「……完璧にはぐれたわね。」
シノンは、顎に指先をあててこの現象について考えている。隣にいるリーファもなにか考えて混んで静寂を貫いている。
「少し待ってください。いまわたしがマップにアクセスしてみます」
「すまねえ、ユイっぺ。俺たちはなにもできなくて。」
振り向くとそこには申し訳なさそうにこちらに頭を下げる男性がいた。声の主はユイに直ぐにわかったが人に頭を下げられたことなど一度もなかったため対処に困ってしまう。
「そっ、そんな。どうしたんですかクラインおじさん。」
「どうしたもこうしたも人に物事を頼む時は頭下げるのが普通だろ?」
これには流石に驚いてしまった。
パパはいままで頭下げたことは……なかったと…思うんですが…。
これが人間の個性というものなのであろうとユイは認識した。だがそう考えると同時に寂しくも感じる。
「……人間って難しいですね…。」
「ん?なんか言ったか?」
「い、いやなんでもないですよクラインおじさん!」
どうやら心の中でだけにおさめる言葉が口に出てしまったらしい。クラインは納得いかない顔でこちらを見据えている。
別に聞かれても構わなかったんですが…。
苦笑するユイに隣で静寂を貫いていたリーファが割って入った。
「ユイちゃん、どう?」
「ごっ、ごめんなさい!少し待ってください。」
ここでユイは漸く自分のやらねばならないことを思い出した。すぐさまマップ情報にアクセスする。
えっ、これは…データが消去されてる!?いったいだれが…!?…あっ!!
ユイは少しまえCPP説明していたヒースクリフの言葉を思い出す。これは仮説に過ぎない。だがこれ以外は考えられない。
「ユイちゃん。なにかわかった?」
「………。」
やはりヒースクリフのいっていたとうりあらゆるプログラムを削除して回ってるみたいですね。あの人たちの目的はこの世界そのものの消去なのかもしれません。はやくしないと…
「ユ〜イ〜ちゃん!」
反応する前にユイの体は声の主の掌に掴まれた。そこからユイの小さな体を小指でくすぐってくる。声の主は、キリトの妹でユイのおばさん…リーファである。
「リ、リーファさんや、やめてください…く、くすぐったいです〜。あはは…」
リーファの指は止まる様子はない。止まるどころか勢いは増すばかりだ。いつまで続くのだろうか、このままではCPPの前に笑い倒れてしまいそうだなどと思っていると…。
ここで追い打ちせんとばかりにクラインが嫌らしい笑みを浮かべながら指をグニャグニャ動かしながら近づいてくる。
ユイがそろそろ笑いが死ぬかという手前でリーファの指が漸く止まった…いや止められたというべきだろう。
「リーファ。それ以上やったらユイちゃん死んじゃうわよ?それとクライン…。それ以上ユイちゃんに近づいたら私があなたを斬るわ。」
その声は苦笑混じりの優しい声だった…リーファに対しては。だがクラインに対してはは言うまでもなく態度が違う。殺意を剥き出しにしてシノンはクラインに歩みよる。
「ごっ、ごめっ…。」
直後にシュッという素早く空気を斬る金属音。
これは短剣中級突進技《ラピッドバイト》このソードスキルは使用後に硬直の時間がごくわずかしかないため短剣使いにとっては汎用性が高い。
中級技にも関わらずシノンの速度は異常であったが…。
シノンの短剣がクラインの腹部に突き刺さる寸前に刃物の切っ先は止まった。
切っ先が止まるのを確認してからリーファはユイに向かってごめんごめんと釈明を始めた。
も〜う、ひどいです!とユイが怒る寸前、リーファがユイに少し暗い声で語りかけた。
「ユイちゃんの顔がすごーく恐かったから笑わせてあげようと思ったんだよ。大丈夫!直ぐにキリト君たちと合流できるから!ねっ!」
そうか。わたし自分がどんな顔してるのかさっぱり気づきませんでした。リーファさんはわたしを気遣ってくれたんですね。
気遣ってくれたリーファをユイは怒る気にはならなかった。腹の虫はみるみる縮小し、逆に感謝の念が込み上がってくる。
「そうですね!リーファさんありがとうございます。」
うん!とリーファは輝かしい笑みを浮かべながら頷いた。
クラインの粛清行為が終わったのかシノンが歩み寄ってきて穏やかな口調で言った。
「さて、そろそろ移動しましょ。ユイちゃん、なにかわかった?」
「それが、ここのデータは既に消去されていました。恐らくCPPの手によるものでしょう。」
クラインが身を乗り出して訪ねてくる。
「っていうことはあいつらもここにいる可能性が高いってことか?おいおい、やばいんじゃねえか!?」
現実の彼女と同じようなハスキーな声でシノンが反論する。
「落ち着いてクライン。それはこちらにも好都合よ。こちらにいるということは、キリトたちと合流したらすぐに叩くことができるわ。」
口元にはまれにシノンがみせる獰猛な笑みが浮かんでいる。
「マップ情報がないんじゃ…とりあえず動いてみましょう!お兄ちゃんたちもきっとそうしてるはずですし。」
「そうですね。ではパパたちを探しましょう。」
ユイはリーファの肩にちょこんと座り、リーファ一行は灼熱の大地を進み始めた。
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さてこれからどうしたものか…。
バーベルは一人バーンワールド最下層の一ブロック[宝剣の間]でこれからの行動……このゲームをより楽しむ最良の一手を考えていた。途端、空間が捻じ曲げられ、ぐにゃりと音を立て隙間から背の低い男が一人入りこんでくる。
白銀の髪は剣山のように逆立ち、浅黒い肌には金の装飾が施されたいかにも高貴そうな黄金の鎧を身にまとっている。
思考を巡らせている間にどうやら部下がもどってきたようだ
「戻ったぜ……。」
「彼らはどうでしたか?」
実に面白そうに片方の口元を釣り上げ少年は話し始めた。
「おいおい、あんなのが標的かよ?話にならなそうだぜ?俺のハイディングに気づかねえようじゃあどうもこうもないぜ?」
「アックス…。私は様子を話せといっているのです。」
バーベルが強意を強めた途端口元から嘲笑うような笑みは消え淡々と説明を始めた。
「あいつらは予定どうり2方向に分裂させた。要注意人物…キリト…だっけ?あいつは俺が見張ってる。んで目的の同等の力を持つMHCPはサイフォスがみてるはずだ。」
サイフォスか…ユイの今の力ならば気づくことはないでしょうから問題はないでしょう。一番問題なのは…。
目の前にいる浅黒い少年を見据える。どことなく幼くみえるその瞳には野望めいたものが目に見えてとれる。
「ここから先は俺が好きにしていいんだろ?」
再びアックスの口元には笑みが浮かび上がっているが先ほどとはうってかわって武者震いしているように思える。
その姿をみて苦笑まじりに答える。
泳がせてみるのもおもしろいかもしれませんね。
「いいでしょう…。好きにしなさい。ただ……気をつけなさい。彼はあの世界で唯一かつてマスターの予想を破り可能性をしめした勇者なのだから。そして私は、彼とユイをできれば無傷で手に入れたい…。」
「わかってるさ。だがMHCPはともかくなぜあの[勇者]が必要なんだ?」
「貴方に答えたところで意味はありません。行きなさい。」
チッという舌打の音ともにバーベルは空間の裂け目から姿を消した。
やはり彼は面白い…。我々プログラムの中でユイを除けば最も人の心に近いものを有しているのはあのアックスでしょう。だからこそ私は…。
「さて私は暫くここから見物させて貰いましょう。アックス。見せてください、貴方たちの存在価値を。」
そう言い残しバーベルの姿は闇に溶けて行った。
どうもロックンです。
少し考えて戦闘は後になりました…申し訳ないです。
予想外にいれてしまったのがバーベル視点です。
まあそこまで頻繁にいれる気はありません。
では次回も宜しくお願い致します。