ソードアート・オンライン 〜ユイの願いごと〜   作:ロックン

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「来訪者」

「っ…。」

世界が明るい…。そう感じて目を開けるとユイは地熱で温められた地面にうつ伏せになって倒れていた。

明るいといとってもこの世界には青空があるわけでもないし、太陽の光すら届いてはいない地下世界なのだが、明るいと思ってしまうということはよほど先ほどの魔法の世界は暗かったということなのだろう。

 

「漸く目覚めたようだね。」

呼びかけられた声にユイは返事をすることはできなかった。

声の主はリーファやシノン、クラインとは違った。

目の前には不思議な少年が立っていた。年はユイより2、3歳ほど年上といったところか。

少年は青いコート、白のボトムズ、腰には少年と同じくらいの長さの長刀を装備している。

不思議なのはここからだ、少年は浮いているのだ。しかし妖精の羽はついていない。たとえ羽があったとしても太陽の光がないこのフィールドでは飛べたとしてもほんの一瞬のはずだからここまで飛んでいられるはずはない。

 

少年は高度を落とし地に両足をつけるとじっとこちらを見つめていた。

「……。」

ユイがあっけにとられていると少年はニコリと微笑み話し始めた。

「やあ、ユイちゃん。君の仲間の3人は随分前に目覚めて辺りの捜索に向かったよ。」

こんなプレイヤー…ユイの仲間にいただろうかと思わせるようなフレンドリーな呼びかけに戸惑いつつもユイは少年に聞いた。

「あの……。あなたは一体誰なんですか…?」

 

「あっ、ごめんね。自己紹介がまだだったね。僕はイオっていうんだ。はじめましてユイちゃん!」

 

わたし名前なんて教えてませんよね…。それに《イオ》って名前…どこかで聞いたことのあるような気がします。なんだかとっても大事な人のような…。

 

少し考えた所でユイは思い出した。

「CPP…、あなたはCPPのイオなんですか!?」

イオはユイの発した声の大きさにたまげているが、自分自身まさかここまで叫ぶとは思っていなかった。ユイはコードネームだけは知っていたものの、顔などの面識は一切もっていなかった。ユイ少し警戒しつつ話しを続けた。

「うん、そうだよ。僕はCPPの一人だよ。でも僕は彼らとは少し違うよ。バーベル達は試作プログラムなんだ。僕はCPPの完全体というのかな…試作プログラムではないんだ。だから負のプログラムが押し寄せてきても自力で対処することができたんだ。僕はねユイちゃん…彼らを止めにきたんだ!」

 

「止める?」

唸るようにユイは小さく聞き返した。

「そう。彼らだって元々は君や僕と同じように穏やかな性格に設定されたプログラムだったんだよ。でもあの世界で苦しめられて、自分を制御できなくなって今の彼らになってしまったんだ。」

 

わたしと同じ…。

 

やはり彼らもユイと同じよに暴走し自我が崩壊していたのだ。だとしてもなぜ彼女、バーベルはユイを仲間にしようとしたのだろう。

 

「イオ…さん。バーベルはなぜわたしを必要としてるのかわかりますか?」

それを聞くとイオは目を丸くして、なにかぶつぶつと独り言を言い始めた。

 

「あ、あの〜…。」

 

「ああ、ごめんよ。その話は後でするよ。」

そう言うとまたなにかを考えている。ユイはすぐに教えて欲しく不満だったが、イオにもそれなりの事情があるのだろうと飲み込んだ。

 

「おーい、ユイちゃ〜ん!」

100mほど離れた場所から不意に自分を呼ぶ声が聞こえてユイは振り向いた。人影は3つ。このフィールド自体が薄暗いので顔がよく見えないが、呼びかけた声には聞き覚えがあった。

恐らくユイが目覚める少し前に散策に行ったというリーファ達だ。

「お帰りなさい。リーファさん、シノンさん、クラインおじさん!」

 

「おう!ユイちゃん大丈夫か?俺たちと比べて随分解けるのが遅かったみたいだったけど。」

 

ユイは魔法によって生み出されたもう一人のユイのことを話す気にはなれなかった。あれはユイの心の負の感情だ。その負の感情を他人に押し付けるわけにはいかない。

クラインを騙すことに罪悪感を感じつつもユイは何が起きたのか話さなかった。

 

ごめんなさい、クラインおじさん。

 

「それが…よく覚えてないんです。ところでみなさんはあの魔法でなにかありましたか?」

 

「えっと…」

シノン曰く、どうやらシノンたちはべつべつに黒いオーラに包まれたものの3人ともはぐれることはなかったらしく、ユイだけがいなかったらしい。彼女たちはあのオーラの中で嫌というほどのmobと戦わせられ、その途中でこのイオが空間ごと斬り裂いて助けられたのだとか。

 

「イオくん。なんでユイちゃんは助けることができなかったんですか?」

 

「くんはいらないよ。う〜ん…それはちょっとプライバシーって奴の問題になるから言えないかな。」

リーファ達は首を傾げているがユイにはその意味がわかった。イオもこれはユイの問題であり、簡単に他人が踏み込むべきではないとそう言いたいのかもしれない。

 

「それより散策でなにかわかりましたか?」

 

「ああ、今までに通ってない道をやっと見つけたよ。多分あの道を行けばパパとママに会えるんじゃないかな。」

リーファはいつもキリトのことをキリト君と呼ぶが、ユイの前ではたいがいパパと呼ぶ。

 

やっとパパとママに会えます。心配してなかったらわたし怒りますからね。

そう心の中で呟き、ニコリと笑った。

 

暫くイオはすぐ横の大きな岩に寄り掛かって無言で話を聞いていたが、何かに気づいたのか顔しかめていた。

「話はおわったかい。そろそろ彼女がくるよ。」

 

「彼女…?」

イオの言葉を聞いた後、面白いことに全員揃って同じ言葉を口にした。これが現実世界の四字熟語《以心伝心》とやらなのだろうか。

イオはぷっと短い笑い声を漏らすと小さく頷きユイの背後を指差した。

「やあ、久しぶりだね。サイフォス。元気だったかい。」

ユイの背後には、サイフォスが顔をしかめて仁王立ちしていた。その表情は驚愕と憎悪…どちらとでもとることができよう。

「イオ…。貴様…。」

サイフォスが手を前に出すと片手用直剣が、姿を表しユイ達には目もくれずに一直線に斬りかかっていく。

「逃げて!!」

シノンは叫んだ。がシノンに対する答えは優しい微笑みだけだった。

 

誰もが目を見張ったであろう光景が目の前には広がっている。たとえキリトやアスナがいたとしてもこの光景は理解することはできまいとユイは推測した。

ユイ達の目の前にいるのは、純粋な殺気を纏ったソードマンと反対にやる気なく片手の掌広げ前に出している少年である。

サイフォスの剣はイオの掌の数cmというところで止まっている、いや防がれているのだ。よく見るとイオの掌の前には透明な光の膜が張り巡らされている。膜は薄いがなぜだろうか見た目よりも強靭な膜のように思わせる。

「駄目だよ、サイフォス。君は戦闘タイプじゃないんだから…。どんなに強い剣なんて装備しても意味はないよ。」

一度距離をとりサイフォスが再度剣を振りかぶりが見えない力に大きく吹き飛ばされた。

 

「君は頭に血がのぼるとすぐに一直線になるのが玉に瑕なんだよ。もっとも…僕らプログラムには血なんて無いけどね。」

 

「こっ…の、裏切り者が…。」

そう呟くと意識を失ったかのように、一度がくりと頭が下に落ちたがすぐに顔が上がった。だが、サイフォスの様子は少しおかしかった。今までより空気が張り詰めた気がするのはユイだけではないだろう。

先ほどの憎悪の表情は口を吊り上げニンマリと笑みを浮かべている。

「気を付けて…なにかあいつの雰囲気が変わったわ。なにこれ、とても冷たい…。」

シノンの呼びかけに一同頷きサイフォスの様子見守った。

「イオ…。久しぶりですね。相変わらず呑気なものですね、貴方は。」

 

雰囲気がまるで違う。この感じもわたし覚えがある。あれは…そう、暗い部屋に閉じ込められた時…。

 

「バーベル…。」

小さくユイが呟くとイオも同じように小さく頷いた。リーファ達は今いち状況を飲み込めていないようだが無理もないだろう。

「そういう貴方は、相変わらず傲慢ですよ。わざわざユイちゃんを狙わなくても僕を狙えばよかったのに。」

 

「貴方を狙ったところでこのプログラム達では勝ち目はないでしょう?だから何も知らないユイにしたのですよ。」

 

「おい!バーベルとか言ったな…!なんでユイッペを狙うんだ。説明しろ!」

 

「敵にわざわざ教える馬鹿はいませんよ、少し考えて発言したらどうです?」

正直これにはクラインは馬鹿だということをここにいる全ての人に見せつけているようなものだとなぜかプログラムのユイが恥ずかしくなってしまう。やはりユイだけでなくリーファとシノンも呆れているが、イオだけは楽しそうにクスクスと笑っていた。

「なっにをー!!」

怒りが沸点に達したクラインがサイフォスの体にとりついたバーベルにいよいよ斬りかかろうと剣を抜こうとしたクラインをリーファが制した。

「勇者の血筋よ。その判断は正解です。さて今ここで、貴方の力によってサイフォスに消えてもらう訳にはいかないのですよ…、イオ。まだサイフォスにはやってもらわなければならないことがありますからね…。」

バーベルが話し終えたかと思うと張り詰めた緊張感はみるみると緩まりなくなっていった。

その後すぐにサイフォスの体は一度はユイ達を包み込んだ黒いオーラに包まれて消えていった。

 

「みなさん今はどうか何も聞かずに進んでください。急がないと間に合わなくなってしまいます。全てはキリトさん達と合流してから話しますので…どうか。」

さっきの口調とは打って変わってとても焦っているようだった。その様子からどうやら只事ではないと踏んだシノンとリーファが頷きクラインも流れに乗じてうなずいた。

「では、行きましょう。キリトさん達はあっちの方向にいます。」

そう言うと一斉に5人は走り出した。






どうもロックンです。
いやはや、インフルエンザが流行っていますね…。みなさんどうかお気を付けて。

さて今回はユイちゃん御一行のお話でした。
次回かそのまた次回でキリト君視点又はアスナさん視点を予定しています。
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