もう一人の勇者   作:大和

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からかう

ツヤツヤなユエにどこかやつれたハジメが戻って来た食事処にどこか冷たい空気が流れていた。

「……お疲れ。んで情報は?」

そんなことを気にせずに俺はハジメに聞く

「お前の弟子通りだった。」

「……あいつら本当に何もんなんだよ。ちょっとした剣術と戦術しか教えてないのに。」

「さ、さぁ?」

俺とハジメは首をかしげるけど

「んで八重樫はなんで体育座りを。」

「恥ずかしくて2時間ほどあんな感じ。」

「……マジ?」

「マジマジ。」

「それで話は続けるけど吸血の影響大丈夫なの?」

「「……へっ?」」

メイがそういうとシアと香織が二人揃って間抜け顔になった。

「少し血を吸われすぎただけで影響はねぇよ。」

「だよね。もしそうなったら二人にお話しないといけなかったから本当によかったよ。……そこのバカ2人は後からしっかりお話するけどね。」

「「「「……」」」」

メイが怒気を含んだ声に俺は寒気を覚える

「……なんというかメイお前らのドンみたいになってない?」

「メイは常識人だからな。俺がやりすぎたりするとストッパーになってくれるんだよ。ホント俺なんかにもったない。いい女だよ。」

「ハジメくん」

「はいはい。のろけるはやめろ。コーヒー欲しくなるから。」

すると顔を真っ赤にするメイ。

「はぁ~、まぁいい。とにかく欲しい情報は得られた。今晩、カム達がいる可能性の高い場所に潜入する。警備は厳重そうだが、カム達を見つけさえすれば、あとは空間転移で逃げればいいから、特に難しくもないな。潜入するのは俺とユエとシアだけだ。万一に備えて、気配遮断や転移が使える方がいいし。香織達は帝都の外にいるパル達のところにいてくれ。直接転移するから」

「……それはわかったけど……そもそも、その情報は正しいの? ネディルって人が嘘を言っている可能性は……」

「そりゃないだろう。自分の股間が目の前ですり潰された挙句、痛みで気を失う前に再生させられて、また潰されて……というのを何度も繰り返したからな。男に耐えられるもんじゃない……洗いざらい吐かされた後、股間を押さえながらホロホロと涙を流すネディル君を見て、流石の俺も同情しちまったよ」

「えっぐ。」

俺は軽く引いてしまう

 そして同時に、男の股間を何度もすり潰しておいて特に何とも思っていなさそうなユエを見て、王都に聞こえていた〝股間スマッシャー〟の二つ名は伊達ではないな。

「漢女増やしてないだろうな。もうあんな化け物に会うのは嫌だぞ、」

「お前結構トラウマに残っているんだな。」

いやだって本当にあれは怖いし

「なぁ、南雲……今更だが、シアさんの家族が帝城に捕まっているんなら、普通に返してくれって頼めばいいんじゃないか? 今ならリリィもいるはずだし、俺は勇者だし……話せば何とかなると思うんだが……」

すると天之河がそんなことを言い出すと

「代償に何を出すつもりだよ。」

俺が呆れたように突っ込む。

「え?」

「カム達は不法入国者な上に、帝国兵を殺したんだぞ? しかも、兎人族でありながら包囲されて尚、帝国側にダメージを与えられるという異質な存在だ。それを、まさか頼んだからって無償で引き渡してくれると思うのか?」

するとハジメがそれに続く

「それは……」

「対価を要求するに決まってるさ。それも思いっきり足元を見た、ドでかい対価をな。帝国にだって面子はある。唯で済ますことは出来ないだろう。あるいは、姫さんの交渉にも影響が出るかも知れないぞ? それでもいいのか?」

「それに対価は多分シズだろうな。さっき香織に聞いたらかなり気に入っているらしいし。なによりそうするくらいなら俺が帝国を潰す。」

「「「「……」」」」

「なんか、ハジメくんが球児に似たのか球児がハジメくんに似てきたのか分からなくなってきたね。」

するとメイは笑う

「それでそっちはどうだ?」

「ゴーレムによる無線探知機のオートパイロット状態でも網を貼ることに成功した。一応安全な侵入経路も別ルートで計算済みだ。それと警備の交代時間もな。」

「……有能すぎて後がこえぇよ。」

「こういった暗躍は日本でもよくやってきたからな。これくらい余裕のよっちゃんだ。」

「……突っ込まねぇぞ。」

俺は苦笑し

「それでなんだけど。潜入のために陽動を頼みたいんだけど。」

「必要なのか?」

「作戦の成功を上げるためだ……まぁその作戦をハジメが立ててくれないか?」

「俺がか?」

「あぁ。相手を怒らせるやり方はお前の十八番だろ?誰がとは言わないが。」

「……」

俺の意図が分かったのだろうすると妙に生き生きし始めるハジメ

ユエは俺が何を言いたいのか分かったのか呆れたように俺を見る

「なぁ、天之河。一つお前に頼みがあるんだが……」

「っ!!!? なん……だって? 南雲が俺に頼み? ……有り得ない……」

ハジメからの突然の頼みという言葉に天之河は愕然とした表情で硬直する。それは隣の坂上や谷口も同じだった。まるでUMAと街中でばったり遭遇してしまったかのようだ。それくらいハジメからの〝頼み〟というものは、今までの言動からしてあり得ないしな

「あ~、いや、やっぱりいい。こんな危険な事、お前には頼めない。済まないな、忘れてくれ」

「ま、待てっ、待ってくれ! まずは何をして欲しいのか教えてくれ……」

うまいな。俺はニヤニヤと笑いながらその様子を見つめる

「いやな、帝城に侵入するといっても警備は厳重すぎるくらい厳重だ。だから、少しでも成功率を上げるために陽動役をやって欲しかったんだよ。……例えば、さっきの犬耳少年のような亜人を助けるという建前でひと暴れして帝国兵を引き付ける……とかな。ああ、だが、危険すぎるよな。忘れてくれ」

いや、俺のルートがなくてもお前らが侵入できる訳がないってことはないだろう。基本大半は憂さ晴らし。もう一つは俺達も手伝うぞ! とか言って帝城に潜入してこないようにしたんだろうな。

「陽動……あの子達……やる。やるぞ! 南雲! 陽動は任せてくれ!」

「お、おう、そうか、引き受けてくれるかぁ、流石、勇者だな……うん。そんな素敵な勇者達には、これを贈呈してやろう」

 そう言ってハジメは〝宝物庫〟から鉱石をいくつか取り出すとパパッと錬成して四つの仮面を作り出した。

その仮面はそれぞれ赤、青、黄、ピンクに分かれており、某戦隊もののヒーローを思わせるフルフェイスタイプだった

「……南雲……これは?」

「見ての通り仮面だ」

「………………なぜ?」

「なぜってお前、勇者が帝都で脈絡なく暴れるとか不味いだろ? 正体は隠さないと。そして、正体を隠すと言えば仮面だ。古今東西、ヒーローとは仮面を被るもの。ヒーローとは仮面に始まり仮面に終わるんだ。ちゃんと区別がつくように色分けもしてあるだろ?」

「え? いや、いきなり、そんな力説されても……まぁ、確かに正体は隠しておいた方がいいというのはわかる。リリィの迷惑にもなるだろうし……でも、これは……」

「さっき天之河はやるって言ったろ?男なら一度言ったことなら守るよなぁ?」

俺は笑いながらいうとすると気付いたようだ

はめられたと

「……心配するな勇者(笑)。お前には、ちゃんとリーダーの色、〝赤〟をくれてやる」

「……なぁ、今、勇者の後に何かつけなかったか?」

「坂上、お前は青だ。冷静沈着を示す青。黒とどっちにするか迷ったが、お前のためにも青がいいと判断した。我ながら英断だったと思う」

「お、おう? なんかよくわからんが、くれるってんなら貰っとくぜ」

「そして谷口、お前は……」

「ピ、ピンクかな? かな? ちょっと恥ずかし……」

「黄色だ。あれ? いたの? の黄色だ。お調子者の黄色だ。いろんな意味で微妙の代名詞、黄色だ」

「……ねぇ、南雲君って、もしかして鈴のこと嫌いなの? そうなの?」

「そして最後……八重樫は……」

「待ちなさい、南雲君。もう一つしか残っていないのだけど……まさかよね?」

「八重樫、もちろん、残っているピンク、それがお前のカラーだ」

「嫌よっ! っていうか、仮面以外にも正体を隠す方法なんていくらでもあるでしょう? 布を巻くくらいでいいじゃない! 南雲くん、あなた、確実に遊んでいるでしょ!」

当たり前だよなぁ。俺は笑いを精一杯こらえながらぷるぷると震えている

「いいか? 正体を隠すなら確実に! だ。その仮面はちゃんと留め金が付いていて、ちょっとやそっとでは外れない上に、衝撃緩和もしてくれる。更に、重さを感じさせないほど軽く、並の剣撃じゃあ傷一つ付かない耐久力も併せ持っているんだ」

「あ、あの一瞬でそこまでのものを……なんて無駄に高い技術力……」

「そして八重樫、お前のように普段キリッとしたクールビューティータイプは、実は可愛らしいものが好きというのが定番だ。故に、わざわざ気遣ってピンクにしてやったんだ。感謝しろ」

「な、なんという決めつけ……わ、私、別に可愛いものなんて……」

「あっ、当たってるよ、ハジメくん! 雫ちゃんの部屋ぬいぐるみで一杯だもん」

ハジメの決めつけを咄嗟に否定するシズだったが、そこでまさかの裏切り。香織がシズの趣味を暴露する。

「……そういえば、昔から動物も好きだったよな。特に、ウサギとかネコとか……」

「!」

「ああ、シズシズの携帯の待ち受けもウサちゃんだったよね~」

「!」

「ゲーセンとか寄ったりすると、必ずUFOキャッチャーやるよな。しかも、やたらうめぇし」

「!」

「ついでにこいつのつい最近までの夢お姫様になりたいってことだしな。」

「!」

「なるほど、それで雫さん、私のウサミミをいつもチラ見していたんですね?」

「!!!」

「……八重樫。さぁ、受け取れ。ピンクは……お前のものだ」

いつになく優しげな眼差しでピンクの仮面をそっと差し出すハジメ。何故か、ハジメ以外の全員も、妙に優しげな眼差しで贈呈式を見守っている。いつの間にか、仮面を受け取らないという選択肢がなくなっていることには誰も気がつかない。

「……なんなのよ、この空気……言っておくけど、私、ホントにピンクが好きなわけじゃないんだからね? 仕方なく受け取っておくけど、喜んでなんかいないから勘違いしないでよ? あと、小動物が嫌いな人なんてそうはいないでしょ? だから、私が特別、そういうのが好きなわけじゃないから……だから、その優しげな眼差しを向けるのは止めてちょうだい!」

「なお、こいつの一番好きな色ピンクだから。」

「球児!!」

すると顔を真っ赤にさせるシズに俺は笑いが堪えきれず爆笑してしまう

恥ずかしいからなのか必死に否定するものの、シアがこっそり「雫さんなら少しくらいウサミミ触ってもいいですよ?」というとデレっと相好を崩したので虚しい努力だった。

 

なお何が起こったのか知らないのだが後に、帝国兵の間で「仮面ピンクの恐怖~奴はいつも君を見ている」という都市伝説が広まり自分だけと……と、仮面ピンクの中の人をなだめるのに時間をかけたのはまた別の話

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