「キリト君!」
力が抜けそうな俺の体を暖かい優しい光がつつみこむ。
これは、アスナの回復魔法だ。
「サンキュー!アスナ!」
「キリト君、あの人…大剣を二本…。」
アスナが俺のコートの袖をぎゅうっと華奢な指でつかむ。
「ああ。あれは一体…。」
俺は状況を再認識するために辺りを見回した。俺のとなりにはアスナ、少し右に離れた場所にシリカとリズベット、そして俺の正面には真紅の大剣を二本装備している少年…アックスが戦闘体勢をとっている。
「消す前に教えてやるよ。これは、これは俺がSAOのプログラムから勝手に抜きとったユニークスキルだ。名前は…デュアルアーマメント。このスキルはどんな武装だろうと両手に装備できる。」
まったく聞き覚えがないスキルだ…。もっともユニークスキルなのだからしっているはずはないが。
しかし権限をもっている彼らになぜスキルなど必要なのだろうか。
「プログラム…ましてや上位プログラムのお前が何でスキルなんて使う必要があるんだ?」
俺の質問にアックスは快く答えた。
「はぁ?俺は権限なんてほんとはいらねえんだ。俺が求めるのは殺戮と戦いだ。」
なるほどこれで全ての辻褄が合う。奴はやはりラフィンコフィンの影響を強く受けているようだ。そして最初の大剣を何本も投げつけることができたのも恐らくユニークスキルの能力の内なのだろう。
「キリトさん。やっぱり私たちも援護します。」
気づくとシリカとリズベットがアスナも左隣に駆け寄っていた。
「危険すぎ…。」
俺はすぐに断ろうとした。今すぐ逃げてくれ!…そういいたかった。
だが、俺が言葉を言い切る前にアスナが俺の口を無理矢理おさえた。
「キリト君…。信じてあげてよ。私たちはただキリト君に守られるためにいるんじゃないよ?私たちが君を守るためにいるの。だから…信じて。」
アスナの口調は優しかった。
「アスナ……。」
俺はいかに自分が自分勝手だったかを悟った。俺が彼女たちの立場なら逃げ出すことができるだろうか?
絶対にできないだろう。たとえ確実に負けるとわかっていても戦う道を選ぶだろう。アスナ達も同じなのだ。
俺は一度、旧アインクラッドでも同じようなことをアスナから言われたはずだ。
成長しないな俺も…。
「わかった…。全員でいくぞ!」
最後の言葉を発した直後一斉にアックスに斬り込む。奴のスキルの強みはやはり効火力の大剣を二本も扱えるところだ。筋力パラメータは恐らく俺たちよりも遥かに上だろう。
金属同士の交差する重い音が響きわたる。
「ぐっ!?」
やはり重い…剣二本で漸く受けきれるほどだ。
腕が折れそうなほどの重圧が襲う。
やはり真っ向勝負ではあまりに分が悪い。
「アスナ、前衛に加わってくれ!シリカは俺が指示したらピナと援護してくれ。リズベットは俺たちの後ろで待機しててくれ!」
同時に俺はアックスと間合いをとり並行に走る。
それぞれが高速で動き回る。
不幸中の幸いといったところか、アックスは敏捷ステータスが俺たちより高くないようで動きについてこれていない。
「シリカ!頼む!」
俺の指示でシリカは大きく叫ぶ。
「ピナ、ファイアーブレス!」
するといっぱいに開かれたピナの口から火炎の玉が勢いよく放たれる。これはビーストテイマーであるシリカだからこそ使えるスキルだ。テイムすると一部能力が解放され、スキルを使うことができるのだ。ピナはシリカにとても懐いているためシリカの命令に絶対に背かないと踏んでいた。
だが、アックスはいとも簡単に手に握られたアックスのブレスを打ち消した。
本来、魔法を防ぐ方法というものは仲間の支援魔法によるものか自らの回避運動によるものしかない。
俺は《魔法破壊》というシステム外スキルを使い魔法を打ち消すことができる。だが俺以外は使っている者は見たことがないし、あのアスナやリーファでもできなかったのだからできる者はいないと踏んでいたのだか。
さすがはプログラムってわけか。
「アスナ!」
高速で剣を振り下ろし斬り抜け俺と入れ替わるようにアックスの後ろからアスナが《閃光》の異名にふさわしい速さでまた斬り抜ける。
アックスに反撃の間など与えない…。まさに怒涛の攻撃だ。
「リズ、次!」
アスナと入れ替わったリズベットが、メイスを大きく振り上げ走りこんでくる。
「ちっ!?」
呻き声とともにアックスの二本の大剣が青いライトエフェクトが覆う。
あれは俺と同じ二刀流スキル上位スキル《スターバースト・ストリーム》だ。なぜ奴が使えるのかわからないがそんなこと考えている余裕ではない。16連撃まともにくらってしまったら死ぬまではいかなくともレッドゾーンまで減るのは避けられないだろう。
真紅の瞳はリズベットのメイスしかみえていないようだった。
まさか…武器破壊!?
「リズ、さがれ!はやくっ!」
俺の二本の剣もアックスと同じように青いライトエフェクトがつつむ。
「届けーーーー!」
同じライトエフェクトを帯びた大剣と剣が激しくぶつかり合う。左、右と間を空けずに斬撃のラッシュを開始する。弾ける火花は剣が悲鳴をあげているようだ。
それもそのはずだ。こちらよりも二回りも大きい剣と打ち合っているのだ。耐久値がいつ0になってもおかしくはない。
剣の悲鳴などはおかまいなしに左、右と次々と斬りつける。
これは俺の技だ。反撃の仕方もとっくに考えてた!
まだだ。まだあがる!もっと…もっと速く!
頭の神経が焼ききれんばかりの速さで剣を振るう。
「うおぉぉぉ!」
星屑ような最後の一撃でとうとうアックスの剣撃の速度をこした。
「ここだぁぁぁ!」
アックスの振り上げられた剣めがけて最後の突きが容赦無く襲いかかる。
ぶつかり合った剣と大剣はぶつかり大きく反発した。
「スイッチ!!」
俺が飛ばされながら叫んだ直後、彗星のごとく全身から光の尾を発しながら目にも止まらぬ速さで何かがアックスを貫いた。
突き抜けた姿はまったく見えなかったが誰が攻撃をしたかは俺にはすぐにわかった。あのスキルは 最上位の細剣技の1つ《フラッシング・ペネトレイター》。そしてあんな高速で突きができるプレイヤーはアスナ以外、アルブヘイムや旧アインクラッドを探しても指の数ほどもいないだろう。
「リズ、今度こそスイッチ!」
リズベットのメイスが激しい電光を纏い貫きアスナ、リズベット、シリカで次々とスイッチしていく。
「シリカ、スイッチ!」
シリカの短剣が水飛沫を散らしながらアックスの腹部を大きく抉る。
「キリトさん!」
漸く硬直から解放された俺は一直線にアックス目掛けて駆け抜ける。
すでにアックスのHPバーはイエローゾーンをきっている。
俺の両手に握られた剣が再び透き通った青いライトエフェクトがつつむ。
「スターバースト・ストリーム…。」
この攻撃で全て終わらせるため俺の全てを攻撃へ集中させ両手の剣で怒涛のラッシュを開始する。
「くっそ…!!」
アックスも硬直から解けていたがダメージが大きすぎたせいか反応速度が鈍い。
いける…確実に抜ける!!
俺の放った剣尖は次々とアックスに命中していく。
「お…かえしだぁぁぁ!」
とうとう最後の一突きがアックスの腹部を貫きそのHPバーは0になった…のだが、どういうわけかアックスのアバターは死散することなく留まっている。
どういうことだ…。たしかに奴のHPは完全に0になったはずなのに、何故こいつはまだ存在しているんだ。
俺は目の前に広がる不可解な光景を把握することができず、立ち尽くす少年を見守った。無論、アスナやシリカたちも訝しい目を立ち尽くしたアックスに向けている。少年の様子はもはや意識があるのかすら考えさせられるように頭を垂らして俯いている。その瞳はとても暗く見ているだけで深い闇に引き込まれそうになる。
ずっと顔を俯いていたアックスが顔上げ口を開いた。だがやはりアックスの瞳には光がやどっていない気がした。
「勇者よ。よくアックスを倒しましたね。ですがアックスは貴方達では消すことはできません。」
アックスと同じ声だか何か違う。もっとプレッシャーというのだろうか…威厳がこもった声だった。
「お前はアックスじゃないな。だれだ!?」
姿なき声に俺はたずねた。
「我が名はバーベル…。もうご存知でしょう?」
名前を聞いた途端、誰もが目を疑った。
だが俺には直ぐに純粋な怒りが心を満たしていく。
こいつがユイをそそのかし、怯えさせ、また壊そうとしている。こいつが今回の一連の黒幕なのだ。そう思うと今直ぐにでも斬りかかりたくなる衝動に駆られるが、奴は今実体をもっていない。どうしようもない。
誰もが黙り込んでいると、姿なき意識は話を続けた。
「貴方がた私たちプログラムを消去するには、《火龍の杖》でしか不可能です。故に私がこの愚か者を葬ろうと来たわけです。」
するとアックスの体をドス黒い闇…いや黒い炎が覆って行く。
「さて、勇者よ。これでアックスはもう終わりです。貴方のデータはすでに頂きました。いずれ、貴方も私を必要とするでしょう。」
バーベルの意識はそう言い残しアックスの体は黒い炎に飲まれて跡形もなくなくなった。
どうもロックンです。
まずは更新が遅れたこと申し訳ございません。
ですがこれからはこれくらいのペースで出していくつもりです。
さて次回からは、ユイさん御一行にもどります。
こちらも少しばかり面倒なことに巻き込まれる予定です。
では〜。