東方継承伝   作:影絵師

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第二話 仕事終わりの初めての宴

 

 ここが……幻想郷? 少なくともあの気味の悪い空間からバンドンに戻ってこれたわけではない。眼下に広がるのは森林の中にある里、遠くには何らかの遺跡があるという、かなり田舎の世界に転移させられたようだ。

 自分たちがいる空を見渡すと、紫が言っていたようにカルパタルの根が張り巡らせており、ここでのエナジー切れを心配しなくても良さそう。

 ……だからといって、元の世界に戻らなくても良い訳じゃない。

 

ナラ「……これからどうする? 紫を探してなんとか帰してもらう?」

レタ「その紫がどこにいるかが分かればな……瞬間移動が出来るような妖怪を突き止めるのは難しいぞ」

ナラ「それじゃあ……今見えているあの里に住む人に尋ねれば――」

 

 ナラがそう提案しようとした瞬間だった。

 彼女の視線の先にある里の真上に次元断裂が出来ていた。そこから傀儡のような怪物――ヤクシャが次々と出現し、里に降りていく。

 ……里の人が危ない。ナラはすぐにレタに振り向く。

 

ナラ「レタ!」

レタ「ああ、ヤクシャに食い殺されるのを見ていられん!」

 

 体の上半身を地上に向けて急降下するナラとレタ。里の上空で無数の弾幕が見えると、スピードを早めた。

 

――――

 

 謎の割れ目とそこから出現する妖怪、空に張り巡らす根の異変が起きたのはつい最近である。人間を獲物とする妖怪は幻想郷にいる妖怪退治などの実力を持つ者が倒せるが、割れ目が存在し続ける限り傀儡が次から次へと湧き出てくる。割れ目を封印することはできるが、一時的の蓋の役目に過ぎない。結界を張られた割れ目の向こうから妖怪が押しかける光景に人々は恐怖を感じていた。

 そして人間の里の上空に現れた割れ目が最も人間に被害を与えている。

 

「ま、また出たぁぁ!」

「誰か、お助けぇぇ!」

 

 見慣れぬ妖怪の出現にパニックになる里の群衆。対妖怪用の弓やボウガン、火縄銃を手にした自警団が一般人を建物や安全な場所に避難させていく。その中には普通の人間ではない半妖の者もいた。里にある寺子屋の教師である上白沢慧音は民衆の避難を自警団に確認する。

 

慧音「避難は済んだか?」

「まだだ! あの割れ目に近いところに逃げ遅れた人がいる!」

慧音「くっ……その者たちは私が救う! あなた達は無理しない範囲で援護しつつ、避難する者を守ってくれ!」

「了解!」

 

 すぐさま妖怪の群れに向かう慧音。人間を模した器官を持つからくり人形の姿をした謎の妖怪が行く手を阻むが、慧音は弾幕と頭突きで倒していく。その後ろから彼女が撃ちもらした妖怪を自警団が倒しつつ避難者を援護する。

 そして襲われそうになった逃げ遅れた者にたどり着いた慧音はスペルカードを発動した。

 

産霊『ファーストピラミッド』

 

 三角形に布陣を組んだ魔法陣から丸弾、自分から大玉を三方向に発射する技によって周囲の妖怪を一掃した。

 

慧音「さあ、皆逃げるんだ!」

「けいね先生、こわいよー!」

慧音「大丈夫。自警団の人たちの所へ――」

 

 恐怖でその場に動けない寺子屋の生徒を安心させようとするが、新たな妖怪が急接近していた。攻撃したら遅いと判断した慧音は覚悟して生徒を庇い、妖怪が迫る中、目を瞑る。

 直後、大きな音が耳に入る。痛みは……感じない?

 ダメージを受けていないことに疑問を感じた彼女は目を開き、様子を確かめた。

 

「あ、危なかった……」

 

 そう漏らす虎を思わせる三角耳とアホ毛をした見慣れない白い少女の背があった。勾玉に近い変わった刃を持つ得物を手にしており、妖怪の突進を食い止めていたようだ。得物を振って妖怪を斬り落としたあと、彼女は慌てて慧音に振り向いた。

 

「大丈夫!?」

慧音「あ、ああ……助かった。君は……?」

「私は……って、それはあとで話すから!」

 

 そう言って飛び立ち、上空にいる妖怪に弾幕を放ち、得物で斬り伏せていく。やけに謎の妖怪との戦闘慣れしているそれをしばらく見上げていた慧音と生徒に“人ではない”誰かが声をかける。

 

「さあ、今のうちに行くんだ!」

「こ、今度は本物の虎!?」

「怖がらなくていい。すぐに忘れるだろう、この恐怖は」

慧音「……どういうことだ?」

 

 喋る白虎に慧音がそう聞くと同時に自警団が近づいてくる。彼らに任せた白虎も飛び、妖怪を爪や尾の刃で斬りつけ、噛みつき、斬撃を飛ばし、白い少女を援護する。

 生徒を保護した自警団の一人が上を見上げながら慧音に尋ねた。

 

「慧音、あのふた……一人と一頭の虎は何者なんだ?」

慧音「さあ……今、わかるのは、彼らは敵ではないことだけだ」

「そうか……皆、俺たちも出来る限り白虎を援護するぞ!」

 

――――

 

ナラ「レタ! ヤクシャはあと何体!?」

レタ「三体だ! 油断はするな!」

ナラ「りょーかい!」

 

 里の上空を上下左右に飛びながら会話するナラとレタ。その後ろに胎児の姿をした三体のヤクシャが弾幕を放ちながら追ってきている。

 クジャンを握りしめ、急ブレーキをかけるナラ。その結果、距離が突然狭まったことに驚くヤクシャたちに振り向き、クジャンの刃先を向けた。急に止まれなかった一体が突き刺さり、なんとか止まった別の一体に接近してまとめて両断する。残りの一体が口を開けてナラに迫るが、背後からのレタの牙がうなじに食い込み、絶命した。

 ヤクシャが消滅していく中、ナラはレタに叱られていた。

 

レタ「油断するなと言ったはずだが?」

ナラ「レタがやってくれるって信じてたよ」

レタ「本当に信じてるのか?」

 

 そうやり取りしながらもヤクシャのリスポーン地である次元断裂に近づく。自分の都の人間を守るべきアルチャはヤクシャを倒しただけでは終わらない。向こうの世界からの通過点である次元断裂をカルパタルの根のエナジーで封印しなければならない。

 封印するために里の上空に存在する次元断裂に接近するナラとレタ。その時、レタがなにかに気づき、ナラを止める。

 

レタ「待て! ……良くないことが起きそうだ」

ナラ「良くないことって……」

 

 心配と警戒する一人一頭の目と鼻の先にある次元断裂が少しずつ広がっていく。これは強力なヤクシャが出て来る予兆だ。構えるナラとレタ。

 次元断裂から巨大な手が現れ、額に人の上半身が生えている頭部を持つヤクシャが出てきた。そのヤクシャの姿を見た瞬間、レタは危機感を感じた。

 額に人間の半身が生えている猿モドキであるこのヤクシャは別に強いとは言えない。ただの人間からすれば恐ろしい捕食者だが、ナラを含むアルチャからすれば初心者向けのカモだ。しかし、レタは安心できなかった。

 

 ただの人間だったナラがアルチャに転生した出来事と言える死因は、ヤクシャに殺されたことだ。数年前の高校入学直後、お化けと出るという廃墟の噂を聞いたナラは義理の姉でもある親友を連れて、廃墟に忍び込んだ。そしてお化けと遭遇した……正体は同じタイプのヤクシャだった。親友と共に殺されたナラにバンドンの精霊であるレタが契約したことで、ナラはアルチャになりヤクシャからバンドンの人間を守り続けた。

 ……その二年後、別の同じタイプのヤクシャを目にした瞬間、ナラは恐怖と憎悪と怒りに囚われ、必要以上の攻撃を繰り返した。自分が守る街を巻き込んで……

 

 

レタ「ナラ、落ち着くんだ――」

 

 釘を刺そうとするレタだが、ナラの表情に口をつぐむ。基本的に明るいはずの彼女の目が激しい憎しみで鋭くなっており、歯を食いしばっていた。

 直後、ヤクシャに猛スピードで迫っていく。ヤクシャが巨大な弾、無数の弾幕を放つも、魔法陣で防御しながら突っ込んでいく。防ぎきれない攻撃で少しずつダメージを負っても怯まない。ヤクシャの目の前に接近した瞬間にクジャンを振ろうとした。だが、片手で防がれしまい、もう片方の手が迫ってくる。

 ナラはクジャンを握っていない方の手にエナジーを込め、篭手の爪で切り落とした。しかし、残っているヤクシャの片手に弾き飛ばされ、クジャンを手放してしまった。それを取りに行かせまいと、ヤクシャが丸腰のナラに接近する。

 

レタ「ナラ! 耐えてくれ!」

 

 すぐにクジャンを回収し、ナラに届けようとするレタ。ふと彼は今のナラが落ち着いている方だと気づくが、今はそれどころじゃない。クジャンを咥えてナラに振り向くが、ヤクシャが迫っているにも関わらずその場に飛び続ける彼女に驚きを隠せない。

 ナラの手元になにかが召喚されていく。インドネシアの民族楽器に似た銃――アングルンだ。普通の弾幕より強力な飛び道具だが、持ち主であるナラは主に別の使い方をしていた。

 銃口からレーザーを射出し、真上に振り上げた。

 

ナラ「奏でろ……風の旋律!!」

 

 伸び続けるレーザーを剣としてヤクシャに振り下ろした。一刀両断されたヤクシャが左右に切り離され、消滅していく。

 そんなヤクシャの最期を見ながらナラのところにたどり着いたレタ。クジャンをナラに返したあと、こう言った。

 

レタ「今回は……落ち着いた方だな」

ナラ「別に……今回も無茶してたし」

レタ「確かにお前自身は無茶したが、里を巻き添えにしなかった。よく耐えた」

ナラ「ありがとう……それじゃあちゃちゃっと封印しよっか」

 

 今度こそ次元断裂に近づき、片手を向ける。カルパタルの根からエナジーを吸収し、掌から次元断裂に放っていく。青い魔法陣が現れ、断裂が徐々に閉じていき、完全に塞がった。

 仕上げを終え、片腕を下ろして大きく深呼吸したナラ。レタが声をかけた。

 

レタ「うむ……完全に塞がったようだ」

ナラ「そう、よかった……って、えええぇぇ!?」

レタ「ど、どうした!? まだヤクシャが残っているのか!?」

 

 突然驚くナラの視線に気づき、自分も向けるレタ。そこにはナラが庇った女性がいた……空に飛んでいた。

 

ナラ「ひ、人が飛んでいる……!?」

「……その反応は外来人のようだな。しかし、割れ目を完全に閉じたということは、あの妖怪はもう現れないのか?」

レタ「ああ……再び開くかもしれんが、長くは持つだろう」

「つまり、人里は助かったということか? 里の代表として感謝する! 私は上白沢慧音だ」

ナラ「あ、私はナラ。バンドンのアルチャだよ」

レタ「……バンドンのラクヤンであるレタだ」

 

―――― 

 

 ナラとレタの活躍によって人里の上空の次元断裂が封印されたその日の夜、明かりに灯された人里の広場で宴が行われていた。ずっと悩まされていた次元断裂が完全に封印されたお祝いだ。安心と幸福に満たされた里の者たちは酒を飲み、料理を食べ、歌い、踊り、話に花を咲かせていた。そんな中、大活躍のナラとレタは多くの人々に囲まれていた。

 

「お姉ちゃんありがとう! 怖い妖怪をやっつけてくれて!」

ナラ「そ、そんなこと……ないよ」

「照れるのはいいが、謙虚すんなよ! あんたは人里を救ってくれたんだ!」

 

 同じことを外の世界でやったとしても人に認識されず、せいぜいラクヤンか仲のいいアルチャと一緒に祝っていただけのナラは、大勢の人に祝ってもらうことに慣れず、ただテレテレしていた。

 

「ありがたやありがたや、あなた方のおかげで人里は救われましたのじゃ。お礼にこの作物を受け取ってくだされ」

レタ「気持ちはありがたいが、我々はそのような見返りは必要ない。それとその玉ねぎは受け取れん」

「そうでしたか。それではこの『ちょこれーと』とやらを受け取ってください。この老いぼれにとって、甘いこれは好物でして」

レタ「……それはナラにあげてやれ。彼女の好物だ」

 

 レタの方もある意味神の使いとみなされており、多くの者から捧げものを渡されていた。そのほとんどが彼の苦手な物だったが…… 

 そんな一人一頭にある人物が近づく。寺子屋の教師である慧音だ。

 

慧音「楽しんでいるか? ナラ、レタ」

 

ナラ「結構久しぶりだよ……ここまでの規模じゃないけど」

 

慧音「ほとんどの外来人はそう言うぞ。幻想郷の実力者たちが集まった場合とは比較にならないがな」

 

レタ「……慧音、この場で言うべきではないが、我々は道草を食っているわけにはいかない。一刻も早く元の世界に戻らなければならない」

 

ナラ「ちょ、レタ!」

 

慧音「……確かに宴にうんざりする外来人の気持ちはわかる。だが、幻想入りしたばかりの者がどう行動すればいいかわからないだろ? それに今日は遅い、詳しい話は明日に聞こう。それに……『郷に入れば郷に従え』という言葉がある。ある程度楽しんでくれ」

 

 その言葉にナラは頷き、レタは少々不服に思いながら、初めての宴を夜通し楽しんだ。

 ……自分たちの存在を、幻想郷の者が無視できないと知らずに。

 

 




あとがき(リメイク前後の違いとかなんとか)

―リメイク前のラスボスの一人は紫。当時の影絵師の脳内では「幻想郷を大きく変える存在を消そうとする過激思想」だったが、今となって見れば紫を嫌な感じにしたと反省。

―影絵師の幻想入りのファーストコンタクトがほとんど慧音である。理由は人間の味方の方が穏やかに済ませられる。

―リメイク前のナラ……いろんな変身ヒロインと同じ明るくて甘い、何でも信じる。
 リメイク後(今作)のナラ……隠し事をされ、大切な者を二度と失った影響で、少しグレている。レタを心のどこかで疑ったり、本編で関わった一部のアルチャに敵意と不信感を抱いている。

―ナラのヤル気ツイッチをONにした例のヤクシャについてだが……仇にキレて暴れる展開に飽きた影絵師は「ナラが克服し、無傷で倒す」予定を書くつもりだったが、本編(セリフがほとんど叫び声、死体蹴り)より落ち着いた描写になった。

―オリ設定として人里の自警団が登場。立場は「ヒーロー作品の警察」。様々な武器で弾幕を撃てるが、弾幕ごっこはしない主義。
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