もう一人の勇者 作:大和
眼下の八雲が流れるように後方へと消えていく。重なる雲の更に下には草原や雑木林、時折小さな村が見えるが、やはりあっと言う間に遥か後方へと置き去りにされてしまう。相当なスピードのはずなのに、何らかの結界が張ってあるのか風は驚く程心地良いそよ風だ。
「……これすごいな。」
「そうだな。」
俺と天之河はハジメ制作の飛行艇に乗りながら少し呆気に取られたようにしてしまう
でも天之河の表情は感心の色はなく、どこか悄然としており、同時に悔しそうでもあった。
「やっぱり俺たちが憎いか。」
俺がそういうと天之河は驚いたようにこっちを見る
「俺も少し言いたいことがあったし、今はあいつらもシズも誰も聞いてない。魔法で音声を遮断してあるし……たまには本音で話そうぜ。」
「……」
すると俺がただならぬ声で話しているのが分かったのか天之河が俺の方を真剣に見る
「……正直いうけど、俺はハジメとメイを殺そうとした犯人を知っていた。」
「……なっ。」
すると天之河は驚いたように俺を見る
俺の告白は誰も知らない
「檜山だよ。気絶する前に俺は見ていたんだよ。あいつ適性は風属性だから確信犯と気づいたのは結構後だったけどな。……まぁ、二つの理由から殺すことも誰かに話す事もしなかった。」
「理由?」
「あぁ、まぁ一つ目は白崎だな。あいつがハジメのことを好きなことも知っていたし、犯人を伝えたらあいつが復讐に走ってもおかしくはなかっただろう?」
「……」
無言だけど複雑な顔をしていることから納得はしたんだろう
「俺はハジメに会うまであいつには壊れてほしくなかった。理想論かもしれないし、いつか経験することだと思っていたけど。ちゃんと前のままの白崎をハジメに送り届けることがあいつへの恩返しってことだと思っていたんだよ。んで二つ目。これはお前のためだな。」
「俺の?」
「……あぁ。檜山のことを許したのがちょっとまずかった。まぁ犯人を知っていなかったから仕方がないといえばそうだけど。俺が寝ている間にトラップの件を許してもらったのがかなり効いている。シズに聞いたところお前に目の前での土下座をして確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれることを目的にしていたからな。」
シズがそのことをかなり批判して俺にずっと愚痴を言っていたのは覚えている
「その矢先に俺がハジメをころしたのは檜山だと言ってみろ。お前は多分許すだろうけど、メイも落下した時点でクラスが半分に割れることが目に見えていた。そしてクラスから殺人者がでたってことは衝撃を与える。さすがにそれだけは阻止するべきだと考えた。」
「……それが俺とどう関係が。」
「白崎とシズと対立関係になり得たってことだよ。」
俺の発言にさすがに天之河が少し驚いたように俺を見る
「……ぶっちゃけ男子と女子。まぁ永井とかは女子についてもおかしくはないけどその二つに別れる可能性があったってことだよ。」
「……」
「ぶっちゃけあいつらが生きていたし、ハジメもメイも気づいていたぽいけど復讐しなかったことを考えると俺が手を出す必要も構う必要もないと思ったんだけど。……このざまだよ。」
ほったらかした奴は白崎を殺して俺はそれを守ることができなかった。
「だから今回白崎が殺されたのは……俺のせいなんだよ。結果的にあいつは生き残ったけど。でも。自分の判断が間違ったせいであいつは殺された。」
「……なんでそれを俺に。」
「お前くらいだろうからな。許してくれないのは。」
すると天之河は驚いた俺を見るけど俺は少し自分を責める
「お前だって白崎を好きだった。というよりも俺は小学校からお前らのことを見ていたからな。ぶっちゃけると俺は小学校のころお前のことが羨ましかったんだよ。」
「…俺が?」
「当たり前だろ。俺はお前よりも剣道が強くてそれも誰よりも長くあいつと付き合いがあったんだよ。シズがいじめられていた時あっただろ?俺も3歳くらいから付き合いがあるし、それなりにも仲がよかった。剣道だってお前より強かった。」
嫌味とも言える言葉に天之河が俺に怒りを覚えたが
「でもあいつはお前を頼った。」
俺の言葉で、天之河の一気に目を見開く
「悔しかった。どんだけ強くても、どんだけ助けられるような自信があっても頼ってもらわなければ意味がないってことに気づいた。……悔しくて嫌になって、野球に逃げたりもした。」
あの時小学生ながらあいつのことが好きなことに気づいて
「でもなによりも何もできない自分が大嫌いだった。」
俺の独白はかなり嫌なものだった
「……だから俺はお前が羨ましかったし、ずっとお前のことが嫌いだった。」
もう一度断言する
「頼られているのに余計に火に油を注ぐ言葉でよりシズが虐められるようになってそれを気づかないお前がうざくて憎くてたまらない。それなのに学校じゃ一番近くて、手に届くところにいて……今でもかなり羨ましいし、嫌いなんだよ。多分俺はお前を好意的に思うことはこの先ない。それは断言できるくらいにな。」
「……」
「んでここからは単なる自分の宣戦布告だから。気にしなくていい。」
そして俺は忠告をする
「俺はずるい。」
それが人を動かすっていうことであり、自分の信念だ。
「汚くて、腹黒くて、あいつが思っているよりもいいやつでもない。時には裏切るし、時にはたとえ親友だって使う。」
事実今回もただの私怨で俺はハジメを使っているし逆にハジメは俺を使ってもいる
でも
「どんなに卑怯でも汚くてもいい。俺は二度とお前にあいつの隣は渡さねぇ。あいつの隣は俺のもんだ。」
俺は宣言する。罪だって黙っていることだって一杯ある。
それでも俺はあいつのとなりにいたい。
あいつを守りたいしあいつを渡す気すらさらさらない
「……」
すると天之河はあっけにとられている
「まぁ、元々はこれが言いたいだけだったからいいけど。俺を憎んでも嫌いでも構わない。」
それがお前が強くなれる理由になるんならな
俺はそういうと一つの個室から出て行く
「それと谷口。俺気配感知で大体の人を確定できるから隠れるんだったら気配遮断のスキル持っているやつ連れてこいや。今日は見逃すけど次はねぇぞ。」
そんなことを言い残して
そして数十秒後その言葉の意味に気づいた谷口のさけび声が飛行船中に響き渡った。