赤い世界を変えるなら 作:創大
「誰かしらね……」
「確か、母さんが『人は自ら生きようとする力があるから』って言ってたけど、皆いつかこの海から戻ってくるのかな」
「さあね……」
アスカはそう言って再び立ち上がり、赤い海の方へ歩いていく。足取りはおぼつかなかった。
僕もゆっくりと立ち上がり、赤い海の方へ向かっていった。最近歩いていることがなくなったので、少し足がふらついている。
僕がアスカの方へ行くと、アスカは
「なんか、こっちに近付いてきてるわね」
と目を凝らしながら言った。
「アスカ、やっぱり人だよね」
「ええ、でも……」
アスカはそう言うと口ごもり、何かを考えるように腰に手を当てた。その姿はアスカにあまり似合わなかった。アスカが長く考え込むことって、そういえばあまりなかった気がする。
「どうしたんだよ、アスカ」
僕がアスカに話しかけると、アスカはハッとしたように僕の方を向き、
「あの人……浮いてるわよ。それに、あれ……」
「え?」
「……ファーストみたいね」
「え!?」
アスカは僕が驚いたことに反応せず、じっと遠く先の方を見ている。
綾波……。
僕の母の分身。クローン。それなのに、僕は彼女に惹かれていた。多分、綾波が母さんみたいで、無意識に母さんと綾波を重ねていたのだろう。
あのLCLに満たされた海の中で、僕は綾波と話した気がする。それももう曖昧で、よく思い出せないけれど、確かにそうだった。綾波は、僕のことを優しく包んでくれた。それはまるで、お母さんみたいだった。
懐かしい……気がする。
「…ンジ!シンジ!」
「ハッ」
僕が物思いにふけている時に、アスカは僕を呼んでいたのだろう。
「ねえ、ファーストが消えちゃったわよ!」
アスカが海の方を指で指しながら、僕にそう話す。アスカはとても慌てているようだ。
アスカってこんなに綾波のことを気にかけていたっけ。どうしてだろう、上手く思い出せない。
「そっか……」
「何よ、意外と素っ気ないのね。アンタ、ファーストのこと好きだったんじゃあないの?」
アスカは目を丸くしながらそう言った。
「別に、そんなんじゃないよ……綾波とは」
「ふぅん……」
アスカは少し怪訝そうな顔で僕の方を向きながらそう言う。
僕は、綾波のことが好きだった。多分、今も好きなのだろう。でも、それは『母』と重ねていたからだと思う。綾波のことを意識すると、どうしても母さんのことを思い出してしまう。
それに、僕には他人を愛することができなかった。僕はただ、誰でもいいから人から愛されたかった。別に、男でも女でも、どちらでもよかった。自分を必要としてほしかった。
今の僕の願いは、そんなことではないけれど。
僕は……本当に嫌な奴だ。
「アスカ」
「何」
「僕達で、この世界を変えよう」
「はぁ?」
アスカは、急になに言い出すのよとでも言いたげな顔で僕の目を見る。
「どういうことよ」
「僕は、こんな世界にしてしまったことを、とても後悔してる。僕がサードインパクトを食い止めることが出来たなら、こんなことにはならなかった。アスカはあんただけのせいじゃないって言ってくれたけど、あの場で僕が量産型を倒していれば、こんな世界にはならなかったんだ」
僕は手を固く握る。
「だから!もし方法があるなら、もう一度あの世界を繰り返そう。そして、僕達の手で運命を変えたいんだ」
アスカは目を見開き、僕の方へ体を向ける。
「アンタ、変わったわね。前はもっとウジウジしてたけど」
「そんなことは、無いよ。僕は変わってない。でも、願いができたから」
僕は勝手な奴だ。最初からこんな世界を望まなければ良かっただけなのに。
最低だ。
「僕はズルい奴だ。皆巻き込んでまで叶えた夢なのに……」
アスカは僕のその言葉を聞き、僕の腕を掴んだ。そして、
「……ホントアンタって勝手ね。……でも、良いわよ、やったろうじゃないの、バカシンジ」
と強く言った。
「あなたたちの願い、届いたわ」
シンジって難しいキャラですね……。