アックスと戦闘中から遡ること15分前…。
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「またここに来ちゃいましたね。」
目の前にある小さな土台には拳程度の丸い石が二つ置かれている。
ユイ、シノン、リーファ、クラインの4人がこのフィールドに来てからかれこれ30分はさまよっている。
しかも同じところを延々とさまよっているのだ。
なぜかと問われると全く分からないが恐らくこのフィールドのギミックだとユイは推測している。
そこで、シノンが通った道に目印となるものを置いていくことを提案したのだ。
石が2個…つまりこの道は既に2回通っている。
「暑いわね。ここでバーベキューなんてしたら絶対全部焦がすわね…。」
シノンが手で風を送ろうと手首を動かしている。
パパ、ママ…。大丈夫でしょうか…。
離れ離れになった4人の安否が気になる。
4人ともあのデスゲームをクリアした猛者に変わりないのだが、どうしても不安になってしまう。それはCPPが関わっているからだ。
「う〜〜。」
つい小さい呻き声を発してしまう。
「ユイちゃん、何か解りそう?」
不意にリーファが明るい声で問いかけた。
ユイは頭を左右に小さく振り、リーファの発した明るい声とは対称的な低い声で答えた。
「ダメです…。このフィールドの情報…マップはおろかどんなモンスターがポップするのかすら掴めません。正直これがギミックなのかどうかも…。」
「まあとりあえず進むしかないわね。クラインあんたいつまでも座ってないで前歩きなさいよ。」
次に声を発したのはシノンだ。シノンは耳をピクピクさせながらユイのとなりでうな垂れているクラインに喝を入れる。
やっぱり、クラインさんはかっこ悪いです。なんかパパと違ってへなへなしてます。
でもパパは兄貴分って言ってました…、ところで兄貴分ってなんでしょうか?
暫くこんなどうでもいいことに思考を巡らせてみる。だがやはりわからない。
なんといっても自分はAIなのだからそんなことはどうでもいいはずなのだが…。
「リーファさん兄貴分ってどういう、……!?」
突然、ユイのプレイヤー索敵システムに黄色光点が点滅し始めた。だが妙なのはこれがプレイヤーを示す光点ではないということだ。
通常のプレイヤーならば即座にプレイヤー名くらいは知ることができる。だが、このプレイヤーは名前はおろか距離までもが《UNKNOWN》となっている。解るのは方向だけだが位置は既に自分たちの位置と同座標に位置している。
「みなさん、プレイヤー反応が一つありますがプレイヤーではないかもしれません。気をつけてください!」
やはり「リーファたちはプレイヤーではない」という言葉のせいだろう。状況を飲み込めていないようだ。
ユイも自分のプログラムにある一番わかりやすい言葉を選んで話したのだがやはり難しい。
「それってどういうことだよ?あれか、キリトたちが近くにいるんじゃねえか?」
クラインの発した質問に大きく首を振る。
「いいえ、これはパパたちではありません。反応は一つですしパパな直ぐにわたしにもわかります。」
どんなことがあろうとユイが愛するパパを間違えるはずが絶対にない。
途端に何処からか高い声が響いてきた。
「そのとおりです。私はプレイヤーではありませんよ。」
声質からして女性だろう。
だが一向に姿を現す気配はしない。
「だれなの?姿を見せなさい!」
リーファが自分たち以外には誰もいない空間に大声で叫んだ。リーファのその手には既に抜刀された長刀を握りしめて構えている。
クラインとシノンも穏便にはいかないことを察したのかそれぞれに別の方向を向いて構えている。
「おっと、これは失礼。」
声が耳に届いた直後、リーファの目の前に女性が一人姿を現した。
見たところ武装はまるでしていない。だが、顔はフードで深く覆われているため確認できない。武器すら装備していない。ではこんな上層のしかも隠しフィールドで一体なにをしていたのだろうか…。
「久しぶりだね、ユイ。いや、君は私と会ったことはないからはじめまして…かな?」
そういって頭をすっぽり覆っていたフードを外し、顔が露わになった。そしてユイは目を見開いた。
紫色の髪にやや小柄な体型をしている。こちらを見据える瞳の真っ黒な黒色は愛するパパをも連想させる。
顔を確認し誤認ではないことを確認するとユイは小さく口を開いた。
「サイフォス…。」
サイフォス…。それこそがこのプログラム、CPPのコードネームだ。
マップ情報やアイテムの情報をカーディナルから受け取り、保存することが主な役目だったはずだ。
故にサイフォスは記憶能力はとても長けているし、編集することも可能だ。
編集……?ユイは自分の心の中で発した「編集」という言葉に妙な違和感を覚えた。
記憶能力に編集…。この二つがあれば…。
思わずユイは声をあげた。
「まさか!?」
待ってましたとばかりにサイフォスが笑みを浮かべ口を開いた。
「そのとうりです。君たちがぐるぐるこのフィールドをさまよっていたのは、私がマップ情報を少しいじくってたからよ。元《マスター》のおかげで権限はとてつもないほどに減少したけどこれくらい私の情報記憶能力があれば容易いことだわ。」
「そんな貴方が武装もせずにこんなフィールドでなにをしてるの?」
リーファの質問はもっともだ。武装もせずにフィールドに出るなど一般のプレイヤーなら無謀だ。
だが彼女はユイと同じくプログラムだ。SAOのはじまりの街の地下でパパとママを助けるために《不死属性》を使い自ら盾となった時のように、彼女も不死属性をもっているのかもしれない。だとしたら勝ち目など最初から皆無だ。
「勿論、ただの時間稼ぎよ。私は武装なんかしなくても戦えるしね。」
気がつくとサイフォスの周りを幾つものスペルワードが覆っている。
「ブラック・ボックス」
そう呟くと4人の体をどこからとなく現れた黒いオーラのようなものが覆っていく。
懸命に振り払おうとしてもみるみる地面から湧き上がってくる。
そして数秒たった後、4人の全身はとうとう禍々しいオーラに包まれ見えなくなった。
「自力で出るなんてことは不可能だと思うけど…。まあ、せいぜい頑張ってね〜。」
サイフォスは口元に勝ち誇った笑みを浮かべその姿はみるみると暗闇に同化して消えていった。
暗い…。真っ黒な闇だ。オーラの大きさは体を包んだ程度にしかないはずが、とてつもなく大きな空間になっている。暫く何か起こるのではないかと身構えていたが、数分たっても特に変わったことは起きず、一人立ち尽くしていた。
そもそもこれは魔法なのだろうか。ピクシーを魔法の対象にするなど、今まで一度たりとも無かったことで、ピクシーのマニュアルにも対処法は記されていない。
推測するとやはりCPPだけが使えるような魔法なのだろう。
ユイが辺りを見回すと、少し離れた場所に一人の少女が膝を抱えて座っていた。
黒いロングの髪、純白のワンピース…。
あれは…わたし?
ユイにはどう見てもその少女が自分にしか見えなかった。
だが少し違うのはあの姿はSAOの姿であり。ピクシーの姿ではない。
「なっなんですか、これは?」
みるみるユイの体をまたしても闇が、覆い気がつくとユイの服装や体型が変わっていることに気づくや否やすぐさま地面に大きく尻餅をついてしまった。
「いたた…。飛べない?あれ?」
体を包んだ魔法のせいかSAOでのユイ本来の姿になっていた。
これは…いったい。
ユイはもう一人の自分に向かってゆっくりと歩き、あと数歩というところで、座り込んでいるもう一人の自分の後ろにひしめいている禍々しい何かに気がついた。
《なんででられないの。》《助けて》《うぁぁぁぁ》
この声は、間違いなくユイがMHCPの時に嫌というほど聞いたものだ。泣き叫ぶ者、自殺する者、殺し合う者。どれも全て負の感情、それによって支配されている。
今まで膝を抱えて座っていた少女がその小さな口を開いた。
「私は、この世界にいてもいいの?」
ユイが今までこの事件中もずっと心の奥底で考え込んでいたことだ。ユイは何千人ものプレイヤーをあの世界で見殺しにした。たとえカーディナルの命令だとしても…殺したのだ。
ユイは自責の念を今までずっと抱え込んできた。ここ最近、クエスト内容やマップの情報に誤差があるのは、みんなには解らないといったが、おおよそ予想はついている。
原因はユイ自身が、自らエラーを蓄積している結果なのだろう。
その自責の念がこのもう一人のユイを幻惑魔法でつくりだしたのだろうか。
再びもう一人のユイが口を開く。
「誰か教えてください。わたしはどうすればいいの?カーディナルはなぜ、接触を禁止したの?」
ユイも同じような口調で答えた。
「わかりません…。わたしには全部わかりません。わたしも…わたしも知りたい!」
気がつくとユイの両頬には小さな雫が垂れていた。
この涙ですら、偽物なんです。わたしは生きてはいない。
もう一人のユイがユイの思っていることを理解したかのように俯き答えた。
「そうですよね…。わたしはあなた、あなたはわたしだもの。」
そう言うと少し寂しそうな顔をしてその姿を消した。
どうもロックンです。
とりあえずバトルシーンはあと1、2回ほどお休みになります。
というか、あと何人かオリキャラを出すつもりですのでオリキャラとの会話の方を優先させるつもりです。