ユイが茅場と出会ってから遡ること10分前。
「おじいさん。地下への隠し扉っていうの私たちみつけてきたわよ。」
水晶の剣山を下った先にまっていたのはクエスト依頼人の老人だった。しかし先ほどの待機していた場所とは距離がまだ遠い。恐らくプレイヤーが地下への隠し扉を見つけた段階でこの位置へ配置されるようにプログラムされているのだろう…。
プログラムといえば、あれからもユイはその幼い瞳をまだ持ち上げてはいない。もうとっくに5分は過ぎ去っているはずだ。
不安で気持ちが押し潰れそうになる。
私の心を読んだようにキリトが優しく呟いた。
「大丈夫だ。今はユイを信じてやろう。ユイは俺たちの子供だ。」
その言葉に頷き私は先程からのシノンと老人の会話に耳を傾けた。
「な、なんとその扉は何処にあったのじゃ?う〜む…。まさか…まだ存在しているとは…。」
老人はふと何か考えこみその後重そうに頭をあげシノンを見据えた。
「扉を見つけ出したお主らならば…あるいは…。
よし、これを持っていくがよい」
シリカの手に長い棒のような細い物が手渡された。
「これは…木の枝?なんですか、これは?」
「木の枝などではなぁぁぁい!!!」
さすがにこれには皆目を丸くした。ケットシーのシリカ、シノンは三角形の耳をたたんで防ごうしたが、シリカだけは失敗したのだろうか…くらくらとおぼつかない動きをしている。
「ごっ、ごめんなさいですぅ……。」
声を出すのもやっとのようだ。
その後ろでシリカを支えながらリーファが尋ねた。
「それで、お爺さん…これはなんなんですか?」
「うむ。これは地下への扉を抜けた先にある第一の門の鍵じゃよ。」
「そんなもんあるなら最初からわた…ぐはっ。」
これはクラインの言葉だ。最後の悲鳴のようなものはお爺さんNPCの超必殺技…年寄りの言葉は最後まで聞けゲンコツ…らしい…。
そのまんまじゃない……。
周りの誰しもがそう思ったであろう。
「これだから最近の若いもんは…。ウォッホン。この鍵は最初から渡せるような代物ではないのじゃ。この鍵を持つ者はモンスターから通常よりも狙われるからじゃ。地下とこの氷の世界を完全に遮断するためにな。じゃがお主らの実力ならば大丈夫じゃろう。
わしが頼むことは一つだけじゃ…。灼熱の世界[バーンワールド]の何処かにある我が一族の秘宝…《火龍の杖》をとりかえしてもらいたいのじゃ。」
鍵をもっている人はハイドすることもままならないかもしれない…。
鍵のこととは別にアスナには一つ気になったことがあった。
「お爺さん…。そこに行くまでにはどれくらいかかるんでしょうか?あと気になったんですが…とりかえすとは?」
「そう、一気に聞くでない。ちゃんと答えるわい。
そこに行くまでの時間はわしにもわからん。なにせ何百年も前のことじゃからの…。とりかえすの意味はそのまんまじゃ。我が一族の先代は、この世界で唯一の魔法使いじゃったじゃがある時、黒いフードをかぶった男が現れて先代を打ち負かした。その杖を奪い開いた世界がこそ[バーンワールド]じゃ。その男は奪ったあげく開いた空間に投げ込んだのじゃ。それからというものの奴は姿を現しておらん。
わしがまえの先代から聞かされたのはこれだけじゃ。自分の好きな時間に出発するとよい。」
どうやら話しはおわったようだ。長い…あまりにも長かった。
このお爺さん…話すの遅すぎよ!
正直叫びそうだった。
鍵については安全性も考えキリトが持つことになった。
アスナが反対したことは言うまでもないが、キリトに押し切られてしまった。
まったく…。キリト君はいつもそうなんだから。なんでもかんでも一人でやろうとして!
リズベットが疲れたオーラをかもしだしながら小さな声で呟いた。
「なんか以外と壮絶な話しだったわね…。キリトどうする?」
正直なところリズベットがお爺さんに殴りかかりにいかなくてよかったと心底安心している自分がいる。あれ以上怒らせればクエストが止まるのではないかというほどクラインとシリカがお爺さんを怒らせたからだ。
「どうするもなにもユイが目覚めるのを待つに決まってるだろうが。この親バカが娘が目覚める前にクエストを進めるわきゃねえ。なあ?キリの字?」
「あんたには聞いてないわ…クライン。」
「おまっ…。キリの字なんで俺はこうなんだ?」
「知るか。っていうかそのキリの字ってのやめろ…クライン。」
「ほっ。よかった…。いくらお兄…キリト君でもユイちゃんよりレア武器を優先するなんてことないよね。」
「リーファ…。俺のこと完璧に疑ってたろ?お兄ちゃんはいま無償に悲しいぞ?」
この時、私は信じられない人物を目にしていた。
この人は…もう亡くなったはずじゃ…いや。
確かキリト君がALOで一回会話したとかそんなこと…だけど!?…。
「楽しそうな会話のところ失礼するぞ…キリト君。」
キリトの顔が厳しく歪む。
全員が一斉に声の主に振り向く。
そこにはやはり驚きの表情を浮かべている…がやはりSAOにいなかったシノンとリーファには状況が飲み込めないようだ。だがキリトだけは動じていないようだった。
「茅場…いや、ヒースクリフ。いきなりなんの用だ?」
キリトの言葉には二人も唖然としていた
「でもお兄ちゃん…茅場晶彦は死んだはずじゃ。」
状況を認識したリーファが誰もが考えているであろう疑問を口にした。
「確かに現実世界での茅場は死んだ…。だがこの世界の茅場はまだ生きている。」
「何度も言わせないでもらえるか、キリト君…。私は…茅場晶彦という意識のエコー、残像だ。」
「何の用だ?はやくしてくれ。」
長身の紳士が苦笑をもらした。
「そう殺気だつなキリト君。私はユイ君のことについての警告ときたるべき戦いについてはなしにきたのだから?」
ユイ君!?団長がユイちゃんについてなにか知ってるの?
「団長!!教えてください!ユイちゃんになにが?」
自分の呼吸が荒くなる。ユイのことを考えるとこころが張り裂けるほど不安になる。
「安心したまえアスナ君。先程ユイ君は私が確保した。次期に目が冷めるだろう…だが、このままではユイ君は近い内に消滅するだろう。」
「そんなっ!?」
私の足から一気に力が抜け、体がよろけた。
倒れこみそうになる体をシリカが支えた。
「どういうことだ?」
「それはわたしからは言うことができない。むしろ言うべきではない…。これに関してはユイ君も私に言われるのは嫌かろうし、ユイ君も自分からは話そうとしないだろう。ただ君たちは、気づかなければならない。キリト君、アスナ君。ユイ君が何を考え、何に脅かされ、何と戦っているのかを…。」
「………。」
全員が暫くの間沈黙し俯いた。
ユイちゃんが脅かされている?だけど何に?そんなユイちゃんに特別敵意をもっているプレイヤーなんて見たことも聞いたこともない…。
だけど今のユイちゃんの様子からしてみると団長が嘘をついてるとも思えない。
「時間だ…。」
反射的にアスナがなにの?と聞く寸前のことだ。
キリトが背負っていたユイが目を細く開き口を開いた。だがその声はとても小さく弱々しいものだった。
「パ…パ、マ…マ。」
「ユイ!」「ユイちゃん!」
キリトがゆっくりとユイをおろす。
フラフラと地面に足を着けたユイをアスナは強く硬く抱きしめた。
「ママ…。苦しいです。ユイは大丈夫ですよ?」
「本当に大丈夫なのか?ユイ?」
「はい。パパ、データ的にも何も問題はありません。」
とはいったもののどう考えてもこの声量は大丈夫ではない…。
「そろったな…。」
ヒースクリフはやはりユイが目覚める時間をわかっていたようだ。では確保とはどういう意味だろう。
一つの嫌な予感が頭を貫く。
まさかこの一連の事件は団長が…!?
「きたるべき戦いというのは…そもそもこのクエスト自体のことだ。このクエストは私が故意に設定したものだ。君たち…ユイ君…。そして彼ら3人を引き寄せるために…。」
「言ってる意味がわからないわ…。」
「最初から同意を求めようなどとはこちらも思ってはいないよ、アスナ君…。」
「かつてSAOには4人のプログラムがカーディナルシステムを守っていた。名前は…カーディナルプロテクトプログラム。だが彼らは、攻略組により壊滅させられたかの殺人ギルド、ラフィンコフィンの影響を強く受けていた。そしてユイ君と同じようにエラーを蓄積させ70層あたりから暴走を始めた。君たちも覚えがあるだろう?急激なモンスターのアルゴリズムの変化を…。」
「あれは、本来の使用じゃなくてプログラムの暴走のせいだっていうのかよ!?それにエラーを蓄積させたのもお前の責任だろうが!てめえふざ…えっ?」
ビュッとクラインの頬をライトエフェクトを帯びたピックが高速で走り抜ける。
「クライン…黙らないと後ろから投げるわよ?」
激怒したクラインをシノンが冷静に黙らせる。
もう投げてるじゃない……。
クラインが顔面蒼白になり黙りこんだことはいうまでもない…。
「そのとうりだクライン君。私は74層で奴らの内3人の消去を試みた。そして消去したはずだった…。」
顔を下に向けなにか考えていたキリトが口をひらいた。
「だがなんらかの理由でその3人のプログラムは再構築され、今に至る…そういうことだな?」
「さすがだキリト君。そのとうりだ。私は再び奴らが現れた時にこそ消去しようと考えた。そして一ヶ月前に私はプログラムを通じて奴らが現れ様々なプログラムを消去していることを知った。そこでこのクエストを用意した。このクエストの最終目的である[火龍の杖]はシステムコンソールから呼び出せる武器だ…ユイ君がシステムコンソールを使いボスモンスターを撃破したように。そして今日、私はユイ君が狙われることも予測していた。」
「あの〜…なぜそこでユイちゃんがでてくるんですか?」
シリカのこの質問はもっともだ。なぜユイが狙われなければならないのか。
「そこからはわたしが説明します…。」
ユイがヒースクリフの前に歩み寄りこちらに向き直る。
「良いのか?ユイ君…?」
「わたし…このままじゃだめなんです。だからこれはわたしの口から言わせてください。それと…先程はありがとうございました!」
「礼を言う必要などないよ。では私はこれで失礼しよう。ユイ君。気をつけたまえたとえ私が権限を無いに等しい状態にしたといえど彼女たちは危険だ。」
そう言い残しヒースクリフの体は細かい光の粒子となって消えて行った。
どうもロックンです。とうとう冬休みが終わり、再び学校というしがらみの中生活しております。
みなさんは如何お過ごしでしょうか?
さて、今回はもう茅場さん祭りでした。
茅場さんはこれからちょくちょくだしていきます。
次回はCPPについての話しになりそうです。