もう一人の勇者 作:大和
「んでとりあえずここが大結界の魔力を注ぐ場所だな。」
俺が案内すると ほとんどの人が顔見知りなので顔パスで通った先には大理石のような白い石で作られた空間があり、中央に紋様と魔法陣の描かれた円筒形のアーティファクトが安置されていた。そのアーティファクトは本来なら全長二メートルくらいあったのだろうが、今は、半ばからへし折られて残骸が散乱している。
「ウォンベンさん。ちょっとこっちに。」
俺は小さく手を振ると
「おや?球児殿と雫殿ではありませんか。……どうしてこちらに?」
「ちょっと色々あってアーティファクトを修復できる錬成師を連れてきたんだよ」
「なんですと? もしや、そちらの少年が?」
俺がそういうとハジメは睨みつけてくるが目線でさっきの貸しを返せと俺は睨みつける
というのも元々は予備の結界に俺と先生は魔力を込めていたので完全修復は元々は頼まれていない
でも俺は少し王都に貸しを作れるんじゃないかと少し考えていたのだった
「へぇ、なるほど……そりゃあ、強力なはずだ」
「ふん、小僧如きになにがわかる」
錬成〟を始めた。紅いスパークがハジメを中心に広がり、その手元にあるアーティファクトの残骸が次々と元の位置に融合されていく。
その錬成速度と精度に、ウォルペンのみならず彼の部下達が一斉に目を剥いた。ハジメの本格的な〝錬成〟を初めて見た俺とシズ、白い空間に舞い散る鮮やかな紅いスパークに目を奪われてしまう
「綺麗……」
「すげぇ。」
そして数十秒でアーティファクトを修繕し終えると魔力をつぎ込み始める
円筒形のアーティファクトは、その天辺から光の粒子を天へと登らせていく。直後、外で警備をしていた兵の一人が部屋に駆け込んできて、第三障壁が復活したことを告げた。
「……なんということだ……神代のアーティファクトをこうもあっさりと……」
「まぁ、異世界人で勇者の1人ですから。」
「どうりで。」
「ついでに私の黒刀も球児の赤刀も南雲くんが作ったのよ。」
とハジメの説明を終えるとそれじゃあ次と言おうとした矢先だった。
「待って下されぇーー!! 弟子に! 是非、我等を弟子にして下されぇーー!!」
「うぉ! な、なんだよ、突然。ていうか足にしがみつくな! 気持ち悪ぃてのっ!」
「……あぁ、お前が言っていた職人魂か。確かにこれはすげぇな。」
俺もさすがに苦笑してしまう
足にしがみついてハジメに弟子入りを懇願するウォルペン。更に、次々とウォルペンの部下の錬成師達が逃がしてなるものかとハジメにしがみついていく。毛むくじゃらのオッサン達が密着してくることに心底嫌そうな顔をしながら、足を振り回して振り落とそうとするハジメだが、がっしりしがみつかれているので中々外せない。
仕方ないので〝纏雷〟を発動して全員をアバババババッさせて引き剥がす。それでも、這いずって手を伸ばしてくる職人達に、流石のハジメも無視できず、ドン引きしつつもきちんと断りを入れることになった。
「あのな、俺は直ぐにここを出発するし、王都に戻って来る予定も当分ないんだ。弟子なんてとっても面倒いだけだし、第一、弟子になったところで教えられることなんか何もないんだよ」
「ですが、アーティファクトをあっさり修復し、雫殿の黒刀まで手がけたと。我等にはどうやったらそんなことが出来るのか皆目見当も付きませんぞ。それを教えていただければ……」
「いや、これには〝錬成魔法〟だけじゃなくて〝生成魔法〟っていう、あんたらには使えない魔法が必要なんだよ」
「そんな……」
「あぁ、そういやメイも持っていたな。」
俺は昔見たステータスを覚えていた俺は少し苦笑してしまう
「とりあえず今日のところはこれで。」
と俺が区切ろうとすると
「それでも、貴殿の錬成技能が卓越していることに変わりはない! 是非、弟子にぃー!!」
「しつけぇよ!」
するとどんどん増え始める職人たちに俺たち3人は目線を合わせる
『戦略的撤退だ。いいな。』
『『うん。(えぇ)』』
全員の意識が一緒になった中で俺たちは戦略的撤退で王宮に逃げ込み姫さんにそれを報告する
結局王宮に貸しを作るどころか借りができたことは言うまでもなかった
「八重樫、球児……助けてくれても良かったんじゃないか? お前ら、あいつらと知り合いだろ?」
どこかくたびれた様子で王宮に戻って来たハジメが、先に戻って優雅にお茶と洒落込んでいた俺たちにジト目で文句を言う。
「と言ってもなぁ俺たちも巻き込まれたことがあって。」
「そうね。無茶言わないでよ。……黒刀の件でもお世話になったのだけれど、だからこそ、火のついた彼等を止めるのは無理だってわかっていたのよ……」
「……ハジメ、お疲れ様」
お茶を飲んで一息ついたハジメの頭を抱き寄せて撫で撫でするユエ。ハジメはユエを一度ギュッと抱き締めると、そのままお姫様抱っこしてシズの向かいの席に腰を下ろした。
「……なんなのかしら、この胸に燻るイラっとする気持ち。ユエも行動は同じはずなのに……」
「は? ユエと八重樫が同列なわけないだろ? お前相手なら腹立つことでも、ユエなら問題ない」
「うん、ユエは貴方の恋人なのだし、言っていることはわかるのだけれど……今、無性に貴方を殴りたいわ」
「お前は球児にやってもらえばいいだろ?」
「あのな。こいつハグしただけでも顔を真っ赤にして丸一日俺から顔を背けるくらいにウブな奴なんだぞ。そんなことしたら真面目に気絶するぞ。」
「……お前苦労してるな。」
「いいよ。もう慣れたから。」
なんか居た堪れなくなった雰囲気にそうだと思い少しからかってやろうと少しだけ笑う
「シズ。」
「何?」
「ほれ。」
俺はシズにケーキを一つ食べやすいくらいに掴みそれをシズの口の方に向ける
「えっ?」
「少しくらい恋人らしいことさせろよ。ほら。あ〜ん。」
すると軽くどんな反応をするのか試してみたくなったこともあったし少しやって見たかったことを少しやってみようと思った。
ハジメもユエも俺の意図がわかったのかニヤニヤしているし
するとシズは顔をトマトみたいに真っ赤になりながら口に入れる。
でもさすがに少し恥ずかしいなこれ
「……」
でも照れているシズはなんというか
「……可愛い。」
「これ破壊力高すぎだろ。」
俺たちどころかハジメたちも目線が逸らすくらいの破壊力がありさすがに目を逸らしてしまう
すると突然、ハジメ達のいる部屋の扉がノックもされずにバンッ! と音を立てて開け放たれた。
何事かと、そちらに視線を向けた俺達の目に映ったのは、十歳くらいの金髪碧眼の美少年が、キッ! とハジメを睨む姿だった。しかも、ユエを膝の上に乗せていることが気に食わないのか、一瞬、ユエを見たあと更に目を吊り上げ、怒りを倍増しで滾らせたようだ。
あれこいつって
「お前か! 香織をあんな目に遭わせた下衆はっ! し、しかも、香織というものがありながら、そ、そのような……許さん、絶対に許さんぞ!」
あっこいつバカ王子だ。
俺はちょっと面白そうだし見学することを決めると王子が拳を握り締め「うぉおおおお!」と雄叫びをあげながら勢いよくハジメに向かって駆け出した。殴る気満々である。
するとシズもそのやりとりに少し面白そうに見ている
結局俺とシズが結構似ているのである
ハジメは、訳がわからなかったが、取り敢えずテーブルから紅茶用の角砂糖を手に取ると指弾の要領で弾き飛ばした。ありえない速度で放たれた角砂糖の弾丸は、狙い違わずランデルの額を正面から撃ち抜き、「ひぐぅ!」という奇怪な悲鳴を上げさせて、そのまま床に後頭部から叩きつけた。
額と後頭部の激痛という二重苦に頭を抱えながら転げ回るランデル。しばらくのたうち回った後、起き上がって再び、ハジメをキッ! と睨みつけ突進しようとした。
なので、ハジメは第二射を放つ。バチコンッ!という音と共にランデルの頭が大きく後方に仰け反る。砕けた角砂糖が宙に舞い散り、ランデルは華麗な強制バク転を決めて再び床に沈んだ。
うわぁ大人げない。
「で、殿下ぁ~! 貴様ぁ~、よくも殿下ぉ~!」
「叩き斬ってやる!」
「殿下をお守りしろ!」
ランデルが開け放った扉から、彼を追いかけて来たらしい老人や護衛っぽい男達がいきり立ってハジメに飛びかかった。
バチコンッ! バチコンッ! バチコンッ!
当然、角砂糖の弾丸が全員の額を綺麗に撃ち抜き後方へ一回転させて、ある意味芸術的な土下座を揃って決めさせた。
俺はその姿を見て笑いをこらえてしまうけど、しかし、まだまだ騒動はおさまらずハジメを睨みながら立ち上がろうとする。いい根性だと思いつつも、ハジメは、取り敢えず瓶から角砂糖を鷲掴みにして取り出し全弾撃ち放った。
チュチュチュチュチュチュチュチュイン!
そんな有り得ない音を出して角砂糖の弾丸がマシンガンの如くハジメの手から弾き出され、ランデル達は出来の悪いマリオネットのように床をのたうち回った。
角砂糖なのでダメージは抑えられているのだが、それでも痛いことに変わりはない。口をポカンと開けて呆けていた雫が、ようやく我に返りハジメを制止しようとしたとき、室内にシクシクとすすり泣く声が聞こえ始めた。
ちょうど角砂糖もなくなったので指弾を止めていたハジメがランデルを見ると、彼はまるで暴漢に襲われた女の子のように両足を揃えてしなだれながら、床に顔を埋めてシクシクと泣き声を上げていた。どうやら、ハジメの容赦ない攻撃に心が折れてしまったらしい。
周囲のおっさん達が、「殿下ぁ~! 傷は浅いですぞぉ!」などと叫びながら駆け寄り必死に慰める。
「……これはひどい。」
俺はそういうとシズはため息を吐き俺の隣に座る
そしてケーキを食べ始めたところで姫さんがやってくる
そして状況を理解したのか片手で目元を覆うと天を仰いだ。
「遅かったみたいですね……」
「姫さんか。何か知らんがお宅の弟さん情緒不安定みたいだぞ? さっさと回収してくれないか?」
ハジメは俺が姫さんと呼んでいることから同じく姫さんと呼ぶことになったらしい
「多分白崎のことだろ思うけど俺とシズは何もしてないからな。どうせ止めても無駄だと思ったし。」
「えぇ。分かってます。わかってますけど。」
「姫さん夕食時に愚痴に付き合うからそれで勘弁。」
すると一度頷くと王子をなだめ始める。「姉上ぇ~」と抱きついたランデル。その様を見て、流石のハジメも、少々やりすぎたか? と頬をポリポリと掻いた。シズから、大人気ないという呆れの視線を送っている
そして俺は気配感知からさらに面白そうな気配が近づいてくるのを感じていた
「あっ、ランデル殿下、それにリリィも……って、殿下どうしたんですか!? そんなに泣いて!」
「か、香織!? いや、こ、これは、決して姉上に泣きついていたわけでは……」
姫さんからバッと離れる王子だけどもう遅い。さすがに好きな人の前で家族に慰められているところを見られるなどかなりの屈辱としかいいようがないだろう
しかし、香織は、王子が泣いている状況とハジメの態度、シズとリリアーナの表情で大体の事情を察し、久しぶりに爆弾を落としていく。
「もう……ハジメくんでしょ? 殿下を泣かしたの。年下の子イジメちゃだめだよ」
「いや、いきなり殴りかかってきたから、ちょっと撫でてやっただけだって……」
「撫でるって……ちゃんと〝手加減〟してあげたの? 殿下はまだ〝子供〟なんだよ?」
これはかなりの致命傷だな。好きな人から子供扱いってさすがにかなりくるものがあるだろう
「ああ、ちょっと角砂糖弾き飛ばしただけだぞ? ダメージなんてほとんどないだろう。流石に、子供相手に銃撃したりしねぇよ」
「でもリリィに〝泣きついて〟いるじゃない……それにほら額が赤くなってる。せっかく〝可愛らしい顔〟なのに……殿下は、ちょっと〝思い込みが激しくて〟〝暴走しがち〟だけど、根は〝いい子〟だから、出来ればきちんと〝相手をしてあげて〟欲しいな……」
「……お前の幼馴染ってかなり容赦ないな。」
俺はさすがに笑顔がひきつり同情してしまう
「あの子悪気はないんだけど。」
「余計にたちが悪いな。」
俺はさすがにかわいそうに王子のことを見てしまう
「殿下、大丈夫ですか? やっぱり打ち所が悪かったんじゃ……」
「……いや、怪我はない。それより……香織……香織は、余のことをどう思っているのだ……」
満身創痍の王子は、思い切って白崎の気持ちを聞く。
「殿下のことですか? そうですね……時々、リリィが羨ましくなりますね。私も、殿下みたいなヤンチャな弟が欲しいなぁ~って」
「ぐふっ…お、弟……」
あいつ刀を思いっきり死んだ王子にさらに切りつけているぞ。
ハジメも白崎にかなり引いているし
「では……あんな奴がいいというのか? あいつの何処がいいというのだ!」
……少しぶん殴りたくなったがでもそれを少し堪えると白崎がついにとどめを刺した
「え? な、何ですか殿下、いきなり……もう~、恥ずかしいですね。でも……ふふ、そうですよ。あの人が私の大好きな人ですよ。何処がって言われたら全部、としか……ふふ」
うわぁ。俺が言えたことではないけど頭の中お花畑だなぁ
再び俯いたランデルは四つん這いのままプルプルと震えだす。それを心配して白崎が手で背中をさすりながら声を掛けるが、ランデルはガバッ! と勢いよく起き上がると白崎の手を跳ね除けて入口へと猛ダッシュした。
そして、一度、扉のところで振り返ると、
「お前等なんか大っ嫌いだぁぁああああああ!!!」
と叫び去ってしまった
「……青春だなぁ」
俺はつい紅茶を飲みながら呟く。
「そうだな。」
「ひ、人事みたいに……貴方が泣かしたんでしょうが」
「いや、まぁ、そうなんだが……止めを刺したのは香織だろ?」
「くっ、反論できない……」
「しかも死体蹴りまで丁寧に決めたからな。初恋は実らないっていうけど……あれはトラウマものだろ。」
さすがに相手が悪かったとしかいいようがない
姫さんの方を見ると苦笑し首を横にふっていることから何か策はあるんだろうが
「そういや、姫さん。1日経った今俺が巻いた噂結構浸透しているらしいぞ。」
俺は話をそらすために街中でのことを説明する
というのも教会を何をトチ狂ったのか知らないが神山にあった教会は先生が爆破してしまったらしくそれについての対応案を俺が考えたのだ
いつまでも隠し立て出来ない以上、王宮から何らかの説明は必要だった。しかし、真実の通り、皆さんが信じていた〝エヒト様〟は人を自分の玩具程度にしか思っていない戦争大好き野郎で、聖教教会の連中も狂信者ばっかりだから総本山ごと全員爆殺しました! 等といっても困惑を通り越してパニックになるだけだ。
その内容は、曰く、争いを望む悪しき神が教皇達を洗脳し王都侵攻を招いた。曰く、神に遣わされし愛子様が状況を憂いて自ら戦いに赴いた。曰く、教皇達は命を賭して神の使徒と共に戦い、その果てに殉教した。曰く、王都を守るため愛子様の剣が光となって降り注いだ、というものだ。
これをすぐに作り終えた俺はクラスメイト全員からドン引きされるという些細なことがあったんだがそれは割愛しよう
それを〝豊穣の女神〟たる先生が更に、〝悪しき神はエヒト様の名を騙るかも知れない、本当の善なる我らが信じる神のためにも私達は与えられるだけでなく、神のために自ら考え行動を起こせる人間にならなければならない。何が正しいのか、己の頭で判断しなければならない。それが我らの信じる神への、そして殉教した教皇様達への手向けとなる〟という内容のスピーチを後日、追悼式の時にでも行うように先生に伝えたところ先生は嫌嫌だったのだが引き受けた
「そうか。……まぁ、人は信じたいものを信じるものだし、それが劇的で心揺さぶるものなら尚更だからなぁ。問題なく信じられるだろうとは思っていた。あとは、何かあった時どれだけ効果を発揮するかだが……こればっかりは考えても仕方ないしな」
ハジメがそう告げると
「……ですね。でも、未だに信じ難いです。長年信じてきたものが幻想だったなんて……個人ならともかく、集団ではパニックになることは必至。球児さんの提案は王族としても渡りに船でした。有難うございます」
「まぁぶっちゃけやり方は最低だったけどな。あいにく暗躍は昔からの特技なもんで。」
「あんたって本当悪知恵だけは働くわよね。時々ありえない発想を普通に行うし。」
「バカにしているのか?」
「いえ。味方だと頼りになるって言ってるの。褒め言葉として受け取っておいて」
「……あっそ。」
少し照れてしまうけど
「そういやハジメ。先生のフォローしっかりしとけよ。先生結構きているみたいだったし。」
その途中で俺は思い出す
「ん?」
「いや愛子先生のこと。お前ならなんとかできるだろ?」
「お前な。」
呆れたように俺を見るハジメに小さく苦笑してしまう
……理由つけてやったんだからさっさと行けよ。気になっているんだろ?
恋愛がらみじゃなくてもこいつは先生を助けるつもりというのは王都に向かってくるときに確認済みだ
それならちゃんとけりをつけてこいや
「……ありがとな。」
「貸し一つ。」
「了解。」
と言ってハジメは席を立ち走っていく
「……たく。面倒くさい奴。」
俺は紅茶を飲み終えると席を立つ
「……いいのか?」
俺がそういうと
「ん。問題ない。」
「先生のことも心配だから私も。」
「……ならいいや。募る話は色々あるだろうから俺はこれにて失礼するな。あとは女子会でもやってろ。」
俺はそうして部屋をでるそして
そして俺は地を蹴った