パンガールの山吹さん(仮)   作:RyuRyu(元sonicover)

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作者の、作者による、作者の為だけの自己満小説。第8話です。

好きな事には饒舌になる典型的なヲタクの主人公。


八話 冷たい水をください  できたらアイスティーください

「あ、山吹さん、タイミング見て回復しといて」

『りょーかい……あれ、何このエフェクト』

「それは味方の攻撃力アップと敵の守備力ダウンのバフだよ。ゲージの横に表示されてるでしょ」

『あ、ホントだ。……よし、回復したよ』

「おっけおっけ。それじゃ、僕がヘイト集めるからその隙にどんどん叩き込んで」

『はいよー』

 

 山吹さんがNFOのコンシューマー版を買ってしばらく。

 ある程度の操作に慣れたので、それぞれの自宅でオンラインでプレイする事になった。

 あれ以来、山吹さんの家に何度かお邪魔してNFOの指南役を務めて、山吹さんがプレイするのを僕と純君、たまに紗南ちゃんが後ろから見てるのが多かった。

 けれど、やっぱり自分の部屋で自分のPCでプレイするのが一番楽で落ち着く。

 

「もうすぐ倒せそうだね……仕方ないからLAボーナスは山吹さんにあげるよ。この前教えた技で倒せるから」

『それじゃあ、いただきます……えいっ』

 

 画面の中で山吹さんのアバター、《Saya》が放った攻撃が敵ボスに命中し、HPがゼロになる。

 それを見て、電話口から山吹さんの可愛らしい、『よしっ』という声が聞こえた。

 

「おめでとう。だいたいこの辺までが初心者用の強さかな」

『えっ、そうなんだ。ここからはどう違うの?』

 

 リザルト画面から、街中の背景に切り替わる時にそう訊ねてきた。

 画面に表示された街は石レンガ造りの建物がひしめき合い、石畳の上を馬車が走り抜け、中世のヨーロッパを彷彿とさせる。

 

「えーと、まず敵の強さのレベルが変わる。今までは数種類の物理攻撃しかなかったけれど、次からは魔法を使う敵も出てくるし、攻撃パターンもそれまでよりかは複雑になるんだ。それに──」

 

 僕はアバターを動かして通りの先に向ける。

 この街──アステラルは、ストーリーを進めるプレイヤーが初めて訪れる大きな街で、しばらくの間はこの街を起点にストーリーを進めた方が良かったりする。

 それに、それだけ大きな街という事は、新たに解放される新機能もこの街からなのが多い。

 

「あそこの宿屋。そこでギルドの結成だったり、登録だったりができる。ギルドっていうのは──」

『冒険者の連合みたいなもんだよな! ……ちょっと純!』

 

 どうやら向こうはスピーカーモードにしてあったみたいで、多分山吹さんの横か後ろで見てたのだろう、純君が割り込む様にして入ってきた。

 

「ああ、純君もいるのね。まあ、純君の言ってるので概ね合ってるよ。もっと言えば、冒険者──プレイヤーの組合みたいなものかな。ギルドメンバーで冒険に出ればドロップアイテムが倍になったり、一部のショップで割引が効いたり……まあ、ソロかギルドかって言われたら、間違いなくこのゲームはギルドにウェイトがかかってるかな」

『そうなんだよなぁ。友達も言ってたけど、このゲームはソロプレイヤーには厳しいよな』

「まあね」

『ちょっと純、もういいでしょ? ……ごめんね、純が』

 

 申し訳なさそうな雰囲気が電話口から伝わる。僕としては、全然問題無いんだけれどなぁ。こうやってボイチャでオンラインプレイするのも新鮮だし。

 

「いや、全然構わないよ。純君も見てるだけじゃつまらないだろうし」

『むー……まあ、東雲君が言うなら』

 

 なんだか釈然としない風に山吹さんが言う。何に拗ねてるのだろうか……うん、わからん。

 

「まあまあ、それと、ギルドの他にもまだあるんだ。ほら、あそこの神殿みたいな建物が見えるでしょ」

『うん。あれだね、パルテノン神殿みたいだね、ギリシャの』

「僕もそう思うから、多分製作側はそれをイメージして作ってるんじゃない?」

『かもね。で、そのパルテノン神殿みたいなのがどうしたの?』

「あの神殿でできるのは、このゲームの一番の魅力と言っても過言ではない──」

『過言、ではない……?』

 

 そう。過言ではないのだ。

 このNFOというゲームのメイントピックス、セールスポイント、アピールポイント……。

 この機能のお陰でNFOはネトゲ界隈のトップランナーであり続け、サービス開始から10年経った今現在で尚、数多のユーザーを引き込んでは離さない。

 まさにネトゲ界の生ける伝説。サッカー界のキングカズや声優界の山ちゃん、野球界の王貞治、ゲーム界の高橋名人と同じランクにこのNFOはある。

 僕が言葉を切った所で山吹さんが反駁した。

 心音がドクン、ドクンと胸を叩き、ゴクリと生唾を飲む音がやけに大きく聞こえる。

 そして僕は一つ息を吸い込んだ。

 

「──転職、さ」

 

 僕はキメ顔でそう言った。

 

『……』

「……あ、あれ? 山吹さん……?」

 

 おっかしいなぁ。てっきり、『えぇー』とか、『なんだってー』とか驚くと思ったんだけれどなぁ。

 電波障害かな? 

 

『ねえ、東雲君』

「は、はい?」

 

 電話口から聞こえる山吹さんの声はどこか呆れた様な、そんな声だった。

 というか、電話越しだから僕がキメ顔でそう言っても全く通じてない。

 

『わざわざためる必要、あった?』

「えっと、そこは文脈上で割と重要な場面で、他の文章との差別化を図ろうと……」

『いや、そんな微妙にメタいのは求めてないんだけど……と、とにかく、その神殿で転職ができるんだね』

「あ、ああ、うん。それまでは今の山吹さんみたいに職業──このゲームではジョブって言うけれど、《冒険者》で統一されてるんだ。剣と盾しか装備できないっていう、まあ言ってしまえばお試し職みたいなものだね」

 

 だから、この街まではどちらかというとチュートリアルの意味合いが強い。戦闘やその他諸々にとりあえず慣れてみよう、的な。

 

『なるほど。だからこの先の敵は強くなるんだね』

「まあ、そういう事」

『大体何種類くらい、その、ジョブ? はあるの?』

「そうだね。オーソドックスに《戦士》、《賢者》、《魔法使い》……。上位職の《ソードマスター》、《大賢者》、《黒魔道士》、《白魔道士》、《聖騎士(パラディン)》。特別職の《勇者》、《クルセイダー》系、《聖職者(プリースト)》系……ざっと40は下らないかな」

『へぇ、そんなにたくさんあるんだ』

 

 山吹さんが感心した声をあげる。今挙げたのも数あるジョブのごく一部であり、もしかしたら40と言わず50も60もあるかもしれない。

 

『ちなみに、東雲君のジョブは何なの?』

 

 今度ちゃんと数えてみようと思っていると、山吹さんからそんな事を訊かれた。

 

「今は《ダーククルセイダー》って言って、簡単に言えば闇堕ちしたクルセイダー。さっき言った上位職の《クルセイダー》の派生型で、特定のクエストのクリア報酬で開放されるんだけれど、大変だったなぁ……」

 

 なんせ、ラスボスクラスの魔物を残りHP1で物理攻撃のみで倒さなくてはいけないのだったから。マジで大変だった。2週間かかった。

 

「まあ、クルセイダーとかそういうのはメインストーリーが進むにつれて開放されたりするから、まずは基本職。《剣士》とか《魔法使い》から選ぶのがいいよ」

『なるほど』

「ここで立ち話するのも何だし、物は試しって事で早速転職してみない?」

『そうだね。それじゃ、そうしよっか』

 

 山吹さんのアバター、《Saya》を連れ立って神殿へと歩く。

 神殿の名は街の名を冠したアステラル神殿。……いや、『神殿』というくらいだから街が神殿の名を冠しているのか、どっちなんだろう。今までそんな事思いもしなかった。

 アステラルの街の最奥に位置し、長い階段を登った先にその神殿はある。

 そこはこの街のランドマークの様な感じになっていて、多くのプレイヤーの待ち合わせ場所としてもその役割を果たしている。

 神殿内へと画面が切り替わると、ちょうど夜間プレイ勢のログイン時間と被っていた、というのもあってか、それぞれ思い思いの装備を身につけたプレイヤーが跋扈していた。

 

『すごい人だね』

「そうだね。時間帯的にも今が一番ユーザーが多くログインする時間だから、今が1日で一番盛り上がる時間帯なんじゃないのかな」

 

 かく言う僕もこの時間帯にログインして、ソロプレイで高難易度ダンジョンに籠ったり、RinRinさんとかとクエストやったりしている。

 要は、学生だったり社会人が一斉にログインするのがこの時間帯なのだ。

 

「それじゃ、早速転職してみようか」

『うん』

 

 僕が声をかけると、立ち止まって神殿内を見回していた山吹さんは首肯して僕の後ろをついて歩く。

 このゲーム内で転職を司る神官は神殿の一番奥にいて、転職したいプレイヤーが話しかける事でコマンドが出現する。

 

『ねぇ東雲君、何かオススメのジョブってある?』

 

 山吹さんが神官にアクションを仕掛けているのを後ろで見ている時に、そう訊ねられた。僕からはジョブの選択画面は見えないけれど、多分十数種類ある初級職の一覧を上下にスクロールしている事だろう。思えば、僕もこの選択では10分くらい迷った記憶がある。いつでも変えられるとはいえ、初めてのジョブ。なんだかんだで慎重になったっけ。

 

「そうだね……山吹さんのやりたいスタイルに拠るかな」

『スタイル?』

「うん。例えば、前線に出て戦いたいっていうなら《戦士》、《剣士》。後方で仲間を支援したいなら《僧侶》。魔法が使いたいなら《魔法使い》。戦闘せずにものづくりや商売がしたいなら《商人》とか《製作者(クラフター)》。他にもいろいろあるけれど、一先ずはその辺から始めた方が良いと思うよ」

『なるほど……』

 

 僕の説明を聞いて山吹さんは、『うーむ』と唸るのが聞こえる。隣にいる純君にも相談しているみたいで、二人の話し声がヘッドホンを通して流れてくる。

 どうやら山吹さんは《魔法使い》で、純君は《剣士》で意見が別れているみたい。

 それがなんだか面白くて、思わず「フフっ」と笑みが零れた。

 

『ん、どうしたの?』

 

 おっと、聞こえていたみたいだ。

 

「いや、なんでもないよ」

『むぅ、気になる』

「なんでもないよ、本当に。それより、純君との話し合いは終わったの?」

『あ、うん。《剣士》にするよ』

「へぇ、てっきり後方系のジョブにするかと」

 

 現に、RinRinさん始め女性プレイヤーのほとんどはローブを装備できる《僧侶》や《魔法使い》系のジョブに就いている。

 だから、意見が別れても主にプレイする山吹さんの裁量で決めるものだと思っていた。

 

『まぁ、純もやるし……敵を攻撃するのも楽しかったから』

 

 そう言って、山吹さんは転職を完了させた。

 山吹さんとはパーティーを組んでいた為、彼女のステータス欄を見ると、ジョブが《冒険者》から《剣士》に変わっている。

 ……案外あっさり終わってしまった。てっきり、あれもこれもと迷うものだと思っていた。ショッピングに何時間もかけるみたいに。

 まあ、女子と買い物なんか行ったことも無いから知らないけれど。

 あ、でも男の方が優柔不断な傾向があるという説には成程納得できるかもしれない。現に僕がそうだったし。

 

「あっ、そうだ。山吹さん、まだちょっと時間ある?」

 

 転職も済ませ、今日はこれで解散しようかという時、ふとある事を思い出した僕は山吹さんに訊ねた。

 

『うん。私はまだ大丈夫だけど、どうしたの?』

「いや、大した事じゃないけれど、さっきギルドのメリットについて話したじゃん」

『ああ、ドロップアイテムが増えたりとかだっけ?』

「そう。で、なんだけれど。僕もギルドに入っていて、もし良かったら山吹さんも僕のギルドに入らないかい?」

『いいけど……大丈夫なの?』

「大丈夫って、何が?」

『その、要は顔も本名も知らない人とのコミュニティでしょ? やっぱり私、その辺が心配で』

「ああ、それなら心配しないで。人数も少ない小規模ギルドだし、僕もそういったコミュニティは苦手な方だから。それにギルドメンバーは皆信用できる人達だよ」

 

 まあ、山吹さんの考える事も分からなくもないけれど。

 僕だってそういうのを嫌ってソロプレイをやってるくらいだし。

 

「……って、ごめんね。僕の主観で『信用してる』って言っても信憑性無いよね」

『そんな事無いって。東雲君がそう言うなら、そうだと思うよ』

「……あ、ありがとう」

 

 ああ、なんていい人なんだ。山吹さんは。

 

「そ、それじゃ案内するよ。ついてきて」

『はーい』

 

 ギルドで借りてる部屋、ギルドホームは街の外れにある。

 このゲームでは、大きな街で部屋を借りる事ができる。セキュリティがしっかりしていたり、大きな街になればなるほど家賃が高くなったりとまるで現実世界と同じ感覚で借りられて、ジョブの一つに《不動産屋》があるくらい。

 その中でもアステラルは現実世界で言う吉祥寺や横浜みたいな『住みたい街ランキング』があったら上位に食い込むくらい人気の街で、全ての部屋にセキュリティシステムが完備されている。ギルド作る時に有り金全部叩いて買ったっけ。

 山吹さんと他愛無い話をしながら石レンガ造りの建物の3階まで上る。

 

「本当はギルドメンバーじゃなきゃ入れないんだけど、今回はゲストで招待してあると思うけれど」

『あ、これだね。……はい、承認したよ』

「今の時間は多分あこ姫だけかな。じゃ、入るよ」

「あこ……姫?」

 

 パスワードを入力すると、ガチャと解錠の音がした。

 後ろで山吹さんが何か考えているのを見ながら、僕はドアを開けてホーム内に入った。

 

『あっ、Sinorinさん! おかえりなさい!』

「ただいま。姫だけ?」

『はい! りんりんは少し遅れて来るみたいです』

 

 僕の予想違わずホームにはあこ姫、本名──いや、真名を《聖堕天使あこ姫》が手持ちのアイテムチェックをしていた。

 全く矛盾しきったそのプレイヤーネームから見ても分かる様に、オンラインゲームに一定数いる邪気眼系中二病キャラである。

 

「あれ、この声……」

 

 山吹さんの呟く声が聞こえたけれど、僕がそれを聞く前にあこ姫が訊ねてきた。

 ちなみに、あこ姫もボイチャを使用していて、ホームに入ると自動的にオープンチャットになるようになっている。

 声が聞こえる分、僕もゲーム内において彼女の事はは信用できる。ネカマとかじゃなくて本当に女の子だった時は驚いたけれど。

 

『あれ? Sinorinさん、後ろにいる人は……?』

「ああ、今日は見学なんだけれど、紹介するよ。現実世界(リアル)での友人の《Saya》。こちらは……」

『ふっふっふ……我が名は《聖堕天使あこ姫》! 魔界と天界が交わりし時に生まれた唯一無二の……えーと……』

 

 ここで姫が言葉に詰まる。毎度の事だけれど、もう少しボキャブラリー増やそうね? 

 

『ふふっ、やっぱり』

 

 継ぎ句が見つからずしどろもどろに姫を見て山吹さんがクスリと笑みを零した。

 

「え、やっぱり……?」

『うん。そうなんじゃないかなとは思ってた。よろしくね、あこ』

 

 やけに親しそうに山吹さんは姫の名を呼ぶ。山吹さんってこんなにフレンドリーな人だったっけ? 

 

『え、その声⋯⋯沙綾ちゃん!?』

「えっ⋯⋯、えっ?」

 

 ──世間は狭い。そんな事を思った僕だった。




オチが弱い。
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