赤い世界を変えるなら 作:創大
「みんな僕をパイロットとしてしか接しなかった。『僕』という人を必要とする人はいなかった。そんなことを考えているときに、僕はトウジを傷つけた。委員長を傷つけた」
僕は顔を歪めながらそう言う。自分が情けなかった。こんなこと、話したくないはずなのに。
「それだけで僕の心はズタボロだったのに、次に僕はアスカを助けられなかった。僕は父さんのせいで助けられなかったって言い訳してたけど、そんなことはないのに」
「ふぅん……」
アスカは軽く呟いた。
「あの時、あたしは本当に苦しかったわ。今は多分大丈夫だけどさ」
アスカはゆっくりとそう言って、僕の目を見た。
「ねえ、アンタはホントにこんな世界を望んでたの?」
全てがひとつになって溶けてゆく世界。みんなの心が混ざりあい、なにも産み出さない世界。
幸せも辛さも怖さも楽しさもない世界。
「……分からないんだ。僕は、本当にこんな世界を望んでたのかな。僕は他人が怖かったから、みんなとひとつになれば良いって思ってた。でも、今はどうなんだろう。赤い海しかないこの世界では、いてもなにも感じないんだ。辛さも苦しさもないし、きっと僕が欲しかった世界のはずなのに」
僕は目をふせる。そうだ、僕はこんな世界を望んでいた。あんな辛いことは起こらないように、苦しまなくて済むように、なにもない世界を望んだんだ。
けど、今は……?
「じゃあシンジはもう、こんな世界なんて嫌なのね」
「それも分からないんだ。今だって辛いことを思い出して苦しくなる。あんなところに戻るくらいなら、今の世界でも良いじゃないかとも思うんだ。でも、ここには楽しかった思い出なんてない。ただ目の前に無がひろがっているだけだ」
どう言えば良いんだろう。僕の勝手な気持ちを、どう表せば良いんだろう。
「僕はまた、あの頃の楽しかった時に戻りたい。友達と遊んで、ミサトさんの家で過ごしたい。綾波ともっと会いたい。アスカともっと話したい」
「……アンタ、ホントに勝手。アンタのせいでみんな巻き込まれて、いなくなっちゃったのよ? アンタがエヴァに乗ることを拒んで、一人で逃げてたからなのよ。自分の意思が弱いくせに、嫌なことはしたがらないからよ」
僕は、アスカになにも言えなかった。僕は本当に勝手で自己中な奴だ。最初はこの世界を望んでいたくせに、実現したら嫌になるだなんて。
そもそも、こんな結末になったのも僕が悪いんだ。
僕が駄々をこねていたからなんだ。
「でも、全部アンタが悪いとは言わないわ。あたしだって、一人で強がって都合の悪い部分を見ようとしなかった。シンジに全部押し付けて、なのにシンジがそれを拒むと、やっきになっておかしくなっちゃってさ。素直になれなくて、自分の言いたいことも言えなくて、そんな自分が大嫌いだった。こんな世界になったのも、アンタ『だけ』のせいじゃないわ」
「アスカ……」
アスカがまさか、そんなことを考えているとは思いもしなかった。
アスカはこれまで、あまり本音をいわなかったから。
「ま、勘違いしないでよ。あたしは別に、アンタを慰めようとしてる訳じゃないわ。自分を殺そうとした相手に、もう優しい言葉なんてかけたくないしね」
「……ごめん」
「またそうやって謝って」
「……ごめん」
「ハァ、アンタのその癖は治らないわね、バカシンジ」
「……うん」
「……」
僕とアスカは砂浜に静かに座り、赤い海をじっと見つめた。
ずっと向こうを見つめても、見えるのは赤い景色ばかりで何も変わりはしなかった。
アスカと僕の手は、触れそうで触れなかった。
「ねえ、どうして?」
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