主に車高的に。
「いよいよだな……」
俺達はふもとの小さなレストランで相手を待ちつつ、作戦会議をしていた。
昨日の晩、ついに彼等がやって来た。
「どうも、群馬エリアから来たプロジェクトDです」
人当たりの良さそうな男が、軽く会釈をしつつ話し掛けてきた。
「こんばんは、海鳴……レッドスターです」
赤星が少し言いにくそうに返事を返す。
男は、特に気にした様子も無く。
「よろしくおねがいします。事前に連絡いってると思いますが、今夜一晩練習させてもらって本番は明日ってことで了承してもらえますか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「それでは、早速練習させていただきます」
もう一度、会釈をして挨拶を終える。
「……おい、高町」
「ん?」
挨拶を終えた赤星がこっちに戻って来ながら声を掛けてくる。
「みたか、相手の車? ハチロクとFDが一台づつ、後はバンが三台……ちょっとしたレーシングチームみたいだぜ」
「そうね、間違いなくFDが上りで、ハチロクが下りだと思うけど……サポート車が三台もいるなんてね……」
俺の変わりに答えたのは、月村だった。
「なんにしろ……やってみなければ解らないさ」
俺の言葉に一同が頷く。
そうして、プロジェクトDのプラクティスが始まった。
「……しかし、あそこまで上手いとはなぁ……」
赤星は軽くため息を吐きつつ呟いた。
「……おそらくは六~七割程度で走っていたと思われますが、かなりの技術だと思われます」
あまり人のいない店内に、俺達の声が響き渡る。
「上りはノエルさんでいいとして……下りは……高町、お前がやらないか?」
「俺か? 俺よりお前のほうが良くないか?」
「確かにタイムアタックでは俺のほうが上だけど……それでも、Dのハチロクには勝てないだろう。だったら高町の潜在力に賭けてみたいと思う」
「私は、賛成だな♪ 高町君ファイト♪」
「私もそれで良いかと思います」
「ん~……勇吾がそう言ってるんならいいんじゃない?」
皆一同に視線を送ってくる。
俺は……。
「どうした、高町? まさかこの状況で断らないよな?」
少し意地の悪い笑みでこっちを見る親友。
「……解った、下りは俺が走る事にする」
「よし! そうと決まったら作戦会議だな。まずは……」
ピリリリリリッ。
「……あ、すまない、俺の電話だ」
誰からだ……茂木さん?
「もしもし……あ、はい。……本当ですか? はあ、解りました」
ピッ。
電話を終わらせた俺に、一同の視線が集まる。
「どうした?」
「知り合いからだ、今日の試合を見てみたいとの話らしい。ちょっと迎えに行ってくるが大丈夫か?」
「ああ、まだ大丈夫だけど……」
「ちょっと行って来る」
そう断って、俺は外に出て行った。
「プロジェクトDの高橋啓介だ」
「ノエル・綺堂・エーアリヒカイトです……」
スタート地点に二台の車が並ぶ。
一台は私が運転するNSX。
もう一台は相手……高橋と言う人物のFDRX-7。
「NSXか……相手に不足はねえぜ」
「……よろしくお願いします」
軽く一礼して自分の車に戻る。
ステアリング、ブレーキ、クラッチ……。
全ての機関が良好。
流石忍お嬢様がメンテナンスしているだけはありますね。
なら私の使命は……これに答える事です。
ピピッ。
体内の出力を変換する。
通常モードから、忍お嬢様に新しく付け加えていただいたドライビングモードに。
「……いきます」
「カウント入りまーす!」
「3、2、1……」
「0!!」
ブォォォンッ!!
二台の車が一緒にスタートを切る。
立ち上がりはNSXが頭を取る。
「……チッ、流石にスタートでMRには勝てねぇか……」
啓介は一人毒づくが、すぐに冷静な思考に切り替える。
グアァァァァ!
最初の中速コーナーを軽く抜けて、再び直線に戻る。
ストレートの加速、スピード共にNSXのほうが上なため、じりじりと離されるFD。
「……なるほど、前もこんなタイプのヤツがいたな……」
啓介は昔戦ったスカイラインGTの男を思い出していた。
コーナーをスキなく堅実にクリアし、ストレートのノビで相手を押さえる……。
無駄はないが、面白味も無い走りだった。
「期待倒れだったかもな」
啓介は後ろからスキを窺いつつ、チャンスを待つことにした。
「第四コーナーに突入……アウト一杯に寄り、五秒後にフルブレーキ、シフトダウンして、三秒後にアクセルを踏みなおす」
ギャァァァァッ!
あらかじめ計算していた公式通りにNSXを滑らせる。
このコースをこの車でもっとも速く走らせる動きをトレースする。
大丈夫、お嬢様が作ったプログラムだ。
この通りで確実に勝利できる。
しかし、その考えは間違いだったと思い知らされる事になった。
ドゥァアッ!
「な……」
「甘いな」
今まで均衡を保っていた二台の形勢が逆転する。
FDがコーナーの立ち上がりでNSXを抜いたのだ!
「どのコーナーも同じ様に攻めてるようじゃ……俺の敵じゃねぇな」
NSXを引き離していくFD。
「くっ」
珍しく焦りを見せてスピードをあげるNSX。
だが、差は中々縮まらない。
(なぜ……? こちらの理論は完全だったはず……)
そう、ここで大きな落とし穴があったのである。
どのコースでもまったく同じコーナーは一つも無い。
ストレートのトップスピードのノビは、手前のコーナーの立ち上がり次第でかなり変化するものである。
全体のつながりを考えて、捨てるコーナーも出てくる。
全てのコーナーを限界で攻める事により、かえって遅くなってしまう事もでてきてしまうのだ。
忍は技術者としては天才だ。
しかし走り屋では無い。
その差が、この結果であった。
「……このままでは、こちらが相手を抜ける確率は……3%」
絶望的な数字だった。
相手の速さ、そして走りはこちらの計算を遥かに凌駕していた。
「……負けですね」
相手が自分たちより上であった。
それだけの事である。
ノエルは潔く負けを認めるつもりだった。
その時。
「頑張れー!!」
ギャラリーからの声。
それは、この勝負を見に来ていた高町家の一同だった。
彼女等はノエルの勝利を願って、応援に来ていたのだ。
(私は……)ここで、ノエルはドライビングモードを停止させた。
「まだ……終わってません」
その瞳には先ほどの弱気な感じはなく、ある決意に満ちていた。
「……後ろの走りが変わってきたな……なにか仕掛ける気か?」
啓介はバックミラーをチラリと見つつ、前に意識を戻す。
「さっき横に看板が見えたな……この緩いコーナーの後はヘアピンだったな……」
グッと、ブレーキを踏み込み減速するFDそこに、猛スピードでNSXが突っ込んで来た!
「なっ!? そのスピードのまま行く気か!?」
軽く減速はするが、目の前のヘアピンにはあまりある速度で突っ込むNSX。
ギヤァァァァ!!
「くっ! マジかよ、どんな神経してやがんだあのドライバーは!!」
「……負けられません、忍お嬢様や高町様のためにも」
案の定、押さえきれずに横滑りを始めるNSX。
周りの状況、ギャラリー。全てが死角になる位置はすでに頭に入っている。
「3・2・1……」
バンッ。
ノエルは突然運転席のドアを開けた。
「ファイエル!!」
ドゴォン!!
運転席からロケットパンチをガードレールに放ち、動きの慣性を変える。
ソレを利用し、猛スピードでヘアピンを抜けて行くNSX。
前にいた啓介にはなにが起きたか解っていなかった。
ただ解っているのが、後ろのNSXが猛スピードで追い上げて来ている事だった。
「クソッタレが! だが、まだ終わっちゃいねぇぜ!」
アクセルを踏み込み、加速していくFD。
プシャァァ!
ロータリーエンジン独特の音を出しつつストレートで加速していく。
だが、純粋にパワーで考えるのならNSXには歯が立たない。
やがて、すぐ横に並び始める。
ゴールは……目の前だった。
そして、ほぼ二台同時にゴールラインを割った。
「……負けました、ありがとうございました」
「いや……こっちもギリギリだったけどな、楽しかったぜ」
私は結果としては負けてしまった。
でも、悔いは無い。
むしろよく解らない感情でいっぱいだった。
「あ……」
「? どうかなされましたか?」
相手の男が私を見てなにか逡巡する。
「いや、そんな顔もできるんだな……と、思っただけさ。最初、あまりにも無表情だったからな」
「?」
私には言ってる意味が解ってなかった。
すると……。
「なにか、楽しそうな……いい笑顔してるぜ、アンタ」
「楽しい……そうですね、そうだと思います」
私は、彼にもう一度礼を言い、お嬢様達の場所へ戻った。
「ノエル、お疲れ~!」
「……忍お嬢様、申しわけありません、負けてしまいました」
「ううん、そんな事はどうでもいいの。いい勝負だったよ、ノエル♪」
そこへ、プロジャクトDのリーダー格の男……高橋涼介がこちらに来た。
「すまない、次のダウンヒルの方だが……すぐ始めようと思うんだが……」
涼介の横には、少しボーとした青年が立っていた。
俺は彼に一瞥入れつつ。
「すいません、下り担当のヤツがまだ来ていなくって……」
「そうか……了解した、では、そちらの準備が出来次第始めたいと思うんだが」
「はい、それでお願いします」
「解った、では」
ゴオアァァァ。
その時エンジン音が鳴り響いた。
そして一台のインテが登ってくる。
(ギリギリセーフだな……)
どうやら高町がやっと来たようだ。
やがてそばでインテRが止まる。
ガチャ。
ドアが開くと、高町と……見知らぬ女性が降りてきた。
「大丈夫でしたか、茂木さん? 少し急いだので荒っぽくなってしまいましたが?」
「うん、平気だよ」
茂木……と呼ばれた女性は笑顔で高町に答える。
(これは一波乱有りそうだな……)
俺は月村さんのほうを気にしつつ、そう考えた。
しかし、声は予想外の方向から上がっていた。
「茂木……なにやってんだ」
それは、高橋涼介の隣の男……藤原拓海からだった。
「た……拓海君!? なんでここに!?」
茂木さんも慌てて答える、どうやら知り合いらしい。
「なるほどな……よく解ったぜ」
見るからに険しい顔をする、藤原とゆう男性。
「た……拓海クン、違うの信じてよ!?」
「……気が変わった、この勝負……絶対勝つ!」
ゴルファーと会う前の拓海って、まだ夏樹の事を引張てるんじゃないかなーと思ってます。
勝手な推測ですが。
ここまで読んで頂きありがとうございます。