私たちは今、いったい何をしているのだろうか。アスナ達が、門の前にたどり着いてからずいぶん長い時間がたった。だが、いまだにユイやリーファ、シノン、クライン等の姿は確認することができない。
ユイちゃん…。
アスナは小さく愛娘の名前を呟いた。かけがえのない大事な娘。その娘が何かに苦しんでいるのであれば、どんな小さなことであろうと助けてあげたい…。というのが親の気持ちである。だからこそ、今この場でただ待つことしか出来ないことがとてももどかしい。本心では今すぐにでもこの場を離れて探しに行きたい。
「キリト君…。やっぱりも」
「駄目だ。」
やっぱり戻ったほうがいい。そうアスナは言うつもりだったのだがキリトに即答される。
「アスナ。待つんだ。きっとユイ達は無事にここまでたどり着くさ。なんたって俺の自慢の妹がついてるんだからな。」
キリトは穏やかな口調で言ったが、アスナは右の掌を強く握りしめていることに気づいた。これが現実ならば、握りしめられたキリトの右の掌からは血が流れていることだろうとアスナは感じた。やはり、この状況はキリトにとっても苦しいのだ。しかし、信じて待つことをキリトは選んだのだ。
「そうだよ、アスナ。クラインはともかく…。リーファとシノンはしっかりしてるから、もうすぐ来るわよ。あっ、シリカそこにあるインゴットこっちに持ってきて〜。」
「はっ、はい〜。」
そう慰めた当のリズベットは現在離れた場所で今まで疲労した剣を回復させるために忙しそうに作業している。シリカはどうやらお手伝いさんらしく、色々な材料を危なっかしく運んでいる。普段ならフィールドで武器を回復させることなど不可能なのだが、このフィールドはリズベット曰く溶岩の温度が丁度良く道具さえあればなんとかなるらしい。例によって、リズベットはせっせと作業しているのだ。
「キリト君、ここに来てからユイちゃん達の所にもCPPが張り付いてるって考えたことある?」
不意にアスナは心の中で思った考えをキリトに訪ねてみた。キリト深く頷き真っ直ぐにアスナを見つめて言った。
「そうだろうな。奴らの狙いはユイなんだから、こっちが囮だと考えるのが自然だ。」
「そんな…。なのになんでキリト君はそんなに平然としていられるの!?」
つい感情が高ぶって、声を荒げてしまう。キリトは苦笑いしてアスナの頭にぽんと左手を置いてアスナを制し言った。
「平然じゃないさ…。正直今すぐにでも迎えに行きたいけど、それじゃ奴らの重いどうりになる気がするんだ。CPP…奴らの中のバーベルって奴はなにか危険な感じがするんだ。解りやすく言えば、ラフコフのPHOみたいな…奴には何か絶対裏がある…。そう思うんだ。」
キリトが話し終えた所でどうやら武器の回復が終わったようで、リズベットとシリカがキリトとアスナの武器の3本を抱えてこちらに向かって来ていた。
「フル回復できたよ。はい、アスナ。」
リズベットは満面の笑みをこちらに向け、アスナの細剣を両手で手渡した。
「ありがと、リズ。シリカちゃんもね!」
「い、いえ、そんな別に私は何もしてませんし。」
キリトに2本の片手剣を手渡しているシリカにお礼を言うと恥ずかしがりながら謙遜した。
「サンキュー。リズ、シリカ。」
キリトはシリカから2本の愛刀を受け取ると鞘を背中に吊るし、その後なにか思い出したように一度顔を上げてから少しなにか考えて言った。
「悪いんだがリズ…。もう一本お願いしていいか?」
申し訳なさそうに両手を合わせて頼み込んでいる。
「別にいいけど、もう一本なんてどうするつもりなの?」
と呟き両手をキリトの前に出すとキリトはアイテムストレージから一本の黄金の長剣をオブジェクト化しリズベットに手渡した。
「聖剣エクスキャリバー…。」
アスナとリズベットは異口同音で囁いた。
「こういう時のための剣だ。こいつなら剣の心配なんてせずに暴れられそうだからな。」
すると女レプラコーンが苦笑いしながら言った。
「あら、キリト。それって私の武器が壊れそうって意味でとれないかしら?」
「えっ、いやそんなことな、ないゆぉぉぉ」
みごとな鉄拳がキリトの頭上から降りかかり、ノックダウンした。
「そっそんなことより…。リズさん、早く終わらせちゃいましょ。」
どうやらシリカの介入によってキリトは無事ですんだようだ。だが、キリトは地面にうつ伏せで動く様子はない。ラグっているかのようにも見える。
「キリトく」
アスナの言葉は言い終わる前に遮られた。
「しっ!!なにかこっちに来るぞ。」
そんなもの索敵スキルでわかるじゃないと言いたいところだが、生憎なぜかアックスの時のことを考えると索敵スキルは少し頼りなく感じるものだ。
そう考えている内にどんどんとなにかの影が大きさを増す。数は4つ…。先頭を走っているのは、逆立った赤い髪、赤いバンダナに武士のような刀。
あれ、何処かで見たようなないような…。
さらに距離が近づき、後ろの様子も目で追えるようになった。すると4人の他に小さく何かが飛んでいるのに気がついた。小さくてよくは見ることはできないが、はっきりとわかるのは黒いロングヘアーだ。
黒い髪…、ロングヘアーで小さい…。 ……!!
「キリト君!あれユイちゃん達よ!」
アスナは、ユイを見てキリトに声を荒げて伝えた。自分で推測するに安堵40%、驚き60%といったところか。
なぜ驚きの方が20%も多いのかといえば、単純明快。一人増えているからだ。ユイをいれてもはぐれたのは4人のはずだ。一体何者なのかは検討の使用もない。
「ママーー!!」
鈴のような声を確かにアスナの耳が捉えた。今は謎の少年よりも漸く娘と再会できたことを喜ぶべきだ。そう考えてアスナも明一杯の声で叫んだ。
「ユイちゃーーん!!」
小さなだが確かな衝撃が胸を伝う。これは、ユイが自分の胸にその小さな体を激突させた証拠だ。少し遅れて来たリーファが言った。
「よかったね、ユイちゃん。遅くなってごめん。なんか面倒なことに巻き込まれちゃって。」
すると刀使いは口を尖らせ愚痴言い始めた。
「そうなんだよ、聞いてくれよ。なんか…あの…なんだっけ、そのCPPのサイなんちゃらが…。」
そこで言葉がつまった刀使いにシノンが助け舟をだした。
「サイフォスがいきなり現れて、なんかよくわからない魔法かけてきたのよ。あんな魔法見たことも聞いたこともないわ。」
キリトの予想通りリーファ達もCPPの襲撃を受けたらしい。
「で…。そのCPPのサイフォスはどうなったの?」
「そ、それがよ〜。なんかバーベルっていうふざけた野郎がよくわからねえ方法で連れていきやがったんだよ。」
クラインの言葉に素早く反応した。
「よくわからない方法?」
いつもは冷静なシノンが今まは少しだけ取り乱しているような気がした。
「なんていうか…。人格が変わったのよ。そのあとは何事もなく消えたわ。」
「やっぱりキリト君の予想通りになったわけね。」
アスナはキリトを見て言ったが当のキリトはどうやら誰の話しも聞こえてはいないようだった。すると先ほどまで掌の上で座っていたユイがアスナの肩の上に移動していたのに気づいた。
「ママ、パパはなんでCPPの襲撃を予測できたかわかりますか?」
「最初からわかっていたわけじゃないと思うよ。私たちも《アックス》の襲撃を受けてそのあと考えてたから。」
ユイは《アックス》の名前を聞いたとたんに鋭く反応させた。アスナには何故だかわからないが、クラインのとなりにいる少年も眉をひそめていた。
「《アックス》はどうなったんですか!?教えてください!?」
アスナは戸惑った。いくらユイを狙う敵とはいえど、彼もユイと同じプログラムなのだ。簡単に消去されたなどとは口にできない。だが、それが真実である以上隠し続けることも不可能なことはアスナ自身わかっているからだ。
するとキリトが俯いた顔を持ち上げた。
「ユイ…。《アックス》は《バーベル》に消去されたんだ。サイフォスの時と同じようにアックスの人格を乗っ取ってそのあと消去すると言ってアックスの体は消えた。おそらく言葉通り消去されたんだろう。」
ユイはやはり動揺し、小さく喘ぐように呟いた。
「……そんな。」
「さて、そろそろ君のことも教えてもらえるかな?君はプレイヤーじゃない。つまりプログラムだ。そうだろ…CPPの《イオ》君。」
キリトにイオと呼ばれた少年はただ静かにこちらを見据えていた。
遅れて申し訳ありません。