もう一人の勇者   作:大和

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皇帝陛下

通された部屋は、三十人くらいは座れる縦長のテーブルが置かれた、ほとんど装飾のない簡素な部屋だった。そのテーブルの上座の位置に、頬杖をついて不敵な笑みを浮かべる男――ヘルシャー帝国皇帝ガハルド・D・ヘルシャーがいた。彼の背後には二人、見るからに〝できる〟とわかる研ぎ澄まされた空気を纏った男が控えている。

そして、部屋の中に姿は見えないが、壁の裏に更に二人、天井裏に四人、そして閉まった扉の外に音もなく二人が控えているのを俺はしっかりと感じ取っていた。ガハルドの背後に控える男二人程ではないが相当の手練である

「久しいな。キュウジ。」

俺らが入ってすぐに勇者やハジメ、王女に挨拶するよりも早く俺に話しかけた

「お久しぶりです。皇帝陛下。」

俺は営業スマイルモードになるとジト目で俺を見るクラスメイトと姫さん。

「お前前の態度はどうしたんだよ?」

「……あんたが急に襲ってきたのが問題だろうが。」

「似合わねぇ喋り方してぇねぇで、普段通り話しな。てか何お前雫を侍られているんだよ。」

「雫は俺の女だから当たり前だろうが。」

すると隣にいたシズが顔を真っ赤にして球児の女ってブツブツ呟いていたが

「……はぁ。まぁ大体それは分かってはいたがしかしお前色々やらかしていたな、さすが形だけの勇者君とは違うな。本物の勇者くん。」

「……チッ。」

相変わらず食えないおっさんだ

「はぁ、俺の正体なんかはどうでもいいだろ?それよりも。」

「いや、それが大きな問題なんだよ。」

すると妙に真剣な顔になるガハルド

「……王宮でも、そこの南雲ハジメほどではないが大いに暴れたらしいじゃないか。生憎そんな奴が敵に回るのは。」

「悪いけどそれなら雫と姫さんに手を出さなければいいだけだろ?」

「……ん?リリアーナ姫も含まれるのか?」

するとガハルドは俺の方を驚いたように見る

「当たり前だろうが。姫さんにどれだけ世話になったんだと思っているんだよ。恩はしっかり返す。それが武人として当然のことだろうが。」

「……さすが忠犬。」

「うっせぇ。ほっとけ。」

俺が少しため息を吐く

「お前が、南雲ハジメか?」

軽く威圧が放たれるが俺とハジメパーティー以外は後退りする

まぁ俺たちはそこの皇帝より強いこともあるだろうけど

そんなハジメ達を見て、ますます面白げに口元を吊り上げるガハルドに、ハジメが返事をする。

「ええ、俺が南雲ハジメですよ。御目に掛かれて光栄です、皇帝陛下」

「「「「「!?」」」」」

 胸に手を当てて軽くお辞儀しながら、そんな事を言うハジメに天之河達が驚愕の視線を向けた。

一応奈落におちるまではこいつも礼儀はこいつの両親からの指導を受けたと聞いている。まぁいつもTPOなにそれおいしいの状態だしな。

「ククク……思ってもいないことを。普段の傍若無人な態度はどうしたんだ? ん? 何処かの王女様が対応の違いに泣いちまうぞ?」

しかし、ガハルドは笑い声を漏らしながら揶揄する。

「おい、ハジメ自業自得だろうが。一応こいつ本物の王女だぞ?それを忘れたとか迷惑かけまくって、後始末するの俺と姫さんなんだぞ。主に姫さんを慰める的な意味で。」

「……お前本当に苦労しているんだな。」

「どこかの頭のおかしい錬成師と勇者(笑)のせいだけどな。」

すると目線を逸らすハジメに俺はため息を吐く

「なんかキュウジ苦労しているんだな。」

「いい胃薬と頭痛薬があれば欲しいくらいだよ。」

「……後から準備をしておこう。」

「マジで頼む。最近減りがものすごく早いんだよ。」

マジで禿げそうでやばい

「それで本題に入るがお前の異常性についてだ」

今までの覇気を纏いつつもどこかふざけた雰囲気を含ませていたのとは異なり、抜き身の刃のような鋭さを放ち始める。

「リリアーナ姫からある程度は聞いている。お前が、大迷宮攻略者であり、そこで得た力でアーティファクトを創り出せると……魔人族の軍を一蹴し、二ヶ月かかる道程を僅か二日足らずで走破する、そんなアーティファクトを。真か?」

「ああ」

「そして、そのアーティファクトを王国や帝国に供与する意思がないというのも?」

「ああ」

「ふん、一個人が、それだけの力を独占か……そんなことが許されると思っているのか?」

「誰の許しがいるんだ? 許さなかったとして、何が出来るんだ?」

ハジメの簡潔な返しにガハルドが目を細める。

「あっついでに言うけど俺が絶対に勝てない相手がハジメだからあまり刺激しない方がいいぞ。国を思うのであればな。」

俺が軽く忠告する。

「……ほう。」

すると多分色々な駆け引きをしているのだろう。俺はそれをのんびり見ていると

「はっはっは、止めだ止め。ばっちりバレてやがる。こいつは正真正銘の化け物だ。今やり合えば皆殺しにされちまうな!」

ガハルドが豪快に笑いながら、覇気を収めた。それに合わせて周囲の者達も剣呑な空気を収めていく。

「なんで、そんな楽しそうなんだよ?」

「おいおい、俺は〝帝国〟の頭だぞ? 強い奴を見て、心が踊らなきゃ嘘ってもんだろ?そこのキュウジだってそうだ。」

「一緒にするな。」

楽しげなガハルドに呆れたようにツッコミを入れるハジメ。それに対するガハルドの返事は、実に実力至上主義の国の人間らしいものだった。

「それにしても、お前が侍らしている女達もとんでもないな。おい、どこで見つけてきた? こんな女共がいるとわかってりゃあ、俺が直接口説きに行ったってぇのに……一人ぐらい寄越せよ、南雲ハジメ」

「馬鹿言うな。ド頭カチ割るぞ…………いや、ティオならいいか」

「っ!? な、なんじゃと……ご、ご主人様め、さり気なく妾を他の男に売りおったな! はぁはぁ、何という仕打ち……たまらん! はぁはぁ」

「ちょっと問題あるが、いい女だろ、外見は」

「すまんが、皇帝にも限界はある。そのヨダレ垂らしている変態は流石に無理だ」

「こ、こやつら、本人を目の前にして好き勝手言いおって! くぅうう、んっ、んっ、きっと、このあと陛下に無理矢理連れて行かれて、ご主人様の目の前で嫌がる妾を無理やりぃ……ハァハァ、んっーー……下着替えねば」

「自重しろ変態。」

妙にスッキリした表情のティオにガハルド達ですらドン引きしている。そして、そんな変態を侍らしているハジメに戦慄の眼差しを向けた。ガハルドは、咳払いをして気を取り直す。

「俺としては、そちらの兎人族の方が気になるがね? そんな髪色の兎人族など見た事がない上に、俺の気当たりにもまるで動じない。その気構え、最近捕まえた玩具を思い起こさせるんだが、そこのところどうよ?」

「……」

結構攻めたな皇帝

多分昨日の騒ぎに気付いているはずだし、誰が攫ったのも知っているはずだ

「玩具なんて言われてもな……」

「心当たりがないってか? 何なら、後で見るか? 実は、何匹かまだいてな、女と子供なんだが、これが中々――」

「興味ないな」

まぁ俺の調査とカムを通じて、捕まった者全員を連れ出したことは確認済みである。カマをかけているのだろう。それに対するハジメの返事は一言だった。

 しかし、ガハルドの口撃は終わらない。

「ほぉ。そいつらは、超一流レベルの特殊なショートソードや装備も持っていたんだが、それでも興味ないか、錬成師?」

「ないな」

「……そうかい。ところで、昨日、地下牢から脱獄した奴等がいるんだが、この帝城へ易々と侵入し脱出する、そんな真似が出来るアーティファクトや特殊な魔法は知らないか?」

「知らないな」

「……はぁ……ならいい。聞きたい事はこれで最後だ……神についてどう思う?」

「興味ないな」

「あ~、もう、わかったわかった。ったく、愛想のねぇガキめ」

そこで時間が来たのか、背後に控えていた男の一人が、そっとガハルドに耳打ちすると、ガハルドはおもむろに席を立った。

「まぁ、最低限、聞きたいことは聞けた……というより分かったからよしとしよう。ああ、そうだ。今夜、リリアーナ姫の歓迎パーティーを開く。是非、出席してくれ。姫と息子の婚約パーティーも兼ねているからな。真実は異なっていても、それを知らないのなら、〝勇者〟や〝神の使徒〟の祝福は外聞がいい。頼んだぞ? 形だけの勇者君?」

ガハルドは、突然落とされた爆弾発言に唖然とする光輝達を尻目に、不敵な笑みを浮かべながら挑発的にハジメを睨むと、そのまま颯爽と部屋から出て行った。

「……やっぱ食えないなあいつ。」

俺は少し苦笑するとその言葉の意味に気づいたのが天之河が姫さんを詰問する。

「リリィ、婚約ってどういうことだ! 一体、何があったんだ!」

「それは……たとえ、狂った神の遊戯でも、魔人族が攻めてくれば戦わざるを得ません。我が国の王が亡くなり、その後継が未だ十歳と若く、国の舵取りが十全でない以上、同盟国との関係強化は必要なことです」

「それが、リリィと皇子の結婚ということなのね?」

「はい。お相手は皇太子様ですね。ずっと以前から皇太子様との婚約の話はありました。事実上の婚約者でしたが、今回のパーティーで正式なものとするのです。魔人の侵攻で揺らいでいる今だからこそ、というわけです」

「王国には? 協議が必要ではないの?」

「事後承諾ではありますが、反対はないでしょう。元々、そういう話だったわけですし。それに、今の王国の実質的なトップは私です。ランデルは未だ形だけですし、お母様も前には出ない人ですから。なので、問題ありません。今は何事も迅速さが必要な時なのです」

決然とした表情でそう話す姫さん。天之河は、苦虫を噛み潰したような表情をしながら口を開いた。

「……リリィは、その人の事が好きなのか?」

「好き嫌いの話ではないのです。国同士の繋がりのための結婚ですから。ただ、皇太子様には既に幾人もの愛人がいらっしゃるので、その方達の機嫌を損ねることにならないか胃の痛いところです。私の立場上、他の皇子との結婚というのは釣り合いが取れませんから、仕方がないのですが……」

「な、なんで、そんな平然としているんだよ! 好きでもない上に、そんな奴と結婚なんて、おかしいだろ!」

「光輝さん達から見れば、そうなのかもしれませんが、私は王族で王女ですから。生まれた時から、これが普通のことです」

「普通って……リリィだって、女の子なんだ。ちゃんと好きになった人と結婚したいんじゃないのか?」

「天之河。」

俺は軽く睨む。

「これは国と国との政治的な結婚だ。俺たちが勝手に弄って国家間にひびが入ったらどうするんだ?」

「ぐっ、で、でも……」

「それより、今の俺達にはやる事がある。姫さんが決めたことだ。実質的な王国のトップは今は姫さんだから覆る可能性はない。ただ。」

俺は席をたって

「こいつみたいに自分の気持ちに素直にならないと絶対に後悔する時はくるぞ。」

俺はそれだけいうと部屋をでる。さて、準備を始めるか。

……姫さんを助ける準備を

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