赤いライトエフェクトを帯びた剣尖が俺の心臓目掛けて猛スピードで近づいてくる。ギリギリのところで攻撃を受け流し、大きく後ろに飛び退く。どうやら少しかすったようで左上に表示されているHPバーがわずかに数ドット減少する。
トカゲのような顔だち、右手に片手剣、左手には盾をもっている。リザードマンロード。かつてあの世界でも幾度となく戦ってきたモンスターだ。
シュルルと細長い舌を出し笑みを浮かべるように唸っている。
旗から見れば実に危なっかしい戦闘だろうが、全ては俺の計算どうりのことだ。アドレナリンが全身を駆け巡り、相手の剣先が俺にはあたかも止まったかのように見えている。
「思い出すな…。この感覚!」
そう…。あの頃と同じだ。あの頃はモンスターとの戦いのたびに全神経を戦いに委ね、生き残るためにのみ剣をふるった。HPバーが減っていくことに自分が生きていることすら実感していた。
なにもかも一人で背負おうとし、一度は全てを失った。
けどいまは…!
リザードマンロードの剣全体がライトエフェクトにつつまれる。キリトが仕組んだとうり、あのスキルは片手剣ソードスキル《スラント》だ。軌道は絶対に斜めにしか入らないことはキリトが知らないはずがない。
すかさずキリトも二刀流ソードスキル《ダブルサーキュラー》を発動する。剣がライトエフェクトを帯びたかと思うと凄まじい速さでリザードマンロードの目の前まで詰め寄る。だがキリトの狙いは本体ではない。
《スラント》と振り下ろされた直後、大きく体を空中で90度回転させる。現実では絶対に不可能な動きだろう。《ダブルサーキュラー》の一、二撃目どちらも赤いライトエフェクトを帯びているリザードマンロードの剣目掛けて斬りつけた。金属どうしのぶつかりに大きな火花を散らす。当然二刀攻撃したキリトの方が有利で《スラント》を放ったリザードマンロードの左腕が大きく真上に弾かれる。
「スイッチ!」
俺の後ろに構えているであろうアスナに合図をおくる。
「了解!」
掛け声とともに後ろからアスナの雄叫びが聞こえてくる。
これが戦闘には欠かせないテクニック《スイッチ》だ。
ソードスキル使用後の硬直を回避するためにパーティメンバーと前衛と後衛をいれかえる。あのデーズゲームでは《スイッチ》のおかげで死人も減ったといっても過言ではないだろう。
「せぇぁぁぁ!」
ジェット機のように飛び込んできたアスナのレイピアが純白のライトエフェクトにつつまれる。
アスナの得意技…細剣上位スキル《スター•スプラッシュ》だ。煌めいたアスナの細剣が次々と見事な突きを入れる。
中段、下段とアスナの光速八連撃をなす術もなく受けたリザードマンロードは頭から崩れ落ち死散した。
「お疲れ、アスナ」
「うん!」
軽くハイタッチしながらもアスナが口を尖らせながら言った。
「スイッチのタイミングもう少し早くてもよかったんじゃないの?」
このことは絶対に文句がくるだろうと正直考えていた。これはもうソロの癖というかなんというか…どうしようもないのだ。
「ああ…わるい。なんか楽しくなっちゃって…。」
苦笑しながら頭を指でぽりぽりとかく。
それを聞いて周りの者が引くのは言うまでもないだろう。
「はぁ〜。やっぱあんたは戦闘マニアね…。」
リズベットが呆れたようにいうが、その後ろで座っていたシリカは申し訳なさそうに答えた。
「でもリズさん。私たちなにもしなくていいんですか?やっぱり少しは手伝ったほうが…。」
これにはアスナが俺に息を吸う間も与えずにこたえる。
「いいのいいの。これはもうどうしようもないから…。やらせとけばいいのよ。」
俺の背中をアスナの平手が襲う。アスナの口調は怒っているような呆れているような…いやどちらもだろう。
「おい、アスナ…なんかそれ傷つく。」
だが、戦闘マニアということは否定できない。なにせ俺は戦闘になると一部記憶がとんだり、戦っている内に楽しくなるなど常人ではあり得ないような行動をとってきているからだ。もっともそれはアスナも全て知っているが…。
「っていうか…アスナもバーサクヒーラーとか呼ばれてるじゃないか。」
アスナもALOにおいて新しい異名が様々にある。その中の一つが《バーサクヒーラー》だ。
もともとアスナの種族ウンディーネというのはスプリガンの俺と同じく戦闘タイプではない。ウンディーネが得意とするのは水中戦と支援魔法なので、ウンディーネが前衛に出て暴れるということはまずないだろう。
だがアスナは新アインクラッド21層ボス戦において自ら前衛に出て暴れる様は圧巻の一言だった。
《バーサクヒーラー》とはこの時アスナの暴れっぷりを目の当たりにしたプレイヤーがつけたのだ。
「そっ、それは…。えっと…。」
してやったり。心の中で俺はガッツポーズをとる。
気が悪くなったアスナがすぐに話題を切り替えす。
「ところでさっきから考えてたんだけどクエストNPCが言ってた第一の門ってあれじゃない?」
アスナが指をさした位置を目で追ってみると、現実世界では考えられない大きさの門が目の前にあった。色が真っ黒で金属の部分は錆びているようでこの扉が本当に開くのかは甚だ疑問が残るが、ここはゲームの世界だからそんなものは関係ないのだろう。
「たぶんそうじゃないか?でもとりあえずここでユイたちを待ってみ……?」
俺は話している途中でただならぬ殺気とともにこの場所に飛んでくる武器のイメージが浮かび全力でさけんだ。
「全員後ろに全力で飛べ!」
ヒュッと投擲用のピックに似た音が聞こえてくるがそれよりも遥かに重く、数も多い。
くそ!間に合うか?
間一髪ギリギリのところで飛翔してきた大剣を避けることができた。
やはり大剣は一本ではなかった。左に2本、右に3本、そして俺の目の前に4本…合計9本の大剣がいきなり飛んできたのだ。
これはトラップなのか!?いやだがトラップに殺気を感じるなんてこと…。だが大剣を9本一気に投げられる奴なんているのか?
…いやいるぞ!あいつら…CPPなら可能なんじゃないか?
思わず最後の声は漏れてしまう。
「まさか!?」
「良く避けたな!おい!ゲーム世界には殺気なんてもんはねえはずだから気づくわけねえと思ってたが…。さすがはあの世界の[勇者]様だぜ!くっく…。」
やはり…。
「あなたいったい誰なんですか!?いきなりこんな!?」
シリカは空中に浮かんでいる男に向かって大きく息を吸い込み叫んだ。
男は片方の口元を釣り上げ嘲笑うかのようにこちらに笑みを見せている。
よく見れば男はそんなに背が高くない…。ユイより少し高いくらいだし声もそこまで低くない。少年だろうか。浅黒い肌に黄金の鎧。武器はいまのところは見当たらない…おそらく先程投げつけたことからして大剣を操るのだろう。
少年は笑みを消し呆れたように体を乗り出しシリカを睨みつけた。
「あっ?なんだよ、ガキ?俺のこと知らねえのかよ…。知っ方ねえな〜。俺の名はアックス。名前だけ聞けばだいたいのことはわかるだろ…。っていっても勇者様は最初から気づいてたみたいだけどな。」
「最初からじゃないけどな…。なんの用だ?」
会話をしながらも俺は考えた。
プログラムが武装することは可能なことはわかる。が…スキルまで使用することができるのだろうか?
ユイには武器など持たせたこともないのでわからないが、もしできるとしたらいくら4人でかかろうが相手はプログラム…勝負の行く末は謎だ。
「はっ?戦いに来たに決まってんじゃん?いいかげん権限ばっか使って戦闘能力なまるのは頂けないからな。かんたんにやられてくれんなよ?」
再び笑みを浮かべそう言うとアックスの姿が消えた。
消えた?いや、消えた訳じゃない。近づいてる…それもあり得ない速さで。
ここでもう先程の疑問は打ち消さなければならいだろう。ここまでの敏捷ステータスがあり、ましてやプログラムならばどんな上位スキルを使ってもおかしくはない。
目を見開きアックスの動くルートを予測する。アックスの先程の位置から一番近かったのはシリカだ。狙われるのはシリカからかもしれない。直感を頼りに俺はシリカの前に移動する。
「そこっ!!」
俺は剣をシリカの目の前の空間を水平に斬り裂いた。
俺の予想はどうやら当たったらしく二つの剣の間で火花が大きく散る。動きを止め姿を現したアックスは驚いたように目を丸めている。
「さっすが勇者様!!いいね!最高だね、久しぶりだぜ!こんなの。」
こいつは…危険すぎる!
今のは運良く止められたが、奴の速さは異常だ。次も可能とは限らない。純粋な恐怖を肌に感じる。
「みんな気をつけろ。こいつ只者じゃない!」
後ろにいるみんなの顔は見えないが、異常なほどの速さを見せつけられたのだ…。恐らく声に出してはいないが、頷いているだろう。
俺の神経が激しく強張る。これはまるで旧アインクラッド74層でグリームアイズを一人で戦ったあの時と同じだ…。
全神経が戦いにのみに意識を傾け。次第に周りの音も小さくなっていく。聞こえてくるのは自分の高鳴る鼓動のみ。
でも俺はあの時とは違う…。
俺はもう……一人じゃないんだ!!
「はあぁぁぁ!」
雄叫びをあげながら今度はこちらから攻勢に入った。溜まった燃料で一気に飛びたすように勢い良く地面を蹴り飛ばす。後ろにいたアスナ達も俺が飛び込んだのをみて左右に展開し始めた。
「
アックスは大きな大剣を軽々持ち上げ、同じ直線上に凄まじい速度で詰め寄ってくる。リーチはたいして変わらないが、剣の大きさを考えると、どうみてもこちらの剣に勝ち目はないが、俺の剣は二刀であり、手数が勝負だ。
この速さで武器破壊を狙えば確実にやられる。本体だけを狙うんだ!
「ふっ!」
気合の声とともに、二人の剣が激しく火花を散らす。アックスの大剣にノックバックを起こしたかのように大きく仰け反りそうになるのを片方の剣を地面に突き刺してとめる。
重い…!!
このままでは分が悪いとふんだ俺は大きく後ろに飛びのき距離をとり、沈み込んだ体勢から大きく飛び出し、一瞬でアックスの目の前まで詰め寄ると左手の剣を水平に斬りつけるが、アックスの大剣によって再び遮られ、火花を散らす。
もう一発!!
そう、《ダブルサーキュラー》は二刀流のスキル故に単発でも2連撃だ。今の奴の防ぎ片では一撃目は避けられたとしても二撃目で必ずどこかに手傷を負わせることができる。
「せぇぇぁぁ!」
1秒程度おくれてすぎに右手の剣が唸りをあげて襲いかかった。が…俺の目の前には信じられないことが起こった。
ものすごい力で大きく横に吹き飛ばされる。
微かに聞こえるのはアスナ達の悲鳴まじりの叫びだ。
いったい…なにが?
今にも遠のきそうな意識を気合で保ち、アックスを睨みつける。
「なにが起こったかわからないって顔してんな。」
くくっと無邪気に笑い赤い瞳が地に倒れた俺を見下している。
そ…んな…ばかな…!?
俺は奴の武装に目を丸くした。
「自分だけが二刀の剣を使えると思ってたら大間違いだぜ?勇者様よお!」
アックスの両手には真紅に輝く二つの大剣が握られていた。
どうもロックンです。
今回からバトルシーンをいれてみました。
バトルシーンをいれるとやはり長く…。
次もバトルシーンとなります。
ご感想の方頂けたら幸いです。
では〜。