もう一人の勇者 作:大和
「ん?どうした?」
俺がブリッジに入ると何故か中央に置かれている水晶のようなものを囲んでいた。
「何があったのか?」
「あっ、球児くん。うん、どうも帝国兵に追われている人がいるみたいなの」
すると香織がそういう。俺がそういやハジメと結婚するんなら苗字が南雲になるから白崎って呼ばない方がいいか?と聞いたところ頷きお互いに名前で呼ぶようになったのだ。
尋ねた雫に香織が答えた。その香織が指差した立方体型の水晶には、峡谷の合間を走る数人の兎人族と、その後ろから迫る帝国兵のリアル鬼ごっこが映っていた。
確かに、水の流れていない狭い谷間を兎人族の女性が二人、後ろから迫る帝国兵を気にしながら逃げているようだった。追っている帝国兵のずっと後ろには大型の輸送馬車も数台有って、最初から追って来たというより、逃がしたのか、あるいは偶然見つけた兎人族を捕まえようとしているように見えるのだが。
「不味いじゃないか! 直ぐに助けに行かないと!」
少し遅れて谷口と一緒にやってきた天之河がそんなこというが
「へぇ〜少し甘いけどいい陽動じゃん。」
「……へ?」
俺がそういうと全員が俺の方を見る
「いやだってこれ囲まれているの帝国側だろ。地形戦であんな入り組んだところを突っ込んだらそりゃきついだろ。上部に少しだけうさ耳が見えるしこりゃ蹂躙されておわりだろ?」
「……ハジメさん、間違いないです。ラナさんとミナさんです」
「やっぱりか。……豹変具合が凄かったから俺も覚えちまったんだよな。……てかお前はなんでわかるんだよ。」
「いや地形情報をみればな。……ってなると戦場はここだな。先回りして見ようぜ。」
「……お前。楽しんでいるなぁ。」
「こういった戦略げーだけは俺は強かったからな。ついハマってしまって。」
「ゲームじゃないんだけど。」
「ゲームみたいなもんだろ?まぁでも甘いところがあるし一撃だけ俺も攻撃しようかな。伏兵は馬車の中にいること多分気づいてないだろ?最近、気配感知[+範囲拡大特大]覚えたし5kmくらいなら届く。」
「……拡大特大だとあんな範囲まで届くのか。」
ハジメが珍しく遠い目をしているが
「それとさらに気配感知はコンプリートしたからスキル遮断を使っている敵や気配で誰か分かるようになったんだよなぁ。俺異世界召喚されてから王宮でもよほどのことがない限りこのスキル使いっぱなしにしているから。」
「まぁ便利だもんな。」
「さらに天才肌でスキルの熟練度上がるの早いし。」
「……うわぁ。チーターだぁ〜。」
そうこうしている内に、逃げていた兎人族の女性二人が倒れ込むようにして足を止めてしまった。谷間の中でも少し開けている場所だ。
それを見て、ハッと正気に戻った光輝がブリッジを出て前部の甲板に出て行こうとする。距離はまだあるが、取り敢えず魔法でも撃って帝国兵の注意を引くつもりなのだ。
「まぁ、待て。天之河。大丈夫だ」
「なっ、何を言っているんだ! か弱い女性が今にも襲われそうなんだぞ!」
キッ! と苛立たしげにハジメを睨む光輝に、しかし、ハジメはニヤリと笑うと、水晶ディスプレイを見ながらどこか面白げな様子で呟いた。
「か弱い? まさか。あいつらは……〝ハウリア〟だぞ?」
何を言っているんだ? と天之河が訝しげな表情をした直後、「あっ!」と誰かが驚愕の声を上げた。俺が水晶ディスプレイに視線を向けると、そこには……首を落とされ、あるいは頭部を矢で正確に射貫かれて絶命する帝国兵の死体の山が映っていた。
「……え?」
「だから言ったろ?囲まれているのは帝国側って。」
俺はのんきにそういうと液晶を見ることなくことが終わるのを待つ
姫さんや近衛騎士達は、思わずシアを凝視する。特殊なのはお前だけじゃなかったのか!? と、その目は驚愕に見開かれていた。
「いや、紛れもなく特殊なのは私だけですからね? 私みたいなのがそう何人もいるわけないじゃないですか。彼等のあれは訓練の賜物ですよ。……ハジメさんが施した地獄というのも生温い、魔改造ともいうべき訓練によって、あんな感じになったんです」
「「「「「……」」」」」
「あぁ、あの時の魔改造ってこういうことだったのか。」
俺はさすがに苦笑すると
「そんで馬車の中の1人はどうする?」
「俺がヤル。お前少しの間戦略についてハウリア族に教えることができるか?」
「貸し1な。」
そんなのんきにはなしながらもハジメはシュラーゲンを取り出すと開閉可能な風防の一部を開けて銃口を外に出し立射の姿勢をとった。現場まではまだ五キロメートル程ある。ユエ達以外が目を丸くする中、ハジメは微動だにせずにスッと目を細めた。そして、静かに引き金を引く。
「ナイスショット。」
メイの声が響く。……ぶっちゃけ王都の件で俺もあんまり人殺すのに耐性ができてきたのもまた確かだなんだがその声は違うと俺は内心思っていた
しかしここって樹海から出ているよな。
俺は少しだけ疑問に思っていたことがある
「……なんかきなくせぇな。姫さん帝国の樹海進行ってこんなに活発なのか?」
「いえ。前に帝国に訪れた際はここまでは。」
俺はもう一度考え込む
すると飛行艇が高度を下げ着陸態勢に入る
谷間に降りると、そこにはハウリア族以外の亜人族も数多くいた。百人近くいそうだ。どうやら、輸送馬車の中身は亜人達だったらしい。兎人族以外にも狐人族や犬人族、猫人族、森人族の女子供が大勢いる。みな一様にハジメ達に対して警戒の目を向けると共に、見たことも聞いたこともない空飛ぶ乗り物に驚愕を隠せないようだ。まさに未知との遭遇である。
すると首元には奴隷用の首輪がついている奴が多数でときには怪我をしている亜人も見られる。
亜人族達の中からクロスボウを担いだ少年が颯爽と駆け寄り、ハジメの手前でビシッ! と背筋を伸ばすと見事な敬礼をしてみせた。
「お久しぶりです、ボス! 再びお会いできる日を心待ちにしておりました! まさか、このようなものに乗って登場するとは改めて感服致しましたっ! それと先程のご助力、感謝致しますっ!」
「よぉ、久しぶりだな。まぁ、さっきのは気にするな。お前等なら、多少のダメージを食らう程度でどうにでもできただろうしな。……中々、腕を上げたじゃないか」
「「「「「「恐縮でありますっ、Sir!!」」」」」」
「……うわぁ。なんでメイがいながらこんなことになったんだ。」
「ごめん。頭のおかしい練成師には勝てなかったよ。」
涙をこらえ、目が血走り始めているのが非常に怖い。
「えっと、みんな、久しぶりです! 元気そうでなによりですぅ。ところで、父様達はどこですか? パル君達だけですか? あと、なんでこんなところで、帝国兵なんて相手に……」
「落ち着いてくだせぇ、シアの姉御。一度に聞かれても答えられませんぜ? 取り敢えず、今、ここにいるのは俺達六人だけでさぁ。色々、事情があるんで、詳しい話は落ち着ける場所に行ってからにしやしょう。……それと、パル君ではなく〝必滅のバルトフェルド〟です。お間違いのないようお願いしやすぜ?」
「……え? いま、そこをツッコミます? っていうかまだそんな名前を……ラナさん達も注意して下さいよぉ」
俺は少し笑いかけてしまう。やばいこれは痛い。
「……シア。ラナじゃないわ……〝疾影のラナインフェリナ〟よ」
「!? ラナさん!? 何を言って……」
「私は、〝空裂のミナステリア〟!」
「!?」
「俺は、〝幻武のヤオゼリアス〟!」
「!?」
「僕は、〝這斬のヨルガンダル〟!」
「!?」
「ふっ、〝霧雨のリキッドブレイク〟だ」
「!?」
「……シアってハジメパーティーでいう俺たちのポジションだな。」
比較的常識人であるシアにさすがに俺もシズも同情を隠せない
俺はハジメをジト目で見ると目線を逸らしたようにしているがきっちりと罰は受けるものである
「ちなみに、ボスは〝紅き閃光の輪舞曲〟と〝白き爪牙の狂飆〟ならどちらがいいですか?」
「……なに?」
「ボスの二つ名です。一族会議で丸十日の激論の末、どうにかこの二つまで絞り込みました。しかし、結局、どちらがいいか決着がつかず、一族の間で戦争を行っても引き分ける始末でして……こうなったらボスに再会したときに判断を委ねようということに。ちなみに俺は〝紅き閃光の輪舞曲〟派です」
「まて、なぜ最初から二つ名を持つことが前提になってる?」
「ボス、私は断然〝白き爪牙の狂飆〟です」
「いや、話を聞けよ。俺は……」
「何を言っているの疾影のラナインフェリナ。ボスにはどう考えても〝紅き閃光の輪舞曲〟が似合っているじゃない!」
「おい、こら、いい加減に……」
「そうだ! 紅い魔力とスパークを迸らせて、宙を自在に跳び回りながら様々な武器を使いこなす様は、まさに〝紅き閃光の輪舞曲〟! これ一択だろJK」
「よせっ、それ以上小っ恥ずかしい解説はっ――」
「おいおい、這斬のヨルガンダル。それを言ったら、あのトレードマークの白髪をなびかせて、獣王の爪牙とも言うべき強力な武器を両手に暴風の如き怒涛の攻撃を繰り出す様は、〝白き爪牙の狂飆〟以外に表現のしようがないって、どうしてわからない? いつから、そんなに耄碌しちまったんだ?」
「……ぷっ。」
さすがに限界がきてしまう
「やばっ最高!!」
「大久保くん、シズシズ笑っちゃダメだって、ぶふ。」
「す、鈴だって、笑って……くふっ…厨二って感染する……のかしら、ふ、ふふっ」
俺が爆笑してしまいと谷口が肩を震わせて必死に笑いを堪えている。全く堪えられてないけど。
「八重樫、クールなお前には後で強制ツインテールリボン付きをプレゼントしてやる。もちろん映像記録も残してやる」
「!?」
「谷口、お前の身長をあと五センチ縮めてやる」
「!?」
「球児は。」
「俺に何かしようもんならお前の机の奥ぶたの下に入っている美術品の内容を先生に報告する。」
「……」
俺は先手を打つとハジメは冷や汗を垂らす。ついでに先生ものである。
「……いやなんでもないです。」
「……ハジメくん球児に口喧嘩挑むのはさすがに無謀だよ。」
ハジメがメイに慰められていると
「あの……宜しいでしょうか?」
耳がスッと長く尖っているので森人族ということが分かる。
「あなたは、南雲ハジメ殿で間違いありませんか?」
「ん? 確かに、そうだが……」
ハジメが頷くと、金髪碧眼の森人族の美少女はホッとした様子で胸を撫で下ろした。もっとも、細い両手に金属の手枷がはめられており、非常に痛々しい様子だった。足首にも鎖付きの枷がはめられており、歩く度に擦れて白く滑らかな肌が赤くなってしまっている。
「話の前にちょっと失礼。」
魔力を少し流すすると足枷は外れると今度は同じように奴隷紋を解除していく
「これでいいか?」
「えっ?あの。」
「香織。こいつに回復魔法かけてやってくれ。女性がアザ残ったら大変だろうしな。」
「えっうん。」
「というよりもなんで解除できたんだ?」
「俺の固有スキルの一つに契約解除があるんだよ。奴隷紋に通用するかは微妙だったけど。」
「契約解除ですか?」
「あぁ、本来このスキルは召喚獣を呼び出して支配できるらしいんだけど、かなり消費魔力が多くて使えないんだよ。ネクロマンスは死体があれば、それとゴーレムも媒体があれば契約できるんだけど。」
「ネクロマンスならそこの死体があればできるんじゃないのか?」
「できるけど、こんな日が高かったらな。」
俺はさすがに苦笑してしまう
「あぁ。そういうことか。ゴーレムくらいなら媒体があればできるんだけど。」
「作ろうか?」
「いや。発動一度やったことあるけど俺が戦った方が強いからいい。結構難しいし。」
そうやってハジメと話していたから分からなかったのだが女性陣から呆れと鋭さの両方を含んだ眼差しで見られていたことは黙っておこう