俺はユイやリーファ達と合流してからずっと気になっていた人物がいた。見た目は、ユイのように普通の幼い子供のように見えるのだが、一目見た途端俺の感覚はなにかとてつもない違和感を覚えたのだ。言葉にはとても表しずらい。故に不謹慎だとは承知の上でこの《プログラム》であろう少年に尋ねたのだ。
こうしてまともな会話ができるということはアルゴリズムを設定されたNPCではない。かといって、俺の当初目的である《レア片手用直剣獲得クエスト》の参加者ではないだろう。それは、今朝のユイが語っていた。そもそもこのクエストの起動条件が厳しすぎるからだ。結婚していないとクエストフラグがたたないなど、数える程しかない。それに加えてそれらのクエストの報酬はだいたいペアの指輪やアクセサリーといったところだ。これらのクエストは《新アインクラッド》でアスナがどうしてもというので、3つ程クリアした。だが、このクエストの報酬はレア片手用直剣…。だからこその100人限定なのだろうが…。
そう考えられることはただ一つ…。ユイと同じく感情模倣プログラムを搭載された超高性能のプログラムであることだけだ。ここでプログラムと言えば嫌でもCPPという名前が浮かび上がる。ずでに彼らの内3人はバーベルを除いて姿を見せている。そう考えると必然的に残るCPPは《イオ》だけになる。少年がイオである可能性は高い。だが、たとえそうであっても俺は彼に攻撃しようだとかそんなことは全くもって考えてはいない。
少しの間ここにいる全員の視線が少年に向けられた。
「キリトさんと呼んでもいいですか?」
不意の問いかけに俺は少々ずっこけた。俺はてっきり彼が自分のことをはぐらかすとふんでいたからだ。
「あ、ああ…。構わないよ。」
なんだか調子くるうな…。
そう考えて周りを見回すとリーファやシノンが少し笑っているのが目に見えてわかる。
「まずはキリトさんアインクラッドを、SAOをクリアして頂いたことありがとうございます。あそこでキリトさんがマスターを倒していなかったならば僕は勿論のこと他のNPCもゲームバランスを崩す程の影響が出ていたことでしょう。」
この話しだけでもだいたいではあるがイオと他のCPPの違いは認識することはできた。やはり、他のCPPとは違い影響をあまり受けていないようだ。それに彼の今の顔は、かつて《はじまりの街》の地下ダンジョンで消える間際のユイの表情とよく似ている。俺はイオの本心を予想しつつも追い打ちをかけるように続けた。
「単刀直入に言おう…。君は俺達の見方なのか?それとも他のCPPと同じなのか?」
「パパ!!」
ユイが顔をしかめて呼び止めた。言い方が厳しいのは自分でも承知している。だが、これが最後の確認なのだから気を抜くことはできない。
少年は少し顔を伏せて、ニコリと笑って答えた。
「判断はあなたにまかせます。僕にはなにも言う資格はありません。」
「おい…。キリ公、あの、なんだ、少し厳しすぎるんじゃないか?」
クラインがユイを気にしたのかそれとも目の前の美少年を意識したのかはわからないが俺は華麗にスルーしてみせた。左を向くとシノンがすべてお見通しといった表情でこちらを見据えてくる。
「ごめんな。君とユイが一緒にいる時点でだいたいはわかっていたんだが、注意するにこしたことはないから。」
「やはり、あなたはそういう人だとわかっていました。だからこそあの世界で勇者の役割を果たすことができたのでしょう。
僕はあなたの言うとおりCPPとして創られたプログラム、コードネーム《イオ》です。僕はあなた方が殺人ギルドラフィンコフィンと呼んでいるメンバーの負の感情をライフリセットシステムという僕だけに与えられたシステムを使って逃れました。」
隣のアスナは俺がイオと敵対しなかったことにほっとしたらしく安堵のため息をついてイオに尋ねた。
「ライフリセットシステムってどういうものなの?」
「わたしカーディナルでそのシステムを閲覧したことがあります!」
ユイが元気よく声を張り上げた。
「たしか…、流れてくる情報を一時的にすべて遮断して受け流すことができるシステムだった気がします。」
「その通りだよ、ユイちゃん。僕はそのシステムを使って数多の負の情報を受け流しました。それがバーベルたちの願いだったからです。」
「バーベルたちの願い?」
シノンが反復してイオに問いかけた。
「はい。みなさんご存知だとはおもいますが、バーベル、サイフォスそしてアックスはもともとはとても穏和な人柄に設定されたプログラムでした。負の情報が一斉に流れ込んで来た時に情報操作能力が高いサイフォスを中心にバーベル、アックスたちCPPはゲームバランスを保つために負の情報を圧縮して制圧しようとしたのです。ですが、その情報は実際には《ラフィンコフィン》のものだけではなく通常のプレイヤーの負の感情も混ざっていてとてつもない量でした。そこで、なにかあった時の為に彼らは僕を全てから遮断することを選んだのです。彼らが他のプログラムのように影響を受けて崩壊した時に僕が彼らを止める為に…。」
リズベットはおそるおそるといった感じに小さく呟いた。
「止められなかった場合は?」
イオは深く俯いて長い沈黙のあと小さく答えた。
「……。消去しろと言われています。」
「そんな……。何かないんですか!?」
ユイが気づくのは見たくないが、こればっかりはどうしようもないと思ってしまう。茅場も遠回しではあったが簡単に言えば、《火龍の杖》を使って消去しろと言ったようなものだ。
「すみません。一度壊れてしまったプログラムは開発者が直接直す以外には方法はありません。しかし当のマスターはもうSAOに関するプログラムはユイちゃんを除いて直接なにかをすることはないと言っていました。だからこそマスターはみんなとまともに戦えるように僕だけ一度減少させた権限を全てもどしたのでしょう。役目が終わればおそらくは僕も…。」
「イオ君、団長に会ったの!?」
「はい!マスターは言ってました。あなた方とともにユイちゃんを守りみんなを止めるそれが最後の仕事だ…と。」
俺はユイをちらりと見たが下を向いていて表情はよく見えない。
「なんで…。なんでいつもわたしなんですか!?」
顔をあげてそう叫んだユイの目から涙が頬をつたい生暖かいポリゴンでできた地面に落ちはじけた。
「それは、あなたが…」
イオがいいかけたところで強い地面の揺れに俺は襲われた。いや俺だけではない。リーファもユイもここにいる全員が揺れを感じている。
「忘れてたーーーー!!!」
イオが慌てふためいていた。こんな彼の姿は考えてもみなかった。「忘れていた」ということは彼はこの異常を良 予期していたということなのだろうか?
シリカがピナを抱えながら地面にしゃがみこんでいる。
「なんなんですかこれは〜〜!?」
アスナが指を突き刺して目の前のドアを指さした。
「キリト君、みんな見て!扉が勝手に!」
アスナの言う通りドアは大きな地響きとともにだんだんとひらいている。すこしの隙間から見えるのは不気味に青く光る二つの光点だけだ。
「あーもうっ。過ぎたことは仕方ない!みなさん……。」
イオの声は俺たちにはとどかなかった口の動きを推測すると「気をつけろ」といったような気がした。地響きは次第に大きくなりついには誰がなにを喋っているのかもわからない程大きくなった。
この雰囲気…。SAOのボス部屋のと似ている。イオの気をつけろという言葉。あの青い光点。もしかしたら……!?
心の違和感に気づいた瞬間俺は今出せる最大の声で叫んだ。
「みんな気をつけろ!ボス級のモンスターがもしかしたらでるかもしれない。」
しかしこの地響きの音で掻き消されているのか誰からも返事は返ってこない。
扉が開ききったが中はまだ暗闇に閉ざされてよく見ることはできない。だがこちらを見据えるかのように青い光点はそこから動くことはない。
耳を塞がなければ立ってはいられないほどの轟音が俺たちを襲う。ただの大きな音ならば耳を塞げば大したことはない。だがこの轟音にはダメージ判定があるらしく左上に表示されているHPバーが僅かづつではあるが削られていっている。
いったいどんなモンスターなんだ?流石にずっと削られることはないと思うが…。
案の定、俺のHPバーは2割程度減少したところで動きを止めた。
攻撃判定ありの轟音を逃れたユイとイオが呼び止めた。
「みなさん気をつけてください。この「第一の門」には大型モンスターが配置されています。」
暗闇の景色は一瞬で一転した。変わったと言っても明るさが少し明るくなっただけなのだが。丸い空間、その曲面には青い炎をともった柱がいくつも立っている。
「キリト君、ここって…。」
アスナが顔を訝しめてこちらを見て言った。
「ああ…。SAOのボス部屋だ。けど何処かに似てるような…。」
「おい、キリト…。あれ…。」
クラインにしてはやけにおどおどとした武士には似合わない声とともに丸い空間の奥を指差した。俺はクラインが指差した方向をゆっくりと見据えた。
「…!!!」
空間の奥にはこれまた大きな扉が控えている。がその前には玉座が置かれている。そしてその玉座にはもう見ることはないだろうと思っていたモンスターが座っていた。
どうもロックンです。
今回はキリト君視点で話しを進めました。(まあまだ続きますが…。)
さて次回は予告通りバトルシーンに移ります。CPPのイオ君ががんばる…かも。