パンガールの山吹さん(仮)   作:RyuRyu(元sonicover)

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いろいろ自己満小説、第7話です。

主人公の対女性免疫ゼロ設定どこ行った。


プレ5が欲しい。 七話

「お前誰だ!」

「いやお前こそ誰だよ」

 

 いきなりドアを開け放って入ってきたのはランドセルを背負った子供だった。

 思わず僕も言い返してしまったけれど、よくよく考えれば、果たして誰なのかくらい考えなくてもわかる。

 

「あ、純。お帰り」

「ただいまお姉ちゃん。で、その人誰? カレシ?」

「違うよ。クラスメイトの東雲君。これ教えてもらってたんだ」

 

 山吹さんが画面を指差すと、それを見た純君が途端に目を輝かせた。

 

「あーっ! NFOじゃん!! え、なんで!?」

「ちょっと気になってね。買ってみたんだ」

「えー! いーなー俺もやりたい!」

「ちょっと待って。まだ私がやってるから」

「うー……わかったよ」

 

 純君は素直に納得して僕の隣に座った。

 

「……」

「……何、どうしたの?」

「……なんでもない」

 

 ぶすっと、ふくれっ面の純君。それがなんだか不貞腐れた山吹さんにどこか似てて、やっぱり姉弟なんだなと改めて感じた。

 

「えーっと……純君はNFOやってたの?」

 

 このままだと何かと手持ち無沙汰なので、普段はしない会話の振りを純君にした。

 

「やってねぇけど……友達も持ってるって言うし、ずっとやりたいとは思ってた」

「そうなんだ」

「それよりお前はどうなんだよ。NFO、やってんのか?」

「僕はお前じゃなくて東雲和基だよ。……そうだね。僕はPC版でずっとやってたよ」

「マジで!? ジョブは?」

「マジで。ジョブは今はダーククルセイダー。でももうすぐスキルもカンストするからそろそろ転職も考えてるよ」

 

 隣で純君が「うわーすげー!」と興奮している。

 

「ランクは!?」

「268」

「メインウェポンは!?」

「カラドボルグ」

「DLCは!?」

「もちろん全部コンプリ済み」

「すっげぇ〜〜〜〜!!」

 

 みたいな会話を後ろでしていたら、山吹さんに「うるさい」と窘められてしまった。

 

 

「ねえ」

「ん?」

 

 大人しく山吹さんのプレイ画面を見ていると、隣で同じように見ていた純君がコソコソと話しかけてきた。

 

「お前って姉ちゃんの彼氏なの?」

「違うよ。僕と山吹さんはクラスメイトだよ」

「ふ〜ん」

「……でもどうして?」

「いや、姉ちゃんがこうやって男の人を家に招いたのお前が初めてだからさ」

「……そ、そうなんだ」

 

 弟の純君が言うならそうなのだろう。

 さっきまで邪な考えをしていたのが申し訳なくなってくる。

 

「ねぇ、東雲君。ここってどうやって先に進めばいいの?」

「ん? ああ、ここは──」

 

 その後も、山吹さんの質問に僕が実践を交えて説明するのを横で純君が興奮と尊敬の眼差しで見る時間が、陽が沈むまで続いた。

 

「あっ、もうこんな時間」

 

 時計を見て山吹さんが焦った声を出す。

 

「そうだね。それじゃ、そろそろお暇するよ」

 

 立ち上がって、軽く伸びをする。

 帰り支度を済ませて、山吹さんと純君と玄関まで向かう。

 最初はよそよそしい態度だった純君もすっかり僕に懐いたみたいで、「知基兄ちゃん」と呼ばれるくらいにはフランクになった。

 

「えっと、来週学校でハガレン渡すけれど……それでいいかな?」

「うん。大丈夫だよ」

「それと、巻数が30弱あるから、分けて持っていった方がいい?」

「そうだね。30冊はちょっと重いかもだから……うん、それでお願い」

「了解。それじゃ、また学校で──」

「あら、もう帰っちゃうの?」

「あ、お母さん」

 

 玄関のドアノブに手をかけた時、リビングから千紘さんお玉を片手にがひょっこりと顔を出した。

 

「はい、少し長く居すぎたので。コーヒーご馳走様でした」

「そうなの。もし良かったら夕ご飯でもと思ったんだけど」

「いや、そこまでお世話になるのは……」

「構わないわよ。ほら、沙綾も寂しそうにしてるし」

「えっ、ちょっとお母さん!」

 

 山吹さんと千紘さんのやり取りに苦笑いしつつ、どうすればいいのかと僕は玄関に立ち竦む。

 そんな時、そんなやり取りを見ていた純君が声をあげた。

 

「知基兄ちゃん、夕飯一緒に食べようよ」

「え」

「じ、純?」

「俺も知基兄ちゃんともっと話したいから……ダメか?」

「うっ……」

 

 純君のそんな縋る様な顔に、思わず言葉が詰まってしまう。

 そのあどけない、純粋な瞳を前に「ごめん」と断れるだろうか。

 ……いや、断れない(反語)。

 

「……純君がそう言うなら」

「マジで? よっしゃ!」

 

 途端に顔を輝かす純君を見て、千紘さんも、「それじゃあ、私も腕によりをかけないとっ」とやけにはしゃぎ気味に台所へ戻っていった。

 

「……なんか、ごめんね?」

「まあ……うん」

 

 玄関口、僕と山吹さんの溜息が空しく響いた。

 

 

 

 

 

 

 ▪▪▪

 

 

 

 

 

 

 カチャカチャと、食器がぶつかり合う音が断続的に聞こえる。

 千紘さんのご好意で頂いた肉じゃがは本当に美味しかった。

 うちの母親はどちらかと言うと生活能力が無いタイプだから、こうやって誰かの作ったご飯を食べるのが本当に久しぶりで、食べながら少しだけジーンとした。

 ⋯⋯というのは、墓まで持っていくとして。

 ただ夕飯をご馳走になってはいさようならでは申し訳ないし、僕の気が済まないので、千紘さんに頼んで皿洗いをさせてもらっている。

 

「東雲君、お母さんの料理が泣きそうになるほど美味しかったの?」

「!?」

 

 危うく茶碗を落としそうになった。

 あれ、バレてる? なんで? 

 僕の狼狽えっぷりを見て、隣で僕が洗った皿の水分を吹き取っていた山吹さんがケラケラと笑う。

 

「あははっ、何で知ってるの? って顔してる」

「墓まで持っていくつもりだったのに……恥ずかしい」

「ごめんごめん。キミもそんな顔するんだって思っちゃって」

「山吹さんは僕をサイボーグか何かと思ってるの? 僕だって感情はあるからね」

「だからごめんって。……ちなみに、何でかって聞いてもいい?」

「もうこの際だから言うけれど、他言しない?」

「うん。言わない言わない」

 

 それなら、と僕はまた新しい食器に手をつけながら話し出す。

 

「……僕の家は父親が世界中を飛び回っていて、母親は仕事柄家を空ける時が多くて実質僕の一人暮らしなんだ。お陰で家事スキルは高いと自負してるけれどね。だから、さ……誰かの作ったご飯を食べる事が小学校の時に祖母の手料理を食べて以来だったから本当に久しぶりでね。その祖母も昨年亡くなって……それでちょっと思い出しちゃってね」

「そう、だったんだ……」

 

 話し終わって隣の山吹さんを見ると、見るからに気を落としていて、ここにきてしまった、と思った。

 

「ごめん、暗い話しちゃったね。でも、一人暮らしも捨てたものじゃないんだよ。まず、何するにも僕の自由だし、嫌でも生活力がつくからね。ゴキブリにも強くなる」

「ふふっ、何それ……」

 

 僕の精一杯の道化にクスリと笑う山吹さんにホッとする。

 

「そりゃあ、退治できるのが僕しかいないんだから『怖い』とか『キモい』とか言ってられないんだよ……あ、そこに何か黒いのが」

「ひゃっ……!」

 

 僕が泡まみれの手でキッチンの隅の方を指さすと、短い悲鳴をあげて山吹さんは身を固める。

 その反応が面白くて僕は思わず笑ってしまった。

 

「くくっ……冗談だよ……あははっ」

「え……も、もうー!」

「はははっ、さっきのお返しだよ。にしても山吹さんは虫とかダメなんだね……あー、面白い」

 

 僕に騙されたと悟った山吹さんは恥ずかしさからか顔を赤くして僕をジト目で睨みつける。その手に皿が握られてなかったら肩に一発喰らっていた所だろう。

 

「いでっ!?」

 

 と、思ったら皿を置いて殴られた。

 意外と重たい一発をもらって、さすろうにも泡だらけの手では触れない。

 じんじんと痛む肩越しにムスッと膨れっ面の山吹さん。

 

「ご、ごめんって」

「……」

 

 謝るも、山吹さんからの返答は返ってこない。

 ……あ、あれ、これって本格的に怒らせてしまったか……? 

 

「あ、あの……山吹さん?」

「……」

「あ、え、えーっと……」

「……ぷっ」

 

 泡のついた手でアワアワしていると、堪えきれなくなった山吹さんが吹き出す様に笑った。

 

「えっ……」

「あっはは、東雲君、凄い顔してる」

「えっ、あの……お、怒って……?」

「怒ってるよ。凄く怒ってる……あははっ」

 

 言っている事とは裏腹に口調や表情は全然そんな感じじゃなくて……あれ? 

 

「や、山吹さん……?」

「ふふっ、お返し」

 

 してやったりと笑う山吹さんを見て僕はまた山吹さんに一杯くわされた事を悟った。

 白い歯を見せて笑う山吹さんに少しだけドキッとして、「なんだか山吹さんには敵わない気がする」と僕は心の中で嘆息した。

 

 そんな時だった。

 背後で何かを強く床に叩きつけた音が聞こえて、思わずその方へ振り返る。

 そこには、店仕舞いの為に席を外していたはずの千紘さんがスリッパと殺虫剤を手にニコニコと立っていた。

 

「あら、ごめんなさいね。二人の邪魔しちゃって」

「……ひっ」

「……おおう」

 

 ニコニコ笑う千紘さんの足元には、既にこと切れた一匹の黒光りする生物。

 

「なんだか二人を見ていると昔の私と旦那を思い出しちゃって。若いっていいわね」

 

「……」

「……」

 

 僕と山吹さんは顔を見合わせ苦笑い。

 千紘さんの言葉につっこむ気すら起きなかった。

 

 

 

 

 

 ▪▪▪

 

 

 

 

 

 常夜灯の灯りが夜の商店街を等間隔に照らす。

 日中の賑やかな通りからは一変、店にはシャッターが降り、ドアには「CLOSE」の掛札が。

 活気で満ちた昼間とのギャップに、もしかしたらここはパラレルワールドなのかもしれないと、中学生の僕ならそう思っていただろう。

 それほどまでに静まりかえった商店街を僕は山吹さん宅からの帰途に就いている。

 背中には筆箱と財布と小説しか入っていないリュック。右手には、千紘さんから貰った肉じゃがの余り。

 僕と山吹さんのキッチンでの会話を千紘さんは、こっそりどころかちゃっかり後ろのダイニングテーブルでお茶を飲みながら聞いていたみたいで、僕がお暇する時にタッパー一杯の肉じゃがと、今日売れ残ったパンを袋に詰めて玄関口で渡してきた。曰く、

 

「一人暮らしって大変ねぇ。私の手料理と店の売れ残りでよかったら持っていってちょうだい。このパンも言っちゃえば手料理だから、一緒よね」

 

 とのこと。何が一緒なのだろうか。

 それでも、何かを貰えるのはとても嬉しい。特に、絶品だった千紘さんの肉じゃがとやまぶきベーカリーのパンなら、尚更。

 有難く受け取って、改めて週明けにハガレンを持ってくるのと、純君とNFOをする約束をして、今度こそ僕は山吹家を後にした。

 通りを吹き抜ける風は涼しく、夏にはまだ早いと思わせる。

 それもそうだ。まだ6月。梅雨にもなっていない。

 それに、休みが明けたら本格的に文化祭の準備が始まる。

 何故か僕の通う学校はこの季節に文化祭を行い、体育祭を10月に行う。

 ……逆じゃない? とも思わないでもない。

 それに、今年の文化祭は隣町の高校と合同で開催するらしい。

 なんでも、向こうの生徒会長がこっちの会長と知り合いみたいで、「やりましょう」「わかりました」で決まったとか。

 大人の意思が一切介在していないのが不安しか感じない。

 ともあれ、文化祭がどんな形になろうと僕のとるスタンスは変わらない。

 ──できるだけ、極力、目立たずにやり過ごす。

 改めて、その決意を固めて僕は家への道を歩く。

 

 なんだかんだ言って、楽しかったなぁと考えながら。

 ──思えば、自分の事を誰かに話したのは山吹さんが初めてかもしれない。

 それ程までに、僕は山吹さんに気を許しているのだろうか。

 ……いや、あの時は言わざるを得ない状況に僕が勝手に追い込まれただけで。

 あれ、でもあの時断っていたら別に言わなくてもよかったんじゃ……? 

 頭の中でそんな自問自答を繰り返す。

 

「……どうなんだ?」

 

 不意に口をついたその呟きは、夜闇に溶けて消えていった。




「いやぁ、青春してましたねぇ」
「ちょ、お母さん?」
「それにしてもいい子だったわね、彼。有望株かしら」
「ね、ねぇお母さん」
「ん?どうしたの沙綾。紗南ならお風呂だけど」
「そうじゃなくて!」

「早く床のそのゴキブリどうにかして!」
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