最近はカーレースゲームも、湾岸、ジャイロ、頭文字くらいしか見なくなったので……。
「……こんなものか」
俺は手の中にあるメモを片手に一人呟いた。
車を買ってからは、家で必要な物の買出しは俺が行くようにしている。
やはり車なら物も多く積めるし、なにより、俺がこの車に少しでも乗っていたいから……だからだ。
「さて帰るか……ん?」
鍵を開けてドアに手をかけた時、それが視界に入った。
「ちょっと、やめてよ!」
「へへ……そう、ヤガるなって、いいから遊ぼうぜ?」
駐車場の隅で一人の女性と三人の男性が組み合っていた。
お世辞にも良い雰囲気には見えない。
男性の方はどこにでもいるチーマーのようだ。腕が立つ様にも見えない。
おそらくは素人だろう。
女性の方は小柄で可愛らしい人だ。
年は……まだ20にいくかいかない位だろう。
肩口まで切った髪が活動的なイメージに見える。
……冷静に観察してる場合じゃないな……。
俺は、その四人に近づいた。
「あん? なんだテメエは?」
俺に気がついた一人が、声色を変えて脅しをかけてくる。
「……その人嫌がってるみたいですし、放してあげたらどうですか?」
とたんに三人組が笑い出す。
感じの悪い、人を馬鹿にした笑いだ。
「ハハハ……できるモンなら……やってみやがれよ!」
突然、男の右拳が近づいて来る。
俺は難なくそれをかわすと、軽く徹を込めて相手の腹を打つ。
「ガハッ!」
その一撃で男は地面と口付けする事になった。
「てめぇ……」
今度は二人がかりで攻撃してくるつもりのようだ。
結果は最初と同じだったのだが……。
「大丈夫ですか?」
男三人を警備員に引き渡した後、俺は彼女に声をかけた。
「あ……はい、ありがとうございました」
ぴょこん……といった擬音が似合いそうな勢いで頭を下げる彼女。
「いいえ、当たり前の事をしただけですから」
「そんな、凄い助かりましたよ!」
そう言って再び頭を下げる彼女。
「よかったら近くまで送りましょうか? 俺も今帰る所ですし」
「え……いいんですか?」
「はい、そちらがよければ……えっと……」
俺がなんと呼ぼうか逡巡していると、彼女は「クスッ」と笑い。
「茂木です、茂木なつき。あなたは?」
「あ……高町恭也です」
「じゃあ、高町さんお願いしますね」
「ええ、じゃあ、車で来てるのでこっちへ」
と、俺は彼女……茂木さんを案内する。
「この車です」
「この車……」
ん、どうしたのだろう? なにか思いつめた顔をしてるみたいだが……。
「私、そんなに車って詳しく無いんですけど……もしかして、山とか行って走ったりするんですか?」
「ええ?」
なんだろう? 質問と表情の意味が解らないが……。
「いえ、なんでもないです。ただ、昔の……友達が走り屋だったんで気になっただけです」
そう言った茂木さんの顔は沈んでいた。
「ただいま……ん?」
茂木さんを近くまで送って(強引にアドレス交換までなぜかされたが)家に帰るとなにやら騒がしい。
どうやら誰か来てるみたいだな。
「あ、おししょーお帰りです♪」
家の中に入る途中で、庭で洗濯物を干していたレンに声をかけられる。
「ああ、レン今誰か来てるのか?」
「あ、はい、忍さんとノエルさんが来てます」
「月村達か……どこに?」
「リビングでみんなでゲームしてはりますよ」
「そうか……解った」
レンにそう言うと、俺は荷物を持ってリビングへ向かった。
リビングでは月村、ノエルさん、晶、美由希、なのはが仲良くゲームをしてるようだった。
「だぁぁぁぁ、また負けたぁぁ!」
晶がコントローラーをほっぽり投げて叫んでいる。
「えへへへ、勝ち♪」
対する美由希が横でVサインをしている。
「あ、高町君、お帰り」
「……おじゃましています」
「お帰り、お兄ちゃん」
ゲームを観戦していた三人がこっちに気付いて声をかけてきた。
「ああ……なにをやってるんだ?」
目の前の画面では、勝者側が画面に写ったままである。
……そう、一台の車が写っていた。
「ちょっと古いゲームなんだけどバトルギア4って言うゲームで、なんでも実車データを全部計測して、そのデータを使って作られたゲームなんだって……面白そうじゃない?」
月村が俺の疑問に答えてくれる。
「これなら高町君でもみんなとできるでしょ?」
満面の笑みの月村。
……確かに、これならある程度はできるかもしれないな……。
「これって、駅前ゲーセンにもまだありましたよね? どうせならゲーセンでやりません? ゲーム筐体でやれば負けませんよ」
晶が月村にそう反論している。
……よっぽど負けが込んでいたみたいだな……。
「いいよ、ゲーセンなら四人対戦もできるしね♪ 高町君も行くでしょ?」
「……まあ、断る理由はないな」
正直、ゲームのコントローラーでやるよりは筐体でやったほうがやりやすいのは事実だ。
「じゃ、みんなでしゅっぱ~つ!」
……どうでもいいが、なんでそんなにテンションが高いんだ月村?
と……言うわけで今俺達は駅前のゲーセンにいる。
騒がしい店内を皆で進み、目的のゲームを発見する。
「どう? これならいけそうでしょ?」
月村が筐体を指差し俺に問い掛けてくる。
「サイドブレーキまであるのか……クラッチが無いだけで後はそのままだな」
「でしょ?」
「でも忍さん、今六人いますけどどう分けます?」
「う~ん……ノエルと高町君を抜いた四人でやって、上位二名が対戦でどう?」
晶の問いに答える月村。
「いいですよ! ゲーセンなら忍さんにだって負けないですから!」
「あははは……おてやわらかに……」
「えへへへ、がんばろ!」
「ふふふ……忍ちゃんは手強いわよ~♪」
それぞれが一言言って台に座っていった。
……美由希が選んだ車は……。
「インテグラDC5。高町様と同じ車種ですが、最新型です。2リッタークラスのエンジンに、全体的に強化されているので、かなりの戦闘力を秘めてます」
「……良く知ってますね……?」
「学習しましたので」
む……忍の車が決まったみたいだな。
「180SX。シルヴィアS13の兄弟車です。ニリッター、ターボ車なので、パワーもまずまずあります。FR車なので、コーナーでどこまで使いこなせるかが決めてになると思います」
「ふむ」
次は……晶か。
「スカイラインGT-R、R34。サーキット最強のマシンで有名です。パワー、トラクションの安定性、など……全てにおいて非のうちどころが無いくらい、凄い車です」
「ちょ……ちょっと晶! 対戦でAランク車は卑怯じゃない!?」
「だって、ランクの話なんてしてないじゃないですか? へへへ、今回は勝たせてもらいますよ!」
晶の発言に、明らかに不満そうな月村。
「決まったよー」
そんな中、雰囲気を変える一言がなのはから発せられる。
……いいタイミングだ、なのは。
……って、この車は……?
「……フィットですね……」
さすがにノエルさんも動揺しているようだ。
「えへへへ……かわいいでしょ?」
大丈夫なのか、その車で……。
まあ、本人がいいならそれでいいのだろうが……。
そんな顔をして、画面を見ていると……。
「おにいちゃん、これはゲームなんだから楽しんでやらないとね♪」
……そうか……そうだな。
俺はなのはの頭をクシャッ、と撫でた。
「はにゃ!?」
「……がんばれよ、なのは」
「うん!」
明るく微笑み返すなのは。
戦いとは言え、これは命をかけた……銃弾が飛び交い、刃が迫る戦場ではない。
楽しむと言う戦い。
それは剣術での実力に迫る同士の試合に似ているのかも知れない。
俺はもう一度なのはの笑顔を見て思う。
この笑顔を守る為に、俺は戦って来たんだな、と。
そんな想いにふけっていた中、レースはスタートを迎えていた。
「やったー! 勝ったよー!」
跳ねるような勢いで喜ぶなのは。
「がーん! ……最後のコーナーで抜かれた……」
「ううう……残念」
「じ……GTRでビリって……」
結果としては、なのは、月村、美由希、晶だった訳だが……。
最初は晶がトップだったが、スピードをコントロールしきれず、何度も壁にぶつかってあっさり月村と美由希に抜かれていた。
途中の複合コーナーで美由希がミスをして月村が前に出たのだが……。
「まさか、あそこでなのはが来るとはな……」
「えへへへ……」
しかし、いつの間にあんなに距離を詰めていたんだ?
俺が考えていると、なのはが。
「簡単だよ、お兄ちゃん」
「ん?」
「パワーがあるから速い! ……て、事はないんだよ?」
「?」
どうゆうことだ?
「えっと……つまりね……」
俺の顔を見て、なのはは少し思案しつつ。
「今やった、低速コーナーが大量にあるコースだと、車によってはパワーバンドに入らないいんだよ?」
「ふむ」
「でも、パワーの無い車だとそれがピッタリはまる事があるの」
「つまり……」
「うん、狙ってこの子を選んだんだよ!」
なるほど……奥が深いな……。
……待てよ……。
「月村、頼みがある」
「ん……なに」
俺は、まだ隅でのの字を書いている月村に声をかけた。
「セッティングを直して欲しいんだ、頼めるか?」
「う~ん……いいよ。じゃあ、車で家まで帰ろ?」
「解った」
Dのメンバーが来るまで後三日……今まで以上に己を高めなくては……。
この試合……勝つ!
なのはの身長で筐体でゲームができるのかは謎です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。