少し変わったクロス物ですが、それでも宜しければどうぞご覧下さい。
なお、恭也は誰とも付き合っていない設定になります。
「……」
俺は一人で部屋で横になっていた。
ふと、視線を下ろすと見えるのは膝に巻かれた無残な包帯。
俺はなにかを振り払うようにもう一度、目を閉じて横になる事にした。
俺は大学を卒業した後、とうさんと同じ道……ボディガードをしていた。
今回の仕事では、ある令嬢を守る仕事だった……とは言え、高校時代に同じ学年だったそうなのだが……生憎と俺は覚えていなかった……それのせいで散々言われたのだが、その事はもういいだろう。
護衛対象のパーティーが開かれる中、特になにも起こらず俺も油断していたのだろう。いつもより警戒心が薄れていた。
「恭也君♪ せっかくだからパーティーが終わった後一緒に遊ばない?」
今回の護衛対象、佐伯沙恵さんが俺のそばに来て、そっと耳打ちしてきた。
彼女の明るさが俺の感覚を戦闘用から日常用につい引き戻してしまう。
「忍も呼ぶつもりなんだ~♪ 行こうよ」
俺は苦笑しながら。
「佐伯さん、今俺は……」
その時に視界に入る僅かな違和感。完全に油断していた。遠くに見えるのは爆弾を抱えた男。男は俺を見ると、ニヤリ、と、そんな擬音が聞こえるような笑みを残して会場内の人ごみの中に消えて行く。
「!!」
(このままでは間に合わない!!)
瞬間、視界が灰色に染まる。乱雑とした人の柱の群れをすり抜けソレを目指す。
膝が悲鳴をあげはじめる、それでも……間に合わない!
(十秒以上の神速……もってくれよ!)
俺は悲鳴をあげ続ける膝を無視してソレを目指す。ソレに気づいた人たちがパニックを起こし始め移動はさらに困難になり始めた。
(ま……間に合えぇぇぇぇぇぇ!!)
さらに視界を染めてゆく。色の無いモノクロの世界。辛うじて動いていたモノ達もその動きを微々たるものになっていく。
「はぁぁぁぁ!!」
俺はソレをつかみ、窓の外にほうり投げた。
外での爆発音と、俺の中で聞こえた何かが壊れた音が鳴り響いたのはほぼ同時だった……。
「……どうですか、フィリス先生?」
俺はあの後、病院に運ばれていた。
いつも以上に膝が痛い。しばらくは鍛錬はできないかもしれない。
(これは……お仕置き整体フルコースか?)
そんな事を考えていると、やがてフィリス先生が口を開いた。
「……恭也君のために正直に言いますが……恭也君には覚悟がありますか?」
「覚悟ですか?」
「はい、人を守るために自分を犠牲にしてでも、何かを守る覚悟が」
俺にはフィリス先生の言っている意味がよく解らなかった。
「……はい、御神の剣はそのための物ですから」
「……そうですか、では、結論を言います」
フィリス先生は少し俯いて。
「左膝疲労性骨折、手術をすれば日常生活には支障がないですが、戦闘行動は……これが、恭也君があの人達を守るために払った代償です……」
俺が、フィリス先生の言った意味を理解するのに数分要した。
「……引退か……」
俺は、部屋でもう一度寝返りをうった。
美由希は皆伝を譲った後だ。これから教える事ができないのが残念だが、美沙斗さんもいる。育てる役はもう降りても大丈夫だろう。
気づけば自嘲的な笑みが浮かんでくる。今の俺は、なにかがスッポリ抜けた感じだった。
仕事に忙しく、あまり手入れのできなかった盆栽をいじったりもしたが心は晴れない。
そんな俺を心配してか家族や友人も様子を見にきてくれたが、まともな対応はできなかった。
「恭ちゃん……この刀なんだけど、いい刃紋してると思わない?」
「師匠! この前館長があみ出した技の菩薩拳ってのがですね……」
「おししょー、たまには洋菓子に挑戦してみたんですがどうですー?」
「hai! 今度出したCDなんだけどね、今回は作詞も私がしたんだよー」
「……あ……あの恭也さん……ケガによくきくおまじないがあるんですけど……」
「もう、内縁の妻をほったらかしにしていいと思ってるの! ……恭也……」
「……恭也さま、たまには一緒にお食事でもどうでしょうか?」
「くぅ~ん……」
「おにいちゃん……これ、なのはが作ったクッキーなの!」
「ねえ、恭也。甘くないケーキ作ったんだけど……食べない?」
「あ……あのですね! 戦闘行動はとれないかもしれませんが、日常生活をする分には影響がないので、 えっと……」
「……恭也……八景の手入れでも手伝おうか……?」
皆が心配してくれるのは解る。だが、今の俺になにができる!?
俺には、曖昧な笑みを浮かべて対応するのがやっとだった。
御神の剣を使っているからこその俺のはずだ。
では、今の俺はなんなんだ?
今の俺に存在価値なんてあるのか?
俺はここにいていい人間なのか?
ガラッ!!
強い音をたて部屋の障子が開かれる。そこに立っていたのは……赤星だった。
「赤星……」
バキッィィ!
左の頬を襲う鈍い痛みと共に壁まで吹き飛ばされる。
それが赤星に殴られた結果だと言う事にはすぐに気がつく事ができなかった。
「なっ……!」
なにか言おうとするが、その前に手刀の振り下ろしがくる。
俺はそれを左手でなんとか受けると、貫を込めて右拳を繰り出す。
そして、当たる瞬間に徹を込める。
ドスッッ!
鈍い音を出して右の拳が、赤星の腹部にめり込んでいく。
(!?しまった、つい全力で打ってしまった!)
とっさに赤星の殺気に反応した体は的確に対応していた。赤星は少し腹を押さえるが、次の瞬間には恭也を見つつ。
「……なに心配してんだよ……今のお前みたいなフヌケの攻撃がきくと思ってるのか?」
「……」
「いつまでもウジウジしやがって……なんだ、そんなに戦えないのが悔しいのか! そんなに剣が振るえないのが悔しいのか!!」
赤星は……泣いていた。
「たとえ御神の剣が使えなくても、お前はお前だろ? それをいつまでも悩みやがって……なんのための俺達だよ! なんのための親友だよ!!」
「赤星……すまん。ただ、今までやってきた事がなくなってなにをやっていいか解らないんだ。元々趣味も多くないしな」
「……だったら、新しく始めればいいじゃないか。」
「新しく?」
「……ここ一年くらい前から始めた事なんだが……お前もやってみないか?」
「?」
「高町。確か免許もってるだろ?」
「ああ、仕事上必要だからな。しかし、車でなにをするんだ?」
「話すより、体験したほうが早いって。とりあえずついてこいよ!」
俺は、そう言って出て行く赤星にそっと呟いた。
「……ありがとな」
「どうだ、高町!」
キキィィィとゆうスキール音を出しながら赤星の車は、猛スピードでカーブを曲がっていく。
ここは国守山の上部、人もほとんど来ない車道だ。赤星の車の助手席に俺は座っていた。
「速いな……」
「当たり前だ! 俺のAE111外見こそノーマルだけど、足回りとエンジンは結構いじってるからな!」
「? あ、ああ……」
AE111? よく解らないがこの車の名前なんだろう。
しかし、こうして助手席に座っているといろいろ気づく事がある。もの凄いスピードで迫ってくるカーブ、とっさの判断、そして、まるで達人クラスの斬撃のような速さと、緊張感。
……俺は、赤星がこの遊びにはまった理由が解ったような気がした。
「お疲れ、高町君!」
降りた先で待っていたのは赤星の走り屋仲間になった、元同級生の藤代さんだった。
「どう? 勇吾って運転荒いから大変だったでしょ?」
「そうか? そんなに荒くしているつもりはないんだけどなぁ?」
この二人は、今付き合っている。高校卒業と同時に交際を始めたそうだ。いの一番に赤星から聞かされた事を覚えている。
「高町君、最近元気なかったから心配してたんだけど……」
「すまない。だが、赤星のおかげで立ち直れたよ」
俺は素直に礼をのべた。
「いや……そんなに正直に言われると照れるんだが……」
赤星も頭をポリポリ掻きながら答える。
「赤星、明日ヒマか?」
「ん?ああ、一応空いてるけど、どうかしたか?」
「なら、車を買いに行きたい。案内してくれないか?」
「ここは俺がよく来る店で、スポーツカーの中古販売、後、整備やチューニングなどもやってる店なんだ」
確かに、周りには所狭しと車が並んでいる。俺は、とりあえず、回って見てみる事にした。
「俺は店長に挨拶してくるからちょっとまっててくれ、じゃ。」
そう言って、赤星は店内に入っていった。
なにげなく見ていた時、俺は一台の車に目を止めた。
その車は、真っ黒な車だった。気持ち丸みを帯びたライン、フロントに輝く赤いHのエンブレム、少し吊り上がった目のように見えるライト……なぜだか解らないが、俺はこの車に見せられていた。
「インテRか……しかもDC2に目をつけるとは……いい趣味をしているな」
突然後ろから声がかかる。俺の後ろには、赤星と四十代の男性が立っていた。
(俺が、後ろの気配にきがつかなかった!? ……そこまで集中して見ていたのか……)
「いんてあーるですか?」
ごまかすために答えた言葉だが、動揺しているのか変な言葉になってしまっていた。
中年の男性は、それを聞き。
「インテグラタイプR、通称インテRと呼ばれるマシンだ。これはDC2と言って、最新型の一世代前の型の物だ」
赤星も続けて。
「しかし、インテはパールホワイトが一番人気の色でしたよね? 黒を見るのは初めてですよ」
「ああ、しかし君の友人はかなり気に入ったみたいだな……どうだ、乗ってみるか?」
「いいんですか?」
「ああ、高い買い物だからな。充分考えてから、後悔しないように決めてくれ」
男性……店長は、そう言って鍵を渡してくれる。
俺は、躊躇わず車に乗り込んだ。
それは、今まで体験した事のない別世界だった。めんどくさいマニュアル操作も気にならない、吹き抜けるエンジン、体に伝わる車の鼓動……俺はこの先の世界を体験したい! ……そう強く感じていた。
「どうだったかね?」
人懐っこい笑顔で店長さんが聞いてくる。俺に迷いはなかった。
「この車いただけますか?」
御神流師範代、高町恭也はもういない。
だが、俺は新しい剣を手に入れた……。
この先にどんな出来事が待っているかは解らない。
だが、どんな相手が来ようとも戦っていくつもりだ、この新しい愛刀と共に……。
十年前に書いたSSをちょっと弄っただけになりますが、未完のままだったのでこれを機に完結できればと思っています。
最後までご拝読ありがとうございました。