もう一人の勇者   作:大和

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球児無双

「……はぁ。」

「大丈夫ですか?」

するとさすがに俺は苦笑してしまう

「いや、純粋に疲れが来ただけ。とりあえず大結界は第二結界までは魔力を詰め終わった。行方不明者のリストはそこの書類にまとめてあるし、倒壊した建物のリスト。修繕費は付箋をつけてある。」

「あの、私もお願いしてなんですけどもうほとんど寝てないんじゃ。」

「俺はこの世界に入ってから体力が多すぎて寝れないことが多々あるんだよ。それよりも姫さんもだろうが。」

「今は、寝ている暇なんてありませんからね。……死傷者、遺族への対応、倒壊した建物の処理、行方不明者の確認、外壁と大結界の補修、各方面への連絡と対応、周辺の調査と兵の配備、再編成……大変ですが、やらねばならないことばかりです。泣き言を言っても仕方ありません。お母様も分担して下さってますし、まだまだ大丈夫ですよ。……本当に辛いのは大切な人や財産を失った民なのですから……」

「……姫さんが寝てないのに俺が寝れるわけないだろうが。」

俺はそうやって書類を書きながら王国騎士団の再編成を行うため練兵場にて各隊の隊長職選抜を見ていた

「……大丈夫かい?大久保。」

一区切りをついていると天之河が俺たちに近づいてくる

「……まぁな。そっちこそお疲れ。」

「お疲れ様でした。光輝さん」

選抜試験における模擬戦で、騎士達の相手を務めていた光輝が練兵場の端で汗を拭っていると、そんな労いの言葉が響いた。

「いや、これくらいどうってことないよ。……2人の方こそ、ここ最近ほとんど寝てないんじゃないか? ほんとにお疲れ様だよ」

「いやそれお前もだろうが。」

俺は苦笑すると天之河は俺に真剣そうに聞いてくる

「……雫はどうだい?」

天之河はシズから俺とシズが付き合っていることを聞いたらしく最初は少しは戸惑いや嫉妬の気持ちで睨まれていたのだが……今ではなぜか前よりも少し仲がいいつーか話す頻度が上がってきている

「強がってはいるけど、以前よりもちゃんと不安を俺に自発的に話してきている分精神的な不安はないと思う。ただ少しやっぱり不安なんだろうな。あいつ白崎に支えられてきた節があるから少し目を離すと上を向いているから。」

「そうか。」

「そっちは?」

「あぁ、南雲からもらった神水のお陰で。」

「……そうか。」

「悪い。クラスメイトを助けることに夢中でそっちに毒を盛られていることを気づかなかった。」

「いや。龍太郎や鈴を救ってくれたからな。」

すると気になる名前が出てくる

「……谷口は大丈夫なのか?あいつ一番仲が良かっただろ?」

すると首を横に振る

「……そっか。」

多分シズの元気のなさは谷口や中村のことも少しはあるとは思う

シズのほうを見るとやはりまた上を気にしている

「彼等を……待っているのですね」

「そうだね。……正直、南雲のことは余り…信用できない…雫には会って欲しくないと思ってるんだけどね……」

「信用できないって思うのは勝手だけど、あいつらにしか頼ることができなかった俺らの責任でもあるだろうな。……元々俺の判断ミスが原因であいつを死なせたってこともあるし。」

俺はため息を吐くと少しだけ自分の力不足を感じる

もっと強くなりたい

心の底からそう思う

そう思った矢先のことだった

「えっ?大久保さん。光輝さんあれっ! 何か落ちて来ていませんかぁ!」

俺は上を見ると何やら空に黒い点が複数見え始めた。訝しそうに目を細めたリリアーナだったが、その黒い点が徐々に大きくなっていくことに気がつく

「へ? いきなり何を……っ、皆ぁ! 気をつけろ! 上から何か来るぞぉ!」

「球児!!受け止めて!!」

「へ?」

俺は避けようとした矢先そんな声が聞こえてきてしまって足を止めてしまう

そしてその瞬間

上からくる衝撃に声も出せず押しつぶされる

「球児!!」

するとシズの声が聞こえ俺の元に駆けてくる

「いつぅ。ってメイかよ。」

「ごめん。球児大丈夫?」

「大丈夫、大丈夫。これくらい平気。」

俺はよっと立ち上がると全員驚いたように俺を見る

「お前、どんな耐久力しているんだよ。」

ハジメがドン引きしたように俺を見る

「おう。ハジメ白崎は?」

「南雲君……香織は? なぜ、香織がいないの?」

シズは目の前に白崎がいないという事実に、やはり香織の死を覆すことなど出来なかったのではないかと、既に不安を隠しもせずに震える声で問いかけた。

ハジメは、それに対して、何とも曖昧な表情をする。

「あ~、直ぐに来るぞ? ただなぁ……ちょ~とだけ見た目が変わってるかもしれないが……そこはほら、俺のせいにされても困るっていうか、うん、俺のせいじゃないから怒るなよ?」

「え? ちょっと、待って。なに? 何なの? 物凄く不安なのだけど? どういうことなのよ? あなた、香織に何をしたの? 場合によっては、あなたがくれた黒刀で……」

「いややるとしたら白崎だろ?あいつ強くなりたいからってゴーレムに乗り移ってもおかしくはないぞ。」

俺は冗談でシズを抑えようとすると

「きゃぁああああ!! ハジメく~ん! 受け止めてぇ~!!」

俺達が何事かと上を見ると、何やら銀色の人影が猛スピードで落下して来るところだった。俺から見てもかなりの美しさを持つ銀髪碧眼の女が、そのクールな見た目に反して、情けない表情で目に涙を浮かべながら手足を無様にワタワタ動かしているという奇怪な姿を捉えていた。

「……えっ?白崎?」

「えっ?」

俺の言葉に全員が白崎の方を見る

「えっ?大久保くん私のこと分かるの?」

「いや、ハジメのことをくん付けで呼ぶのお前くらいだろ?いや、俺冗談で行ったんだけどまじで霊体移動させたのか?」

「気づくお前がすげぇよ。」

「禿同。」

するとメイとハジメに突っ込まれるけど

「お前らが大丈夫だって言っているからあいつは生き返せられるって思っていたからな。そう考えるとあれがハジメの好みを知ろうと何を思ったのかアダルドコーナーに突っ込もうとしてたのをシズに必死に止められていた白崎としか考えられないだろう?」

「ちょっと大久保くんなんでそんなこと知っているの!!」

あっやっぱり白崎だ

もちろん情報提供はシズである

「だってさシズ。」

「えっ?」

俺はそういうとシズはポロポロと涙を零しながら銀髪碧眼の女改め新たな体を手に入れた香織に思いっきり抱きついた。

「香織ちゃんが確実に生きていることを雫ちゃんに伝えるためだったんだ。」

「俺が気付いてもあいつが気づかなかったら意味ねぇだろうが。」

「……うん。」

俺がそういうとどこか寂しそうにメイはそういっていたのだが

「心配かけてゴメンね? 大丈夫だよ、大丈夫」

「ひっぐ、ぐすっ、よかったぁ、よがったよぉ~」

お互いの首元に顔を埋め、しっかりお互いの存在を確かめ合うシズと白崎。

誰もが唖然呆然としているなか、しばらくの間、晴れ渡った練兵場に温かさ優しさに満ちた泣き声が響き渡っていた。

 

「んで結局どういうことだ?」

シズが盛大に泣きはらした後俺の後ろに隠れているシズに変わって俺が聞く

シズ曰く恥ずかしくて見られてたくないということらしいのだがすごく今更な気がしたんだけど。

場所は、練兵場から移動して現在は光輝達が普段食事処として使用している大部屋だ。

「そうだな……簡潔にいうと。魔法で香織の魂魄を保護して、ノイントの遺体? 残骸? まぁ、その修復した体に定着させたってことだ」

「なるほど……全然わからないわ」

「……あぁそういうことか。」

「えっ?今ので分かったの?」

「まぁ、俺はメイのステータス見たことはあったからな。……神代魔法だろ?」

俺がそういうとハジメは頷く

「あぁ。やっぱりお前は魔人族との会話を聞いていたから分かるか。」

「そうだな。ダンジョンの突破ボーナスが神代魔法でそれを集めると日本に帰れる可能性があることだけは理解しているかな。魔人族の目的も神代魔法ってことも。」

すると全員が俺の方を見る

「さすが球児がいると話が早いね。」

「さすがに気づくだろ?ヒントはかなりあったし、てか、ハジメの言動は俺と情報を交換しようとしてたからな。」

「…あなたって本当そういうことになると頭いいのにテスト前になると毎回私に泣きついてくるのに。」

「野球と剣道やっていたら勉強する時間がないんだよ。」

「学生の本分は勉強ですよ!!」

すると先生が怒ってますという感じで言っていたが無視をする

「でも、なんでその体なんだよ。まさか俺が言ったように強くなりたいからそうしたってわけじゃ。」

「……お前の冗談ほとんど当たっているんだよなぁ。」

「まじ?」

 最初、ハジメは、香織の傷ついた体を再生魔法で修復し香織の魂魄を戻すことで蘇生させようとした。

しかし、そこで待ったを掛けたのが白崎だ。魂魄状態で固定されていても、〝心導〟という魂魄魔法で意思疎通を図ることは出来る。その魂魄状態の白崎が、話に聞いていたゴーレムに定着させて欲しいと願い出たのだ。ハジメなら、強力なゴーレムを作れるはずだと。

……うん。俺と白崎の思考がほとんど同じだったことが結構ショックだったんだけど

んで敵だったノイントという残骸の白崎の精神を固定させ、日本に帰る時ようにユエの魔法により凍結処理を受けて〝宝物庫〟に保管されているらしい

「……いや、シズから聞いていたからかなり突拍子もないことをしでかすって聞いてたけど。」

「……なるほどね。はぁ~、香織、貴女って昔から突飛もないこと仕出かすことがあったけれど、今回は群を抜いているわ」

俺はさすがに開いた口が塞がらなかったし、シズなんかは頭痛を堪えるように片手を額に添える

「えへへ、心配かけてごめんね、雫ちゃん」

「……いいわよ。生きていてくれたなら、それだけで……」

「ホントだよ。」

俺も少し笑顔が溢れる

「南雲君、ユエさん、シアさん、ティオさん。私の親友を救ってくれて有難うございました。借りは増える一方だし、返せるアテもないのだけど……この恩は一生忘れない。私に出来ることなら何でも言ってちょうだい。全力で応えてみせるから」

「……相変わらず律儀な奴だな。まぁ、あんまり気にすんな。俺達は俺達の仲間を助けただけだ」

「ツンデレ乙。」

「ぶっ飛ばすぞてめぇ。」

悪い悪いと軽く流す

「あの日、先生が攫われた日に、先生が話そうとしていたことを聞いてもいいかしら? それはきっと、南雲君達が神代の魔法なんてものを取得している事と関係があるのよね?」

ハジメは、雫の言葉を受けて先生に視線を向ける。先生は、コホンッと咳払いを一つするとハジメから聞いた狂神の話とハジメ達の旅の目的を話し、そして、自分が攫われた事や王都侵攻時の総本山での出来事を話し出した。そして真剣な目になって

「やっぱりエヒトは俺たちを日本に帰す可能性が低いってことで大丈夫か?」

「……知っていたのか」

天之河の言葉に全員が俺の方を見る

「気づかないのかよ。こいつらは帰ることが目的なんだよ。そう考えるとしたら俺たちのしていることが日本に帰ることになるんだったら多分力を貸しているはずだ。でもこいつらはダンジョン攻略が日本に帰る方法と明言している。だから異端者認定をしてまでもこいつらを殺そうとしたんだろ?エヒトの目的は多分俺たちの世界の侵略だろうからな。」

「「「「えっ?」」」」

「おい、どういうことだ?」

するとハジメも気づいてなかったのか俺の言葉に反応する

「いや、なんというかハジメを排除する理由について考えていたんだよ。元々力をあるのは確かだけどそれでも強制排除をするのにはさすがにおかしいんだよ。魔族との争いを考えるとハジメは何もしてないしな。そう考えるとハジメが元の世界に帰ったら困るんじゃないのかと思ってな。」

「それで考えたのが地球への侵略ってことね。」

「そう。んで召喚っていうのはあっちの世界の一般人がどれ位の力かを確かめる為。つまり生活水準を見極めるためだったと思うのが妥当だろうな。なんのために侵略するのかはわからないが。魔人族を殺せるだけの力がある。だけど侵略しようとしていたら、どこにも所属せずそれも日本に帰ろうとする奴が現れたんだ。それも神代魔法とかいう神に対抗出来るだけの力を持った魔法を手にいれてな。」

「……お前よくそんな発想が取れるな。」

「この三週間何もしてなかった訳じゃないんだぞ。俺も。」

そして俺はハジメの方を見るとするとため息を吐く

「……はぁ。まぁその言葉に上手く乗せられてやる。んでどうすればいい?」

「いや、まずは迷宮を全部クリアすることが先決だ。一応結界を張った後にすぐに攻略向かおうぜ。俺もついていくし。」

「だろうな。まぁお前ならいいよ。どう考えても役たたずってことはないだろうしな。」

「ついでに他の大迷宮の場所も後から教えてくれ。俺もできるだけ戦力アップしておきたい。」

「いいけど、クリアは……お前なら多分問題ないな。ついでに今のレベルは?」

「180。」

「……お主本当に人間なのかのう。」

すると遠い目をし始めるティオに苦笑してしまう

「それなら私も連れて行って。」

するとシズが手を上げる

「南雲君、お願いできないかしら。一度でいいの。一つでも神代魔法を持っているかいないかで、他の大迷宮の攻略に決定的な差ができるわ。一度だけついて行かせてくれない?」

「寄生したところで、魔法は手に入らないぞ? 迷宮に攻略したと認められるだけの行動と結果が必要だ」

「もちろんよ。神のことはこの際置いておくとして、帰りたいと思う気持ちは私達も一緒よ。死に物狂い、不退転の意志で挑むわ。だから、お願いします。何度も救われておいて、恩を返すといったばかりの口で何を言うのかと思うだろうけど、今は、貴方に頼るしかないの。もう一度だけ力を貸して」

「鈴からもお願い、南雲君。もっと強くなって、もう一度恵里と話をしたい。だからお願い! このお礼は必ずするから鈴達も連れて行って!」

するとそれを始めに勇者パーティーの女子が手を上げる

「……やはり、残ってはもらえないのでしょうか? せめて、王都の防衛体制が整うまで滞在して欲しいのですが……」

すると姫さんがそんな声が漏れる

「……神の使徒と本格的に事を構えた以上、先を急ぎたいんだ。香織の蘇生に五日もかかったしな。明日には出発する予定だ」

「いや明後日にした方がいいだろうな。白崎はその体になってからまだ日が浅いし、何よりも蘇生組が疲れがある。明日を完全休日にして疲労を取ることを優先した方がいいだろうな。」

俺が反論する。

「それに明日で結界は完全に回復するはずだ。一応俺と先生が魔力をつぎ込んできたんだし、内通者がいたから壊されただけで普通なら破壊できないってことは前回の進行でよく分かったしな。」

「えっ?」

「内通者がいないと結界を破壊できなかったんだろ?魔人族も被害が少なくはないし当分はおとなしくしているはずだ。動くんなら今しかないんだよ。それにハジメの壊れたアーティファクトを警戒するだろうしな。」

「……〝ヒュベリオン〟壊れていたの気づいていたのかよ。」

「一発しか撃たなかったからな。よく俺がゲームで使うやり方だからすぐ気づいた。」

「お前だけは絶対に敵に回したくねぇよ。」

ハジメは手を挙げる。とシズはそういえばといい思い出したように

「それで、南雲君達はどこへ向かうの? 神代魔法を求めているなら大迷宮を目指すのよね? 西から帰って来たなら……樹海かしら?」

「ああ、そのつもりだ。フューレン経由で向かうつもりだったが、一端南下するのも面倒いからこのまま東に向かおうと思ってる」

「移動手段は?」

「飛行艇を用意している。」

「こりゃまたベタだなぁ。」

俺が苦笑するとすると姫さんが何か思いついたように手を上げる

「では、帝国領を通るのですか?」

「そうなるな……」

「でしたら、私もついて行って宜しいでしょうか?」

「ん? なんでだ?」

「今回の王都侵攻で帝国とも話し合わねばならない事が山ほどあります。既に使者と大使の方が帝国に向かわれましたが、会談は早ければ早いほうがいい。南雲さんの移動用アーティファクトがあれば帝国まですぐでしょう? それなら、直接私が乗り込んで向こうで話し合ってしまおうと思いまして」

「……姫さんフットワーク軽すぎだろ。」

俺は少し苦笑してしまう

「送るのはいいが、帝都には入らないぞ? 皇帝との会談なんて絶対付き添わないからな?」

「ふふ、そこまで図々しいこと言いませんよ。送って下さるだけで十分です」

「てかそれフラグだろ。絶対めんどくさい事に巻き込まれるだろ?」

用心深い発言に、思わず苦笑いを浮かべるリリアーナだったが、天之河が再び発言する。

「だったら、俺達もついて行くぞ。この世界の事をどうでもいいなんていう奴にリリィは任せられない。道中の護衛は俺達がする。それに、南雲が何もしないなら、俺がこの世界を救う! そのためには力が必要だ! 神代魔法の力が! お前に付いていけば神代魔法が手に入るんだろ!」

「いや、場所くらい教えてやるから勝手に行けよ。ついて来るとか迷惑極まりないっつうの」

「てかその話まだだったな。てか俺はいいんだな。」

「お前があの程度で死ぬとは思えなくてな。」

すると全員が頷く

否定できないのが辛いところだ

「でも、南雲君、今の私達では大迷宮に挑んでも返り討ちだって言ってませんでした?」

「……いや、それは、あれだよ。ほら、〝無能〟の俺でも何とかなったんだから、大丈夫だって。いける、いける。ようは気合だよ」

「無理なんですね?」

「……球児以外な。」

「……俺本当人間やめているなぁ。」

俺は遠い目をしてしまう

「まぁ、俺はどうこう言える立場ではないけど、王国の防衛は。」

「それなら私が指揮をとります。」

すると先生が挙手する

少し意外な人選に少し驚くが

「それなら別にいいんじゃねーの。問題のあることがあればハジメが置いていくだろうし。」

「まぁそうだな。」

すると勇者パーティーは軽く喜び久しぶりの笑顔を溢れる

結局は見捨てない

その姿を見れただけ俺は少しほっとしながらほおを緩ませた

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