ったままだと何だから座ってよ」

 

なんだか誘導されている気もしないでもないけれど、確かに立ったままでは山吹さんを見下ろすような格好になってしまい姿勢もきまりも悪いので座る事にした。

 

「それで、感想を詳しく」

「え、うん。えっと……」

 

ずいと身体を寄せて山吹さんは僕に迫ってくる。いや、だから近いって……。もうちょい距離感考えようぜ。

 

「まずパン生地だけれど、これってもしかして米粉使ってる?」

「うん!」

「やっぱり。普通のパンよりかはもっちりしていたからね。次にチョコなんだけれど、これは……ココアパウダーかな。味にコクが出て、もちもちのパン生地と絡み合ってまた新しい感覚だよ」

 

思った事を言い切ると、一昨日の保健室の時みたく顔を綻ばせる。その表情に僕は相変わらずドキッとさせられる。

確かに、自分で作り上げたものを誰かに評価して貰えるのは客観的な意見が貰える為重要な事だ。増してやそれが好評価だとしたら喜びも一入だろう。

 

「えへへ……」

 

だけれど山吹さん。少し表情を綻ばせすぎではないのでしょうか。なんですかそんなに蕩けてて可愛すぎるんですよちくしょう。

 

「あの、山吹さん……?」

「へっ?……あっ、うぅ……」

 

堪らず声をかけると山吹さんは現実に引き戻されて、顔の緩み具合に気がついて、耳まで赤くして俯いた。

なんか今日は山吹さんの違う面が知れたような気がする……って何を考えてんだろう僕は。

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