俺「これ、どういう四面楚歌?」

幼馴染の親友(♂)と幼馴染の学級委員長(♀)とクラスのマドンナ(♀)とカワイイ男の後輩(♂)が主人公を狙い始めたお話。

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TSしたらバイとノンケとレズとゲイに迫られるようになったんだが。

 朝起きたら、玉と竿が消えていた。

 

 あれだけ毎朝雄々しく反り立つように屹立していた息子は影も形もない。いや、あるにはあるが……やめておこう。下の話になる。

 そんな訳で、この世で一番大切なマイサンを失ってしまった俺だが、その代わりにとは言ってなんだが、胸に玉袋みたいな果実が実り、股の間に尻とはまた別の穴が開いていた。

 

「……ヤダ、あたしったら女の子」

 

 言ってる場合か。

 つい、口をついてそれっぽい一人称で言ってしまったが、俺はれっきとした男の子だ。いや、男の子()()()と言うべきか。

 

―――TS(性転換)してるじゃん……。

 

 受け止め難い現実を突きつけられた俺の横で、スヌーズ機能によって目覚まし時計の音がかき鳴らされていたが、とうとう夢は冷めてはくれなかった。

 

 

 

 +

 

 

 

 俺、平等(たいら) (ゆう)はそれなりに順風満帆な生活は送れていたはずだった。

 なのにどうしてだ。どうして天は俺にこんな試練を与えやがった。

 

 目が覚めたら、女の子になってしまっていた! なんて某見た目は子供頭脳は大人な名探偵(しにがみ)でさえ吃驚仰天な展開でしかない。

 当然、一日跨いで息子が娘になっていたことに両親は驚きはしたが、こちらが拍子抜けしてしまうほど「まあいいか」と受け止めていた。ふざけんな! こちとら息子を亡くしたんだよ!

 

 まあ、その日は流石に病院に連れてってもらい医者に診てもらったが、突然性転換する症状なんて未だかつてあるはずなく……

 

「お子さんの病気は急性性転換病ですね」

「あるのかよ!」

 

 普段は一応品行方正で通っている俺も、この時ばかりは病院内で叫んでしまった。

 なんだ、急性性転換病って。誰だ、そんな病名付けたの。ド直球過ぎるだろ。エロ同人か。

 

 怒りで震える。プルプル震える。するとおっぱいも震える。

 否応なしに自分が女だということを突きつけられているのが堪らなくなり、なんとか怒りはヒートダウンしたが、だからといって事態が好転する訳でもない。

 期待はしていなかったが、案の定治療方法はなかった。

 医者が「もう一回同じ病気になったら治るかもしれませんね」と笑いながら言うもんだから、一発顔面に拳をぶち込みそうになったが寸前で堪えた。

 

 ああ……俺童貞のまま女になっちゃったよ……。

 結局未使用のまま俺の息子は逝ってしまわれたんだ。

 

 途轍もない悲しみと虚無感に襲われる俺であったが、いつまでもふさぎ込んでいる訳にはいかなかった。いや、一日ぐらいふさぎ込ませてくれよ。息子が娘になった日に病院から直行で女物の衣服買いに行くとか、どんだけ俺の母親は順応性高いんだよ。寧ろノリノリじゃねえか。

 しかも、たわわに実った胸がデカいことデカいこと。男の頃は付き合う女の子の胸は大きい方がいいと友人らと盛り上がっていたが、いざ自分が女になってみると重くて仕方がない。

 ちくしょう。この歳になって母親に上半身を見られるのが恥ずかしくなるとは思わなかった……! だって、ノリノリでバスト図られたのだ。え、サイズ? Eカップだったよ。ふざけんな、クラスの中でも多分ダントツのサイズだわ! 浮くわ! 色々と!

 

 そうこうしている内に女として必要な衣服や日用品を買いそろえられた俺は、重い足取りで家へと帰宅する羽目となった。

 

 ああ、今からすでに学校が憂鬱だ。

 俺のバラ色の人生は今日を以て終幕―――だとばかり思っていた。

 

 

 

 +

 

 

 

「うわ、マジで女になってるじゃん」

 

 次の日、朝から俺ん家に迎えに来てくれた男が一人玄関前に佇んでいた。

 日焼けした小麦色の肌が眩しい、いかにもスポーツ少年然としたサッカー部のエースであり、俺の無二の親友・和田 大和だ。幼稚園からの付き合いであり、小・中と同じサッカークラブに通い、同じ高校に通う今になっても一緒にサッカーを嗜む、心の底から信頼できる友達なんだ。

 ……しかも、顔もいいもんだから学校の女子からの人気が高い。親友がモテて誇らしいような、羨ましいような複雑な気持ちを抱いたこともあったが、そんな俺にも気さくに接してくれる本当に良い奴である。

 

 普段は嫌な顔一つしない笑顔が眩しい男の大和も、今日ばかりは笑顔を忘れ、目が点になりながら立ち尽くしている。

 それもそうだ、幼稚園からの幼馴染が急に女になったら誰でもこんな顔になる。

 一応昨日突然休んだことに心配してくれた大和が連絡を寄越したから、渋々事情を語ったが、実際目の当たりにするまでは半信半疑だったのだろう。

 

 まじまじと俺を見つめる大和。

だが、突然いつも通りの快活な笑みを浮かべる。

 

「ま、中身は優だしなッ! 困ったことあればなんでも言ってくれよな!」

「大和……お前本当にイケメンかよ。俺が女だったら惚れてるぞ」

「いや、今のお前女だろ! はははっ!」

「あ、そうだった……あははっ!」

 

 昔から使っている「俺が女だったら惚れてるぞ」ジョークも、今となっては洒落にならない。

でも、女になった俺に変わらぬ態度で接してくれる大和には、本当に救われる気持ちになった。

 

「はぁ……しっかし、どうしたもんかなぁ」

「だなー。……それにしてもデケーおっぱいついてんなぁ。クラスの女子と比べても一番デカいくらいじゃねえのか?」

「言うなぁ!」

「お、めっちゃ揺れんじゃん」

「ちくしょー!」

 

 人が一番気にしているところをからかいやがって!

 こうやって反応する時も俺の意思に反して動きやがる! おのれ、息子の方がまだ俺の思い通りに動いていたぞ。女はこんなに自由のきかない爆弾をぶら下げていたって訳か。

 

 ふとした反応で胸が暴れるのを防ぐべく、手ブラの要領で押さえつける。

 だが、傍から見れば()()手ブラしている光景そのものだ。むしろ、大和に「エッロ」と追撃を受けてしまう。

 

「優~、実は昨日揉んでたんだろ~? 隠すなよ~」

「うっせ! お前に見せるおっぱいも揉ませるおっぱいもねえ! エロい目で見んじゃねえ、ケダモノ!」

「別に小さい頃からお前の裸なんていくらでも見てるし、エロい目なんかで見るかよ」

 

 確かに修学旅行とかクラブの合宿の時の風呂で裸は見せ合った仲だが、これとそれとは別の問題。

 いつぞや語り合った「おっぱいは女のってだけで価値がある」理論が今は自分に適用されてしまうのだ。元が男とは言え、女になってしまった以上羞恥心はあるのだ。っていうか、よくよく考えたら男は上半身裸でもなんとも言われないのに、女が上半身裸だったら猥褻物陳列罪適用されるのでは? 不公平だ! なるほど、社会で女が男女不平等を謳っている理由をほんのちょっとだけだが理解できた気がする。……いやいや、今女の気持ち理解しても仕方ないんだよ!

 

「っつーか、元男のおっぱい揉むなんて気持ち悪い真似にも程があんだろ! 絶対やめろよな!」

「分かった分かった……って言いつつ不意を突くー!」

「ひゃん!?」

 

 突然肩に腕を回し、そのまま胸をひと揉みしてくる大和。

 不意をついた出来事だったからか、俺の口からは変な声が出た―――女みたいな。

 自分でもビックリするくらいの女子みたいな、というか女子そのものの声。からかっただけのつもりだった大和も、そんな俺の悲鳴を聞いてから動きがぎこちなくなり、「わ、悪い」としどろもどろになって離れてくれた。

 

 ……いや、気まず!

 俺が雌の声上げたばっかりに変な空気になっちゃったじゃん!

 いつもなら、どんな女子相手にも笑顔が眩い大和も顔真っ赤にしてそっぽ向いて……って、俺のおっぱい揉んだからって顔赤くしないでくれ。それは本当の女子にやっちゃった時の反応だから。やめて。俺が女を受け入れかねない反応見せるのをそのルックスでやるのは。

 

「き、気にすんなよ……ただ変な感触だったから、つい……」

「お、おう……」

 

 罪悪感に苛まれている大和を慰める。

 大和、お前は悪くない。悪くないからそう気を落とさないでくれ。そうでもないと俺の中で渦巻く複雑な感情が爆発しそうなんだ。考えてくれ、元男のおっぱい揉んで罪悪感に苛まれる親友を慰める俺の気持ちを。

 なんとかこの雰囲気を変えなければ……そうだ。

 

「へ……へへっ! よくも俺のおっぱい揉んでくれたな。どんな揉み心地だったんだ、あぁん?」

「あ? あ~……なんつーか、柔かったな」

「おー、そうかそうか。ならもっと揉んでみてもいいんだぜ?」

「は!?」

「タダで女のおっぱい揉める機会なんて中々ないぞ~? ま、元男のでいいんならな」

 

 精一杯の挑発。

 もちろん、冗談で言っている訳であるがこれで「揉まねえよ~」みたいな返答を期待した訳であるが、赤面の大和は中々返答してくれない。おい、頼むぞ。腕で両サイドからおっぱい挟み込む誘惑ポーズとっている俺が馬鹿みたいじゃないか。

 

 しばらく待ち、ようやく熟考を終えた大和が振り返る。

 やけに真剣な顔を浮かべた大和はこう問いかけてきた。

 

「なあ、優……お前、()は……?」

「は?」

「だから、その……ゴニョゴニョ……だよ」

「んなッ!? いや、そりゃまあ……穿たれてしまった訳だが……」

「穿たれたて」

「仕方ねえだろ」

 

 何故か下の穴の話になったが、その所在を確認した大和は意を決した様子で俺に告げる。

 

「優!」

「お、おう?」

「その……俺ら、付き合わね?」

「ほうほう………………ッ、はぁ~~~~~!?!?!?」

 

 とんだ爆弾発言に朝の閑静な住宅街に俺の声が轟く。

 「馬鹿、お前!」と俺を制する大和だが、それは俺の台詞だ。

 

「お、おま、お前! それどういう意味か分かってんのか!?」

「分かってるって! その、揉んだ責任とるっつーか……」

「揉んだくらいで責任取るって、お前どういう貞操観念持ってんだよ! いいか!? 俺は男だ! 見た目女でおっぱいついてて下の穴があっても中身は俺なんだぞ!?」

「いや、寧ろ都合がいいっつーか……」

「ぱーどぅん?」

 

 こいつ、今なんて言った?

 俺がFXで有り金全部溶かしたみたいな顔受かべていると、大和はクラスの女子に告白された時でも浮かべないような恥じらう表情で口元を手で隠しつつ、もう片方の手で俺の肩に手を置く。大きく温かい手だ。じんわりと熱が伝わって来る掌は、緊張からか僅かに湿っていた。

 

「俺が今まで誰とも付き合ってこなかったの、優は知ってるよな?」

「ま、まあ……長い付き合いだしな」

「それな、ずっとお前のことが好きだったからなんだ。なんつーか、女ももちろん好きだけど男もイケるっつーか」

「……本気で言ってるのか、お前?」

「幼稚園からずっとなんだ。この想いに間違いはねえ」

「筋金入りじゃねえか」

 

 ヤダ、あたしったらずっとあたしのこと好きでいてくれた男の子の傍で生きていたのね。って、バカ!

 幼稚園から好きだったってことは、つまり、そういう訳だ。男だった俺を好きだった訳で……。

 

「い、いや、いやいやいや! するってぇとそれは、友達として好きって意味だろ!? 勘違いしてんだよ、俺が女になっちまったから!」

「いや、お前を想うと胸の高鳴りが止まらねえんだ」

「オー……」

 

 こいつ、真剣(マジ)の目を浮かべてやがる……!

 ギラギラと輝いてる肉食獣みたいな瞳は、サッカーでボールを狙っている時の目にそっくりだ。

 

「で、でも! お前の言い分を聞くに男だった俺が好きだったんじゃねえのか!? だったら、女になった俺は寧ろ都合が悪いって言うか……」

 

 ホモ的な意味でな。

 

「いや、優だから好きなんだ。お前が女になったおかげで周りの目ェ気にしないで言えるぜ」

「ひゃ~~~!?」

 

 こんな恥ずかしいセリフを涼し気な顔で言い放つなんて、流石イケメンだぜ! って言っている場合じゃない。

 女に性転換した翌日に親友から告白されるなんて思ってもみなかった。

 クソ、このイケメンは俺の中身を好きになってくれているらしい。ホモだのゲイだのといった退路は断たれてしまった。

 

 でも、大和が良かろうと俺の中身はまだ男のままなのだ。

 心も女にならない限りは、大和クラスのイケメンだとは言え、男相手にはちょっと抵抗がある訳で……。

 

「ちょ、まだ……無理~~~~!!」

「あッ、優!」

 

 唸れ! サッカーで鍛えた俺の健脚! 女になっても筋肉は裏切らない!

 このまま詰め寄られては流されてしまいかねないと考えた俺は、ひとまず大和の前から逃げ去った。

 行く先は学校しかない。行ったところでいじられる結末しか見えていないが、この状況から脱することができるのであれば構わない。

 

 それに学校にはもう一人の幼馴染が居る。あいつに助けを求めれば、なんとか……。

 

 

 

 +

 

 

 

 案の定、学校についたらぎゃーぎゃー騒がれた。

 予想できたとは言え、流石にしつこく絡まれれば辟易するものだ。男も女も無遠慮に体をベタベタと触って来る。今まで男に触られてもなんとも感じなかった癖に、女の体となれば彼等のボディタッチに下心が見えてくるのだから、いい気持ちがしない。逆に女に触られても、男心としてはドキッとするはずなのに、今となってはそんなに嬉しくない。

 複雑だ。複雑すぎる。誰だ、TSなんて考えたの。あ~、単体生殖できねえかな~。そうすりゃ世の中の性的事情あれこれ考えずに済むのになぁ~。

 

 なんてことを考えていれば、学級委員長の女子が「そこらへんにしときなよ」と群がるクラスメイトを追い払ってくれた。

 この如何にも真面目そうな眼鏡女子が、俺のもう一人の幼馴染、差波 愛美である。

 昔から気が強く、小さい頃は悪ガキであった俺と大和をよく叱っていた頭でっかちでもある……が、顔は中々悪くない。寧ろ、その気の強い性格が一部の男子に人気だという噂もある。ちくしょう、俺の周りの奴ばっかモテやがって。

 

「大丈夫? 優」

「ん……サンキュ」

「見るからに疲れてます、って顔してんね。ま、色々大変だろうけどアタシが面倒看てあげるから安心しな」

「別にいいって」

「つべこべ言わない!」

「へーへー」

 

 性転換した俺に対し、甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのは、どうやら母親が愛美に頼んでくれたかららしい。

 まあ、幼馴染というだけはあって他の女子よりは接し易くはあるが、なんだか女のいろはを叩き込まれそうな予感を、この時の俺は感じ取っていた。

 

 そしてそれは間違いでなく、今日の午前はこれでもかというほど愛美に付きまとわれた。

 ただ近くで野次馬を露払いしてくれる分には良かったが、まさかトイレにまで付きまとわれるとは……。

 いや、男子便所に入るか女子便所に入るか迷っていた俺を見かねての行動だが。

 それにしても、「今は女の体なんだから女子のでいいでしょ」と女子便所に押し込んだのは強引過ぎないか?

 見張りのためとかなんとかでトイレの前に居座られたけれど、そんな近くに居座られたら出るものも出ねえよ! とは言いつつ、催す尿意には勝てなかった。この日、デパートとかで女子便所にトイレ用擬音装置が設置されている意味を理解する羽目になるとは。俺は昔、公衆便所で愛美がトイレに入った時、大和と二人で外から叫んでからかった時のことを思い出し、「あの時は悪かった」と謝った。もちろん、愛美はそんなこと一ミリも覚えてなかったけど。

 

「ふぅ……まさか、トイレだけでこんな神経すり減らすなんて……」

「あんたも大変ねぇ~。アタシからすれば面白いけど」

「こっちは面白くないんだよ! だって……!」

 

 朝の大和との出来事を話そうとしたが、咄嗟に言ったらややこしいことになると理性がストップをかける。危ない危ない。幼馴染の仲が変になるところだった……。

 

「くっそー! 早く男の体に戻りてぇーよー!」

「確かにいつまでも女の体もままだと都合悪いし」

「それな!? 俺の人生プランメチャクチャだよ!」

「アタシの人生プランもメチャクチャに―――ゲホンゲホン!」

「ん? なんか言ったか?」

「ううん、なんでもないわよ! それより、ほら! お昼買いに行くわよ!」

「え? いや、俺弁当だし……」

「デ、デザート買ってあげるって言ってるのよ! ほらほら、アタシの奢りよ!」

「ちょ、ちょ……!?」

 

 なんだか上ずった声の愛美が俺を強引に購買へと連れていく。

 なんだ? なんでこんなに愛美は焦ってるんだよ。

 まあ、デザート奢ってくれるのは普通に嬉しい。だから、そのまま連れて行かれるがまま購買へと向かった。

 

 結局、プリンを買ってもらった俺は人の余りこない校舎裏で愛美と昼食をとった。

 いつもなら、大和と昼練ついでに部室で食べていただろうが、今日に限ってはその気分にはなれない。あ~あ、しばらくサッカーもできないなぁ。

 

 なんてことを考えつつ、昼食を食べ終えた俺達は教室へ戻った―――その途中だった。

 

「ゆ~う君♪」

「ん? ……おわっ、藤乗さん!?」

 

 廊下の角からひょっこり現れたのは、クラスのマドンナの藤乗 美雪だった。

 容姿端麗、成績も優秀、スポーツも万能といったまさしく才色兼備の女子! 性格も明るく、誰とでも仲良くなれる女の子の鑑であり、俺もまた彼女に惚れる一人……だったのだが、今はその限りでもない。カワイイとかキレイとかの感想の前に、自分の置かれた状況に疲弊して感動とかの感情が沸き上がってこない。

 あー、でも女子目線から見ても本当に別嬪さんだ。

 性転換することが分かっていたなら、玉砕覚悟で告白しておくべきだった。本当に悔やまれる。

 

「ええっと……どうかしたの?」

「ねえ、平等くん。私、先生から呼んでくるよう頼まれたから来たの。一緒に行こっ♪」

「えっ、先生が!? ……なんの用だろ。とりあえず行ってみるしかないか。……って、藤乗さんも来るの!?」

「ダメ?」

「ダ、ダメとかじゃないけど……」

 

 クソ! 性転換したところで結局俺は交際経験0の男でしかなかった。自分でも分かるくらいキョドっている。隣から俺を見つめる愛美の視線が痛い! 冷たい!

 

「じゃ、じゃあ一緒に……」

「ふふっ、不束者ですがどうぞよろしく♪」

 

 そう言って藤乗さんは俺の手を握った。

え、なんで? と疑問が脳裏を過ったが、それよりも絹のように滑らかでしっとりとした藤乗さんの手の触り心地に、合理的な答えを求める思考など吹き飛んだ。

こんなにも自然に藤乗さんの手に触れるなんて、女の子になって良かった!

 

「ちょ、だったらアタシも……」

『委員長ぉー、先生呼んでるよー』

「クッ!」

 

 愛美も俺について来ようとはしたが、どうやらあいつも人に呼ばれたようだ。

 これで俺と藤乗さんの二人きりの空間。嬉しいような、嬉しくないような……。

 それでも鼻歌を歌い手を引っ張る藤乗さんを見ているとどうでもよくなった。

 

「ふんふ~ん♪」

「機嫌いいね、なにかあったの?」

「うん! でも、ヒ・ミ・ツ♪」

「え~、教えてよ~」

 

 ヤダ、あたしったら女を楽しんじゃってる。

 

 今までこんな風に藤乗さんと親しくマンツーマンで話したこともなかったので、心臓がバクバクと鼓動を立てているが、自分が女の体であると思い出すだけで、いくらか平静を取り戻せる。同時に得も言われぬ虚無感が心に押し寄せてくるが、なんとか幸福感だけ受け取れるよう努めよう。でなければ、この先やっていけない。

 

「って、藤乗さん? 今どこ向かってるの?」

「三階だよ。先生がそこに居るんだ」

「へぇ~」

 

 職員室に行くとばかり思っていたが、藤乗さんが言うのだから間違いないのだろう。

 と、思っていたが、だんだんと藤乗さんの歩幅は広くなり、歩みも早くなっていく。

 

「ちょ、藤乗さん……!? はや……!」

「……」

 

 え? 無視? ちょっと悲しい。

 困惑する俺を引っ張る藤乗さんが辿り着いたのは、先ほど愛美に案内された普段使われることのない女子便所であった。

 普段使われていないこともあり手入れも行き届いていないのか、芳香剤の中身が切れて、室内には据えたアンモニア臭が漂っている。

 だが、今は目の前に藤乗さんが俺に覆いかぶさるような体勢を取っているため、彼女の柔らかな香りが他の一切を掻き消してくれていた。

 

「あ、あの……これはどういう……?」

 

 この体勢、いわゆる壁ドンだ。

 俺はドンする側ではなくドンされる側だった。

なに? この状況? 意味ガワカラナイヨ。

 俺を呼び込んだ先生の下に案内する訳でもなく、俺を人気のない場所に連れ込んだ藤乗さん。何を考えているのかと、俺が目を白黒させて困惑していたら、彼女は上気した頬を浮かべ、ズイっと顔を近づけてくる。

 

 近い。余りにも近すぎる。

 よもすれば、彼女の顔の産毛が俺の肌を撫で、互いの鼻先が触れ合うような―――口付けしかねない近さだった。

 余りの距離感に俺が息を飲む一方で、彼女のやや荒い吐息が、緊張で乾いていく俺の唇を湿らせていく。

 

「ねぇ……優君……」

「な……に……?」

「私ね……女の子が好きなの?」

「へぁ?」

 

 思わぬカミングアウトに、俺の頭の中は真っ白になった。

 

―――藤乗さんって一度も付き合ったことないらしいよー。

 

 以前耳にした女子の噂が脳内を過る。

 点と点がつながった……そんな気分だ。

 

「も、もしかして……お花で例えたら……」

「百合。レズビアンだよっ」

 

 やっぱりそうだった。今まで惚れていた女子がレズビアンだったことを知った俺は、雷が直撃したかのようなショックに襲われた。

 まさか……そんな……クラスどころか学校中の男子から羨望の眼差しを向けられている藤乗さんがレズビアンだったなんて……。

 先ほどまでの俺のときめきを嘲笑うかのような事実を突きつけてきた彼女に俺は打ちひしがれたが、ポッと出てきた疑問に我に返る。

 

「? じゃあなんで俺をここに……」

「わからないの?」

「ひっ!?」

「わからせて……あげてもいいんだよ……?」

 

 はぁ、と甘い吐息が顔を撫でる。まるで(ねぶ)るかのようなねっとりとした動きで体を押し付けてくる彼女に、最早俺は身動きが取れなくなっていた。

 同時に貞操に危機感を覚え始めていた。

 レズビアンが、女子を、人気の居ないトイレに連れ込んだ。

 ここまでピースが揃ってわからない人間が居るだろうか? いや、いない。

しかし、希望があるとすれば……。

 

「ももももし俺の考えが正しかったとしてもだよ!? 俺、元男だから……!」

「私ね……ずぅ~っと平等くんが女の子だったらいいなぁ~って思ってたんだぁ♪ 優君がね、和田君と仲良くしてるの見て、とっても良い顔してると思ってたから」

「えぇ……!?」

「女の子だったら、って何度も思ったの……わかってるかどうか知らないけれど、優君、女の子の才能あるよ」

「女の子の才能ってなに!?」

「ふふっ、それを私が手取り足取り説明してあげるから……」

 

 先生ってそっちの意味だったのか!

 まずい! 俺の貞操が藤乗さんに奪われてしまう! いや、男の時だったら嬉しくて天にも昇る感慨に耽れただろうけども! それとこれとは話が違う!

 

「藤乗さん、ダメだって! もうすぐ午後の授業も始まっちゃうしさ、ねっ!?」

「えー、授業なんかサボっちゃおうよ。大丈夫、すぐ気持ちよくなれるようにしてあげるから……♪」

「きゃー!?」

 

「そこまでよっ!」

 

「「!?」」

 

 藤乗さんの手が俺のスカートの中をまさぐろうとした時、勢いよく女子便所の扉を開け、彼女との間に割って入る人影が一つ。

 

「ま、愛美!?」

「嫌な予感がしたから先生の用事すっぽかして来てみたら……優になにしてるのよ!」

「なにって……平等くんを私の物にしようとしただけだけど」

 

 来てくれたのは愛美だった。お前、イケメンかよ。俺が女でお前が男だったら惚れてまうわ。そのくらい頼りがいのある背中の愛美が、藤乗さんの凶行から俺を守ろうと立ち塞がってくれていた。

 睨み合う愛美と藤乗さん。その光景はさながら竜虎の如く。二人の間には眼光がバチバチとぶつかり合って爆ぜているのを、俺は幻視した。

 

 しばし不穏な空気が流れていたが、流れを断ち切るように吼えたのは愛美だった。

 

「優は貴方のものじゃないわ! 急に女になって大変な想いしてるんだから、こいつの気持ちを考えてあげなよ!」

「考えてるよ。考えたからこその行動なの。心は男、体は女……本当に大変だよね。だから身も心も女の子にしてあげようとしただけ。でも、心は男の子だから、男の子にあれこれされるより女の子にあれこれしてもらった方が嬉しいでしょ?」

「だ、だからって……その……無理やり迫るのはよくない!」

「ふんっ、委員長には分からない。女の子を愛したくて、でも愛そうとしたら周りから白い目を向けられる……だから愛せそうな男の子を見つけいたら、その子が突然女の子になったんだよ!? 止められる訳ないよ、この気持ち!!」

 

 うん、色々屈折してしまったね。

 つまり、レズだけど仕方ないからそれっぽい男見つけたら女に性転換したから、元々いい感じの条件が揃った上で最も大事な条件が揃ったって感じで、ヤベェ、私の好みにドンピシャだわ。辛抱堪らん―――って感じか。

 

 なんで俺一日で二回も告白されてんの? しかも女になった途端に。これじゃあ藤乗さんの言った通り、俺に女の才能があったことの裏付けをされてる気分で複雑だぞ。

 

 誰か……誰か、男の俺を求めてくれる奴は居ないのか……!

 

 男としての尊厳についての救いを求める俺に手を差し伸べてくれたのは―――。

 

「だったら……アタシも優が好きなのよ!」

「えぇー!?」

「優が男の頃からずっとず~っと! だから、好きって気持ちは貴方にも負けない! 優が女になって都合がよくなったからって急に近づいてこないで!」

 

 本日三回目を記録致しました。

 

 だけど、男の俺を好いていてくれたという告白は普通に嬉しい。男的にも、今の状況的にも。顔を真っ赤にしつつも口にしてくれた愛美には本当に感謝しかない。

 しかし、そんな愛美の告白に藤乗さんは不服そうな面持ちだ。

 

「都合がよくなったから……? そうよ、そうなっちゃうね。でも、逆に聞くけど今こうして委員長が私の邪魔をするのは、委員長にとって優君がとられるのが都合悪いってだけでしょ? 恋愛は早い者勝ち。聞いてる限り、付き合ってもないし告白もしてなかったんでしょ? だったら、私が優君をとっても問題ないよね」

「っ!」

「委員長は、自分が女で優君が男だから胡坐掻いてたんだよ。それでいざ優君が女になって、レズビアンの私にとられそうになったからって私の邪魔するのは……虫がよくない?」

 

 藤乗さんは泣きそうな顔で訴えている。

 

「私に優君がとられるのイヤって言うなら……女の子の優君を愛せる覚悟があるなら……勝負だよ」

「勝負……?」

「そ。恋愛は不平等だけど、公平に戦うことはできるでしょ? 同じ女同士……同じ土俵の上で戦って競争しない? どっちが優君の心を射止められるか」

「……分かった。受けて立つわ!」

 

 受けて立たないでくれよ。

 渦中の俺を蚊帳の外にしないでくれよ。一番大事なの俺の気持ちよ? なんかものすごく熱い感じになってたけど、肝心の俺そっちのけで話進めてなかった?

 そんなことを言いたい俺であったが、愛美と藤乗さんの恋愛レースは勝手に火蓋が切られた。

 

「優君……絶対振り向かせてあげるからね♪」

「っ!」

「いーやっ、アタシが振り向かせるんだから! アタシが男の優を振り向かせるの!」

「っ!?」

 

 各々が俺に声をかけて女子便所から去っていく。

 残された俺はと言えば、

 

「……どうすりゃいいんだよ」

 

 幼馴染(♂)と幼馴染(♀)とレズビアン(♀)に狙われている事実に肩を落とすのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なんだってこんなことに……」

 

 はぁ~、と一日分の疲れがにじみ出るため息を吐いた俺は、怒涛の学校生活の区切りを迎えるべく昇降口に立っていた。

 今日は誰とも一緒に帰る気分ではない。ゆっくりと自分のペースで帰りたい。

 教室で藤乗さんに一緒に下校するのを誘われたが、俺が意を決し断るとすんなりと諦めてくれた。俺とラブラブな関係になるのが最終目的だから、しつこく迫るのは逆効果だと考えているのだろう。素直に厚意と受け取るべきか、下心ありきの行為と受け取るべきか……悩ましいところだ。

 

 俺はこのまま家に帰る。事情が事情だ。部活動にも行けない。……というより、朝のこともあるから大和と顔を合わせたくない。そりゃあ大和は男から見てもいい男だとは思うが、俺の中の男が男×男になるのを拒否しているのだ。体は女だが、そういう問題ではない。

 

 それに差波も俺を落とすことに乗り気だ。あいつが俺を好いていてくれたことは単純に嬉しいが、告白された経緯が経緯であるため、素直に喜べないところが悔やまれるところである。

 

 ……っていうか、八方塞がりじゃねえか!

 

 和田は男でも女でもオッケーで、差波は男の俺が良くて、藤乗さんは女の俺がいいと。

 なんだ、この布陣。

 徹底的に俺の逃げ場をなくすような性癖の持ち主たちに囲まれ、俺の逃げ場どんどん消えていく。

 美男美女に囲まれてよりどりみどりだ! なんて日和見している場合ではない。これは俺がこれから男か女か……どちらの性を受け入れて生きていくべきかの分水嶺となる。

 

 女であること認めて大和を受け入れるか。

 心は男のまま差波を受け入れるか。

 これまた女を認めて藤乗さんを受け入れるか。

 

「……うがああああ!!」

「なに騒いでるんですか、先輩?」

「お、お前は!?」

 

 振り返った先には、俺より頭一つ分背の低い中性的な外見の男子が佇んでいた。

 サッカー部の後輩である除村(よけむら) つばさだ。

 男の癖して可憐な見た目をしているこいつは、部活内で時たま女子いじりされたりする奴だが、試合では頼りになるカワイイ奴なのである。

 

「っていうか、一発で俺のこと見抜けたのか? つばさ」

「まあ、割と雰囲気はそのままですし……」

「……よかった……自分を見失うところだった……」

「そんなに切羽詰まってたんですか!? 大丈夫なんですか、先輩!」

 

 女になった心労で崩れ落ちる俺を、つばさは献身的に慰めてくれる。

 ああ、こんな奴が弟だったらいいのに。そう思わずには居られない。

 

「聞いてくれるか、つばさ!」

「先輩の頼みなら喜んで聞きますよ!」

「ありがとう……ありがとう……!」

 

 爽やかな満面の笑みで俺の愚痴を聞いてくれることを快諾するつばさに、俺の涙は止まらない。

 それから語ったのは、名前は隠すようにはしたが、男と女と女に狙われてしまった事態だ。

 ポツリポツリと言葉を紡ぐ俺に、つばさは心底同情するような目を浮かべて「大変でしたね……」とか「苦労してるんですね……」などの月並みだが今だからこそかけてもらいたい言葉を送ってくれる。

 

 そんなつばさに語るだけ語りつくした俺は、あれだけ重かった肩がほんの僅かであるが軽くなったような気がした。

 

「ありがとうな、こんな話に付き合わせちゃって……」

「いいんですよ! これくらいの話ならいつでも付き合いますから! 先輩には色々と面倒を看てもらってますし、僕にできることだったらなんでもします!」

「つばさぁ……お前はほんとに可愛い奴だなぁ!」

「えへへ♪」

 

 思わずギュッと抱きしめて頭を撫でる。つばさは満更でもない顔を浮かべているが、特に照れている様子もない。

 

「俺が女になっても平気なのか?」

「そりゃあまあ、先輩の魅力で男だからこそですし!」

「そうかぁ……やっぱり俺って男がいいのか?」

「断然男です! 僕は男の先輩が好きですから!」

 

 そうかそうか。そう言ってもらえると、男としての自信が蘇っていく。

 

「……男の先輩じゃなきゃ意味がないんですから」

「ん? なんか言った?」

「いえ! 早く治るといいですね、そのクソみたいな病気!」

「お、おぉ……結構言うなぁ。まあ迷惑極まりないのは確かだけど。もう一回同じ病気になったらワンチャンあるらしいけど……」

「じゃあ、もう一回発症するしかないですね!」

「……発症って言い方がなぁ」

 

 病気の再発を望まれるのは、なんだか気分的に複雑だ。

 確かに元の男に戻れるのであればノーリスクで性転換できる病気にかかるのはやぶさかではないが……。

 

「僕なりに先輩が男に戻れるよう頑張りますね!」

「お、おぉ……あんまり頑張りすぎるなよー」

「はーい!」

 

 つばさは「まずは神社に神頼みだー」と走り去ってしまった。あいつ、今日の部活すっぽかして大丈夫なんだろうか?

 しかし、今から追いかけたところで追いつくはずもない。

 俺は素直に帰路につき、家に帰ることにした。

 家に帰れば無駄に順応性の高い母親が「今日はどうだったの?」とニヤニヤした笑みを顔に張り付け質問責めしてくるは、後から帰って来た父親が「一人息子が一人娘になっちまったな、わっはっは!」と高らかに笑いやがる。張り倒してやろうか?

 

 身も心もボロボロになった俺は、今日一日の疲れからか風呂に入った後、布団の上に寝転がった途端そのまま意識が闇に落ちた。

 どうか目が覚めたらこの悪夢が覚めますように―――。

 

 

 

 +

 

 

 

 目が覚めた。

 うるさいくらいに眩しい朝日がカーテンの隙間から差し込み、否応なしに俺の眠気を吹き飛ばす。

 次第に明瞭になる意識の中、俺は反射的に自分の股間をまさぐった。

 理由はもちろん、竿と玉を確認するためだ。

 

 この感触は―――ある!

 

「やった……あれは夢だったんだぁ~~~!!」

「―――みゃあ」

「はっ……?」

 

 唐突に割って入る鳴き声に、今度こそ俺の目は覚めた。

 やけに現実味を帯びた夢だった。寝汗を滝のように掻いており、爽やかな寝起きという訳にはいかなかったらしい。

 どこからが夢だったのだ?

 俺は確かに掌に伝わる竿と玉を軽く握ってみる。すると、俺にかかっている布団がモゾモゾと動き始め、俺の意思に反して竿と玉が動き始めたではないか。

 

「みゃ~お」

「……おはよう」

 

 その正体は竿でも玉でもなかった。いや、()()ではある。うちの飼い猫のタマだ。

 どうやら俺は寝ぼけたままタマの玉と尻尾を握り、それを自分のと勘違いしていたらしい。

 では、本物の俺の息子は?

 

 まさぐる。

 

 無い。

 

 もう一度まさぐる。

 

「………………夢じゃなかった」

 

 再度、股の間にぶら下がっているはずの息子が居なくなった事実を確認した俺は、朝から絶望に打ちひしがれていた。

 

「―――夢オチにしてよぉ~~~!!」

 

 朝から家で叫ぶ。叫んだ。叫ばざるを得なかった。

 

―――これはTSした俺(♀)が、幼馴染(♂)(パン)幼馴染(♀)(ノンケ)クラス一の美少女(レズビアン)男の娘な後輩(ゲイ)に迫られる話。

 

 始まってたまるもんか。

 


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