その艦、あきつ丸   作:友爪

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あなたがそう言うのなら。


第一章 つまり、これは戦争であった

 冬の海の彼方から寄せる波は高く、潮風は冷たく厳しかった。空は今にも降り出しそうな曇天で覆われ、波浪が砕ける音と、鉄骨を吹き抜ける風切り音以外、何も聞こえない。

 

 異様な静けさだ。本来、船着場とは、遠征帰りの駆逐艦の笑声や、時には出征に逸る艦隊の号令で満たされている筈ではなかったか。日も傾かぬうちに、それらが絶えるという事は、何らかの異常事態を示していた。

 

 異変はそれに留まらない。彼方の水平線が一面どす黒く染まり、蠢いていた。波風に比較すれば微々たる速度ではあったが、水平線そのものが、日に日に陸へ寄せ来る様に見える。

 

 それは錯覚にして、錯覚にあらず──注意深く観察すれば、海水が染色されたのではなく、幾重にも重なった黒点の集合体である事が分かる。その一点一点が、動作しているのだ。明らかに艦娘でも、貨物船でもない。今時分、我が物顔で海面に浮かんで居られる存在は、他に一つしか有り得ない──深海棲艦。

 

 

 つまり、これは戦争であった。

 

 

「やあやあ、これはまた、買いかぶられたものですな」

 

 

 沈黙は不意に破られた。地上でも、海上でもなく、空中。紅白の貨物用クレーンの天辺から、その声は発せられた。

 

 肝も縮む高所で、強風に煽られながらも、身じろぎ一つしない黒い影──強襲揚陸艦あきつ丸は、居心地も良さそうに望遠鏡を片目に当てて、水平を埋め尽くさんばかりの黒点を偵察していた。

 

 未だ彼我の距離は遠い。望遠鏡を目一杯伸ばしてみても、やはり点にしか見えない。思い出した様に『眼球』の倍率を上げる。次の瞬間には、望遠レンズと水晶体(レンズ)が無音のうちに掛け合わされ、敵群が目と鼻の先に感じられるようになった。

 

 群れの端から端まで、艦種を初め、顔の造形までも詳細に改めてゆく。途中、何度か目が合った気がした。その眉一つさえ動かさない青白い顔に覚えるのは、悪寒と言うより気色悪さだ。

 

 あきつ丸は目の合う度「おえ」と舌を出したが、それも一通り終えると、望遠鏡を短縮させ、烏羽色の制服に収めた。代わって懐中時計を取り出し、蓋を開く。

 

 

「作戦会議も終わる頃合でありますか」

 

 

 あきつ丸は呟くと、クレーンを組み上げる鉄骨を数回踏み台にして、軽やかに地上に降り立った。暫し、静止する。沈黙した空の鉛色にも似た、一面のコンクリート張りに、大穴が幾つも開いている。

 

 恐らく基底部までダメージがあるのだろう、底面の土砂からは滾々と海水が滲み出していた。特に海沿いの空洞には、堤防から溢れた海水までもが溜まって、落とし穴が形成されている。

 

 天然と非天然が共同制作したトラップの間を縫う様にして、あきつ丸は海沿いに歩き出した。歩みは鎮守府庁舎に向かっている。偵察の報告はいち早く届けるべきなのだが、足取りは鈍重だった。

 

 ここ数日に学習するならば、どうせ会議は定刻通りになど終わっていないに決まっているからだ。なので、せいぜい牛歩戦術を使わせてもらう事にしていた。

 

 数個目の穴を避けた時、あきつ丸は地面を注視していた冴えない顔を上げた。地面に開いたものを、そのまま平行移動させた様な大穴が、満遍なく建物にまで及んでいる。元陸自所属の艦娘は、憮然として嘆息した。

 

 たった数ヶ月前に赴任してきた時にはぴかぴか(に見えたものだが)だった筈の佐世保鎮守府が、哀れ、見る影も無い。水平線では、鎮守府をこんなにした張本人共が、海を黒ずませ気色悪くぞわぞわ蠢いている。

 

 あきつ丸の顔から感情という感情が抜けていった。代わりに、あの黒ずみより濁った瞳だけが、大きく見開いてゆく。

 

 今に真っ青に還してやろう──彼女は本当に心で想った事を、顔や声に出す素直さは無かった。何時でも泥濁しきった瞳で、じっと、確定事項を述べるのみであった。裏を返せば、彼女が表面上形作るものには、真意など欠片も含まれていない。

 

 怒涛の大群が佐世保近海に押し寄せてから、今日で早一週間。呵成に大挙されれば、一溜りもない群団であるだけに、鎮守府はパニックに陥った。哨戒は何をしていたのか、慢心しやがって、今日の担当は誰だ──と不毛な責任の擦り付け合いを経て(そもそもこれだけの大群勢でれば偵察の用を成さない)、焦り大規模な反攻艦隊が編成された。

 

 結果は惨敗。前提として数が違い過ぎるのだ。敵は水平線を埋め尽くす程の単横陣である。正面から行ったのでは、否応なしにT字不利の形になる。別角度からの奇襲をしようにも、目視可能な近海にまで進出されたのでは実施不可能である。帰結として、艦娘たちは同じ土俵すら追われ、陸に封じ込まれる形となってしまった。

 

 更に皆を困惑させたのは、敵の動向だった。圧倒的な兵力を有し、制海権をも抑えたのだから、後は勢いに任せて鎮守府を落してしまえば良い。しかし、敵は鎮守府を遠巻きに包囲するばかりで、時折散発的な遠距離攻撃を加えてコンクリートに大穴を開けては、積極的な攻勢に出てこない。

 

 

 一体敵の目的は何か? どう対処すべきか?

 

 

 との議論が起こって、何ら結論が出ないまま今に至るのであった。恐らく、今日とて同じだろう──

 

 無益な牛歩戦術も終わる時がきたらしい。

 

 眼前に、象徴的な赤レンガ造りの鎮守府庁舎が現れた。遠距離攻撃の余波で、屋根の端が欠けている。あきつ丸は、顔の筋肉が難しく顰められている事を自覚した。直後には弛緩した忌々しい微笑に代わられる。

 

 入口付近で現状を議論していた二人の駆逐艦が、歩み寄ってくる揚陸艦に気が付いた途端、ぎょっとして、足早に逃げていった。これでこそ──その点については満足して、あきつ丸は入口に歩み寄る。潜りながら、ふと確信した。

 

 この門口が崩壊する時にこそ、我々は肝を据えねばならないのだろう。

 

 

 

 

 静まり返った海とは対照的に、会議室は終わりの見えない喧騒に満ちていた。少女たちの甲高い声が卓上を飛び交い、時が経つに連れ音階は上がるばかりだ。その中に追加された机を叩く音や地団駄の音は、議論の白熱を余計に煽り、全く収拾をつかなくさせていた。

 

 窓の外の大群に、如何に対処するべきか──選抜された艦娘の会した室内では、論法が真っ二つに割れていた。即ち、あくまで抗戦するべしという主戦論と、戦力が温存可能なうちに退くべしという撤退論である。一週間も前から同じ議題に発した討議であったが、未だ決着が着いていない。

 

 

「だから、何度言ったら分かんねん! 敵がなんぼおっても、このまま籠城しとったらどうせジリ貧や。正攻法で破れんのやったら、夜襲をかけるなりなんなり、戦法はあるやろが。深海棲艦は何を考えとるか知れへんのやで。今夜にでも打って出て先手を取らんと、それこそ手もつけられん状況になるで!」

 

 

 正面向かって右方の上座から喧嘩腰を上げた、紅装束の艦娘が叫ぶ。主戦派の急先鋒──軽空母龍驤である。同じ側の席から、果敢な同意の声が対面に叩き付けられた。

 

 

「古参の方とは思えない軽率な言葉……良いですか、敵の目的が不明瞭だからこそ、軽々と動くべきでは無いのです。先日の戦闘で何を学んだのですか? 古来、防衛側を破るには三倍の兵力が必要と言います。敵は明らかにそれより多い。故に海上決戦など論外。撤退するべきです」

 

 

 正面向かって左方の上座に陣取った、桃色の髪の艦娘が、落ち着き払って反論する。撤退派の理屈家──駆逐艦不知火であった。同じ側の席から、意志を固くする同意の声が対面に跳ね返された。

 

 

「アホな。臆病風に吹かれたんか」

 

「正論を述べただけで臆病とは心外」

 

「ええか、艦娘は深海棲艦と戦うための存在や。それを果たしもせんと、ケツまくって逃げる? 冗談も大概にせいよ」

 

「ええ、逃げます。逃げて再起を図るのです。むざむざ全滅しにゆく方が冗談でしょう。あなたの提案は皆を死なせるだけだ」

 

「じゃあな、逃げたとしてどうなるんや? 佐世保が落ちれば、海どころか本土が侵される。そないなって、どの面下げて詫びる言うんや」

 

「貴重な艦娘を失う方が、全体としては損失でしょう。これは戦争なんですよ。無用な情を切り捨てないで勝利は有り得ません」

 

「無用、無用やと。貴様……っ」

 

 

 にわかに、『口調の変わった』龍驤の全身から剣呑な空気が噴き出した。越えてはならぬ一線を越えたのだ。一人の激昴は、速やかに対立する艦娘たちに伝播した。本来、水線上の相手に向けられる筈の敵意が渦巻き、戦友同士でぶつかり合う。侵略者に対する最終兵器たちの剣幕は『殺意』に至る手前に及び、僅かな切欠でもあれば、左右を分断する中央卓を飛び越える構えを見せた。

 

 

「はいはい双方そこまで。あ~怖い怖い。意見は良ーく分かった」

 

 

 殴り合いが始まる直前。太い声が、会議室の最奥から艦娘たちを制した。敵意に満ちた視線が、その出どころに集まる。

 

 焼け付く様な数多の敵意を平然と受け止め、ちょんと鎮座しているのは、一匹の雉猫。見間違えではない。冬仕様の黒服を着込み、階級章を付けた『猫』である。彼こそが佐世保鎮守府最高司令官──ノア提督であった。

 

 艦娘たちは、形だけは命令に従い、腰を下ろした。だがお互いを敵視する睨みまでは消えず、火種は燻ったままだった。しかし、猫に「座れ」と命令されるとは! 明らかに立場が逆なのではなかろうか──と甚だ不本意なのは、左右とも一致する気持ちであった。

 

 

「どちらの意見にしろ、一刻の猶予も無いのは確からしい。結論は出ないままだが、もう待つ事は出来ない。次の会議までに、俺が決断を下す。異存は?」

 

 

 提督は金の双眸で一同を見渡した。艦娘たちは不本意そうに押し黙り、苦い沈黙が場に流れた。

 

 ――確かに作戦の決定権は提督に属する以上、最終的にはそれしかないと頭では分かっている。かと言って、そうも上から命令されたのでは、この一週間は何のためにあったのか? 艦娘たちは存在を蔑ろにされた様な気がしてならなかった。

 

 そもそも畜生風情に指揮されるのが不満なのだ。日和見主義者で、遂には解任された先任の提督の方が、まだ人類であるだけましだった。入れ替わりで、数ヶ月前に、この猫が妖しい黒装束の艦娘を伴って赴任してきた時には度肝を抜かれたものだったが、それから自分たちが国に「見捨てられた」と気が付くまで長くはかからなかった。

 

 そこに、この大侵攻である。艦娘たちは自らの運命を呪わざるを得なかった。

 

 こんな昼行灯の猫に何が出来る──艦娘は自らの運命を常々呪っていたが、不満の核心はそこには無かった。

 

 本当に不甲斐ないのは、海戦で惨敗した上、いたずらに貴重な時を浪費した我々である。戦況を好転させるどころか、更に悪化させるばかりの働きだ。これでは遠回しに敵に肩入れしているのと同じではないか──艦娘の矜持は著しく傷付いていた。

 

 意見の違いこそあれ、皆同様の無力感に焦れている。その真っ当な感性こそが、論議から理性を奪ったのだと、気付いた者は果たして居ただろうか。全く、白黒はっきりしている分、窓の外に飛び出ていった方が幾らかやりやすい。もっとも、その上は生命を賭ける必要があったが。

 

 

「提督殿の仰る通りです。冷静にならなければ、実のある議論も無理難題というもの。ここは提督殿のご裁断を信じ、無謀で無闇な私心はぐっと堪えるべきでしょう」

 

 

 燻り続ける空気を、恐れ知らずにも破った者がいた。皆の注意が、また一斉に声の出どころに集中する。左方末席に、若い男性士官が立ち上がっていた。

 

 女所帯の鎮守府で、提督以外の男が会議に参加するというのも、異常といえば異常である。実際かなりの場違い感を醸していたが、当人は察した様子も無く続けた。

 

 

「しかし、敢えて。敢えて士官の身分として言わせてもらうならば、この際転進も致し方ないでしょう。そこの……駆逐艦が言った通り、数が違い過ぎますから。着任したばかりでお辛い事でしょう、心中ご察し致します。ですが、時に無謀を避け、撤退を決断するのが、真に勇敢な指揮官というものなのです。提督殿におかれましては『大義』のために、どうか賢明なるご判断を」

 

 

 芝居染みた抑揚を付けて、つらつら言いたい事を全て吐き出すと、彼はすとんと座り、目を瞑って腕組みをした。口元は隠しきれない満足感に歪んでいる。正論を言ってのけたという自負に酔っているのだ。

 

 それに注目する艦娘たちの視線に、好意的なものは一つも無かった。むしろ、右方に対面する艦娘たちは──取り分け龍驤は、強い敵意と軽蔑の眼差しであった。

 

 彼は数ヶ月前にノアが着任した数日後、海上自衛隊上層部より、お付きの幕僚として派遣された中級士官である。二十代前半という年齢の割に、階級はまず高いと言えるだろう。また背は高く、身なりはすっきりとしており、眉目は整っていると言えない事もない。

 

 主な職務は兵站管理であり、そちらの能力はまず無難。凡庸とも言い換えられるが、後方勤務には堅実な仕事こそ尊ばれる。何処からも不満が出ないだけ、使える人材であろう。

 

 しかし、この男には悪癖があった。堅実な仕事で満足しておれば良いものを、分を超えて艦娘の運用にまで口を出す様になったのだ。これは明らかな越権行為であったが、提督が強く咎めなかったのと、若さ故の好戦的な姿勢が艦娘の支持を得た事が重なって、暗に見過ごされていた。

 

 彼には『首席後方補給官』という役職名があったが、佇まいが提督よりも提督らしいとして、一部から『参謀閣下』などと呼ばれ始めた。もちろん越権行為を揶揄する呼称でもあったが、本人は痛く気に入ったらしく、こう呼ばれても訂正しなかったため、何時しか定着してしまった。

 

 

 

 この様な訳で、気鋭溢れる若者は、猫風情より余程艦娘に人気があった──が、一月もすると事情は変わった。

 

 

 

 ある時、彼の些細な伝達ミスで、遠征隊が任務を失敗して戻ってきた。小破しながらも無事に帰投した幼い駆逐艦たちを、この『参謀』は必要以上になじったのだ。

 

 

「成果無しとは何事か! それに飽き足らず、おめおめ損害を被って帰ってくるとは、この恥知らず共め!」

 

 

 遠征の旗艦は、涙ながらにその理不尽を訴えたが、更に激しい罵声が返ってくるだけだった。遠征隊の全員が泣き崩れても罵倒は止まず、それどころか、その日入渠もさせて貰えなかった。

 

 事態が発覚したのは翌日の事である。身も心もぼろぼろにされた駆逐艦たちが夜中啜り泣く声に、姉妹艦が気付いたのだ。事情を聞かされた提督は、早急に遠征隊の入渠を命じた後、参謀を呼んで申し開きをさせた。しかし参謀は欠片も悪びれず

 

 

「軍規を正したまで」と胸を張って開き直った──いや、開き直った自覚すら彼には無かった。

 

 

 彼は完璧主義者として異常な自尊心の持ち主であった。自分は特別な存在であり、全ての不都合は他人の責任だと信じて疑わなかった。

 

 それを指摘しようものなら、普段の紳士的な態度を豹変させ、相手が折れるまで喚き散らした。他人を貶めれば、自身が正当化されると勘違いしている様だった。余りの始末の悪さに、泰然自若を常とするノア提督ですら鼻白んだ。

 

 そして、深海棲艦の大侵攻は、参謀の人格上の問題を更に浮き彫りにした。

 

 この男は当初、龍驤側に付いて主戦論をヒステリックに主張し、艦娘たちを激しく扇動した。この時まだ弱かった慎重派、もしくは撤退派を『臆病者』扱いして一蹴すると、自分が出るわけでもないのに、提督に出撃を執拗に願い出た。

 

 新任提督のノアは心底気が進まなかったが、闘争心の加熱しきった艦娘と、ここぞとばかりに上層部の威光をちらつかせる参謀を前に、拒否する事が出来なかった。

 

 そして散々出撃を煽った挙句、反抗艦隊が惨敗してからは、腰が抜けた様に撤退論を主張する様になり、今の内部分裂を招いたのだった──

 

 

 このコウモリ野郎がぬけぬけと!

 

 

 舌の根も乾かぬうちに変わり身して、今度は主戦派を『無謀』呼ばわりする男の発言に、龍驤は歯を食いしばり、怒りで焼き尽くさんばかりに睨んだ。同じ撤退派の艦娘たちですら剥き出しの不快さを隠さない。

 

 だが、どれも瞼を閉じた彼には届かなかった。

 

 

「会議は終了です。退室願います」

 

 

 沈黙を保つ提督に代理して、横に立つ秘書艦──正規空母加賀が無機質に号令した。有無を言わせぬ、冷徹な口調であった。発言を無視された参謀だけでなく、艦娘の反感をも買い、加賀は不満の全てをぶつけられようとした。

 

 

「──退室願います」

 

 

 二度目の号令は、一度目より低かったが、心臓に突き刺さる様な迫力が込められていた。また、加賀の放つ極寒の眼差しは、苦情の一つすらも凍り付かせてしまった。

 

 一同は渋々起立して、形式だけだと自分に言い聞かせながら提督に一礼した。

 

 

 ◆

 

 

 会議室の厚い木製扉を内側から開くと、嫌らしい笑みを滲ませた黒装束の強襲揚陸艦が、廊下の片隅で待機していた。

 

 清潔な廊下を、点と汚す黒ずみに気が付いた途端、龍驤の顔が渋くなる。縁起の悪い──甲斐無い会議も終わったので、煮えくり返るはらわたをどうにか沈静化しようとしていたのに、追加で燃料を投下された気分だった。

 

 龍驤の不快に気付かない訳でもあるまいに、廊下の黒ずみは友好的な身振り手振りも大袈裟に近付いて来た。

 

 

「これは皆様お揃いで。今日も今日とて、長々ご苦労様であります」

 

「……会議サボって何処に行っとった」

 

「偵察です、偵察」

 

「そんで何や動きはあったんか」

 

「相も変わらずだんまりですな。いや参った、どうしましょう」

 

「他には」

 

「変わらず気色悪い連中です」

 

「サボってまで欲しい情報には思えんな」

 

「出席してまで聞く内容でありましたか?」

 

「ぐ……」

 

 

 皮肉ったつもりが逆に痛烈な皮肉を食らい、何も言えなくなった龍驤は、憚りもなく舌打ちした。あきつ丸の、あらゆる不誠実に泥濁した目が極端に細まり、彼岸花色の唇がぐにゃりと歪む──それで笑顔のつもりだろうか。

 

 冒涜的な何かが、下手な人型を演じているのではないかという疑問が拭い去れなかった。極端に色彩の乏しい黒装束と、死人にも似た血色の皮膚は、濃厚な不吉の香りを漂わせている。同じ艦娘と言われるより、滑稽にも『陸の深海棲艦』と言われた方が頷いてしまうかもしれない。

 

 加えて正体の不明瞭さが不気味に拍車をかける。噂によると陸自の出身らしく、確かに誰も海に出た姿を見た事が無い。本人曰く、海上戦闘は専門外らしい。仲間が命を張っている間も、陸で『何か』しているのだ。その癖、階級だけは立派なものであり、あろう事か古参であり武勲艦の龍驤と同格だ。これは裏で不正の闇があるに違いないと、もっぱらの噂である。

 

 正体がはっきりしている分、あのコウモリ野郎の方が、まだやりやすい。やり返された口惜しさよりも、生理的嫌悪感が先に立つ。

 

 

「艦娘の務めはろくに果たさん癖に、士気を削ぐのだけは一人前やな」

 

 

 ──と言ってしまうと負けな気がしたので、龍驤は舌打ちしたきり無言で、踵を鳴らして足早に場を離れていった。

 

 ぞろぞろと後続の艦娘たちも退出した後、一番最後に、艦娘たちに何と思われているか露とも存ぜぬ参謀が、不満そうな顔で会議室を出ようとした。その姿を、あきつ丸が「あの」と呼び止める。

 

 

「何かね」

 

「は、参謀閣下。本日は日柄も良く……」

 

「良いとは言えんだろう。用でも?」

 

「ええと、いえ、用という話ではないのです。ただ話をするための話と言いますか」

 

「話、僕に?」

 

「はい、つまり、何でもないのでありますが……これは失礼致しました、お務めご苦労様であります」

 

「……ありがとう。そちらも」

 

「はっ、光栄であります参謀閣下!」

 

 

 それは驚くべき変貌だった。

 

 艦娘たちを見送った一瞬後には、不吉な黒装束の怪物から一変、崇敬する上官に恐縮する、初々しい新参者の少女へと変化したのだ。

 

 参謀が大いに自尊心の満たされた表情で「うむ」と言うと、あきつ丸は頬を染めて、ぎこちない敬礼をした。その愛くるしい姿は、自尊心以外の何かを刺激したらしい。立ち止まって敬礼し返す間、男は少女の豊満な肢体を、上から下まで視線で舐め回した。やがて咳払いを一つすると、参謀は機嫌も良さそうに去っていった。

 

 曲がり角を折れ、その背中が見えなくなるまで凝視してから、あきつ丸はやっと入室した。会議室の最奥で、猫提督と秘書艦が出迎えた。

 

 

「おかえり。寒いところ、ご苦労さん」

 

 

 あきつ丸以上に思考の読めない(というか存在自体謎な)ノア提督が、先ず労いの言葉をかけた。あきつ丸の顔から、するりと表情が抜ける。そこに嫌らしさも、初々しさも存在しない。

 

 一定時間の無表情で、この小さな提督をじっと見つめた後、また妖しい笑みで建前を満たして「お安い御用」と言った。少しだけ爽やかな返答に、表情との隔たりがあった。彼女のささやかな失敗だった。

 

 

「で、海はどうだった」

 

「はい、報告致します。敵に変化無し。数から艦種、配置、表情まで変化無し。また、何時も通り青白くて気色が悪い半魚人でありました」

 

「そいつは極めて重要な報告だな。戦争の罪悪感という点で。下手に変わられたら超困る。他には?」

 

「距離だけは徐々に詰めてきているであります。言いましても日に十メートル程度でありますが」

 

「攻めてくる様子とは違うのか」

 

「その気があるのなら、とっくの既に蹂躙されておるでしょうな」

 

「俺でもそうする」

 

「猫が言うと重みが違う」

 

「……心理的な圧力をかける作戦でしょうか」

 

 

 提督の脇に控え、黙って報告を聞いていた加賀が見解を示した。途端に報告者は肩を震わし「心理ですって」と出来の悪い冗談を聞いた時と同じ反応をした。加賀が極寒の視線と共に何か言う前に、提督が素早く口を挟む。

 

 

「確かに、その種の効果が出ているのは揺るがない事実だな。しかも由々しき問題だ。奴らが人様の心理を解するかはともかく、俺たちは対応する必要がある」

 

「それを今日の会議で決めたのでは」

 

「分かってて言ってるだろ?」

 

「とんでもございません、まだ聞いてもいないではありませんか」

 

「……加賀、説明頼んだ」

 

「かしこまりました」

 

 

 加賀は手にしたバインダーに目を落とし(律儀に記録していた)、掻い摘んで会議の内容を説明した。丁寧に婉曲されていたものの、内部分裂も甚だしい惨憺たる有り様は誤魔化せない。「それはそれは」と如何にも深刻そうに傾聴していたあきつ丸だったが、内心では踊る会議を早々に見限って偵察役を申し出た、自らの先見性を褒めていた。

 

 

「それで結局は強権発動でありますか」

 

 

 結論を聞き終わると、あきつ丸は呆れた様に首を傾げた。

 

 

「だったら最初からそうなさればよろしかった」

 

「現場の声を無視する事をしない出来た提督だろう?」

 

「お人……猫がよろしいので。それが長所足れば良いでありますが。足を引っ張り合っていては世話もありますまい」

 

「本来は聡い奴らだ。今は二つに分裂して、悪い意味で意地になっているだけで。それに二十年前の大規模作戦を生き抜いた古兵(ふるつわもの)も居る。あの紅い軽空母とかな」

 

「だとしても我々は『兵器』でありますよ。所詮は戦争の道具であって、提督殿に意見出来る立場にありません。敢えてそれらの戯言を聞く必要が?」

 

「……お前本気で言ってんの?」

 

 

 不意に今までとは違う、危険な光がノア提督の双眸に灯った。先の会議終盤にも似た空気が、再び流れる。あきつ丸は気圧されたが、微笑のまま押し黙っている──偶に彼女は、同様の失言を故意に行った。その度に、このちっぽけな猫が、身の丈に合わぬ怒りを本気でぶつけてくる事を確認しては、満足しているのだった。ノアもその事は承知している。承知していて、止めないのだった。それがこの性悪女の『安心』に繋がると知っているからである。

 

 そして存分に怒りを全身に受けてから、あきつ丸は「言葉が過ぎました」とすっぱり頭を下げた。加賀からすれば、不思議な光景であったのだろう。眉をぴくりと動かして訝しんでいた。

 

 

「そもそもの疑問ですが」

 

 

 空気を気遣って(些か空振りだが)、加賀が話題を変えた。

 

 

「敵の目的は何でしょう。心理的圧倒は、言わば副次的であって、主たるものでは有り得ません。鎮守府を陥落させるとか、艦娘を撃沈せしめるとか、然るべき目的が不明です」

 

「再三の会議で結論が出なかった問題だったな。確かにそこが不明だと、どんな作戦も対症療法にしか成り得んが、明らかにするには時間が足らない。このままだと俺らは干上がっちまう」

 

「……資材は戦闘に耐える最低限ありますが」

 

「違う。もっと目の前のもん、飯だ、飯。さっき糧食班から米びつの底が見えそうだって報告があった」

 

「それはっ、由々しき大問題ですね……!」

 

 

 この人でも声を荒らげる事があるんだなぁ、とあきつ丸は暢気に思っていたが、事態は想像以上に深刻であった。

 

 

「矢玉はあっても飯が無いんじゃ、数日しないうちに反攻作戦すら実行不可能になる。飢えて戦ったら負けるって、先人たちが身を賭して証明しているからな。つまり撤退を余儀なくされる訳だ。うちには大食らいも居る事だし……」

 

「お言葉ですが提督、あれは慎ましくも正規空母が十全に活動できる最低限の」

 

「分かってるよ。嫌味言ってごめん」

 

 

 ノアは帽の上から頭を掻いた、つもりだったが、傍目には猫が顔を洗っている様にしか見えなかった。そういえば外はどす黒い曇天であり、今にも降り出しそうであったのを思い出す。

 

 

「しかし、何故その様な事態に。我が鎮守府には少なくとも一月分の糧食が貯蓄してある筈ではないですか」

 

「良く知ってんなお前……けどそれは少し前の話でな。あの参謀殿が着任すると同時、嫌味に『国民が飢えているのに、その守護たる者の贅沢が許されるのですか』とか抜かして、食糧の供給を減らす様に上申しやがったんだよ。あの野郎、この国で一番偉いのを盾にしやがって」

 

「何故教えて下さらなかったのですか」

 

「士気にかかわると思って……」

 

「でもあの人、隠れて夜中にビフテキ食べてたって赤城さんが半ベソかいてましたよ」

 

「あ? 何それ初耳なんだけど」

 

「士気にかかわると愚考しまして……」

 

 

 すれ違いのやるせなさと、それ以上の憤慨で、暫く一人と一匹は言葉も無くしてしまっていたが、程なくして対処を考え始めた。そもそもこういった対処は『参謀』の役割であるのに、逆に尻拭いをさせられる当たりが実に腹立たしかった。

 

「今からでも糧食の輸送を打診してはどうでしょう。佐世保は絶海の孤島でもなし、事情を述べれば許可が下りるのでは」

 

「誰が輸送してくるんだ? 散発的とは言え、敵の攻撃があるんだぞ。それに敵が今にも攻め寄せてくるとも分からない鎮守府だ。海路は論外。陸路は時間がかかる。となれば空路となるが……命をかけてここに直接来るのか、近場で受け渡しをするのか、上でその辺を議論している間に、俺らは干物だし赤城は死ぬ」

 

「街から徴発してくるのはどうでしょう。住民は既に避難済みですし、遠征に出られず手空きの駆逐艦が大勢居ます」

 

「今の時代それは『略奪』って言うんだよ。ただでさえ三十年近くダラダラ戦争してて厭戦気分が蔓延してんだよ? 仮にそれで凌ぎ切ったとしても、今度は国民批判の嵐で海自ごと吹っ飛ぶな。鬱憤晴らしの良い的になる」

 

 

 再び加賀の言葉が無くなってしまった時、今度はあきつ丸が別の視点から議論を振った。

 

 

「いっそ援軍を頼んではどうでありましょうか。あれだけの大動員ですから、他の戦線が手薄になる事が予測されるであります。近場の鎮守府に、そうでありますな、呉辺りであれば間に合わない事もないかと」

 

「『友軍艦隊』か。不可能だな」

 

「その根拠は」

 

「今、他の戦線が手薄になると言ったな。それは本当か?」

 

「必然でありましょう」

 

「では正確な敵の総数は。外のあれ以外には、残り何個艦隊残っている。お前知ってるのか? それとも呉鎮守府の提督なら知ってるか?」

 

「……なるほど、誰も知らない」

 

「その通りだ、誰も知らない。奴らは海の底から何処からともなくやってくる。もちろんすべてを把握して戦えることは稀だろう。そのために俺らは様々な情報や経験を『予測』として打ち出し戦場に赴くわけだが……今、俺たちが分かってるのは飯のことだけで敵の残存兵力も分からないのに、他所に貸す余剰戦力など存在しないだろう。ひょっとすると、ここ佐世保が陽動って可能性も捨てきれん」

 

「過去の情報を鑑みるに、それは無いと思われるでありますが……まあ、自分の立場になって考えれば確かに貸しませんな。ただでさえノア提督殿は嫌われておりますし」

 

「なに急に傷つくこと言ってくんの……それにしても、情報を完全秘匿の内に、大群を率い、先ずは辺境の鎮守府から各個撃破する。全く嫌になるくらい用兵の常道だな。やっぱりあいつら高等知性があるんじゃないのか」

 

「内憂外患とは正にこの事でありますな」

 

 

 提督は徐ろに両手を挙げた。左右か一方であったなら、福の一つでも招きそうなものだったが、この場合単に『お手上げ』の合図だった。残る二人も同意であった。考えれば考える程、より悪い現実しか見えてこないからだ。加えて鎮守府内まで分裂しているのだから、絶望的と言える。

 

 それ以降、何の音も発さぬままノアは両手を挙げ続け、その不吉な招き化け猫を二人はただ眺め続けた。

 

 

「……或いはこの状態そのものが、敵の目的でありますか」

 

 

 どれ程時間が経ったか、あきつ丸がぽつりと言った。提督は両手を挙げたまま、加賀はお腹を空かせたまま、目線だけで話の続きを求めた。

 

 

「敵にとっては、どちらでも良いのでありますよ。こちらから攻めに出ようが、撤退しようが。前者であれば数に任せて一週間前の再現をすれば良し、後者であればなお良し。我々としては、敵があの数で、あの場所に現れた時点で詰みなのであります」

 

「今にも干上がりそうなのも敵の謀略か?」

 

「それはこちらの都合というもので、間が悪いとしか言い様がないでありますな。裏切り行為がないとすれば、でありますが」

 

「やっぱり、あの男深海棲艦のスパイか何かじゃないの」

 

「おや、それは良いでありますな」

 

 

 それを聞くと、提督はようやく両手を下ろし、金色の丸目を細めてみせた。あきつ丸が『良い』と言った意味を理解したからだ。彼女は、常に拳銃を脇に吊るし、隠し持っている。スパイの『処理』などは専売特許だった。

 

 あきつ丸は軽く肩を竦め、冗談である事を示した。今の所は、だが。後は当人の立ち振る舞い次第であろう。

 

 

「それで、提督殿。どちらがお好みで」

 

 

 あきつ丸は一歩み出て、両手の平を差し出した。手を乗せて選べ、という事だろう。

 

 

「何が」

 

「会議の結論でありますよ。直ぐにでも選ぶ必要がありましょう? 右か左か、それぞれ反攻と撤退の……ああ、止めましょう。玉砕と逃亡であります」

 

「露骨過ぎるな、その表現」

 

「今更言葉の上が何でありましょうか。事実は事実なのであります。さてどうしますか、参謀殿は『大義』のために逃亡を勧めておられましたが」

 

「ふざけるな。数万の国民の生活を奪った上に成り立つ大義なんて何処の世界にあるんだ」

 

「では玉砕を?」

 

「……それは主義に反する」

 

「二者択一でありますよ。自分は、どちらでもあなたに付いて行くだけであります」

 

 

 絶対的追従を口にしたあきつ丸は、真白い手袋をはめた手の平を、更に前に差し出す。ノアはじっとその二つを見比べていたが、手を乗せようとはしなかった。

 

 その代わり、帽を深く被り直し、顔を塞いで俯いた。喉をごろごろ低く鳴らし、かなり苦しんでいる様だった。固唾を呑んで見守っていた加賀は、化け猫とはいえ、同情せずにはいられない。

 

 彼に用意された選択肢は、残酷にも双方破滅の道である。

 

 ある意味、艦娘である事は楽だ。何故なら、生死の責任を負わないからだ。自らの生き死にまでも最終的には他人任せで、命令のままに生きれば良い存在だからだ。しかし、多数の艦娘を『兵器』ではなく、尊厳ある『人』として見た場合、その生死を左右させるのは、どれだけの重責であろうか。加賀には想像もつかなかった。

 

 世の諸提督が艦娘を兵器として見がちなのは、何も倫理の欠如によってではないのかもしれない。むしろ、倫理が耐え切れないからこそ、艦娘を少女の形をした兵器だと思い込んでいる。

 

 しかし、この提督の場合、事情が異なる。先程の様に艦娘の尊厳を貶めれば烈火の如く怒るし、今の様に無謀な出撃を強いるとなれば思い悩む。これが並の指揮官であったなら『艦娘に出撃を強要しておいて、自分は逃げる』などという選択をしかねない。むしろ世間の感覚的には、こちらのほうが一般的だろう。この猫が異質なのだ。

 

 恐らく、ノアは軍の指揮官に向いていない。艦娘ごときのために一喜一憂していたのでは、提督は務まらない。『提督』という特殊な職業に着任する過程で、その種の感傷は徹底的に削り落とされるカリキュラムが、上層部によって用意されている。それを保持したままというのは、職業教育に失敗したとしか思えなかった。

 

 しかし──と加賀は考える。世間で言う『ちゃんとした提督』と、この『出来損ないの提督』に指揮されるのでは、艦娘としてどちらが幸せだろうか?

 

 

「俺は気が緩んでいたのかもしれないな」

 

 

 帽を目深にしたまま、ノアが低く言った。あきつ丸は、手を差し出したままだ。

 

 

「長年提督になるのが目標だった。こんなナリだからな、競争相手を追い落とすのに手段は選ばなかった。それがようやくだ。日和見の提督を失脚させて、佐世保に落ち着いた。だから、アレだ。ここの所、燃え尽きてたな。全く、俺の目標は、そうじゃないだろうにな」

 

 自らをたしなめる様に呟くと、俯いていた顔を上げる。帽で暗く影になった奥で、金の双眸が月光にも似た光を迸らせた。丸く開いていた瞳孔が、化け物めいて細まった。

 

 ああ、この目だ──ひっそりと、あきつ丸はノアと出会った月夜を想起した。この妖しい猫に、海へ来ないかと誘われた、全ての始まりの時と同じ瞳だ。

 

 

「あきつ丸」

 

「はっ」

 

「お前には感謝している。何時も無茶ばかり言ってきたが、そのお陰で、こうして提督に納まるのが大幅に短縮された。この際乗りかかった船。もう少しばかり、無茶に付き合って貰う。だからその手をさっさと引っ込めろ! 俺はどちらも選ばない!」

 

 

 鎮守府に着任してから初めて、ノアは声を張り上げた。あきつ丸の両手が、元の位置に戻る。彼女の顔は、表現しようが無い程歪み切っている。

 

「何時もそうであります。私が何か提案すると、あなたは我が儘を言って突っぱねる。困りましたな」

 

「そうだ、どちらも嫌だ。俺がむかついている事が分かるか? それはな、あいつらが『楽に勝てる』と思ってるだろう事だ。舐めてるな、舐めてるだろ。玉砕か逃亡だと、ふざけやがって。してやるものか、させるものか」

 

「では教育してやるしかありませんな。追い詰められた猫がどうするか」

 

 

 ノアとあきつ丸の雰囲気は、正に悪辣を極めた。加賀は絶句している。これがつい数分前まで絶望に悲観していた者たちか?

 

 

「海上戦闘はしない、撤退は問題外。となると、道は一つでありますな。となると、これは」

 

「ああ、この『第三の道』はお前の専門だ。命令する。強襲揚陸艦あきつ丸、すべてをひっくり返すぞ」

 

「吐くのは毛玉だけにしておいて欲しいでありますな」

 

 

 強襲揚陸艦は、大袈裟に手の平を肩まで上げて、呆れ顔で「やれやれ」と首を振った。その後で、一切の表情を失くして、言う。

 

 

「しかし、是非やれと仰るのであれば、やりましょう」

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