もう一人の勇者   作:大和

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弟子

翌日俺とシズそしてハジメとユエは王都をフラフラと歩いていた

というのも姫さんに俺が仕事を付き合おうとしたところ姫さんに今日1日くらいゆっくり休んでくださいと言われた後それならちょっと外でフラフラしてこようってことになりシズに声をかけ、ついでに大結界の修復をすることに行こうということになったんだが、偶然ギルドに向かおうとする2人と出会って一緒に行く事になったのだった。

「ギルド本部って……結局、何をしにいくの?」

ホットドッグモドキのチーズ風味をもきゅもきゅと頬張りながらハジメに尋ねるシズ。

「ん? ああ、依頼完了の報告を伝言してもらおうと思ってな。事が事だけに直接するべきなんだろうが、樹海に行くのにフューレンを経由するのは面倒だし。本部なら報告もきちんと対応してくれるだろう……」

「……報告って……もしかしてあのミュウって子のこと? そう言えば、姿が見えないけど……」

「まぁ、人攫いから帝国で奴隷にされるのをハジメが防いだってとこだろうな。……抱っこしたかったのか?」

「うん。」

「……まぁ少し分かるけど。」

俺は少し苦笑してしまう

ちょっと残念そうに眉を下げるシズに、ハジメがミュウが母親と無事再会できたことを伝えると少しだけ元気を取り戻せたようにしていたが続くユエの言葉に驚きで目を丸くした。

「……大丈夫。また会える。ハジメが日本に連れて行くから」

「……………………はい? 南雲君、どういうこと?」

「どういう事もなにも、そのままの意味だ。ミュウと約束したんだよ。俺の故郷に連れて行ってやるってな」

「え…いや…でも……ミュウちゃんは海人族の子よね?」

「アーティファクトで見た目を変化できる者が皇帝陛下が使っていたからアクセサリーとか父親の形見とか言って誤魔化せばなんとかなるだろうな。」

「そこらへんはお願いな。球児。」

「へいへい。分かってるつーの。でもアーティファクトは自分で作れよ。」

もう作戦は全部俺が考える事になりそうだと思うと

「あなたたち本当に仲いいわね。」

「いや、それをいうならお前と球児の方だろ?」

というのもハジメの意見はごもっともで今俺はシズと手を繋ぎながら歩いていた

「まぁ、彼女だしな。てかすげぇ今更感があるし。」

「そうなのよね。」

「……でもお似合い。雫はラスボスになるかと思っていた。」

「……ぶっちゃけそれは思っていたな。:

ユエの意見に俺も肯定する

「なんの?」

「いや。何でも。」

「……うん。」

「案外球児って女子と友達になりやすいよな?」

「そりゃ魔王様の親友ですから。親友の嫁達と仲良くなっておかないと将来大変だからな。」

「ちょっと待て。それ誰から。」

「俺も冒険者登録しているんだぞ。一応ゴールドだし。」

俺は金の冒険者マークを見せる

「……あぁ、納得。」

「そういえば香織のこと見てくれてる?」

「ん~? それは、本人に聞けよ。俺が何を言っても、結局はあいつがどう感じているかだろ? まぁ、俺としては、約束通り邪険にはしてないつもりだよ」

「約束は破らない奴だしそこらへんは心配しないでいいだろ?てか白崎を見てれば分かるだろうが。」

「そうだけど。」

すると意外そうに俺たちを見る2人。

「ん?どうした?」

「……いや、普段とは逆だなって。」

「いや。俺からみたらいつものシズの方がおかしいからな。こいつ結構泣き虫だし、甘えん坊だし。怖がりだし。」

「ちょっと球児。」

「…事実だろうが。てかお前以上に女の子らしい奴俺は見た事ないしな。」

「……へぇ〜。」

するとニヤニヤと笑うハジメにシズはうぅと顔を埋める

「「「……」」」

「な、何よ。」

「…なんかクラスの時の八重樫とは全く違うな。」

「お前がいうなって話だけどな。俺からしたらこっちの方がシズらしいんだけどなぁ、」

そうしながらもギルドの中に入る

すると

「「「「師匠!!!」」」」

「おう。元気だったか?」

「「「えっ?」」」

すると数人俺に向かって敬礼をしているのを俺は手を振る

「師匠。つい最近白ランクまでまで上がれたんですよ!!」

「おっ。よかったじゃん。」

「私たちもついに夢の銀ランクまで上がれたんですよ。」

すると俺の周辺に人が集まってくる

「あの、お前どういう。」

「いや、剣術について教えていたらなんか師匠って呼ばれ始めてな。もともとホルアドにいた冒険者なんだけど、なんか懐いちゃって王都に戻ってもいろいろ付き合いがあるんだよ。」

「師匠にいるところに私たちありです。」

「「「……」」」

「あっ。あまり気にしないでいいぞ。あの件の協力者だし。一応しっかり指導はしているし、それにこいつらソロでも70階層くらいなら普通にクリアできるから。メルドよりも強いぞ。」

「……あの、それ遠回しに光輝より強いって言ってない?」

「当たり前だろ?元々歴戦の戦士に少し剣術について教えただけだ。自分流にアレンジしてスキルに頼らなくても上手くなるのは当たり前のことだろう?元々緑ランクはあったわけだし。少しでもちゃんと自分の形を磨けばすぐに伸びる」

「あっ。ハジメみたいに魔改造じゃないんだ。」

「おい。その一言で心配になったんだけどお前一体何をした。」

するとハジメを見ると目をそらす

「そういえば球児って時々小学生の剣道教室に出ているって言っていたわよね?もしかして教えていたの?」

「あぁ。これでも結構分かりやすいって好評なんだぞ。」

「……意外。」

「元々球児って子供とか好きだから。」

「うっさい。」

俺は少し苦笑してしまう

「それで報告いくんだろ?」

「あぁちょっと待っていてくれ。」

ハジメは受付にたどり着く。そして、ステータスプレートを出しながら、ミュウをエリセンに送り届けた事を証明する書類も取り出して提出した。

依頼の完了報告なんだが、フューレン支部のイルワ支部長に本部から伝えてもらうことは可能か?」

「はい? ……指名依頼……でございますか? すいません、少々お待ち下さい……」

ハジメの言葉に、受付嬢が少し困惑したように首を傾げる。ギルド支部長からの指名依頼など一介の冒険者にあることではないので当然の反応だ。現に、ハジメの両隣りで手続きをしていた冒険者達がギョッとしたようにハジメを見ている。

受付嬢は、ハジメのステータスプレートを受け取り内容を見ると、澄まし顔を崩して冒険者達と同じようにギョッとした顔になった。そして、何度もステータスプレートとハジメの顔を見比べると、慌てて立ち上がる。

「な、南雲ハジメ様で間違いございませんか?」

「? ああ、ステータスプレートに表記されている通りだ」

「申し訳ありませんが、応接室までお越しいただけますか? 南雲様がギルドに訪れた際は、奥に通すようにと通達されておりまして……直ぐにギルドマスターを呼んでまいります」

「は? いや、俺は依頼の完了報告をイルワ支部長宛にして欲しいだけなんだが。それに、これから大結界の修復に行く予定なんだよ。面倒は勘弁してくれ」

こいつ俺たちの用事を面倒臭いとかの理由で使いやがった。

「え、え~、それは私も困るといいますか……すぐ、直ぐにギルドマスターを呼んでまいりますから、少々お待ち下さい!」

なお逃げられなかった模様だったが

俺もシズもため息を吐く。受付嬢は、それだけ言い残すとハジメのステータスプレートと依頼完了の証明書を持ったままピューと音が鳴りそうな勢いでカウンターの奥へと消えていってしまった。憮然とするハジメ。そんなハジメに、

「自業自得。」

と俺は軽くハジメの肩を叩くとシズが頷く

そしてしばらく待つとギルマスが俺の顔を見るなり握手を求めてくるなど色々あったのだが倒事はなく、イルワからハジメの事で連絡が来ていたので一目会っておきたかっただけらしい。

それだけならよかったのだが

「バルス殿、彼等を紹介してくれないか? ギルドマスターが目を掛ける相手なら、是非、僕もお近づきになりたいしね? 特に、そちらの可憐なお嬢さん達には紳士として挨拶しておかないとね?」

すると金髪のイケメンが俺たちに絡んでくる。バルスが、ハジメをアベルと同じ〝金〟ランクだと紹介する。周囲のざわめきが一気に酷くなり、ハジメと俺は心底面倒そうな表情になる。ユエとシズを連れてさっさとギルドを出ようとするハジメだったが、アベルの興味は確実にユエとシズに向いており、簡単に行かせるつもりはないらしい。

「ふ~ん、君らが〝金〟ねぇ~。かなり若いみたいだけど……一体、どんな手を使ったんだい? まともな方法じゃないんだろ? あぁ、まともじゃないんだから、こんなところで言えないか……配慮が足りなくてすまないね?」

「……うわぁ。めんどくさ。」

俺はつい本音を漏らしてしまう

俺たちの実力から見たらそこのゴミくらいの存在なのに

「……なぁ、八重樫。こういう残念なイケメンはお前の担当だろ? 劣化版天之河みたいだし、専門家に任せた」

「誰が何の専門家よ。大体、人の幼馴染相手に何てこと言うの。光輝はここまで残念じゃない……わよ? ……多分、きっと……というか残念通り越して哀れじゃない」

「……雫、意外に言う。でも激しく同意。」

「まぁ、最悪武力行使ってことで。いいな。」

「容赦ねーな。」

そんな事を言いながらもごく自然にスルーしてアベルの横を素通りしていった。おそらく〝金〟となってからここまで適当な扱いを受けたことがないのだろう。侍る女達も険しい眼でユエ達を睨みつけている。

めんどくさと思いながらため息をついた時不意に野太いのに乙女チックな声がハジメ達にかけられた。

「あらぁ~ん、そこにいるのはハジメさんとユエお姉様じゃないのぉ?」

ハジメは、その声に正体不明の悪寒を感じたのか、咄嗟にドンナーに手をかけながら身構えた。そして、ハジメ達が振り向いた先にいたのは……と見開いた眼を向ける筋肉の塊だった。劇画のような濃ゆい顔に二メートル近くある身長と全身を覆う筋肉の鎧。なのに赤毛をツインテールにしていて可愛らしいリボンで纏めている挙句、服装がいわゆる浴衣ドレスだった。フリルがたくさんついている。とってもヒラヒラしている。極太の足が見事に露出している化け物がいた

「「……」」

俺とシズは顔を少し引きつらせる

えっまじでこいつらとお前ら知り合いなのか?

俺はハジメにそんな目線を見せると首を横に振る

「ひっ、よ、寄るな!僕を誰だと思っている!〝金〟ランクの冒険者〝閃刃〟のアベルだぞ!それ以上寄ったら、この場で切り捨てるぞ!」

「まぁ、酷いわねん!初対面でいきなり化け物だの殺すだの……同じ〝金〟でも店長とは随分と違うわぁ~。でも……顔は好みよん♡」

思わず悲鳴を上げるアベルに呆れた表情を向ける彼? 彼女? だったが、アベルのルックスについては好みだったようで、ジリジリと近づいて行く。獣のように眼をギラギラ光らせ、ペロリと舌舐りまでしながら。

「来るなと言っているだろう! この化け物がぁ!」

アベルは得体の知れない恐怖に堪え切れず、遂に剣を抜いた。仮にも〝金〟ランク冒険者の攻撃だ。漢女の命は風前の灯かと誰もが思ったが、

「アホか。そいつあんたよりも格上だ。」

俺は小さく呟く

残像すら発生させるスピードでアベルとの距離を一瞬で詰めた漢女は、片手でアベルの剣を弾き、そのまま組み付いたのだ。いわゆるサバ折り体勢だ。

アベルの体からミシッメキッと音が響き、必死に逃れようとしている。しかし、何故か筋肉の拘束を抜け出せないようで、ジタバタともがいている内に、アベルの悲劇タイムが始まってしまった。

「ぬふふ、おイタをする子にはお仕置きよん♡」

「よせぇ! やめっむぐぅう!?」

アベルがビクンッビクンッと痙攣し、しばらくしたあと、その手から剣がカランと音を立てて床に落ちた。その様はまるで、一つの花が手折られたよう。さすがに同情を隠せない

「……この隙に逃げないか?」

俺は小さな声で提案する。

「賛成。」

するとハジメもすぐさま頷くとギルドから出ようとすると

「お、おい、お前! 同じ〝金〟だろう! なら僕を助けろ! どうせ、不正か何かで手に入れたんだろうが、僕が口添えしてやる! お前如きがこの〝閃刃〟の役に立てるんだ! 栄誉だろう! ほら、さっさとこの化け物をなんとかしろよ! このグズが!」

と言った瞬間かなりの数のクナイが飛んでくる

それも一投も外さず綺麗に急所だけを外して

「師匠、あとはお任せください。師匠のことを悪くいうやつは少しお話しないといけないので。」

すると唯一の女性冒険者のマナがそんな物騒な声で殺気を抑えながらいう

「お、おう。」

「それじゃあすいません。おいてめぇ。人の師匠に向かって何してくれとるんじゃ。」

すろとおよそ10人くらいの冒険者がアベルを引きずりギルドの奥に引きずっていく

「……はぁ。やっぱ、弟子は師匠に似るのかな。」

「自分でいうのねそれ。」

裏表があることは自覚しているしな

そこへ先程の漢女が声をかけてきた。

「久しぶりねん? 二人共、変わらないようで嬉しいわん」

「……いや、誰だよ、お前。クリスタベルの知り合いか?」

ウインクする漢女に、ハジメが警戒心もあらわに尋ねる。ブルックの町を出る際にクリスタベルに襲われたのは軽くトラウマなのだ。改めて、近くでその異様を目の当たりにしたシズも、普段の社交性は何処に行ったのか、思わず頬を引き攣らせながら、さりげなく俺を盾にするような位置に下がる。

俺は何とか営業スマイルを作りながら対応していた

「あら、私としたことが挨拶もせずに……この姿じゃわからないわよねん? 以前、ユエお姉様に告白して、文字通り玉砕した男なのだけど……覚えているかしらん?」

「……あ。ホントに?」

「…おい。玉砕ってお前。」

男子の痛みを知る俺にとってかなり残酷な仕打ちにさすがに震えが止まらない

「あの時は、本当に愚かだったわん。ごめんなさいね? ユエお姉様……」

「……ん、立派になった。新しい人生、謳歌するといい」

「うふふ、お姉様ならそう言ってくれると思っていたわん。そう言えば、最近、続々とクリスタベル店長の元に弟子入りを望む子達がやって来てるのよ。確か、元〝黒〟ランクの冒険者や何とかっていう裏組織の子達やホルアドを拠点にしていた元傭兵の子達とか……それもあって、店長が店舗拡大を考えているのよねん。今日は、その下見に来たのよん」

「……」

俺は軽く冷や汗が垂れる

こんな化け物が大量にいる世界なんかさすがに溜まったところじゃない一刻も早く、この世界を脱出するべきだと決意を新たにした。


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