これは、AA-12が出会いと別れを経験するだけの、つまらない話




pixivにも同名で連載しています

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全読者が胃もたれを起こして最後まで読みきれなくなる小説を目指しました。
最後まで読み切れる人は果たして現れるのでしょうか……?


彼女は棒付きの飴を舐める

「これは……面白いぞ!面白い適正だ!」

 

 覚えている最初に聞いた言葉は、そんなわけのわからないものだった。

 

「珍しい……SGか。これなら開発資金を費やしたかいがあったな」

 

 うっすらと開いた目からは、白衣の男たちがなにやら話している様子が見えた。

 

「ほら、寝ぼけていないで目を覚ましたまえ」

 

 片方がそう言ってなにやら端末を操作すると、嘘みたいに急速に意識が覚醒していく。

 

「うっ……ここは……」

 

「ようこそ。君の名前はAA-12だ。君には期待しているよ」

 

 白衣の男は高圧的に、そう言ってみせた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 ピィー!

 

 耳元でアラーム音が響き、何かが複数射出される。

 

 ドンッドンッドンッドンッ

 

 私の手に収まっている銃が、唸り声をあげる。その弾は的確に、飛翔するディスクを撃ち抜いてみせた。

 

 少し離れたところに、10枚のディスクの破片が落ちていく。

 

「期待通りの性能だな、AA-12」

 

 後ろの方から、ヒョロっとした男が近づいてくる。男は君の悪い笑みを貼り付けながら、持っているバインダーに何かを書き込む。正直に言えば、気色が悪い。

 

「次はダミーのコントロールを見よう」

 

 そういって男が端末を操作すると、訓練用のダミー人形が倉庫から出てくる。

 

「AA-12、ダミーネットワークをつけろ」

 

 拒否権などない。拒否する気があるわけでもないが。

 ダミー人形は、私の命令どおりに動いてくれる。CQBフィールドに入り目標地点までクリアリングをしながら進む。

 誰も声を発さない。ダミーの情報は私が全部把握しているから、いちいち音声に出す必要すらない。

 

「4番、オフライン」

 

 突然、気色の悪い男の声がフィールド上方のスピーカーから聞こえてくる。もちろん次にやってくるのは、無力感だ。4番と銘打たれたダミーとの接続が、唐突に切断されたことがすぐに理解できた。

 

 4番のカバーを3番に任せつつ、その穴を埋めるように配置を変える。進んでいけば、目的地にたどり着く。

 蝶番を撃ち抜いて、足で扉を蹴り倒す。すぐに中の標的から照準が向くが、ダミーの盾で壁をつくる。

 向こうの銃撃が止んだが最後、ダミー全機による射撃で制圧する。もちろん簡単に的が粉砕され、訓練終了のブザーが鳴る。

 

「よし、期待通りのスコアだ」

 

 いつもそうだ。彼に限らず教官は誰だって「期待通り」と私に言う。

 

「本日はこれで終了だ」

 

 そういって男は一足先に退出していく。私もさっさと帰ろうと荷物の方へ行き、バッグから筒状の物を取り出す。

 取り出したそれを口に咥え、息と共に蒸気を吸い込む。蒸気に含まれる物質が自分の身体を侵食していく感触を楽しみながら、ふぅと息を吐く。

 

 一服したあと、シャワー室へと向かった。

 

 こんなのが、私の人生の最初の一ヶ月だった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「訓練課程はこれで終了だ」

 

「……はい?」

 

 思わず声が出てしまった。それも仕方がないだろう。いつ終わるのかと呆然と考えていたら、唐突に訓練の終わりにそう言われたのだから。

 

「一時間で荷物を纏めろ。迎えの車がくる」

 

「わか……りました」

 

 渡された資料には、PMCの名前とその位置が書かれていた。どうやら私は一介のPMCに出荷されるみたいだった。

 

「急げ。時間はないぞ」

 

 言われなくてもわかっている。私は速歩きで自室へと戻り、荷物を纏めた。といっても、配給品ばかりで娯楽の品など、タバコくらいだった。訓練の褒美としてもらえる少額のお金をすべて注ぎ込んで得られたのは、使い捨ての電子タバコのゴミだけだった。

 

「用意は済んだか?」

 

 私は無言でコクリと頷く。手には最後の電子タバコと、それから私の半身のAA-12だけだ。私には、それだけしかない。

 

 車は、人員輸送車だった。乗ってみれば、せっかくの眺めは窓の金網で台無しだった。その金網が、外からの攻撃を防ぐものだと知識としては知っているものの、どうにも私を逃さないための鉄格子に見えて仕方がなかった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 車を降りた私を迎え入れたのは、驚くことに若い女性だった。おそらく20前後ではなかろうか。

 

「あなたがAA-12ね。これからよろしく」

 

 そういって片手を差し伸べてくる。意味がわからない。初対面の距離感というものは知らないのだろうか。

 

「どうも、AA-12、よろしく」

 

 端的に要件だけ述べる。よろしくだなんて初めて言った。自分の言葉だというのに気持ち悪くなる。吐き気がすら感じるほどだ。

 

「あはは!可愛いなぁ」

 

 そんなことをいいながら、強引に手を捕まれ、引かれ、そして抱きつかれる。

 

 ヤメロッ!

 

 そんな言葉が言える訳もなく、グッと無言で耐える。ああ、早く解放されたい。一服して楽になりたい。

 

「やっと……やっとうちにもショットガンが……」

 

 ギュッと抱きつく力が強くなる。少し震えてすらいる。

 

「えっと……指揮官、でいいのかな」

 

「うん、なんとでも呼んで」

 

「どうして私なんかに」

 

「何を言ってるの!」

 

 指揮官は一度離れてから、笑顔で手を大きく広げた。

 

「初めてのショットガン人形が数少ないフルオート!しかも訓練成績も満点!こんなにうれしいことはないよ!」

 

 そう言ってニコニコと笑う。

 

「期待してるよ?AA-12」

 

 指揮官も、そう言った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 この司令部にきてから数日が立った。

 

 ここの司令部は随分と緩かった。毎月支給があり、店の品揃えも充実している。わざわざ取り寄せなんかも受け持ってくれるというのだから、人形に対して破格の待遇と言える。

 

「どう?ここには慣れた?」

 

 そう言って、指揮官は私の目の前で笑ってみせた。私は窓際へ行って、電子タバコを口に咥える。吸い込めば、蒸気が口の中を満たす。

 

「……それ、美味しいの?」

 

 コクリ、と私は頷いてみせる。旨く感じなければ、こんなものを買ったりしない。

 

「私にもちょーだい」

 

「無理だよ、これしか持ってきてないし」

 

「いいからいいから」

 

 ズイっと迫ってくる指揮官に、ついつい私は根負けする。ため息をつきつつ、咥えていた電子タバコを指揮官へと渡す。

 

「どれどれ」

 

 すぅーっと吸い込み、ゴホゴホと咳き込む。

 

「ちょっ!大丈夫!?」

 

「うん、だいじょう――」

 

 再びゴホゴホと咳き込む。

 

「私には合わなかったみたい」

 

 エヘヘと控えめに笑いながら、電子タバコを返してくる。

 私はそれをうけとって、しばらく悩んだあとにポケットに突っ込んだ。

 

「それ、有害物質入ってるでしょ」

 

「だってタバコだからね」

 

「やめる気はないの?」

 

「無いよ」

 

 少し言葉に力がこもってしまった。でも仕方がないだろう?私のストレス発散のツールなんだよ、これは。

 

「じゃあさ、代わりにコレにするとかは?」

 

 そういって指揮官が引き出しから取り出したのは、棒付きの飴だった。細いプラスチック製の棒の先に、球体が付いているタイプのよく見るものだ。

 

「禁煙する気はないって」

 

「じゃあさっきのお礼ってことでさ!」

 

 そういって包み紙を剥がして、私に手渡す。思わず受け取ってしまったけど、これどうすればいいのだろうか。

 

 指揮官はニコニコとこっちを見つめてくる。

 

「……わかったよ」

 

 受け取った飴をボスっと口に突っ込む。酸っぱいレモンの味が、口の中を満たした。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

『AA-12!ナイスだよ!』

 

 通信機の向こうでは、とても気分の良さげな声が聞こえる。言うまでもなく、指揮官の声だ。

 

『あと少しだね……』

 

 指揮官はレベルという概念で私の習熟度を測っているらしい。数字を見せられてもぱっとしないけれど、確かに上達を自覚している。

 

 

「おつかれさま!」

 

 司令部に戻れば、指揮官が出迎えてくれる。もちろん私だけを迎え入れてるわけじゃない。同じ部隊の人形たちも、同様に迎える。私はたしかに優遇されている方だが、ただ重点的にレベリングとやらを回されているというだけだ。

 

 

――だけだった。この日までは。

 

 シャワーを浴びたあと、個人端末にメッセージが届いていた。指揮官からだ。

 

『今夜、一緒に外出しない?ご褒美がてらね』

 

 珍しいどころではない。そんな話は聞いたことがない。

 

『どこへ?』

 

 我ながらそっけない返事だと思う。でも、これが私の精一杯だ。

 

『ちょっと行きつけのバーへ。話したことあったよね?』

 

 バーの話は聞いたことがあった。よく1人で通っているという話を何度か聞いた。でも、他の人形はその場所を知らなかった。探してみても、見つからないと聞いた。これはその実情を調べるチャンスだった。

 

『やだ』

 

  まあ、私は行かない。興味はあっても行く気はなかった。

 

『そう』

 

 めずらしく、短い返信だけが返ってきた。その通知だけ見ると、私は端末をしまいこんでベッドに倒れ込んだ。ああ、足りない。ポケットをさぐって電子タバコを取り出すも、吸い込んでも何も出てこない。どうやら使い切ってしまったようだった。

 

 仕方がないか

 

 私はデスクの上のかごから飴を手にとって、口に突っ込んでコロコロと音を立てた。

 

 

 

 次の日、私はレベリングの部隊に配属されなかった。

 

「ああ、もうカンストしたんだよ」

 

 指揮官に聞いてみるとそう返ってきた。どうやら、これ以上戦闘での経験値は得られないという判断をしたらしい。そのシステムはよくわからない。

 

「かわりにさ、これ」

 

 そういって部隊章を渡される。それは盾がモチーフとなっている。

 

「これ、防衛隊の部隊章?」

 

「そう!これからは基地と、それから私も守ってね」

 

「……わかったよ」

 

 そういって部隊章を受け取る。布製だけれど、すごい重みを感じた。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「ちっ、しつこいなあ!」

 

 駆け巡りながらも、鉄血のヤツらに鉛玉を打ち込んでいく。一発でもねじ込めれば倒せるけれど、明らかに人手が足りてない。

 

『AA-12!次のブロックまで退避して!』

 

「そんなことできない!」

 

 ここで退いたら隣のブロックの人形たちの退路がなくなる。

 

「退くわけには……いかない!」

 

『AA-12!……もう!仕方ないんだから!』

 

 急にプロペラ音が接近してくる。その方向を見れば、うちの管理しているドローンだった。腹には、銀のアタッシュケースを抱えている。

 

『これを使って!』

 

 ドローンはアタッシュケースを地面におろしてから、颯爽と司令部の方へと戻っていく。

 

「まったく!なんなのいきなり!」

 

 また数発撃ち込んでから、アタッシュケースを開く。中にはいつもとかわらないAA-12のドラムマガジンが二つだけ、入っていた。

 

「なんなの!」

 

 もういちどそう叫んでから、片方をセットする。

 

ドンッドンッドンッドンッ

 

 放たれた弾丸は、拡散せずにまっすぐに飛んでいく。

 そして着弾するや否や、小規模とはいえ爆発を起こす。着弾した鉄血の身体には、大穴が開いている。

 

「マジ……?」

 

 話には聞いていた。FRAG-12と呼ばれる弾があるってことだけは。けれど、コストの面から新しく製造ラインを組み立てるのは不可能だってことも聞いてる。だから、この弾があるということは、十中八九はウチの指揮官が何かしたんだろうって予想がつく。

 

「でも……これなら!」

 

 撃てば撃つほど、鉄血が死んでいく。逃げようとも意味をなさずに、必殺の弾丸がヤツらを行動不能にしていく。

 

 

 

 

 なんどかドローンで補給を受けたのは覚えている。それ以外では、ただひたすら撃って、殺して、撃って、殺しての繰り返しだった。

 

 気がつけば、屍の山の上で電子タバコを咥えていた。

 

「AA-12!無事!」

 

「この通りね」

 

 遠くから駆け寄ってくる指揮官に手を振って返す。電子タバコの蒸気を吸えば、意識がしっかりとしてくる。ふーっと息を吐けば、白い蒸気が天に昇っていった。

 

 

 

 

 数日後、私と指揮官は本部へと呼ばれた。どうやら私の先日の戦いが表彰されることになったらしい。私はどうでもいいのだが、指揮官はずいぶんと張り切っていた。

 

「ねえねえ、私おかしくない?」

 

 なんどもなんども制服を着て見せては、私に確認してくる。

 

「はいはい、おかしくないよ」

 

 私は決まってそう答えて、ニコチンを摂取していた。赤を基調とした制服は、随分と似合って見えなくもなかった。

 

「ほら、AA-12も早く着替えて」

 

 本来人形に制服は無い。無いのだけれど、指揮官がどうしてもとスーツを押し付けてきた。

 

「……どう?」

 

「うんうん!さすがだよ!似合ってるよ!」

 

 赤紫のネクタイで首を絞められる。まったく窮屈で仕方がなかった。

 式典は順調に進む。いろいろな方面の指揮官たちや、重役、それから関連企業や機関のおえらいさんまで勢揃いだった。

 

 社長直々に、盾を渡される。それは社章と、それからウチの指揮官の名前、そしてその下にAA-12と刻まれている。

 受け取れば、会場を拍手が満たす。そこに感情など感じない。誰も、私の戦果など興味がない。ここの参加者にとっては、この式典に参加することだけが意義であり、その内容なんて見てない。

 

 吐き気を抑えて、背筋を伸ばす。ここでは我慢だ。……我慢、我慢。

 

「……AA-12、大丈夫?」

 

 指揮官がこっそりと耳打ちしてくる。大丈夫な訳がない。しかしそんなことを言えるわけもなく、首を縦に振って大丈夫だと伝える。

 

 式典は、何の滞りもなく閉式した。厳格な式はおわり、小規模ながらにもパーティが開かれる。

 

 指揮官はいつだって誰かに囲まれている。まるで明るい太陽みたいだな、なんて思いながら、近くのスイーツに手をのばす。こんな物資不足の世の中でも、ここに並べられた料理の半分は捨てられるというのだから格差ってのは酷いもんだ。

 

「AA-12、久しいな」

 

 せっかくスイーツに舌鼓をうっていたというのに、不快な声が耳に入る。

 

「教官」

 

 振り返ればそこには、

 

「随分と成果を上げているみたいじゃないか。期待通りの働きだ」

 

 またもやそう言う。その言葉を私に向ける。

 

「君があのAA-12か」

 

「投資したかいがあったというものだ」

 

「期待してよかった」

 

「想定通りだ」

 

 あの男のように、何人もの男たちが私を囲んでくる。そして口々に、私の成果を「期待通り」の一言であしらう。

 

 男たちの話の話題は、私から私の指揮官へとシフトする。その隙を見計らって、頭を下げてその場を後にする。

 

 壁の花と化していると、指揮官が近づいてくる。

 

「つまらなかった?」

 

「ううん、そんなことない。料理も旨いし」

 

「そう、なら良かった」

 

 指揮官も私と同じように、壁に体重を預ける。

 

「ありがとう、AA-12」

 

「……何が?」

 

「全部だよ。司令部を防衛してくれたこと、たくさん鉄血を殺してくれたこと、私の部隊に配属されてくれたこと、生まれてくれたこと。全部、ありがとう」

 

 指揮官はそっと私の手を握ってくる。

 

「こんな……期待はずれのこんな私に付き合ってくれてありがとう」

 

「なに言ってるのさ……」

 

 なんだか、少し気恥ずかしい。でも、茶化していいものでもないことくらい、私にもわかる。

 

「なにをやってもダメで、どんなことも人並み以下にしかできなくて、そんな私と一緒に戦ってくれてありがとう」

 

 そっと横を見れば、いつもの指揮官がいる。でも、繋いだ手は少し震えていた。

 

「……私は指揮官が羨ましいよ」

 

「えっ?」

 

「指揮官はさ、いつもなにかにチャレンジして、し続けて、その度に失敗したとしても、チャレンジすることを恐れない。私にはそんなことできないよ」

 

「そう……かな?」

 

 指揮官は照れくさそうにエヘヘと笑ってみせる。まったく、表情豊かな人だ。

 

「っと行かなきゃいけないみたい。続きは帰りの車の中でね」

 

 見れば遠くから手招きされている。確かうちのPMCの社長というやつだ。ガタイのいい大男で、歴戦の兵士という雰囲気がにじみ出ているような人物だ。どう人生をすごせばあのようになるというのか、理解できない。

 

 

 帰りの車では、疲れてしまった指揮官がすぐに眠ってしまって話すどころではなかった。

 私の肩を枕にするもんだから、私も身動きがとれなくて困ってしまったのは言うまでもないだろう。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「……っ!」

 

 一瞬、意識を失っていた。急いで辺りを見回せば、私と同じ容姿をした人形が私を守るように覆いかぶさっていた。

 

「あれ~?まだ生きているの?」

 

 ヤツは、嗤う。私より小さい身体で、私より高い火力を出してくる。

 

 

 逃げないと殺される。

 

 

 もちろん殺されるのは私じゃない。私が死ぬくらいどうってことない。バックアップは戦闘前にしっかりととっている。

 でも、復帰には時間がかかる。あたらしい素体を用意して、それに私のデータをいれるのは意外と時間も手間もかかる。

 その間に、指揮官が死んでしまう。

 

「どうしてこんなところにハイエンドが……」

 

「あはは、知らないの?」

 

 どこまでも無邪気で、残酷な笑みで私に嗤いかけてくる。どうやら会話に付き合ってくれるみたいだった。いまのうちに他の防衛部隊の人形に連絡を飛ばす。

 

「この地区は捨てられたんだよ。でも強い人形がいるっていうから来てみたのに、ざーんねん」

 

「どういうこと?」

 

「全然強くないじゃん。あんた以外は」

 

 先程の連絡は、死亡報告という最悪の形の自動返信を返してきた。ということは、ということはだ。主力や準主力が各地域に展開している最中のこの基地には、私以外にまともに戦える人形が残っていないことになる。

 

「まあ、あんたもここで死ぬんだけどね」

 

 そういって私のダミーの一体を踏みつける。そして頭に銃口を向け、引き金を退いた。

 

 ポンッ

 

 と軽い音がした瞬間、爆発音がする。爆風でまいあがった土埃が晴れると、そこには頭が木っ端微塵となった私のダミーと、その上で嗤う鉄血の人形が現れる。

 

 ハイエンドモデル、噂では聞いたことはあったが、ここまでとは想定外だった。仲間どころかダミーすらない私に、この敵の相手は無理だ。

 

「でも……それでも!」

 

 戦わなきゃいけない。それが私に期待されていること。この状況を突拍子もない力で打破して、指揮官も救って、それでここの司令部も建て直して――――

 

 

 とつぜん、空気が震える。それが爆発音であることを理解するのに少し時間がかかった。それは、司令部の方から聞こえた。モクモクと煙があがっている。

 

「……指揮官!」

 

 盾を後ろに展開して、足のモーターの出力を最大にする。後ろから飛んでくる弾で盾が吹き飛ぶが、そんなものは気にしない。上着に火が燃え移るのも気にしない。ポケットに入った荷物ごと捨て去って、銃だけを握ってひたすらに走る。

 

「逃げるの?まあ後で殺せばいっか」

 

 そんな声は気にも止めずに、足を動かし続けた。

 

 

 司令部の扉は硬く閉ざされていた。蝶番を撃ち抜いて、扉を蹴破った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「……ッ!指揮官!」

 

 司令部はメラメラと燃え盛っていた。肌が温度の異常を伝えてくるが、それをも無視する。

 

「……AA-12?」

 

 指揮官はうつろな目をしていた。彼女の周りには、死んだ人形の残骸が転がっている。まだ編成拡大すらしてないような、低レベル帯の人形だ。

 

「指揮官!離れて!」

 

 指揮官の目の前には、鉄血の人形が立っている。指揮官の頭に照準をあわせ、引き金に指をかけている。

 

 指揮官は私の方を見て、そして諦めたかのようにフッと笑う。

 

 どうして、どうして動かないの!私の弾じゃ、指揮官までをも巻き込んでしまう!

 

「……っ!仕方ない!」

 

 私はAA-12を構える。多少当たっても、生きていればいい。指揮官が生きてさえいれば、私たちはやり直せる。

 

 鉄血の人形が、私に視線を向ける。そしてフッとあざ笑うかのように嗤う。

 

 何がおかしい!何に嗤う!お前ら鉄血が、私の何がわかるというんだ!

 

 

 

 

 引き金を弾いても、AA-12が火を吹くことは無かった。

 

「……AA-12」

 

 そう指揮官がつぶやいた。

 

 再び口を開こうとする指揮官の声よりも先に、私のものではない銃声が聞こえた。

 

 

 

 

 指揮官が倒れていく。頭部から血を吹き出し、その半分開かれた口は微動だにしない。ドスンと重い音が司令部に響き、動く者は私ともう一体だけになった。

 

 声にならない声がでる。視界をエラーダイアログが埋め尽くし、身体は勝手に動く。AA-12をまるでハンマーか何かと勘違いしたかのように、鉄血のクズを殴りつける。

 ただの鉄血なら負けないのに、ハイエンドさえいなければ、私はまた戦果をあげて、それから指揮官と一緒にまたあの吐き気のする式典に出て……

 

「指揮官……」

 

 何も言わぬ屍に、私はそう語りかける。メラメラと燃える火の音だけが、私の耳に入った。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「その後のことは覚えてない……」

 

 部屋の中の水槽から、水の流れる音がたっている。軽い緑色系の壁紙を見ていると、少し吐き気が和らぐ気がした。

 

「そうかい。ありがとう、よく話してくれたね」

 

 白衣の男は立ち上げって、それから奥の戸棚から缶を取り出す。

 

「食べるかい?なに、僕も食べるから気にすることはない」

 

 そう言って差し出されたのは、偶然にも棒付きの飴だった。私の指揮官がいつも持っていたものと同じである。

 

 私は首を横に振る。何も口に入れたくなかった。点滴による栄養補給だけで普段どおり生きて行ける。この事実ばかりには、自分が人形であることに感謝した。

 

「そうかい。まあここに置いておこう、気が向いたらどうぞ」

 

 そういって男は一つ手に取り、包み紙をとって飴を口に加えた。しばらくコロコロといわせながら、考え事をしているかのように目を瞑った。

 

「僕には二つの選択肢がとれる」

 

 そうポツリと男は話し始めた。

 

「一つは、君を病気だと診断して休暇を与えるよう上に申請することだ」

 

 休暇?人形に?そんなもの無駄だ。

 

「もう一つは、君を不良品だとして廃棄するように申告することだ」

 

 そう、それが正解だ。期待にも添えないような私なんて、いらない。生きている価値すらない。

 

「廃棄……して」

 

 あの日から、喉までも調子が狂ってしまったみたいだった。夜も眠れず、だからといって何かをしているわけでもない。私はまさしく、虚無だ。

 

「……廃棄を選ぶのかい?」

 

 コクリと頷く。ためらいなどない。

 

「わかったよ」

 

 男は立ち上がって、携帯電話をとりだす。

 

「ああ、もしもし。はい社長、僕です。はい、診断の結果ですが――」

 

 男の行動は早いようだった。社長というのは、きっとウチのPMCの社長のことだろう。

 

「――あと一週間、彼女の休暇を延長させてください。はい、ありがとうございます。それでは失礼します、はい」

 

 そう言って男は電話を切った。

 私は男の胸ぐらを掴む。

 

「どう……して!なん……で!」

 

「ちょっと、苦しいじゃないか」

 

 私がゆっくり手放すと、シワのよった服を直す。まるで人形を恐れていないようだった。

 

「一週間だけだ。僕は君に一週間だけ生きてもらう。なに、ただの僕のわがままさ。一週間後に、君は廃棄される。それは約束しよう」

 

「それまで……なにをしてれば……」

 

「なんでもいいさ」

 

 男はそういいながら、引き出しから一枚のICカードを取り出す。それは、人形の外出許可証だ。それさえあれば、人形は自由に外の街に繰り出せる。基地の人形がそれを欲しがっているのを、何度も見た。もちろんその人形たちもあの日を境に音信不通となっているが。

 

「これを一週間貸すよ。一週間後に返してくれ。あとは……これも渡しておこう」

 

 そういってもう一枚のカードを取り出す。それはクレジットカードだ。この会社が収めている地区で使える、限度無しのまさしく魔法のカードだった。これは私の指揮官が欲しがっていた。なんでも、社員でも重役や一部の指揮官でしか手に入れられないらしい。

 

「それじゃあ、また一週間後に会おう」

 

 そう言って手を振りながら、男は私を見送ってくれた。

 行動でも金銭でも、私の制限はなくなった。しかし、何をするでもなく自室へと帰る。

 

 まるで牢屋のような自室の、ベッドの上で丸くうずくまる。

 目を瞑るが、今日も寝れそうに無かった。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 廃棄の日を決めたのは、意外と良い方向に動いたのかもしれない。朝から起きて外出するなど、先日までの私では考えられないことだった。

 

 街はにぎやかだ。外の世界などまるで気にもとめずに、人が営みを築き上げていた。

 美味しい匂いをに誘われて足を向ければ、繁盛しているパン屋にたどり着く。そこでは夫婦が2人で慌ただしく店を回していた。

 2人とも額に汗を浮かべながらも、笑顔だった。どれだけ忙しくとも、楽しくて仕方がないといった様子だった。

 

 公園では、子供が遊んでいる。ベンチでカップルが隣に座り、その様子をキャンバスに描くなんて変な景色もあった。

 

 この人々は、外の世界を知らない。この守られた狭い世界で、今を楽しんで生きている。

 

 

 私には無理だ。そう感じることしかできなかった。

 

 

 特に何かに金を費やすわけでもなく、街を歩いていた。可愛い服も、美味しそうな料理も、そのすべてが無色に見えた。

 

 ただ、そんな中唯一、茶色い木製の扉が目に入った。扉には金属のプレートがついており、端的に「Bar」とだけ書かれていた。

 なんとなく、その扉を押した。

 

 

=*=*=*=*=

 

 

「いらっしゃいませ」

 

 カウンターに立っていたのは若い男性だった。優しくて、不快感のない声だった。

 一番入り口に近いカウンター席に座れば、おしぼりを差し出される。

 

「甘い……何か……」

 

「かしこまりました」

 

 こういう店は初めて入ったが、意外と居心地が良かった。辺りを見回せば、他にも数人客がいた。

 

「おまたせいたしました。私のオリジナルカクテルです」

 

 そういって差し出されたのは、赤紫のカクテルだった。

 とりあえず頼んだは良いものの、やはり口にいれる気にはなれなかった。

 

「やあやあそこのお嬢さん」

 

 なにもせずにいると、近くに座っていた客がグラス片手に近づいてきた。

 

「見たところ、人形でしょ?」

 

「……なんで?」

 

「女の勘、かな?」

 

 そう笑いながら、その客は私の隣に座る。

 

「まるで何か大事なものを無くしたって顔をしてるよ」

 

 その人はカランとグラスの氷を鳴らしてみせた。少し頬が赤くなっているあたり、酔ってるみたいだ。

 

「わかるよ。ここにはいろんな客がいるからね」

 

「私は……1人でいたくて……」

 

「そんな嘘はやめなよ。面白くもないよ」

 

 そう言ってグラスを飲み干すと、その人はバーテンダーにおかわりを注文した。

 

「まあ聞いてくれない?これは私がこのバーで作った友人の話だけどね?」

 

 誰に聞かれるまでもなく、その人は語り始めた。

 

「いい子だったんだよ。っていっても年齢はほぼ変わらなかったんだけどね?いつも笑顔でニコニコしてて、褒めるとエヘヘって笑ってね。でも酔うと毎回おんなじ話をしてね」

 

 グラスを傾けながら、上機嫌に語り続ける。私は拒否するでもなく、いつしか自然と耳を傾けていた。

 

「曰くその子の部下はとても優秀だったんだって。命令通りのことをいつだって期待通りして見せて、私にはもったいないなんて何回もいっていたな。でも……」

 

 その人は一瞬言いよどんで、それから袖で目元を拭った。どうやら泣いているようだった。

 

「つい最近聞いたんだけどね、その子死んじゃったんだって。あんなにいい子だったのに、突然。私もう悲しくって悲しくって。その死はね、公開しないんだって。彼女の会社、ここらを牛耳ってるPMCだからね、敗北を公表できないんだって」

 

 涙を拭って、それから私の顔に手を近づける。

 

「ね?悲しい話でしょう?」

 

 彼女の指が、私の目元を拭う。ぼやけていた視界が、少しはっきりとした。

 

「でもね、彼女は言ってたんだよ。自分の部下を今度連れてくるって。結構前だけど、絶対連れてくるっていったんだよ」

 

 バーテンダーが、コトリと私の前にカクテルグラスを置く。その中には液体は入っていない。その代わり、棒付きの飴だけがそこに入っていた。

 

「来てくれて、ありがとう。歓迎するよAA-12」

 

 ぼやけた視界で、飴に手をのばす。包み紙を解いて口に入れれば、あの日と同じレモンの酸っぱさが口内を満たす。

 

「わたし……わたし……」

 

「話は聞いたよ。あなたは頑張った。でもいずれ、あの日は来てた」

 

 運が悪かったと……そう言うのだろうか。

 なぜ主力が遠出してるときに。なぜ援軍が出されない。なぜ、指揮官は死ななければいけない。

 

「ここだけの話だよ」

 

 その人は私の耳元で、私だけに聞こえる声でそう言う。

 

「あの日、鉄血を手引きしたものたちがいる。私はその人物を知っているし、裁くこともできる」

 

 それだけ言うと、再び私から離れてバッグから何かを取り出した。

 

「ねえAA-12、私と一緒に来ない?」

 

「そんな……怪しい話……乗るわけない……」

 

「そう?まあこういうのは詐欺師の手口よね。だから少し変えましょうか」

 

 バッグから取り出した手帳を広げて、言葉を続けた。

 

「私からの要求は二つ。一つはさっき言った人物を殺さないこと。そしてAA-12、あなたが死なないこと。与えるのも二つ。あなたの復讐の機会と、あなたのこれからの居場所。さあどう、この手をとる?」

 

 そういって、彼女は太陽のような笑みを浮かべて笑いかけてきた。

 

 私は、その差し伸べられた手を――

 

 

=*=*=*=*=

 

 

 墓の前で、私は電子タバコを吸う。久しぶりに感じるニコチンの味に、吐きそうになる。

 

 墓には、まだキレイな花が備えられている。

 

「AA-12、そろそろ行くよ~!」

 

「わかったよボス」

 

 私はもういちど墓へと向きかえる。

 

「指揮官、またくるね」

 

 残りの電子タバコを全部、近くのゴミ箱に投げ捨てる。そしてポケットから飴をとりだして包み紙を剥がす。

 飴を口にいれれば、特有の酸っぱさが口を満たした。

 

 

 

 

 その数日後、謎の自白によりグリフィン&クルーガー社の上層部の一部が纏めて解任したというニュースが流れたが、それはまた別のお話。

 

「似合ってるよ、スーツ」

 

「そういや指揮官にも言われたっけ」

 

 赤紫のネクタイを締めなおして、私は車に乗り込む。

 今後私がどういう人生を歩むかというのも、また別のお話。




連載中小説、「EIP―東諸国郡国際警察臨時特別捜査課―」の前日譚、というオチでした。(ダイマ)

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