東方継承伝   作:影絵師

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第一話 アルチャが幻想入り

 ……

 ここは……?

 謎の次元断裂に引きずり込まれた瞬間に気を失っていたナラは、はっきりとしない頭を振りながら周囲を見渡す。そして、多少の衝撃を受けた。

 真っ黒な空間に無数の目が存在しており、その全ての視線が自分に集まっている気がした。

 

「気がついたか、ナラ」

 

 呼ぶ声に振り向くと、そばにレタがいた。異常な空間に落ち着かないナラと違って、彼は落ち着いている。

 

「レタ……ここは?」

「私にもわからん。この感覚はまるで……世界と世界の間にいるようだ」

「世界の世界の間って……」

 

「なかなか的を得ていますわ」

 

 第三者の声が聞こえ、周りを探るナラとレタ。いた。彼女らの正面に一人の女性が現れ、近づいてくる。

 ナイトキャップをかぶった長い金髪、ドレスを着た女性だ。一見普通の人間だが、ヤクシャと同じ人間とは異なる存在にナラとレタは身構える。勾玉の形をした刃の薙刀――クジャンを召喚し、握りしめたナラは刃先を向けた。

 ナイトキャップの女性は怯えずに言った。

 

「そう警戒なさらずに。確かにかつてあなた方に敵意を向けていましたが、今回は今回です」

「どういうことだ……お前とは初対面だぞ。我々をここに引きずり込んだのはお前か?」

 

 唸りながら問うレタにナイトキャップの女性が頷く。

 

「少々手荒ですみません。しかし、私の話を聞いていただけませんか?」

 

 女性の言葉にナラとレタは疑いながらも構えを解く。女性の説明が始まった。

 

「私は八雲紫。あなた方も気づいている通り、人間ではない存在――妖怪の一種ですわ。境界を操る程度の能力を持っており、こうして異なる空間を出入りすることが可能です」

ナラ「妖怪って……日本のアニメに出てくるあの妖怪!?」

レタ「……その妖怪とやらが我々に何のようだ?」

 

紫「私が住んでいる世界――幻想郷が今、異変が起きているのです。突然、空間に割れ目ができ、そこから傀儡のような怪物が現れました。それらはケダモノ同然に人間を食い殺しています。人間が滅ぶのを防ぐために力を持つ者が退治していますが……割れ目から次々と現れてきりがありません」

 

 説明に出ている怪物についてナラとレタは理解した。ヤクシャ……向こうの世界に住む半神であり、こちらの世界に来ては人間を襲う存在。

 

紫「異変を解決すべく外の世界――あなた方の世界を調べたところ、あの怪物を倒し割れ目を塞ぐ者たちを知りました。そう、アルチャとラクヤン……あなた方のことです。どうか幻想郷に訪れて異変解決に協力してくれませんか」

ナラ「……えーと、幻想郷っていう場所にヤクシャが現れて、それをなんとかしてほしいってこと?」

紫「分かりやすく言えばそうなりますわ」

ナラ「それなら……」

レタ「断る」

 

 引き受けようとするナラの言葉を遮るように拒否するレタ。

 

ナラ「ちょ、この人を含めて幻想郷にいる人たちが困ってるんだよ!?」

レタ「ナラ、人助けをするのは結構だ。自分の都はともかく、インドネシアのほとんどの都を維持する根を取り戻し、世界を救ったのは確かだ。だが、幻想郷という知らない世界まで行く必要あるか? ジャカルタに行く以上に時間がかかるかもしれんし、次元断裂の封印に必要なカルパタルの根があるとは限らないぞ!」

紫「カルパタルの根……あなた達を引きずり込む際の場所にあった大樹の根のことですか?」

 

 紫の言葉にレタが反応する。

 

レタ「ああ……それがどうした?」

紫「ヤクシャの異変が起こった同時刻に幻想郷の空に巨大な根が現れたのです。普通の人間にも見えるそれは何らかのエネルギーが流れていますが、幻想郷にそれを使いこなせる種族はいませんでしたわ。あなた達のように」

 

 紫は言葉を続ける。

 

紫「私個人ではなく、幻想郷そのものがあなた達を求めています。むしろ、あなた達を受け入れているかもしれませんわ。幻想郷は外の世界で消えた存在、忘れられた存在、いることを否定された存在が辿り着く場所……あなた達も心当たりはありませんか?」

 

 都や街の守護者と精霊であるアルチャとラクヤン……人間の記憶に残らず、認識されず、それでも人間を守り続ける存在。

 

レタ「……確かにお前が言う通り、私たちは人間に忘れられた存在だ。だからといって、人間と都を守る使命をやめたわけではない。すまないが、幻想郷の異変に関しては何もできん」

ナラ「レタ……」

 

 幻想郷をほっとけないナラだが、レタと同じ考えだ。自分がヤクシャに殺されたことを周りの人間が知らず、自分がヤクシャから守り続けても人間が全く知らないことに嘆いたことがあった。だからって、人間を守らなくてもいいわけじゃない。建前とはいえ、自分と同じ死の恐怖を他人に感じさせたくないから戦っているんだ。

 そんなナラとレタを紫はしばらく見ていたが、大きくため息をついた。

 

紫「また手荒な真似をしたくありませんでしたが……」

 

 紫が2回程手を叩いた瞬間、目の前が暗くなった。

 

 

 

 気がつけば私は上空に浮かんでいた。レタもすぐそばにいた。

 周りには私達に必要不可欠なカルパタルの根があった。一瞬、バンドンに戻ったかと思った。でも地上を見下ろしてここがバンドンの上空ではないと察した。

 開拓されていない広い森、その中心にある里、見たこともない景色が広がっていた。

 

 ……どうやら私たちは幻想入りをしたようだ。   

 

 




紫がナラたちとは初対面ではない描写はリメイク前の出来事である。
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