「あのさ、俺──本音のことが好きだ」
IS学園屋上。秋の夕日が差し込む中、唐突に、何かを決意したような顔で───は言った。
「俺と付き合ってほしい」
そのことばを耳にして、
これは夢? いや現実? どうして? なぜ? 少しでも心を落ち着けるために、今この状況に至るまでを回想する。
その日は朝から絶好調だった。今年一番というほどすっきりとした目覚めから始まり、朝食のトーストは焼きたてのさくさくふわふわで、おまけのデザートまで付いてきた。授業中も実に冴えていて、織斑先生にお褒めの言葉をいただいた。昼食も購買で毎度売り切れのパンが買えたし、先週無くしたペンも見つけた。
そんな些細な喜びを噛み締めながら放課後を迎え、夜まで何をしようかと帰り仕度をしていた時、彼に話しかけられた。
「ちょっと話したいことがあってさ。ここじゃなんだし、屋上で」
いつもの様に整備の話だろうか?屋上でというのが気になるが、今の季節、放課後ともなれば少し肌寒く、風通しのいい屋上に好んで集まる生徒は少ない。人目が気になるような話をするにはうってつけだろう。早速移動した私たちはベンチに隣り合うようにして座っていた。
今思えば完全に
「ってわけでー、今日はとってもいい調子だったのだよ~」
「あ、ああ。それは何よりだな」
それからは、少し雑談をしていた。朝から絶好調だったこと、休み時間のこと、昨日のテレビ、いつも通りのゆるい話題を。
そうして話を続けるうち彼の反応がいつもより鈍いこと、何か迷った表情をしていること、何より本題をまだ聞いていないことに気がついた。
「ところで~、今日はお話があるんでしょー?」
「っああ。今話すよ」
そして一度息を整えて、彼が口を開いて…今に至る。
(いや回想なんてしてる場合じゃないんだよ何やってるの私)
何か返事をしなければ。返事?何の?ああ告白だ。告白。こくはく!!?!!??
「あの、えと、まってまって、ね?あなたが私を好きで付き合ってほしいって。あれ?」
言葉がまとまらない。顔が熱い、彼の瞳が心配そうに私を見つめていて、あらためてみるとなかなかかっこいいなぁえへへいやいや早く返事しなきゃそうだ一旦待ってもらおう!
「返事は今でなくてもいい。ただ、これだけ伝えたかったんだ」
ほら「彼」もそう言ってる!!
結局ただの先延ばしに過ぎないけれど、今ここで返事なんてできやしない。そうと決まれば軽く謝罪して、ちょっと考える時間をもらえばいい。
「ご、」
「ご?」
「!?!??!??!??!?!?」
パニックを起こした私が取った行動、それは完全に誤解を生む返答とこの状況からの逃走だった。
…たった今告白したばかりの、呆気に取られた顔の彼を屋上に置いて行きながら。
完全にやってしまった。
一時間後。私は食堂で夕食を取っていた。正確には先ほどの逃走劇からここに来るまでの記憶が完全に飛んでいるので時計と辺りを見渡して状況を判断した。
なにをやってるんだ私は。なんだあの返事は。完全に振った感じになってるじゃないか。明日も教室で会うというのにどんな顔で登校すればいいのだろう。
自分で注文したであろう冷めたお茶漬けに目を落とすと、意識を飛ばしていた私の行動が窺える。ご飯にはほうじ茶がかかっているし、乗っているのは目玉焼き。手にはフォークを握っている。
(ほんっと、なにやってんだろーなー)
軽くため息をついて、周囲から向けられる奇異の目に居心地の悪さを感じながら、食欲のそそらない見た目となったお茶漬けをすすり込んだ。
(まあまあいけるかも)
夜、自室に戻ってシャワーを浴び、あの告白に思考を巡らせる。
(好きと、言われてしまった)
決してあの告白が嫌だったわけではない。状況を考えればあれが本心からの言葉だと言うことぐらい理解している。それだけで判断したいわけじゃないけれど、じっと見つめられたらドキドキするぐらい容姿は整っているし、これまで共に過ごしてきて彼がいい人であることはよく知っている。
でも、今までずっと、私は。
(友だちだと、思ってたんだよなー)
「好き」か「嫌い」かで分けるなら間違いなく「好き」と断言できる。でもそれは恋愛対象としてではなく友人としての話で、恋人にするなんて考えたこともなかった。
(いつからなのかなぁ)
私を好きになったのは。
一か月?三か月?半年?意外と最近かもしれない。もしかしたら今日?
時間で思いの強さが決まるわけじゃないと思うけれど。
(この気持ちはなんだろう)
あの時の言葉を、私を見つめる顔を思い出すだけで今でも胸が高鳴る。これが恋なのだろうか。私にはわからない。
なにせ生まれてこの方、私は「恋」をしたことがないから。
もちろん人が愛せないとか、心に問題があるとかそういう深刻な話ではない。これまでずっと女子校に通っていたし、少女漫画のような幼なじみの男の子なんて存在していなかった。単純に異性と交流した経験がほとんどなかったのだ。
だから、この胸の高鳴りが何なのか今の私にはわからない。「───」だからなのか、「
(もうこんな時間かぁ)
そんなことを考えている内に時計の針は深夜をまわり、夜更かしは健康に悪いからと言い訳するようにベッドに潜り込んだ。
夢を見た。初めて「───」と話したときの夢を。
第一印象は「普通」だった。第二の男性操縦者という特殊な肩書きを持つとはいえ少し前までは一般人。クラスメイトの期待を余所に無難な自己紹介を済ませて席に座っていた。
隣に座っていた私はというと、
一般の生まれと公表されてはいるが、裏に何がいるのかわからない。休み時間、私は
「ねーねー、せっかく隣になったんだしー、よかったらお話しなーい?」
まるで下手なナンパだ。したこともされたこともないが。
「喜んで、実はどう声をかけようか迷ってたんだ。」
頭の悪そうな申し出を快諾した彼と、その日はいろんなお話をした。中学校の話、検査の話、適正があるとわかってから、バタバタと準備を進めた話。
私が質問をして、彼が答えるの繰り返し。いつのまにか長い雑談になり、それが任務のためだということも忘れて、次の休み時間も、放課後も日が暮れるまで話し込んでいた。
そう時間もかからず監視の命が解かれても、毎日のように話す関係であることは変わらなかった。
(そういえば、初対面から仲よくしてたんだよね)
目覚めの気分はまあまあだった。未だ覚め切らない眠気と闘いながら、夢の続きを思い出す。
(お返事どうしよう)
余計なことばかり考えて、肝心の返事を忘れていた。
(ちゃんと答えなきゃ)
ハイかイイエか、結論は出ていない。しかし一晩経ったからか、私の頭は楽観的な思考を始めていた。
(放課後までには、決められるよね)
ひとまず朝食だ。答えを出すには頭を使う。頭を使うには栄養がいる。軽く身支度を整えた私は食堂へ向かった。
彼と鉢合わせる可能性も考えずに。
「あ」
「あっ」
あ! やせいの だんせいISそうじゅうしゃが あらわれた!
「おっおは、ようっ!」
「あ、うんおはよう」
思いっきりうわずった声で挨拶してしまった。その姿を目にした瞬間から上昇していた顔の温度が、羞恥で更に熱くなる。
(あたりまえだよあっちだって毎朝
この展開はまずい。昨日告白し、謎の台詞を吐かれて逃走された“彼”と、逃走した私。その話が出てくるかもしれない。いったいどうすればいい?
ほんねは どうする?
▶︎たたかう かばん
かんちゃん にげる
「えーーっと、昨日のことなんだけど」
「え゛っ!?ああっうん!昨日ね!」
「俺、待ってるから、急がなくても大丈b「あ、あのっ!」え?」
ああああああああああああああああああああ…………………………あっ。
ほんねは どうする?
たたかう かばん
かんちゃん ▶︎にげる ピッ
「ご、」
「あっ」
「」
うまく にげきれた!
(いやぜんぜんうまくないから)
それからしばらくして廊下で我に返るまで、私が何をしていたのかはほとんどわからない。
わかるのは昨晩より奇異の目が増えていること、いつのまにかたんこぶが二つもできていること、また私は逃げてしまったということだけだ。
(どうしよう)
また、やってしまった。
放課後、私は第二整備室でかんちゃんのお手伝いをしていた。今日は特に約束をしていたというわけではないけれど、とにかく昨日の告白を忘れたかったのだ。いや告白が嫌だったわけじゃなくてその返事で頭痛くなってきたし下手に動き回ってまた鉢合わせたら何しゃべったらいいかわからないしあまり動かずにここでお手伝いしていた方がいいんだよ!! うん!!!
余計な心配をかけないよう、心を落ち着けて整備室に入る。かんちゃんは突然入ってきた私を不思議そうな目で見ていたが、断る理由も無いと一緒に作業を始める。
でもいくら隠そうと、忘れようとしても頭の中は告白で埋まっていて、
「はいかんちゃん!ねじ持ってきたよー」
「ありがと本音。でもそれ脚部に嵌めるねじ……。頼んだのは、マニピュレーターに使うやつ……」
「あれー?」
「ほいかんちゃん!配線チェック終わったよ!」
「ありがt……さっきまで無かったコードが置いてあるんだけど……」
「あれ!?なんで!?」
「かんちゃん次は何を「もう今日は休んでて」はい…」
「ねえ本音、今日はどうしたの?」
どれだけ取り繕おうとしても、やはり
「……やっぱり、わかる?」
「いやクラスメイトが朝に絶叫して走ってたり織斑先生の出席簿二回も食らっても微動だにしなかったの見たら気になるに決まってるでしょ」
「うそぉ…」
違った全部見られてただけでした。二つのたんこぶの原因はそれか。そしてかんちゃんが見てたってことはクラスメイト全員も見ていたという事実に頭を抱える。
「明日からどんな顔で登校すればいいの……?」
「そんなことはどうでもいいから、何があったの?」
そうだ今はこんなことで悩んでいる場合じゃない、藁にもすがる思いで口を開く。
「かんちゃん、私の悩み、聴いてくれる?」
「もちろん、私と本音の仲じゃない」
「ありがと。実はね──」
私は全てを話した。告白されたこと。“彼”のことが好きなのかわからないこと。返事に困って二度も逃げた結果ここにいることを。そしてかんちゃんは最後まで何も言わずに聴いてくれた。心なしかだんだん不機嫌そうな顔になっているような気もするが気のせいだろう。
ああ、やはり持つべきものは親友だ。
「──というわけなの。私、どうしたらいいのかなぁ」
「一遍生まれ変わったらどう?」
……そうでもないかもしれない。
「あの、かんちゃん?さすがに生まれ変われはひどいと思うなー」
「告白されて二回も逃げた上に返した言葉が「ごめんなさい」と「さよなら」なんて生きてて恥ずかしくないの?」
「あ゛う゛っ……」
私の親友が容赦無さすぎる。だめだ心が折れそうだ。
「そもそも私告白されたことなんてないし、恋だってしたことないもの。私たちは幼なじみでもあるんだからそれぐらいわかるでしょ」
「たしかにそうだけど……」
「それに相談しなくたって、
「えっ?」
何を言っているのだろうかこの親友は?
「意味がわからないって顔、してる…展開。どうして私にはわかったか、知りたい?」
「う、うん」
「じゃあまずこれを……」
そうしてかんちゃんは、おもむろにスマホを取り出し、カメラを向ける。
「え?急に何を…」
「いいから。これ見ながらさっきの話を、もう一回……」
「えっ撮るの?それはちょっと恥ずかしいなーって……」
「いいから」
「はい……」
こんなことをして何がわかるのだろうか。言われるがままにもう一度、全てを話した。二度目ともなるとかなり恥ずかしかったけれど、きっと意味があると信じて話しきる。
「これで、いいの?」
「ばっちり。じゃあ早速見よっか」
動画が再生されて数分後、かんちゃんが先ほど不機嫌そうに見えたこと、わざわざ二度も説明させてまで伝えたかったことを理解した。
記録の中の私は、神妙な面持ちから話が進むにつれてゆっくりと、幸せ一杯ですと言わんばかりの締まりのない表情へと変化していたのだ。
「何かいうことは?」
「はい……わかった……。たのむからもうとめて……!」
「……」
『それでね、───が……』
「おねがいしますとめてください」
いっそころしてくれ。
「こんな顔で話してるものだから、自慢しに来たのかと思った…」
「ごめん……」
「でも、これでわかったでしょ?自分の気持ち」
「うん、私は──のことが好き、なんだと思う」
なんて馬鹿なんだろう、とっくに気持ちは決まっていただなんて。
「毎日一緒に食事をして、片方呼べば大体二人で来るし、毎週一緒に出かけてはその話を聞かされてわからないと思った?」
「まってそんなにわかりやすかった?」
さすがにそんなことはないはずだ、毎日食事は…してたか。大体二人でいるなんて…いたなぁ。毎週一緒には……出かけてましたね、はい。
思えば一人でここに来たのもずいぶんと久しぶりだ。かんちゃんが不思議そうな目で私を出迎えたのもそういうことだろう。
「てっきり隠してるだけでとっくに付き合っているものだと、未だにこんな状態とは……いくじなし」
「ぐはっ」
容赦のない言葉が心に刺さる。かんちゃんってこんなに辛辣だっただろうか。
「だいたい───だってあんなにわかりやすい態度とってたのに…。まあそれであっちは隠してたつもりみたいだし、本音も気づいてなかったみたいだから」
「そ、そう?」
「一夏ほどじゃないにしろまあまあかっこいいのに、なんで───がそこまで女子に狙われてないと思ってたの? みんな気づいてたからだよ」
「えっ」
まさかそんなことは……。いや、思い返せば二人でいるとき変な視線を感じていた気もする……。だとしたら、私はとんだ唐変木ではないか。これではおりむーを笑えない。
「で、どうするの? 返事は?」
「それは…まだ決めてないけど、そのうち……」
「いつまでそうしている気?だらだら引き延ばして、───の気が変わったら? 隠れたライバルもいるかもだし、もし誰かに告白されたらそっちと付き合っちゃうかもよ?」
「それはだめぇっ!!あっ……」
考えるより先に、声が出ていた。つまりはそういうことだ。
「はい決まりね、まだ問題ある?」
「ううん……。もう大丈夫。やっと、わかったから。」
相談をして気持ちを知って、なんだかすっきりした気分だ。これならきっと、大丈夫。
「そう。じゃあ、今日はもう帰って休もっか。片付けよ」
「あのっ……かんちゃん、ありがとね」
「ん。本音も、がんばって」
「……うん!!」
夜。自室のベッドに潜りながら、決断する。
(明日、返事をしよう)
これ以上待たせちゃいけない。相談にのってくれたかんちゃんのためにも、何より告白してくれた彼のためにも。
(横取りされたくないよぉ)
ちょっぴり自分のためにも。
そんなことを考えているうちに、すとんと眠りについた。
夢を見た。私が、「───」に助けられたときの夢を。
専用機持ちタッグマッチの日、何体もの襲撃者が攻めてきた時、私は生徒会の一員として避難誘導をしていた。
突然の襲撃に慌てて、叫びながら少しずつ開放された扉に一般生徒が殺到する。遮断シールドがあっても、前回の襲撃ではそれも破られている。それに前は一体だけだったが隔壁が閉じる前に見えた様子では今回は複数いる。専用機が交戦しているとはいえ、あの数ではいつ突破されてもおかしくない。流れ弾だって飛んでくるかもしれない。今にも逃げ出したくなる恐怖に怯えていながらも周りに伝わらないよう冷静に誘導をしていた。
(怖い、逃げたい。でもみんなはもっと危ないのに戦ってるんだ)
こんなとき、私は戦えない。戦える力も道具もないから。普段から役に立ててないのに
(はやく、はやく、こっちを気にせず戦えるように)
攻撃が来ないことを祈りながら必死に誘導を続け、もうすぐ避難が終わるというとき、
「どいてっ!!」
「あっ!?」
慌てた生徒に突き飛ばされ、固い地面に倒れ込む。しかしこうなることは想定内。すぐに起き上がろうとした瞬間、足首に鋭い痛みが走る。骨まではいっていないだろうが、このまま痛みが強くなれば動くのも難しくなるだろう。
(でも避難はほとんど終わってる、今のうちに私も避難しよう)
痛みをこらえて立ち上がり、歩き出す。あと少しで出口に着く───ことは叶わず、隔壁が破られた衝撃と轟音に、意識が飛びかける。
空いた穴から襲撃者が見える。一瞬動きを止めて、こちらに標的を変える。
(狙われた!? まずい、はやく逃げなきゃ──)
襲撃者の左腕に
(だめ、逃げられない。殺される、こんなところで。いやだ、誰か、だれか──
助けてっ……!)
無慈悲に熱線が放たれて、光に目を瞑った瞬間。
「させるかぁっっっっ!!!!」
「───」が助けにきてくれた。
数秒前まであれほど恐ろしかった敵の姿は、もう何も怖くない。まだ勝ったわけでもないのに、敵の前に立ちはだかる彼の背中には絶対に大丈夫だと思える不思議な頼もしさがあった。
それから、かんちゃんやたてなっちゃんも助けに来て、何度か危ない場面もあったけれどなんとか襲撃者を倒しきった。
全ての敵を排除したことを確認して、慌てて私の怪我を心配する彼を見たら、本当に助かったんだという安堵で涙が溢れた。
私の涙を見て余計に心配する彼の顔がなんだかおかしくなって、思わず抱きついたりなんかして、驚いて固まった彼に何度も何度もお礼を言った。
雰囲気に耐えきれなくなったかんちゃんが止めるまで、それは続いていた。
(あの時はかっこよかったなぁ、今もか)
今日の夢を見て再確認できた。
どこで、いつ、どんな言葉で返そうか。何も決まってないけれど、伝えたい想いはただひとつだ。
そして、昨日のように食堂へ向かう。
(もう逃げないぞ!)
ちょっとした決意を固めながら。
翌朝。中々悪くない目覚め。早速食堂に向かう。
「あっ」
「あっ」
鉢合わせ再び。また鼓動が早くなるのを感じる。でも、もう逃げない。私の様子で彼も何か感じ取ったのか、一転して真剣な表情に変わる。
「今日はね、話したいことがあるの」
「ああ」
「だからね、放課後、屋上で待っててくれる?」
「わかった。絶対、いくらでも待つよ」
それだけ言葉を交わして、私たちは分かれた。
後は放課後。そこで、全てが決まる。
──放課後、IS学園屋上。私たちはあの日のようにふたりでベンチに座っていた。
「えっとね、お話なんだけど。まずはお礼と、謝りたいことがあって」
「っいや、そんな感謝も謝罪もされるようなことなんてしてないさ。気にしなくていい」
そんなことない。私はいつも、何度もあなたに助けられて、迷惑もかけてしまった。
「───はそう思ってても、私は感謝してるから。だからね、ありがとう。あと、この前はごめんなさい」
「…そうか。ならこっちだっていつも本音に助けられてるよ。それに、いきなり
「いや私が!」「違う俺が!」「私!!」「俺!!」
「……ふふ、えへへへへ」「……はは。あっははは」
いきなり口論になりかけたと思ったら、なんだかおかしくなって一緒に笑い出す。あの日まで、いつも私たちはこうしていた。
「はーっ、こんなに笑ったの久しぶり」
「そうだなぁ、あの日以来か?」
「もう、いじわるー。ふふっ」
「ごめんって、ははっ」
でも、ずっと笑ってちゃ進めない。あの日の返事を伝えなくちゃ。
「……うん。それでね、もう一つ。あの日のお返事がしたくなって、聴いてくれる?」
「……ああ、勿論だ。聴かせてくれ」
彼が私を見ている。また顔が熱くなる。痛いくらい心臓が跳ねている。また逃げてしまいそうだ。でも、言わなくちゃ。
「えっと、その、わたしっ」
言葉がうまく出てこない。不安と緊張に耐えきれなくなり、顔を伏せてしまう。これじゃあ何も伝えられない。
彼も、こうだったのだろうか。
「……はあっ。はあっ……」
「大丈夫か?」
「だいっ、じょーぶっ」
息が上がってきた。落ち着け。言うんだ、必ず。
意を決して顔を上げる、また彼と向き合う。
「……あ」
私を見つめる、心配そうな彼の顔。それを見たら、不安も緊張も吹き飛んだ。
「……うん、うん」
息を整えて、しっかりと、もう一度彼を見つめ直す。
答えが自然と、口に出る。
「あのね、私───」
真っ赤な夕日が私たちを照らしていた。
のほほんさんが告白されたらこんな感じになるんじゃねと思いました。
こんな恋愛してぇなぁ俺もなぁ