もう一人の勇者   作:大和

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詐欺師

ヘルシャー帝国を象徴する帝城は、帝都の中にありながら周囲を幅二十メートル近くある深い水路と、魔法的な防衛措置が施された堅固な城壁で囲まれている。水路の中には水生の魔物すら放たれていて城壁の上にも常に見張りが巡回しており、入口は巨大な跳ね橋で通じている正門ただ一つだ。

帝城に入れる者も限られており、原則として魔法を併用した入城許可証を提示しなけばならない。跳ね橋の前にはフランスの凱旋門に酷似した巨大な詰所があり、ここで入城検査をクリアしないと、そもそも跳ね橋を渡ることすら出来ないのだ。不埒な事を考えて侵入を試みようものなら、魔物がはびこる水路にその場で投げ入れられるとか……

詰所での検査も全く容赦がない。たとえ、正規の手続きを経て入場許可証を持っている出入りの業者などであっても、商品一つ一つに至るまできっちり検査される。なので、荷物に紛れ込んでの侵入なども、もちろん不可能だ。

つまり、何が言いたいのかというと、帝城に不法侵入することは至難中の至難であるということだ

「シズ。お前くっつきすぎじゃないか?」

というのも腕に抱きつき

「雫よ。今更感あるけど雫って呼んで頂戴。」

「……ん?」

「前にあった時にしつこく言い寄られたって。だから。」

あぁいつもの建前か

「本当に今更だな。これでいいか雫。」

「……えぇ。」

すると笑う雫に少し笑ってしまう

「お前らいちゃつくのは後からにしろ。」

「それお前だけには言われたくない。」

すると数人が頷く。

「次ぃ~……見慣れない顔だな。……許可証を出してくれ」

門番の兵士が俺達を見て訝しげな表情になる。

帝城内に入ることの出来る者が限られている以上、門番からすれば大抵は知っている顔だ。そして、たとえ初めての相手であっても帝城に招かれるような人物は大抵身なりが極めて整っているのが普通である。なので、俺達のように、どこぞの冒険者のような装いの者は珍しいのだ。それこそ胡乱な目を向けてしまうくらいに。

「いや、許可証はないんですけど、代わりにこれを……」

「は? ステータスプレート? 一体……」

当然、ハジメ達は帝城に入るための許可証など持ってはいない。だが、ここで光輝の立場が役に立つ。何せ、彼は〝勇者〟。世間一般では対魔人族戦において神が遣わした人間族の切り札であり〝神の使徒〟なのだ。たとえ、実態が伴っていなくとも。

許可証を持っていない時点で剣呑な目付きになった門番だったが、渡されたステータスプレートに表示された〝勇者〟の文字に目を瞬かせ、何度も天之河の顔とステータスプレートを交互に見る。その門番の様子に、周囲の同僚達が何事かと注目し始めた。

「えっと……勇者……様、ですか? 王国に召喚された神の使徒の?」

「あ、はい、そうです。その勇者です。こちらにいるリリアーナ姫と一緒に来たのですが……ちょっと事情があって」

「は、はぁ……」

しかし、相手は自分達が信仰する神の使徒であり、きっと秘密の使命でも帯びていたに違いないと勝手に納得して、取り敢えず、上に取り次いでくれるらしい。

流石に、勇者と言えど、入城者の予定表にない者を下っ端門番の一存で通すような勇気はないので、待たせる失礼に戦々恐々としながら数人の門番が猛ダッシュで帝城の方へ消えていった。

待つこと十五分。

谷口とシズと話ながら待っていると

「こちらに勇者殿一行が来ていると聞いたが……貴方達が?」

「あ、はい、そうです。俺達です。」

そう言って姿を見せたのは、一際大柄な帝国兵で、周囲の兵士の態度からそれなりの地位にいることが窺える。

その過程で、死角の位置にいたシアに気がつくと驚いたように大きく目を見開く。そして、何が面白いのかニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべ始めた。いきなり向けられた嫌な視線に、シアが僅かに身じろぐ。

本当にわかりやすい性格だな

「確認しました。自分は、第三連隊隊長のグリッド・ハーフ。既に、勇者御一行が来られたことはリリアーナ姫の耳にも入っており、お部屋でお待ちです。部下に案内させましょう。……ところで、勇者殿、その兎人族は? それは奴隷の首輪ではないでしょう?」

「え? いや、彼女は……」

そして、彼がなぜシアに注目するのか、その理由を察せられる質問をした。

「よぉ、ウサギの嬢ちゃん。ちょっと聞きてぇんだけどよ。……俺の部下はどうしたんだ?」

「部下? ……っ…あなたは……」

あぁなるほどそういうことか

大勢の家族を殺し、拉致し、奴隷に落とし、そして、シア達を【ライセン大峡谷】へと追いやった敵。

「おかしいよな? 俺の部下は誰一人戻って来なかったってぇのに、何で、お前は生きていて、こんな場所にいるんだ? あぁ?」

「ぅあ……」

「雑魚だからに決まっているだろ?てか早く案内しろや。いい加減待ちくたびれたんだよ。」

すると俺を睨むグリッド

「……てめぇ。」

「ほれ。招待状。」

俺は前にもらった帝城での招待状を見せる

「……へ?」

「皇帝陛下からもらった招待状だ。……前に皇帝陛下と手合わせした時に戻るときにもらったんだよ。」

すると全員が俺の方を見る

何で持っていたのに黙っていたっていうことだろう

ハジメをちらってみるとするとため息を吐き

「おい、下っ端」

そのタイミングと言い様にグリッドが怒りで頬を引き攣らせながら視線を転じると、そこには鬱陶しそうな眼差しを向けるハジメの姿があった。

「なに……」

「口を開くな、下っ端。お前の役目はもう終わったんだろうが。いつまでもくだらない事で足止めしてんじゃねぇよ。ガタガタ言ってないで、さっさと案内させろ」

「てめ……」

「黙れという言葉の意味すら理解できないのか? 俺達に、お前のために使ってやる時間は微塵もねぇんだ。身の程を弁えろ」

 ハジメの、まるで町中で絡んできたチンピラを相手にするような態度にグリッドの顔が真っ赤に染まる。怒りの余り、眼も血走り始めた。それでも、連隊長として自制を利かせることは出来るようで、まさか〝神の使徒〟一行に切り掛るわけにはいかないのだろう、黙って背後の控えさせていた部下に視線で案内を促す。

俺達は青ざめた表情の案内役に従って巨大な吊り橋を渡っていった。

 

「それで?」

帝城の一室に案内された俺達を待ち構えていた姫さんからの第一声がそれだった。満面の笑みを浮かべているものの、目は笑っておらず声音は冷たい。言外に「事情を説明しろや、ゴラァ!」と言っているのが分かる。

「帝都での茶番といい、一体全体どうして皆さんがここにいるのですか? 納得の出来る説明を求めます。ええ、それはもう強く強く求めます。誤魔化しは許しませんからね! 特に、南雲さん! 絶対、裏で糸を引いているのは貴方でしょう! 他人事みたいにシアさんのウサミミをモフらないで下さい! ユエさんも何でシアさんのほっぺをムニムニしているんですか!」

「姫さんシアは今不安定だから今は許してくれ。」

「不安定ですか?どこか具合でも?」

「違う違う。さっき亜人狩りのリーダーに会ってきてそれを引きずってはないと思うけど。殺したい気持ちを我慢しているんだよ。一応こうなることが分かっていたから帝城の招待券を隠し持っていたのが正解だったな。兎耳の奴隷じゃないなんて今はここではどんな迫害の対象になるか分からなかったし。」

「……お前そんなこと考えていたのか?」

坂上が驚いているが

「当たり前だろ?ただでさえ亜人は迫害の対象なんだ。対策をしないと姫さんと謁見の許可は降りないだろう。ただでさえ教会は亜人を迫害しているのに。」

「……まぁ意味がないことは球児はやらないから。でも先にそれを教えてくれても。」

「言わないから意味があるんだよ。15分も皇帝陛下のお客を待たせたとなるとさすがに相手は即刻行動を移さないといけない。特にそれが勇者パーティーの1人から出されたんだ。自分の部下の心配よりも自分の身を心配するに決まっているだろうが。それまでにあっち側に伝えない必要があった。ここには顔に出やすい奴が何人かいるからな。」

「鈴、大久保くんは勇者より詐欺師の方が合っていると思う。」

「谷口。お前今日開かれるパーティーに出たくないんだな。」

「……ごめんなさい。」

「あれ?知っているのですか?」

「処分を軽くしてやるって脅したからな。」

「…大久保さんが実は一番敵に回したらいけないタイプってことだけは分かりました。」

姫さんがため息を吐く

「それで、なぜこちらに来たのですか? 樹海での用事は? それと、昨夜の仮面騒動は何なのです? もうそろそろ、ガハルド陛下から謁見の呼び出しがかかるはずです。口裏を合わせる為にも無理を言って先に会う時間を作ってもらったのですから、最低限のことは教えてもらいたいのですが」

「まぁ、そう慌てるなよ、姫さん。夜になれば全部わかる。俺達のことは……用事が早く片付いたから、遠出する前に立ち寄った……くらいに言っておけばいいさ」

「そ、そんな適当な……夜になればわかるって、まさか、また仮面でも着けて暴れる気ですか? わかっているのですよ! 雫達に恥ずかしい格好をさせたのは南雲さんだって!」

「そうカリカリするなよ。ハゲるぞ、姫さん」

「ハゲませんよ! 女性に向かって何てこと言うのですかっ!」

「……ストレスハゲ」

「ユエさん!?」

「雫元気だせって。悪かったから。」

「恥ずかしい格好……」

と姫さんと雫を慰めた後姫さんから聞き出したところでは、どうやら既にガハルド陛下には、聖教教会の末路や狂った神の話が伝えられたようだ。

しかし、流石は実力至上主義、実利主義の国のトップだ。それなりの衝撃はあったようだが、どちらにしろ今までとやることは変わらないと不敵に笑ったそうだ。すなわち、敵あらば斬る、欲しいものは力で奪う、弱者は強者に従え! というわけだ。

中々肝が座っている

 それよりもガハルドとしては、姫さんがどうやって帝国に来たのか、その方が気になっていたらしい。

つまり、王国襲撃の顛末はわかったが、それから姫さんが帝国にやって来るまでの期間が早すぎるというわけだ。帝国としても王国との連携については直接的な協議の必要性を感じていたので助かりはしたのだが、いくら何でも襲撃の八日後に帝国に到着するのは有り得ない。

……そういえばあいつらどうやって来たんだろう

同時に、王国がどうやって魔人族の軍勢を追い返したのか、その方法にもかなり興味を持たれているようだ。

魔人軍に壊滅的打撃を与えた〝光の柱〟については、ガハルドに神の話をする以上、〝天の裁き〟という言い訳が通用しない。となると、当然、誰かが一撃で軍を滅ぼせる攻撃手段を持っていると判断するのが自然な流れだ。その事実は、ヘルシャー帝国皇帝としても、一個人としても看過できることではない。

調べれば直ぐに分かることなので、事前にハジメから許可を貰っていた姫さんは、特に困ることもなくハジメの事を話したらしいが

姫さんが不憫すぎる

内心かなり同情してしまうけど口には出さなかっただけマシだろう

姫さんから、ある程度、帝国側との協議内容について聞いたところで部屋の扉がノックされた。どうやら時間切れらしい。案内役に従って、俺達はガハルドが待つ応接室に向かうことになった。

 

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